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Chain120 祭りの後に


 愛している……今の俺にはその一言しか言えなかったけれど、その言葉が次に出会える時まで効力が無くならない事を俺はただ祈るだけ




 「ふふふ……もう食えねぇよ〜」


 俺の送別会はメンバーのおかげで、最後まで賑やかな雰囲気のまま終える事が出来た。けれど、そんな雰囲気の中で俺は必死に溢れそうになる涙を隠していた。


 そして、いい時間になった所でメンバーはそれぞれ帰宅していったのだが……

 「ハイハイ、良かったですねぇ〜」

 梓の家から来た迎えの車でメンバーは帰った筈なのに、ただ一人……渉だけはこうして残ってはさらに飲んで俺の隣で酔いつぶれて眠っている。

 「蓮子の家の隣なんだから、オマエも梓の車で帰れば良かったんだよ」

 妙な寝言を言いながら眠っている渉の頭を軽く叩いては、そう呟く。そんな俺を、カウンターで片づけをしている兄貴は笑って見ていた。

 「オマエともう少し飲みたかったんだろ? 渉はオマエにとって長い友人なんだ。それくらい解かってやるんだな」

 確かに……伊織との方が出会いは早かったが、一緒に過ごした年数では渉の方が長いからな。それに、俺が屈折した生活を送っていた時も(今でもそうだけど)渉は親身になって相談に乗ってくれたりしたな。

 馬鹿ばっかりしていても、そんな小さな所も決して見逃さなかった。時には叱咤もしてきた生意気な所もあるが、それでも俺はそんなコイツと親友で良かったと思っている。


 「まぁ……この片づけを終えたら一緒に乗せて帰るから、それまでそこで寝かせておけよ」

 そう言って兄貴は奥から持ってきた毛布を俺に投げてきた。毛布を受け取った俺は、隣でいびきをかきはじめた渉にかけてやる。

 そして、俺は傍に置いていたウォッカをグラスに注いでは再び飲み始める。そして、煙草を吸ってはさっきまでの楽しかったひと時を改めて思い返しては浸っていた。

 あんな風に彼らと騒いだり出来る時、次はいつやって来るのだろうか……それは俺の努力次第だろう。ロンドンでの滞在が延びれば延びるほど、俺は彼らとの楽しいひと時を過ごす時を減らしてしまう。

 「うん、やっぱり俺の努力次第だな」

 「は? 何か言ったか?」

 俺の独り言に片づけをしていた顔を上げて尋ねる兄貴に、俺は笑顔で首を横に振る。そして、片付けと明日の準備を終えた兄貴は俺の隣に座る。

 さっきは俺たちの為に料理を作ったりと裏方に回っていたから、こうして落ち着いてから兄弟水入らず(余計なのが一人いるが)で飲む事にした。

 そして、兄貴のグラスにも同じくウォッカを注いで、らしくないが乾杯もしてクイッと飲み干す。メンバーともそうだが、兄貴ともこうして飲めるのもしばらくは無い。だから、こうして時間を作っては兄弟だけで話がしたかった。


 「それにしても……まさかオマエがロンドンにいく原因にもなったなっちゃんがオマエと付き合っていたなんて……知らなかったなぁ」

 グラスを置いてそう言うと、兄貴は俺の顔をチラッと見てくる。そんな兄貴の一言に、俺は何だか照れくさいような申し訳ないような気持ちでとりあえずペコリと頭を下げる。

 「もしうまくいったら、なっちゃんは俺の義妹になるんだよな〜」

 ホント……うまくいったらの話だけどね。兄貴には申し訳ないけれど、これからの俺たちの事は正直言って俺にもわからない事だから。

 いくら俺と君が付き合うことになっても、決して消える事が無かった俺の歪んだ感情。それは君と離れる事で消えるかと思ってはいるが……俺の心が大人にならなかった時、それが意味するものはやはり君との別れ?


 「尚弥にも頼んだけど、兄貴も夏海の事を見てやってね」

 「尚弥クンにも頼んだのか? それはオマエも結構残酷な頼みごとをしたね〜」

 あっ、やっぱり兄貴も気付いてた? 尚弥が君の事を好きだという事に。でも、最近の尚弥を見ていると、以前と比べてそんなに君に好意を抱いているような雰囲気は感じられないな。

 もしかして、俺の所為で君の事を諦める事にした? それとも、他に好きな人でも見つけたのだろうか?

 今さらになってだけど、いくら自分の歪んだ感情の為とはいえ彼にしてきた言動を後悔し始めるのは、やはり飲みすぎたせいでもあるのだろうか。


 「なっちゃんはよくオマエについて行くって言わなかったな〜。昔からあの子はオマエにべったりくっついていたのに」

 昔からの付き合いだから、やはり兄貴もそんな成長した君の事に驚きを隠せなかったみたい。俺達が知っている君なら、絶対ロンドンへ行くって言っていたから。

 しかし、俺たちの知らないところで君は確実に成長しているんだ。今回の事でもそうだし、高月の事でもそんなに尾を引かなくなっている。

 もう、俺が居なくても大丈夫……そう思えるようにまで君は成長しているんだ。


 「でも、夏海って変なところで泣き虫な面もあるでしょ? だから、何か寂しがっているような事があれば兄貴なりに支えてください」

 出来れば俺がロンドンへ行くまでに暁生さんたちにはこっちへ帰って来て欲しかったが、やはり大きな仕事を抱えている所為でそれも簡単にはいかない。

 俺も居なくなって余計に一人になってしまった君を支えられるのは、兄貴とメンバーたちだけ。

 「だから……本当によろしくね」

 俺の我が侭に兄貴はフ〜っと息を吐くと、俺の肩をポンポンと軽く叩いて

 「そんな事、言われなくても分かってるよ」

 そう答えて笑顔を見せていた。



 そして、それから数日後……俺にとって運命の朝がやって来た。


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