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Chain126 眠ってはならない……


 この部屋は俺をバカにする……俺の存在自体を貶している。

 こんな部屋にいたら、俺は壊れてしまう……





 ピピッ……ピピッ……


 微かに聞こえてきた音で、俺は閉じていた目をうっすらと開く。すると、天井が見えないくらいの多くの人間が俺の姿を覗き込んでいた。


 「琉依!」

 「目が覚めたか!」

 『ルイ! 大丈夫か!?』


 母さん、K2にリカルドが次々と俺の顔を覗き込んでは問いかけてくる。そんな彼らの他に、白衣を着た男性と女性がいるが……もしかしてここは……


 『気が付いたかい? 気分はどう?』

 気分? ここは病院なのか? しかし、どうして俺がこんなところでこんな状態でいるのか。いつの間にか運ばれていた病室では、様々な機械に囲まれて医者が俺の様子を窺ってくる。そんな俺の腕には点滴が施されていて、気分もいい筈は無くむしろ頭に靄がかかった感じがしてはっきりとしない。

 そんな中、こうしていろんな人間が我先にと声を掛けてくるので気分は余計に悪くなるばかり。何だか……胃も気持ち悪いし……


 『……どいて』


 そんな彼らを押し退けるように俺はベッドから降りると、そのまま部屋の中に設けられていたトイレを見つけては中へ入る。


 「う……っ、かは……っ……う……」


 吐き気があるからこうして思い切り出そうとしているのに、何故か俺の体からは何も出てこない。僅かな胃液くらいが申し訳ないように出てくるのみで、後は俺の声だけ。

 それでも、胃の気持ち悪さは残っていて出さずにはいられないくらいだった。

 確かに何も食べてはいないが、酒は大量に飲んでいた。だから、それなりの嘔吐物は出てもおかしくはないのに……


 コンコンッ


 「琉依、大丈夫?」


 ドアをノックする音と共に聞こえてくる母さんの声に応えるよう俺は中から出てきたが、改めて母さんの顔を目の当たりにするとそれはとても蒼ざめていて泣いていたのか目がうっすらと腫れていた。

 「どうしたの? 何で母さんは泣いてるの?」

 そんな母さんの顔を見ては笑みを見せて尋ねる。しかし、母さんはそんな俺を抱きしめてはひたすら俺の背中を撫でている。

 母さんに抱きしめられるまま、意識がまだはっきりしない俺はただ視線をベッドのある方へと移す。そこには、母さんと同じく心配そうな目で俺を見ているK2とリカルドが立っていて、医者と看護士も俺の様子を窺っていた。


 そんな人たちを見ても、俺はまだ自分が何故ここへいるのかさえも把握できていない。何故、俺はここに居る彼らからそんな目で見られなければならないのか……これまでの出来事を思い返そうとするが、頭の中の靄がそれを邪魔している。


 そんな時、ふと何かを思い出すと母さんから離れてリカルドの方へと進む。

 『ルイ?』

 『リカルド。煙草はどうした? お前、確か煙草を買ってくると言って家を出ていたな』

 そんな俺の言葉に、リカルドはもちろん両親も驚きを隠せないのか目を大きく開いていた。母さんに至っては、手で口を覆っている。

 何に驚いているのか知らないが、それでも俺はリカルドの方へと再び視線を向けては手を出して煙草を催促する。

 『ほら、買ってきたんだろ? もう何でもいいからくれよ』

 彼らとは反対に笑顔でいる俺に、リカルドは視線だけを医者へと向けていた。そんなリカルドの心情が理解できない俺は、早く早くとリカルドの腕を軽く叩いた。


 『ルイ、君はまだ頭がはっきりとしていないんだ。今は煙草を控える事を勧めるよ』

 『あれ? 俺の頭がはっきりしていないって、よく解かったね。あんた、まるで医者みたいだね!』


 バンッ!


 俺が言い終わると同時に、母さんが何故か部屋を飛び出して行った。そして、その後を追うようにリカルドも出て行く。

 『あれ? 母さん、トイレなのかなぁ……。トイレなら此処にあるのに、リカルドも一緒に行くなんて……』

 ケラケラ笑う俺の傍にK2がやって来ては、俺をベッドに座らせる。

 『琉依、疲れているだろうからまだ眠るんだ。点滴もしているから、煙草はまた今度にしなさい』

 そう言って俺を寝かせようとするが、その手を俺は掴んでは必死に抵抗する。


 『琉依?』

 『寝てはダメだよ……寝たら笑うんだ』


 俯く俺の顔を覗き込むようにして問いかけたK2の言葉に、俺はそう答えるとK2はよく聞き取れなかったのかもう一度尋ねてくる。

 『何だって?』

 『寝たらね、アイツが笑うんだ……』

 “アイツ”は今仕事をしているから、何もしていない俺がこうして眠ってしまうと“アイツ”は笑っては俺のことをバカにしてくる。

 貶す言葉などは使わない……ただ笑っているんだ。バカにした目で、俺の事を見下している。


 『アイツって……誰がお前の事を笑うんだ?』


 K2は俺の肩に手を置いては、そうやって俺の答えを待っている。そして、そんなK2を下から見上げるとゆっくりと口を開く。


 『リカルドだよ……アイツ、今でも俺を笑っている。今は仕事に行っているんだろ? それなのに、アイツは俺を笑っている』

 『琉依、何を言っているんだ? リカルドはさっきいたじゃないか』

 『居ないよ……リカルドは今も俺を笑っているから……』


 そう笑みを浮かべてK2の方を見るが、K2の表情は今までに見た事がない深刻な表情を浮かべていた。

 俺は滅多に見ることが出来ないK2の表情を見て、たまらなく笑みがこぼれてしまったんだ……。






 頭に靄がかかっては意味の解からない言葉を並べては口にする……この時の俺は、未だに自分に起きていた事を把握出来ていなかったのだ。

 何故、自分がこんな事を言っているのか……そもそも、何故こんな所に居るのか。


 そう……あの日、家に帰ってきたリカルドが目の当たりにした光景……それは、リカルドが眠れない時に服用していた睡眠薬全てを、残り僅かの酒で飲み干して意識を失いかけた俺の姿だった…… 




 こんにちは、山口維音です。

 毎日更新を目指していたのに、2日間も更新を止めていて申し訳ございません!


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