三話「失踪事件」
「ただいまー」
玄関のほうからお兄ちゃんの声が聞こえてくる。
ガチャリとドアが開いてお兄ちゃんが入ってくる。
「おかえりー」
「お、美奈。帰ってたのか」
「まあね、今日は寄り道してないし」
そうか、と言いながらお兄ちゃんはテーブルのイスに座る。
私はというと、テレビの画面に釘付けになっていた。番組はニュースで、例の失踪事件のことが取り上げられていた。
「・・・失踪事件に興味あるのか?」
突然お兄ちゃんは言う。
「うん、まあ。これだけでかい事件だもん。それに、見つからなかった失踪者が一人見つかったんだよ。そりゃ気になるって」
「・・・そうか」
少し間を空けてからお兄ちゃんは
「なあ、失踪事件のこと、少しでも知りたいか?」
と私に聞いてくる。
「・・・いきなりどうしたの? 知りたいといえば知りたいけど・・・」
「ニュースで報道されるまで内緒にしてられるのなら教えてやるよ」
「お兄ちゃん・・・まさか・・・」
「ああ、そのまさかだ。俺はこの集団失踪事件の担当だ」
お兄ちゃんは実は警察官である。警察になってまだ二年目なのだが、ニュースで報道されるような大きな事件も担当するほど彼は優秀だ。けど、ここまで大きな事件を担当したことは今までになかったと思う。
「お兄ちゃん凄いじゃん! まだ二年目なのにこんなでかい事件を担当して・・・で、何を教えてくれるの?」
「まあ、あまり大したことじゃないけどな。テレビでは見つかった失踪者、大島さんは錯乱状態って言ってるけれど、それは嘘だ。確かに発見当時は錯乱状態だったけど、今はもう大丈夫だよ」
お兄ちゃんは淡々と話す。
「それを聞いた俺らは・・・まだ本当はダメなんだが、事情聴取に行ったわけだ。当たり前だけど、病院側には止められた。けど以外にも大島さんはOKを出してな。短い時間だけだけど、事情聴取を行ったんだ」
「へぇー、それで?」
「まずは本当に錯乱していないか確認するために二、三質問したんだ。結果は全然問題なしのオールOK。んで次からが本命の質問だ。まずは、失踪している間、どこで何をしていたかを聞いた」
「それでその人はなんて・・・?」
「・・・‘わからない'。彼はそう言ったよ。後でわかったんだが、彼は記憶を失っているらしいんだ。事件のショックで一時的にそうなっているだとか。だけどなんかおかしいんだ。彼の証言を聞いていると、五年前のあの日から発見されるまでの間のことは何一つ覚えていなくて、他の事ははっきりと覚えているそうなんだ。他は思い出してこの五年間のことを一切思い出せないのはなにかおかしい。これは個人的な意見だけどな」
「つまり、その人は事件のショックで何一つ覚えてないってこと?」
「まあまとめるとそういうことかな。その後、このことについていくつか質問して、他の事も聞いた。だけど返ってくる答えは曖昧だったり、わからなかったりであまり事件が進展するようなことはことはなかった。それで最後にこう質問したんだ。この事件に巻き込まれる前、何かおかしなことはなかったか、と」
「・・・そうやって焦らすってことは何かあったんでしょう?」
「鋭いな、お前。その通り、事件に関係あるかはわかんないがあったよ、一つだけ。なんでも彼、失踪する直前に不審なメールが送られてきたらしい。友達でも、彼女でも、仕事関係のメールでもなくて、知らないところから送られてきたそうだ。俺らは、それはただの迷惑メールじゃないか、って思ったよ。当然彼もね。けど今まで彼に迷惑メールが送られてきたことは一度もなかったみたいなんだ。彼はメールが届いた後、中身を確認することなく就寝についたそうだ。それで気がついたら失踪してたってわけだ」
「ねぇ、そのメールについてわかることはそれだけ?」
「ん? そうだなあ・・・そういえば、本文は見ていないけど件名は見たそうだよ。なんでも‘心得'と書いてあったそうだ」
「心得・・・」
「ああ、多分ただの迷惑メールとかだと思うけど、今はわかることはそれしかないからな。とりあえず明日、彼の家を訪ねる予定だから、それで全てわかる。そのメールが吉とでるか凶とでるか・・・」
「お兄ちゃん・・・」
「ごめんな。こんなに長々と話しちゃって」
「あ、ううん。こっちこそ色々と話してくれてありがとう」
「そう・・・ならいい。俺は上で少し寝てくるよ」
「・・・ねぇ、お兄ちゃんがここまで話してくれるのは・・・」
「ああ、明日から俺は当分帰ってこない。・・・父さんと母さんを頼むよ」
お兄ちゃんは苦笑する。
「じゃ俺は寝るよ。おやすみ、美奈」
「うん、おやすみ。お兄ちゃん」
お兄ちゃんは私の言葉を聞いてから二階に向かった。
帰ってこない、って言ってもそれはしばらくの間だけなのだが、お兄ちゃんの態度を見ていると、なんだかお兄ちゃんに二度と会えないような気がした。なんでか、胸が痛んだ。
次の日の朝、私が起きたときにはもうお兄ちゃんは家から姿を消していた。
長編小説ランキングに投票
よろしければ投票お願いします。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。