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Chain113 これも恋の始まり?



 別れを告げた時、君は何を思っていた?

 そして、俺はどうしてあんな事を言ったのか




 “ロンドンへ行く……”



 そんな俺の言葉に、君はずっと俯いていた。

 何を思ってる? ずっと胸に抱いていた決意を打ち明けた俺を、君はどう思っているの?

 しかし、そう思っても君は一言も俺に答えを言ってはくれない。ただ、俯くばかり……。

 我が儘な君の事だから、きっと君は俺が決して君から離れないとでも思っていたんだろうね。

 ずっとそばにいて、ずっと自分を守ってくれる……そんな都合のいい事を君は思っていたのだろう。

 そう黙り込んでいる君に、心の中で溜め息をついて口を開く。

 「語学の勉強に行きたいとずっと思っていた。大学では視野が狭すぎる。もっと広い所で……」

 「そんな事を聞いているんじゃない! そんな事じゃない……」

 君やメンバー用にと適当に作った理由を告げたが、言い終わる前に君は顔を上げては物凄い剣幕で言う。

 じゃあ……何? ロンドンへ行く動機を聞きたいのじゃないなら、君は一体俺に何を聞きたいの?


 だいたい解っている。君が聞きたいのは、“どうして、今なのか?”だ。

 大切な存在である筈の自分が傷付いて弱っていると知っているのに、どうしてそんな時に自分から離れるのか……君は、俺にそう訴えたいのでしょ?

 そこまで君の事を解りすぎて思わず苦笑いする。

 でもね、それが君が知りたがっている理由なんだよ?

 君をこんな風に傷付けた高月(アイツ)にはもう復讐を遂げた。

 そして、次にその復讐を受けるのは君……ただ、それだけの事。

 都合のいい時だけ俺を利用していた君に、俺が何も感じていないと思っていた?

 君に乱暴しては傷付けたから、それが当たり前だと思ってた?


 そう思っていた時、君の瞳からは涙が流れてきては俺の手に落ちる。

 「出来ないよ……出来ない……」

 それは、俺を送り出す事を? 俺は君を自由にしたのに、君は俺を自由にはしてくれないのだね。

 そんな俺の思いなど構う事無く、君は両手で顔を覆っては本格的に泣き出す。


 しかし、俺は言わないと……さっきまで考えていた別れの言葉を。


 それなのに、自分の目の前で泣いている君のせいでそれは簡単に出来なくなっている。

 何でもいい……さよならでも、バイバイでも何でもいいから言わないと。

 「琉依ぃ……」


 さよならと……言うんだ。


 「私、まだ琉依を自由にできる自信がないよ……」

 構う事無い、別れの言葉を言ってしまえばいい。

 心ではそう思っているのに、何かが引っ掛かってそれを邪魔する。

 「琉……依」

 そして、俺の腕を掴んでは涙を見せる君を改めて見た時は、もう遅かった……


 「俺を自由に……しなくていいよ」

 ……!

 自分が今言った言葉に、思わず俺自身が口に手を当ててしまう。

 何て言った? 自由にしなくてもいい?

 これじゃあ、自分の思いとは反対じゃないか。

 しかし、止どまる事を知らないのか俺の口からは更に言葉が続けられる。

 君の頭を優しく撫でながら言った俺の言葉……。


 「一緒について来てくれる?」


 誰が? 君が?

 考えていた言葉とは全く反対の事を言う俺自身が信じられないと思っていたが、それでも君に見せる自分の表情はきっと穏やかなものになっているに違いない。

 そんな俺の言葉に対して、君も驚いた表情を浮かべている。そして、その口から出た言葉は、

 「はいっ?」

 その気の抜けた返事に俺も張り詰めていた緊張が無くなった感じがしては、つい笑みを見せてしまう。


 あぁ……だから嫌なんだ。我が儘な君もそうだけど、そんな君に対して結局は甘くなってしまう俺自身。

 だから、次から次へと俺の意志に反する言葉ばかりが出てくるんだ。


 「俺も、これ以上夏海を自由にはしてあげないから」

 あぁ……これじゃあまるで別れと言うよりも告白をしているみたいだ。

 もうすぐに別れが迫っているのに、何故こんな事を言ってしまうのか。

 そんな俺に対して、君は次の言葉を待っている様子。

 だから俺は次から次へと口走る……

 「俺は夏海が好きだよ。もう、人にも自分にも嘘がつき通せないくらい」

 「琉依……」

 暴走した俺の意志に対して君が返事をする前に、俺は再び君を抱き締めていた。


 あぁ……もう自分でもどうしたいのか解からなくなっている。


 「夏海が俺を嫌いでも、ずっと側にいてやる。他に好きな男がいても俺に振り向かせてみせるよ。ずっと夏海がよそ見を出来なくなるくらい、誘惑し続けるから」

 こんな言葉を普通に言っている俺を、決して君は疑ったりはしないだろうね。普段から吐き捨てているほど言っている台詞……これがまさか俺の意志のほんの僅かなものだとは思わないだろう。

 そして、君はそれを真剣に受け止めているのだろう。

 「すごい自信……。どこから出てくるの?」

 「ん? 俺だから出てくるの!」

 思っていた通りの君の反応に、俺は動揺の表情を見せずに笑みを浮かべたまま答える。そんな俺を見ては君も嬉しそうに微笑んで俺の背に手を回してくる。

 その反応は、きっと俺が昔から待ち望んでいたものに間違いは無いだろう。ずっと欲しがっていた君の心が今、俺の手の中に入ったんだ。

 ずっと拒んでいた君が俺を受け入れた……それなのに、どうして俺はこんなにも複雑な気持ちを抱えているのか。


 「いつか、そんな余裕を見せられなくなるくらい私に夢中にさせてやるから」

 意地悪っぽく笑みを見せてはそう言ってくる君を俺はただ抱きしめるだけ。こんな状態じゃないのなら、他にも言ってやりたいことはあるのに今の俺にはそれが叶わなかった。


 今までずっと一緒にいて、失いかけてからやっと気付いてくれたこの気持ち……。


 果たして、これも恋の始まり……でいいのだろうか?



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