Chain101 これからを左右させる前触れ
次の季節が終わる前に、俺は君のもとから去っているだろう……
いざ、ロンドンへ発つ日を決めると、不思議な事に時が過ぎるのは思っていた以上に早いもので、あっという間に夏が過ぎていた。
今は秋……次にやって来る季節には、俺はもうここを離れているんだ。そう思うと、これまでの長い時が惜しくもなる。たまに、もう一度あの頃に戻れないかな……そんな風に思う時もあった。
「大学の夏休みって、二ヶ月もあるから何をしたらいいか迷っちゃったわね〜」
「今回で二回目の夏休みでも、俺はほとんど寝てばかりだったぞ?」
涼しくなった十月の今日、休講だった渉と伊織を呼んで俺は自宅で過ごしていた。そして、俺は夏休みに行った別荘で撮った写真を広げては見せていた。
「あら、この梓は可愛らしいわ。あら、これも……」
自分の彼女が写っている写真を見てはそう言う伊織に、渉は苦笑いを浮かべながら
「ん? どれも同じだろ?」
そう言うから、また伊織から一発喰らうんだ。別荘には何回も行った事がある渉と伊織は、その写真を見ながら自分たちの成長についても話をしていた。
「アタシなんか、初めて行ったのは小学生の頃だったのに二十歳になった今でもこうして行けるなんて思いもしなかったわ」
「俺も。正直言って中学の時で終わりかと思っていたのに、こいつとの友情がなかなか切れないからなぁ」
ホント……俺もまさかここまで長く続く親友に恵まれるとは思わなかったよ。
昔から苦い人付き合いにうんざりしていたのに、そんな俺とこうして馬鹿やってくれる奴がいる。様々な悩みを抱えたり、共に笑いあったり……とても貴重な奴ら。
それなのに、そんな大切なこいつ等にも俺は未だに告げられないでいた。目前に迫ってきているロンドン行きを……
いつ帰ってこれるか分からないのに、それでも俺は黙ったまま何も無いかのように一緒に過ごしている。
「また、行きましょうね」
「今度は、あっちの島にも行こうぜ」
口々に話す彼らに、俺はただ愛想笑いを浮かべては頷くしか出来ないんだ。それが叶わぬ事だと分かっているのに、それでも俺は彼らと約束を交わす。
ロンドンへ行く事を告げた事によって、彼らと気まずくなるのを避けたかったから。
日本にいる俺にとって最後のバカンスとなった今回の別荘での出来事は、どれも俺にとっては忘れられないものとなった。
君や大切な親友と過ごした一日一日を心に刻んで、そしてその時に撮った思い出も一緒に持っていこう。
しかし、俺の心にはある事が引っかかっていた。
“あのね……”
“どうした? 何かあったのか?”
別荘での蓮子の様子が少しおかしかった事……前半は、彼女が俺への想いを打ち明けるためのモノだったというのは分かったが、その後もなんだか様子がおかしかった。
俺に何かを打ち明けようとしていたそぶりを見せていたが、何故かそれを隠してしまった蓮子。その思いつめた様子に、俺はあえて何も聞かなかったが一体何を言おうとしていたのか。
ただ、それだけが今でも引っかかっていた。ただ、それだけが……
「あれ? そういえば何だかこの部屋、広くなった感じがしねえ?」
「はっ? 何を言ってるのよ。怖い事を言わないで頂戴」
突然発した渉の言葉を伊織は一蹴するが、俺の内心は穏やかなものではなかった。伊織に比べて此処によく来ていた渉にとっては、わずかな部屋の変化にも敏感になっていたのだ。
渉の言うとおり、俺の部屋は広くなった……と言うよりも、今まで置いていた物が無くなっていたのだ。
あまり目立った所に置いていた訳じゃないから、特に気づかれないと思っていたのにどうしてこんな時だけ敏感になるのか……この馬鹿は。
「この子の部屋はもともと広いのだから、アンタの気のせいよ」
いや……アンタの家の方がもっと広いですから。心の中でそんなツッコミを入れながら、俺は二人に笑みを見せる。
「アンタ……何、笑顔なんか浮かべているのよ」
「うわ、ホントだ。気持ちワリィ」
そんな俺に気づいた二人が揃って口にする。気持ち悪いと言われているのに、それでも俺はそれをやめる事は無かった。
「そういえば、今日は夏海も休講だろ? アイツはどうしたんだ?」
「夏海? あいつは賢一クンと出かけていますよ」
遅れて気づく渉の問いかけに、冷静に答える。何か急に高月に呼ばれたとか……。サプライズ的な事に弱い君は、嬉しいのかウキウキしながらそう話していた。
そんな君を笑顔で送った俺……微妙な感情を胸に抱きながら。
しかし、そのサプライズが俺と君のこれからを変えてしまうなんて……
この時は、思いもしなかった。
こんにちは、山口維音です。『歪んだ愛情・束縛したい欲望』を読んで下さりありがとうございます! この作品もプロローグ・短編を除いて100話を迎える事が出来ました。これからも毎日更新を目指して頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします。