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Chain104 決意の朝に


 高月に代わる新たな不安要素の登場に、俺は再び何かに取り付かれた感じになった……






 俺は今日、ある事をしようと決意していたのに……その前日まで君は俺を困らせるんだ。


 「……ん」

 寝たふりをしていた俺の隣では君が目を覚ましたのであろう、繋いでいた手が動くのを感じた。

 おそらく、今の君はいつものように昨夜の事を思い出しては色々後悔しているに違いない。それが日課のような君だから……。

 その時は反省していても、それでも君はまた同じ事を繰り返しては俺を困らせるんだから。

 「参った。これじゃあ、本当に惨めなだけだわ」

 ほら……やっぱり反省している。あまりにも自分の予想通りの展開に、俺は思わず笑みを零しそうになる。


 サラ……


 その時、俺の髪を触れる君の手のぬくもりを感じた。一体、何を思いながら俺の髪に触れているのか……そう思って俺はそっと閉じていた目を開く。

 「おはよん」

 少しかすれた声でそう告げると、君は決して笑みを見せずに反省しているような表情を浮かべていた。

 そんな君を見た後、俺はベッドから抜け出しては階下へ降りてコーヒーの用意を始める。



 「ごめんね」

 戻ってきてコーヒーを差し出した俺に向かって、君は開口一番にそう告げる。

 ごめんね……か。君は今までその台詞を何度俺に向かって告げたであろう。そう思い苦笑いを浮かべながら俺は君の隣に座る。

 しかし、その台詞を聞けるのはもう終わりかも知れないから、それも何だか愛しく感じるよ。

 「夏海は、嫌な事があったらすぐに怒鳴り散らすけれど、俺がこうして一緒に寝たら翌朝必ず一番に謝ってくるんだ」

 それは小さい頃からそう……一人っ子だからか、それともただの我が侭なのか君はそうやっていつも俺たちと接してきたから嫌でも解かるよ。

 でも……それでも俺は良かった。

 「大丈夫、解かっているよ。夏海はただ不器用なだけなんだって事くらい」

 そう言って君の頭を撫でる俺を、君はホッとしたのかやっと笑顔を浮かべていた。

 ほら、こうして俺はまた君を甘やかしてしまうんだ。君の我が侭に何度も苛立ったりしていたのに、それでも俺は君を許してしまう。

 だからこそ、君もこうして調子に乗っては俺に甘えてくるんだ。

 しかし、それでも俺は少しでも君に傍に居てほしいと思っていたのだろう。


 「兄貴も心配していたから、後で電話してねん」

 俺の言葉に、君はただ頷くだけだった。あぁ、そうだ。兄貴だけではなく、もう一人心配している男もいたっけ。

 「それと……浅井尚弥クンにも」

 仕方なく言った彼の名前に最初は頷いていた君も、遅れて気付いたのか怪訝な顔で俺を見上げる。

 「浅井尚弥? 誰、それ」

 君は名前も知らない男と寝たり愚痴ったりしていたのか……。ここまで来ると、さすがの俺もあきれた表情を君に見せてしまう。

 「蓮子曰く、パンストの彼? 彼も昨夜、心配していましたよ」

 パンストの彼と言って解かったのか、君は納得した表情を見せた後に何か考え事をしていた。まぁ、おそらく彼に対しても申し訳ない事をしたと反省しているのだろうけれど。

 「けど、どうして琉依がパンストの彼の名前を知っているのよ?」

 「パンスト、パンストって……。昨夜、迎えに行った時に聞いたんだよ」

 あきれた表情のまま俺は君にそう告げる。そして、そのまま再び考え事をしている君の顔を覗き込んだが、君はそんな俺に気付く事無くそのまま表情を固めていた。

 「夏海?」

 すると、やっと気付いたのか君は顔を俺の胸に埋め、ぐいぐいと頭を動かした。そんな君の仕草を可笑しいと思いながら俺は君の頭を撫でる。

 「な〜に甘えているんですか? 子供みたいですよ」

 俺はそう言うと、傍に置いていた煙草を取って火をつける。それから何も言わないでいる俺から離れると、君はクローゼットから服を取り出して着替え始める。


 「て言うか、今度こそお酒を飲むのはやめよう!」

 突然言う君の誓いに、俺は無理無理と思いながらも君の背後に近づいて君の頭をポンポンと軽く叩く。

 「そうだね。夏海ならすぐに立ち直れるよ」

 思ってもいないそんな言葉を告げると、俺はそのまま君に顔を近づけてキスをする。

 「琉依〜!」

 思わぬ俺の仕打ちに、君はそう言いながら俺の頬を抓る。しかし、それでも君が怒っていないのは……

 「昔から、こうしてキスしたら夏海元気になってたし〜」


 ほら、図星なのか君はそのまま黙ってしまう。君は本当に単純だね。小さい頃から何も変わってはいないのだから……。

 「ていうか、今も通用するとは思いませんでしたが……」

 これは事実。ただ、試しにキスをしたけれど、偶然にもそれがまだ通用したわけで……そう思っていたら、君はまだ俺の方をじっと見つめていた。

 「大人になったら、一回じゃ物足りないのかな?」

 そう言って再び顔を近づけたが、今度はマジで頬を叩かれる。

 そんな君の仕打ちに対しても、俺はケラケラと笑うと煙草を灰皿で潰してジャケットを手にすると君から離れる。


 「さて、大学に行きますか?」

 そう言うと、君は頷いて俺に車のキーを渡してきた。


 しかし、今日は俺にとって大切な日でもある事を、君は知らない……



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