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Chain110 君と俺の運命を左右する朝に


 誰にも打ち明けなかった、長年積み重ねてきた俺の暗い闇を長年付き合ってきたメンバーではなく、彼に打ち明けた……

 彼を選んだのは……






 お祖父様の家で浅井クンに自分の胸のうちを伝えた翌日、俺は早々と着替えて準備した。そして、静かに部屋を出るとそのまま隣の兄貴の部屋の前に行く。

 「じゃあ、行って来るよ」

 まだ寝ている兄貴に一応声を掛けて、俺は家を出た。

 車の後部座席に花束と色々詰めた袋を置いて、そのままエンジンをかける。


 家を出て間もない時に視界に入ったのは、いつものように自宅の前で俺を待つ君の姿。徐々に近付く俺に手を振っている君だったが、今日はいつもとは違った。


 本来なら、そこで車を停めては君を乗せるのだが、今日はそこに誰も居ないかのように通り過ぎる。

 一体、何が起きたのか……バックミラー越しに映っていた、呆然と車を眺めている君の姿。


 しかし、今日だけは君と一緒に居る訳にはいかないよ。

 今日は、俺にとって日本で出来る最後の大切な日だから。


 ――――――


 しばらく走らせた末に辿り着いた場所は、海が見渡せる高台にある墓地だった。

 後部座席に置いていた花束と袋を手にして、しばらく歩いて足を止めた俺の前にあるのはお祖父様の墓だった。


 「一年ぶり。今年もやって来ましたよ」

 誰もいやしない、目の前の墓石に向けて声を掛けてから丁寧に掃除を始める。

 しばらくは来れないから……その分も含めて、丁寧に綺麗にしていく。


 そして、ひと通り掃除してからカップ酒を取り出しては、供え菓子と一緒に置き線香に火を点けて台に立てる。


 全て整えたあと、改めて座って手を合わせる。

 そう、今日はお祖父様の命日。一年の中で大切な日である今日を、俺は毎年忘れずに此所を訪れていた。


 しばらく手を合わせては閉じていた目を開くと、座ったまま口を開く。


 「お祖父様……俺ね、もうすぐしたらロンドンに行くんだ。だから、しばらくは来れなくなる」

 もちろん、こんな事を話しても誰も答えるはずが無い。しかし、それでも俺は言われるはずの無い言葉を勝手に作っては、それに答える事で会話を作っていた。

 「えっ? 何しに行くかって? お祖父様の大切なお姫様を守る為だよ」

 お祖父様が最期に託した俺からね……。

 「アイツらには、語学留学とでも嘘吐いて行くよ。けれど、お祖父様には本当の事を言っておきたかったんだ。だって」


 だって……


 「だって……」

 何故か、そこから言葉が詰まって何も言えなかった。それは簡単な言葉なのに……俺はそれを簡単に出来なかった。

 だって、それは……今まで俺を支えてきた物でもあったから。苦しみや狂気の種であっても、“それ”は俺を支えてきた事には変わりないから。

 「だって、お祖父様の遺言(やくそく)を守れなくなっちゃうから……」

 重くて仕方が無かった約束も、今では愛しくて仕方が無い。けれど、俺はそれでも去らなければならないんだ。

 「夏海の事? 好きだよ……愛している。出来る事なら一生傍に居たいよ」

 だけど……俺の中に潜む狂気がそれを邪魔する。

 愛すれば愛する程、俺の中を蝕む嫉妬や狂気。愛しているのに、どうしても君を信じきれなくては傷付ける。

 守りたい……傷付けたい。離したくない……突き放したい。憎しみに愛情……歪んだ感情が、更に君を困らせる。

 「大人になりきれていないのは……俺だった」

 いつまでも子供の時のままでありたいと、心のどこかで抱いていた感情。

 君を傷付ける事でしか自分の存在を残せない……今思えば、全てが子供みたいな俺のやり方。

 けれど……


 「ねぇ、お祖父様……」


 そこからはお祖父様にも言えない俺の思いは、自分の胸にしまっておこう。

 誰にも言わなければ、その願いは通じるかもしれないから。


 それがたとえ、この世に存在していない貴方に対しても……。


 “ねぇ、お祖父様……”


 いつになるか分からないけれど、俺が日本に帰って来るまで君に笑顔が戻っていますように。


 そして……


 君がその時まで独りでありますように……。


 「さて、そろそろ帰るよ。今日は煩い一日になりそうだから」

 そう言うと、立ち上がっては一礼する。そして、数歩歩いた所で振り返っては笑みを浮かべ


 「行って来ます……」


 そう呟いて、再び歩き始めた。

 今日は煩い一日になる……実際にほら、ポケットに入れたままの携帯からずっと振動が伝わっている。

 誰からの着信など確認しなくても分かるよ。


 今日が十日後だから……


 あの日から十日後の今日に佐織さんがちゃんと書類を確認していたら、こんな早朝から掛かって来る電話なんて知れている。

 大学では、きっと騒ぎになっていて昼頃になればきっと皆にも伝わるだろう……。


 もちろん、君にも……


 「ちゃんと、言えるかなぁ……」

 きっと、知らせを聞いて俺の家にやって来るに違いない。

 そんな君に、俺はちゃんと言えるだろうか……


 “バイバイ”


 この一言を……



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