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二十話「新たな仲間達」
 目が覚めて、視界の先に映ったものはあまり見慣れていない天井だった。
 俺上半身を起こして、寝惚けている頭で考える。俺はなんでこんなところにいるんだ? 確か、俺はある少女を助けようとして倉庫の中で『何か』と闘って、その後に――

「谷山君・・・? 起きたの?」

 少し開かれたドアから女の子の声が聞こえて思考が中断される。
 というか、なんで俺の名前知ってるんだ? いや、その前にこの声の主は誰だ?
 俺は警戒を怠らずにその声に返事をする。

「ああ、起きたよ。それで君は―――」

 誰? と言い切る前に話すのを止めてしまう。なぜなら、ドアから部屋にいつの間にか入ってきていた女の子が俺のことを見つめながら涙を目じりに溜めているからだ。俺、女の子を泣かせるようなことをしましたっけ? おいおい、泣くのを我慢しているせいで顔が赤くなっているよ。いや、こう言うのもあれだけど・・・可愛いな、おい。
 不覚にもときめいてしまったが、よくよく彼女のことを見ると―――

「君・・・まさか、かな・・・」
「谷山君! 無事で・・・無事で本当によかった!」
「みり・・・あー、えー・・・っと」

 彼女はいきなり俺に抱きついてきた。こらえきれなかった涙を流しながら満面の笑みで。今、彼女の顔は自分の顔のすぐ真横なので顔を見ることはできないけど。突然すぎて言葉が出ない。
 それにしても彼女、強く抱きしめすぎじゃないかな? そのせいでさっきから当たってるんだよね、あれが。いや、柔らかくて気持ちいい・・・じゃなくて!
 
「よかった・・・! このまま目が覚めないかもしれないって思ってた・・・」

 彼女も彼女で、俺が色々な要素が混じって困惑していることに気づいていないようだ。
 まず、寝起き早々に女の子に抱きしめられた。しかも、アレが押し付けられるように当たっている。これだけでも理性が吹っ飛びそうだ。
 あ、この子いい匂いしてるな。女の子特有の匂いってやつかな。あと、体細いなあ・・・って待て待て待て。少し吹っ飛びそうだったぞ俺! とりあえず落ち着け、落ち着くんだ。このままじゃやばいって。
 俺の心音はスピーカーを通じて出ているぐらい大きくなっていた。彼女に聞こえてるんじゃないか? それはないと思うけど半端ない心音だ。
 とりあえず、一旦離れてもらおう。ただ、この状況をどうやって打破しようか。ストレートに言い過ぎると俺が被害を受けるのが目に見えている。だからといって誤魔化しながら言ったら気づいてくれないかもしれない。
 何をどう言えばいいんだ・・・!

「な、なあ・・・」
「ん? 何何〜?」

 彼女、凄くご機嫌だな。あと心の中じゃ結構冷静だな俺。

「いや、あの、さ」
「うん」
「さっきから・・・当たってるんだよね」
「当たってるって何が?」
「それは・・・あの、胸、とか・・・」
 
 その一言で場の空気が凍る。
 誤魔化しながら、かつストレートに言わないなんて難題は僕には無理です。
 とりあえずついさっきまで騒いでた彼女が静かになったんだが。これってやばくない?
 彼女は抱きしめる力を弱くして俺から少し離れる。それで自分の胸を確認して・・・。
 俺の顔を見ながらにっこりと微笑んだ。アーメン、自分こと谷山宗谷。

「このへんたーい!」

 彼女に思い切り突き飛ばされる。そのまま飛んでいき、後ろの壁に背中を強打した。あまりの痛さに悶絶する。

「あ・・・ごめん、つい・・・」

 よかった正気に戻ってくれたんだな。ならとりあえず、俺を助けてくれるかな?

「痛て・・・理不尽すぎるだろ、これ」

 素直な感想を口にする。彼女はあはは、と苦笑するだけで、俺を助けようとするアクションは起こさなさそうだ。

「あ、君は・・・。よかった、起きたのか!」

 突然知らぬ声が聞こえる。その声の主はいつの間にか部屋に入っていた。その正体は高校生よりも少し大人な青年だった。
 彼は整った顔に目にかかるかかからないかぐらいの前髪がとても似合っていた。髪の毛は少し天然みたいで、髪がところどころで縮れている。いつ、どこで雑誌のモデルとしてスカウトされてもいいぐらい彼はイケメンだった。ただ、彼はめんどくさがりやなのか、無精髭を生やしていた。それでもかっこいいなんて、同じ男としてはなんかむかつく。

「あなたは・・・誰ですか?」

 キッと彼を睨む。彼が俺たちに何をしてくるかわからない。彼女が襲われてもすぐ対応できるように体勢をととのえる。

「あ、谷山君、待って。彼は怪しい人じゃないよ。私の仲間だから」
「この人が? でも、うちの学校の教師でも生徒でもないだろ?」

 今まで会ってきた、もしくは見た人物は、いずれも自分達の学校の生徒あるいは教師だった。となると、この『何か』という化け物がいるこの世界には自分達の学校に関わっている者がいるんではないかと考えた。そうなると彼は本当に味方かどうかなのかはわからないのだ。

「確かにそうだけど、違うよ。彼も私達と同じで気が付いたときにはこの世界にいたの。谷山君もそうだったんでしょう?」
「・・・・・・」

 そうなると、何も言えない。彼女に問われていることは事実だし、彼女の言葉が本当なら彼も俺たちと同じ被害者だからだ。

「それじゃあ、彼は一体?」
「ああ。俺は・・・」
「彼の名前は御風和仁みかぜ かずひとさん。大学を卒業したばかりで、今はフリーだけどカメラマンをやっているらしいの」

 この御風さんという人は、華奈魅に出番を取られて俯いていた。俺の視線に気付くとすぐに顔を上げて笑顔になったが。この人、面白いなあ。

「えっと、確か君の名前は谷山宗谷君だよね? 理恵ちゃんから色々と聞いているよ。これからよろしくな」

 御風さんはそう言って手を差し出してくる。

「はい、こちらこそよろしくお願いします・・・ええと、御風さん、でいいですよね」

 俺も手を差し出して御風さんと握手する。

「うん。まあ挨拶は終わったようだし、君に謝らないといけないことがあるんだ」
「え? 謝ること? 俺に?」

 話がよく見えない。だというのに御風さんは俺に向かって土下座をして謝ってきた。え? 俺、御風さんに何かしました? 初対面ですよね?

「と、とりあえず顔を上げてください」

 急いで彼にそう促す。

「いきなりどうしたんですか? 謝るなんて――」
「宗谷君・・・いや、宗谷でいいかな。宗谷は覚えてるはずだ。理恵ちゃんが逃げ込んだ倉庫。君はあそこで怪物どもを倒して――誰かに殴られたことを」
「―――あ」
 
 そういえばそうだった。俺はなんらかの鈍器で殴られてそこから――。俺を殴ったやつはどこにいったんだ? なんで俺は助かったんだ?

「実はその・・・君を殴ったのは俺なんだ」
「・・・・・・へ?」

 予想外の言葉に思わず気の抜けた返事をしてしまう。
 犯人の正体は御風さんだったなんて・・・。安心したようなしないような・・・。

「それはわかりました。ただ、なんで俺を殴ったんですか?」

 俺を殴る理由。それだけがひっかかっていた。

「ああ、それか。宗谷を殴った理由は簡単。君があの怪物を倒していたから」
「え? それはどういう・・・」
「あの怪物を倒した。それは結構凄いことだと思う。ただ、そのときの身のこなしが、ただの高校生のような動きではなかったんだ。それで、俺は君を危険な人物と判断して、相手が油断してるときに後ろから落ちていた大きな石で殴ったんだ。・・・それなりに手加減はきちんとしたからね」
「そうだったんですか・・・」

 御風さんの言うことは確かに一理ある。あのときの身のこなしだって、本来の俺にはできない。ただ体が勝手に動いたのだ。よく言われる火事場の馬鹿力というものだったんではないかと思う。

「それにしても、華奈魅はなんで『何か』に追いかけられていたんだ?」

 素朴な疑問を口にする。

「『何か』ってあの怪物のこと? まあ、どうだっていいか・・・。追いかけられていた理由は単純だよ?」
「単純でもなんでもいいよ。なんで追われていたか教えてくれないか?」
「・・・いいよ。本当に単純なことだからね?」
「ああ」
「――私は最初、目が覚めたらこの世界にいたの。多分谷山君もそうだったでしょ? 私達の仲間もみんなそうだったから。それで、私が目覚めた建物を探したら、さっきの仲間達に出会った。御風さんもその内の一人。それでこの世界での生活が始まった。食料とかは建物とかに会ったから問題はなかった。けど、一番の問題は・・・やつら、怪物達だった。
 やつらの存在を知らなかった当初の私達はやつらに半数の仲間を殺された。私を含めたみんなは上手くやり過ごせたけど・・・。それからはやつらから怯える生活の始まり。夜は明かりを消して、静かに過ごす。そんな日々だったけど、やつらに襲われることはなくなったわ。でも・・・。仲間の中には恋人同士である人がいた。その内の一人は今この建物で少し寝てる」
「・・・一人、は?」
「そう、一人。もう一人・・・男の人だったんだけど彼は・・・。この世界と生活に耐え切れなくなって、発狂したの」
「発狂?」
「うん。彼女には少し失礼かもしれないけど、精神がおかしくなってしまったの。そんな状況だったから無理はないかもしれないけど。それで彼は、仲間の一人を・・・殺した」

 俺はそれを聞いて、おかしくなった里崎、そして草本を殺してしまった自分を思い浮かべた。

「それで、その仲間を殺したときに大きな音、もしかしたらその子の悲鳴が外に響いちゃったみたいなの。そのせいでやつら――怪物達に気づかれたの。私達はそれに気づいて外に逃げ出した。その際に、一緒に固まっていたら全滅しちゃうってことでバラバラに逃げることにしたの。それでやつらは私を追いかけてきたの。その後倉庫に追い詰められて、谷山君に助けられたの。その後御風さんと合流して、この建物に来る途中、上で休んでる彼女とも合流したの。それで現在に至るってわけ」
「そういうことだったのか・・・」

 そこまでの過程や結果は違ったとしても、いくつかの出来事は俺たちのほうと全く同じなのだ。つまり、これと同じようなことが街ではまだ起きているのか?

「それで宗谷、お前は?」
「え?」

 急に話を振られ、思考を止める。

「お前はって、どういうことですか?」
「宗谷はなんで今に至っているんだ? 倉庫に助けにきたのだって偶然じゃないんだろ? 疑ってるわけじゃないけど、宗谷に起きたことを話して欲しいんだ」
「ここまでの過程ですか。そうですね・・・俺も、いや、俺たちも気が付いたらこの世界にいて・・・」

 俺は今までに起きたことを話した。ただ、華奈魅のことも考えて草本が死んだとは言わなかった。あと、俺がその彼女を殺したということも上手く誤魔化した。

「・・・で、華奈魅を助けたら後ろから何かで叩かれて、気が付いたらここにいたってわけです」
「宗谷のほうも大変だったんだな。仲間がお前以外亡くなるなんて・・・。」
「うん。よく、生きる気力を取り戻したよ。生きていてくれて、本当によかった」

 華奈魅は目にたまる涙をふき取りながらそう言った。まだ、俺のために涙を流してくれる人がいたんだな。草本を殺してしまった罪から少しだけ開放された気がした。

「まあ、もう大丈夫だ。俺たちがいるからな。お前はまだ疲れてるだろ? 上で休んでる子とは後で話せばいい。今はゆっくり休むんだ」
「私も御風さんに同感。谷山君はゆっくり休んで。もう、誰かが死ぬなんてことは絶対にないから。安心して大丈夫。だから、ね」
「二人とも・・・ありがとう」

 二人とも、笑顔でそう言ってくれる。二人の優しさに俺は心から感謝した。久しぶりに人の本当のやさしさに触れたような気がした。嬉しくて涙が出そうだった。

「じゃ、俺らはここらで一旦出て行くよ。飯ができたら呼ぶからな。理恵ちゃん、行こう」
「はい。・・・また後でね、谷山君」

 二人は部屋を出る際にそんな会話しながら部屋を出た。
 二人が出ていった後にベッドに横になるとすぐに眠気が襲ってきた。それに逆らわずにゆっくりと目を閉じた。
 その日、久しぶりにゆっくり寝ることができた。


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