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Chain109 曝け出した本性



 今回のお話は、琉依が賢一に復讐を行った後の事を書いています。琉依による賢一への復讐は、シリーズ第1弾“不器用な恋物語”のact12 琉依の復讐とact13琉依の復讐2で展開されていますので、先にそちらをご覧になって頂けると、話の流れも繋がります。尚、琉依の復讐は尚弥視点で描かれています。






 翌日に退学が大学に判明するであろう今日、俺は高月賢一に復讐を果たした。君がされた事と同じ事を俺は高月アイツにした。

 しかも、そこには俺だけではなく浅井クンも引き連れて……

 俺のやり方に対して、何も知らない彼はただ俺を責めていたが……

 「でも、夏海も傷付いた」

 その一言だけで、彼はそれ以上何も言えないでいた。そんな彼を俺は彼の家には送らず、そのまま君の家で降ろしては君の話を聞いてやって欲しいとさえ頼んだ。


 「夏海には、俺が居なくても大丈夫……か」

 自宅に着いた俺は、さっき自分が浅井クンに伝えた言葉を繰り返していた。本当はそうであって欲しくない、アイツに任せないで俺自身が君の部屋に言って君の話でも何でも聞いてやりたいのに……

 でもそうすると、俺はますます君から離れられなくなるから。だから、あえて俺は君を浅井クンに任せたのだ。

 「それも、結構辛いもんだな」

 苦笑いを浮かべては、更に片付いた部屋に寝転んでは天井を見上げる。


 ―――――


 その夜、もう既に君の家から帰っているだろう浅井クンの事が気になった俺は、そのまま家を出て車に乗り込む。

 向かう先は彼の自宅。きっと彼とまともに話せるのはこれで最後になるかもしれないから……明日には、俺の退学が皆にバレてしまい騒ぎになる。

 だから、最後のチャンスとも取れる今夜を逃すわけにはいかない……


 “浅井幸雄”


 そう書かれた表札のある家の前で車を停めて降りた俺は、目の前の彼の家をまじまじと見上げる。

 「へぇ〜、彼ってあの浅井幸雄の息子だったんだ〜」

 堅物検事で有名な浅井幸雄は、何度かテレビでも見た事があるがまさかその息子が浅井クンだったなんてね……。

 とりあえず俺は携帯のアドレスから彼の携帯番号を呼び出す。その時、ふと見上げた二階の一室に明かりが灯ったので何となくあそこが彼の部屋なのかなとずっと見ていた。


 『……はい』

 「浅井クン? 俺様だよん」


 ディスプレイを見て解かっているのか、明らかに嫌そうな声で出た彼に対して俺は明るい声で挨拶をする。おそらく拍子抜けしているのだろう、何度声を掛けてもなかなか返事をしてくれない。

 それから色々な会話をしていたが、徐々にこれまでの態度とは打って変わって接してくる彼に俺は何だかやはりただ者ではないと感じながらも彼に興味を抱いてしまう。

 しかし、こんな所でのんびりしている場合ではない。時間は迫ってきているのだ……


 「あ〜もう携帯で話すのもウザイな。下りて来てくれる?」

 そう俺が言った時、浅井クンの行動を読んだ俺はそのまま二階の部屋を見上げる。そして、かすかに動いたカーテンから見えたのはこちらを見ては驚愕の表情を見せる浅井クンだった。

 ほら、やっぱり……そう思いながらも、俺は彼に向かってゆっくりと手を振る。俺はね、君以上に屈折しているんだ。


 ―――――


 “ここで話すのも何だから、ちょっとドライブしましょ”


 そう言って彼を車に乗せた俺は、そのまま三十分ほど車を走らせていた。車中はお互い何も言わないから、その場の雰囲気に合わないMDが流れているだけだった。

 俺の隣に座っている彼……君は一体何を思って俺に付き合っているのか……。

 頭のいいアンタは、これから俺が言おうとしている事を少しでも解かっているのだろうか?


 そう思いながら走っていると、やっと見えてきた目的地。

 「着いたよ」

 そう言って車を停めたのは、お祖父様の家の前だった。長い間連れ回されては訳がわからないところに到着したから、さすがの彼も少し怪しみながら俺の方を見る。

 そんな彼の視線など気にせずに、俺は門を開けては玄関へと向かう。そして、鍵を開けて彼を中へと案内した。

 リビングに入って彼をソファに連れて座らせると、俺はそのままキッチンへと向かう。

 「確か、コーヒーがあったよな」

 しょっちゅう此処に来ていた俺は、自分の為にとコーヒーやら食料など持ち込んでいた。そして、棚にあったコーヒーを出しては、用意をする。


 しばらくしてリビングへと戻ると、彼は壁に貼られている写真やポスターを見ては驚きの表情を浮かべていた。

 まぁ、俺や君の家族以外の人物で此処に来るのはアンタが初めてだからなぁ……初めて此処に来るんだから、そんな表情を見せるのも仕方が無いか。

 それくらい、ここの家の壁と言う壁は凄いのだから。

 「いい写りでしょ?」

 そんな彼の背後でそう囁くと、俺はコーヒーをテーブルの上に置く。

 「此処は、宇佐美の別宅か?」

 「違うよ、ここは俺や夏海にとって大切な人の家なんだ。そして、此処こそ俺と夏海の絆が生まれた場所なんだ」

 コーヒーに口をつけると、彼がそう尋ねてきたのでカップから口を話して答える。

 今でも目を閉じると聞こえてきそうな君や俺たちの屈託の無い笑い声。それくらい、ここはきれいな思い出が詰まっているんだ。

 誰にも侵せない……大切な思い出。


 「槻岡サンとの絆、絆って言うけれど宇佐美は彼女の事を愛しているのか?」

 そう思っていた時に、彼はそんな質問をしてくる。確か、それに似たような質問を以前にしなかったか? 少し苛立ちを感じたが、それでも今日は何でも答えようと思っていたから口を開く。

 「夏海は俺にとって何よりも大切な存在なんだ。ずっと傍にいて守り抜くと、ある人と約束したからね」

 「ある人? 誰の事だ?」

 「ある人だよ」

 そこまで聞くのは許さないと言った感じで口調をきつくした俺に、彼は思わず黙ってしまう。この事は他のメンバーも知らないのだから、アンタに言う必要も無い……ただ、それだけの事。

 「絆というもので、宇佐美は彼女を束縛していると思わないか?」

 「思うよ。だって本当に束縛しているから」

 妖艶な笑みを浮かべて彼を見る。そうだよ、俺はあの子を束縛していたんだから。自分の傍に居るのに、なかなか自分の物になってくれないあの子を俺は何度傷つけたか。

 そう思っては笑みを浮かべる俺に、彼はこちらを見ては俺と同じような笑みを浮かべる。そして……


 「馬鹿だね、宇佐美は。俺にそんな本音をさらけ出して、槻岡サンにばれたらどうするんだ?」

 あぁ、やはり彼は俺が思ったとおりの人間かもしれない。渉や伊織とは違う……俺のわずかな言動にも本気でぶつかってくる人間だ。

 彼の目的がまだ解からないが、それでも彼は今まで知り合った人間とは違う。そう思った俺は思わず表情を一変させる。

 「ホント、俺も馬鹿だね。こんな事言わなければ、夏海にも一生ばれないって保証出来たのに君にわざわざ言うなんて」

 片手で顔を覆いながら俺は笑って答えた。指の間から見える彼の目は、とても真剣さを感じるものでまっすぐ俺を見ていた。

 「でも……」

 そんな彼に対して覆っていた手をどけると、俺はゆっくりと話し始めた。

 「誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。そして、俺の馬鹿な暴走を止めて欲しかったのかも」

 その“誰か”が何故、渉や伊織もなく、たまたま知り合った彼なのか……。それはきっと彼も思っているはず。だけどね、いくら親友でもそれを打ち明けられない事だってあるんだ。

 ましてや、俺の生き方は到底理解できるようなものではない。自分でも解かってるから……俺が狂っている事を。


 「狂っているよ、宇佐美」

 そんな俺に彼はためらう事無く伝える。そんな彼に、俺は笑みを浮かべるしか出来なかった。

 ほら、彼はちゃんと解かっているんだ。俺が狂っていることを……

 「このまま狂いきってしまわない為に、何とかしたんだから。それまでに夏海にばれない様にしないとね」

 表情を吹っ切れたものに変えると、俺はそう言って彼の方を見る。そんな俺に対して彼は、何も言わずにまっすぐな目で見ている。

 あぁ、やっぱり彼とこうして話が出来てよかったかも。だって、今の俺の心の中は錘が無くなったかのように軽くなったから。

 そんな彼に、俺はただ一言だけ呟いた。


 「ありがとう……」


 その一言だけ……。

 そして、時は刻一刻と迫ってきていた……。


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