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Chain98 Good-by My Love



 今度こそ、俺は君を守るよ。ロンドンへ行く事で君への想いを殺して……



 自分の気持ちを封印した時から数日後


 「琉依!」

 「おはよう〜さんっ」

 大学へ向かう前に、君の家に迎えに行った俺を君は驚きの表情で迎える。そんな君に、俺は早く早くと促してはそのまま車へと戻る。


 「あ、あの……琉依! 私……」

 「俺ねぇ、何だか記憶喪失になっちゃったみたいなんだ」

 「……えっ?」

 車中、運転している俺に対して何か言いたげな君に、俺は先にそれを制した。そんな俺の言葉に、君は戸惑っているみたいだけど。

 「だからね、あまり昔の話はしないでくれる? 思い出すのも面倒だからさ」

 運転しながらだったから一瞬でしか君の方を見れなかったが、その時に笑顔を見せると君は何だか拍子抜けしつつも安心したような表情を見せる。

 「うん」

 それでいい……そうすれば、俺と君は昔のように幼馴染みの関係で居られるのだ。


 俺が、ロンドンへ発つまでは……


 あの日、俺は兄貴にロンドンへ行く事を告げた。しかし、今すぐと言う訳ではなく、ちゃんと全てにおいて整理がついてからだ。

 もうすぐすると俺たちは二回生になる。兄貴はせっかく入学したのだから、一年ではなく二年は大学生活を送っては? そう助言してくれた。

 そして、二回生になって落ち着いた頃に俺は退学届を大学に提出すると兄貴とロンドンに帰っている両親に告げた。

 そして、この事は誰にも……もちろん君にも秘密で。


 その時までは、俺は君に対してただの幼馴染みを演じる。これまでの想いを封じる事は簡単な事ではないが、それでも俺がロンドンへ行くまでは君を一切傷付けないようにと決めた俺の想いだった。

 いつでも“余裕”さを見せて……君を騙し通そう。自分の想いを封じる事で、俺は君から高月の話を聞かされても決して動じる事は無くなる。


 そう、自分で決めた事だ……今さら後悔する事は無い。


 ―――――


 「おはよ〜さん!」

 「あら、おはよう」

 車から降りた俺と君は、同じく一限から講義がある伊織に声を掛ける。伊織は眠たそうな表情を見せては、俺達に挨拶をする。

 「えらく眠たそうだな、オイ」

 「そうなのよ。稽古が遅くまで続いてね、あまり寝ていないのよ」

 女性らしく口に手を当てては欠伸をしている伊織を見て、俺もうつったのか欠伸をする。もちろん俺は男らしく手など当てずに堂々と!

 「響一パパ、ロンドンに帰ったのでしょ? 今度はいついらっしゃるのかしら?」

 本当に伊織はK2が好きだなぁ……。やはりデザイナーを目指している伊織にとって、K2は憧れの対象になるんだな。

 「しばらくは来ないですよ。それよりも、アンタがロンドンに行った方が早いかもね」

 「あ、あら、そうなの?」

 俺の問いに伊織は残念そうな表情を見せる。少し意地悪を言ったかな……ご両親に縛られている伊織が、そう簡単にロンドンへ行けるわけが無い。

 「嘘、嘘。K2には俺から連絡をしておくよ。伊織が待っているってね」

 「あら、ありがとう」

 嬉しそうに笑う伊織……それを見ては自分の事のように嬉しそうに微笑んでいる君。そして、此処にはいないが共に過ごしてきた渉に梓、蓮子。

 彼らの笑顔を見れるのは……もうあとわずか。


 「夏海〜!」


 ギクッ

 まだ慣れていない所為もあって、この声を聞くだけで俺はまだ動揺を隠しきれないでいた。そして、そのまま振り返った先にいるのは君の愛しい男。

 「賢一……」

 君は嬉しそうな笑みを浮かべた途端、すぐにその表情を変えると俺の方を見る。あぁ、あの日の事がきっかけでまだ君は俺に遠慮しているのか?

 俺がまだあのキスマークの事を根に持っていると思って……

 「ほら、彼氏が呼んでいますよ? 早く行ってあげなよ」

 しかし、俺はそう言って君の背を軽く押す。そんな俺を君は少し驚いた表情で見ているので、再び笑みを浮かべると

 「言ったでしょ? 俺は記憶喪失になったって」

 そう言うと君はやっと安心したのか、笑顔を見せて彼の元へと走っていった。やって来た君の肩に手を回して去っていく男。


 何度も何度もその場所を奪ってやろうと思っていた事……お前は知らないんだろうな。しかし、君の幸せの為なら自分は引かないといけないと感じた俺は、ただ此処から二人を見ているしか出来なかった。


 これでいい、これでいい……


 そう思いながら。


 ―――――


 その日の晩は、久しぶりに来た“NRN”で飲み続けた。後悔しかけた俺の選択を二度と迷わないよう、全てを忘れようと飲み続ける。

 しかし、こんな時に限って俺の意識はしっかりとしていて何も忘れる事が出来なかった。


 あと少し……あと少しで、俺は全てを忘れる事が出来る。


 俺が、ロンドンへ行くまであと……少し



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