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Chain96 殺意さえも覚える愛情



 大切にしていた筈の仕事……それなのに、その時でさえも俺は君の幻影を見てしまう……





 アイシテル アイシテル……


 これまで何度、君にこの気持ちを伝えようとしてきただろうか。けれど、この気持ちを伝える事が出来ない“何か”が俺を邪魔している。お祖父様の遺言? くだらないプライド? 歪んだ感情がたくさんありすぎて、もうどれが本当の障害なのか分からなくなって来ている。


 嫉妬に狂わされていく俺はもう正確に前を見つめる事が出来なくなっている。君を愛すれば愛するほど、俺は俺自身が壊れていく事に気付いてしまうんだ。高月賢一と一緒にいる君を見れば見るほど、俺の中で徐々に芽生えつつあるこの闇のココロ。


 “私は琉依を見たりしない”


 何度もこの腕で抱いても俺が手にしているのは心のない君とそっくりな人形。いつも気持ちはアイツに真っ直ぐに向かっている。


 “上等だよ”


 最初はそう言ってもみたが、結局はこのザマだ我慢なんかできやしない。何故あの時気付かなかったのか、自分の愚かさに本当に情けなくなってくるよ。そんな軽いものじゃないんだ、俺の君への想いは。

 一度手放してしまった大切な小鳥……籠に戻らずにその周りを自由に飛び回っている。戻りそうで戻らないもどかしさに気が狂いそうになる。

 だから……だから俺は大切にしてきた仕事の場でも、君の幻影を見てしまうようにまでなってしまったのだ。



 「琉依! 琉依!」

 自分を呼ぶ声に反応して目を覚ますと、そこには必死に俺を呼びかける兄貴の姿があった。

 「……あ、にき?」

 「兄貴? じゃねぇだろ! どうしたんだ、K2からお前が倒れたと聞いて駆けつけてきたんだ」

 そうだ、確か俺はK2コレクションの撮影中だったはず。でも、この状況から判断するとどうやら意識がぶっ飛んだのかな? 俺が寝ていたのは誰も使っていない控え室で、額には濡れたタオルが置かれていた。

 「K2が言ってたぞ。“自分の体調管理も出来ないのはプロ失格だ”って」

 いくらK2が自分の父親の宇佐美響一でも、ここではデザイナーとモデルの関係だ。デザイナーとして俺への叱責なんだろうな。確かにプロ失格だわ。大事な仕事なのに、君の幻影を勝手に見ては挙句に倒れる始末なんて……

 「お前、以前にも確か同じ様な症状で倒れたよな? どこか……」


 でも……


 「ど、どうした! 琉依?」

 自然と流れた涙に、思わず兄貴も驚いてしまっていた。でも、どうする事も出来ないんだ。

 この涙は、もう俺が俺じゃなくなるサイン。もう、歯止めが利かなくて限界を迎えているサイン。

 「俺、もう此処にはいられない……」

 「琉依?」

 両手で顔を隠して呟いた言葉の真意は、きっと兄貴には伝わらない。仕事から逃げ出したいんじゃない、あの子から……あの子の傍から消えてしまいたかった。

 お祖父様、どうして俺にあの子を守るようになんて言ったのですか? あの言葉は“それ以上の想いは抱くな”と意味を込めて俺に言ったのですか?

 大事な孫だから、一番傍にいた俺はあなたにとっては嫉妬の一部だったのですか?

 あなたの言う事を昔から何でも聞いていた俺は、一生その呪縛に逆らえない……。だから、俺の気持ちがはっきりしていても何も出来ない。


 「兄貴、俺はもう夏海の傍にいられない。もし、このままあの子の傍にいてしまったら……」

 俺は完全に狂ってしまい、そのままあの子を……。それ位、嫉妬に狂わされているんだ。愛して愛して止まないのに、それが自分を狂わしてはあの子を傷付けている。そんな君を見ては、笑みを浮かべている俺もいた。それが俺にとっては歪んだ快楽の一つになりつつある所まで来ている。

 お祖父様の遺言という名の呪縛に縛られて、自分の気持ちに抑えが利かなくなったら俺はあの子を……


 「夏海を殺しそう」


 何気なく呟いた俺の一言に兄貴は何を思ったのだろうか。目の前にいる自分の弟が狂い掛けているなんて、そんな事思いもしないだろうな。でも、本当に限界が来ているのかも知れない。兄貴も夏海もお祖父様が俺に残した遺言の事は知らないから、俺の今の状況なんて理解したくても出来ないに決まっている。

 「兄貴。俺、あの子が傍にいる限り自分を失っていくんだ」

 好きなのに、本当に愛しているのに、それでも俺は少しずつ自分を壊し続けている。どうしようもない俺の歪んだ愛情は、もう直し様もないのか?

 俺の愛し方は……もう歪みすぎているんだ。


 ―――――


 「そうか、お前なっちゃんが……」

 どうしようも無いところまで来ていた俺は、今の自分の状況のほんの一部だけを兄貴に打ち明けた。お祖父様の遺言の事も含めて。

 「俺一人じゃもうどうしようもないから、だから兄貴……」

 すると兄貴は、立ち上がると控え室を後にした。突然俺が変な事を言ったから、さすがの兄貴も呆れ果ててしまったのかな。


 そう思っていると、しばらくしてから兄貴が再びこちらへ戻ってきてイスに座った。そして、少し沈黙を続けてから開いたその口から出た言葉に俺は驚きを隠せなかった。


 「琉依……お前、日本ここを離れてみるか?」


 えっ……

 冗談かと思って兄貴の方を見たが、兄貴の顔は真剣そのものだった。


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