十六話「怠惰」
ずっと怠惰に生きていた。
毎日同じことをしていて、変わったことはしていなかった。
自分でも「ずっと」とはどれぐらいの間なのか、わからなかった。もしかしたら一日二日かもしれないし、一週間、一ヵ月かもしれない。下手をすれば・・・半年、一年間経っていたということもあり得るかもしれない。けど、そんな風に時間の感覚がなくなるほど俺は感情を失っていた。
眠りから覚めて食事を取る。そしたら色々なことを考える。最終的には自分が草本を殺したという事実が浮かび上がり、罪悪感で胸がいっぱいになりながら泣く。そして気が付くと寝ていて、起きて食事を食べてまた何かを考える始める・・・。このサイクルを繰り返しながら日々を過ごしていた。
最初は自殺を考えた。人を・・・しかも友達を殺めた俺には生きる資格なんてないと思ったからだ。けど、夢の中で草本が俺に言った一言。
『生きて』
あれは草本の俺への最期のメッセージだったのかもしれないと思い、自殺を留まった。
けどその代わり、毎日罪の意識に苦しめられることになった。それでも生きなきゃいけないと必死に耐えた。それでもどうしても耐えられず、自殺は無理なら自分を傷つけて罪を償おうとリストカットを試みようとしたこともあった。残る最後の理性で自分を傷つけても罪は償えないと押さえ込ませた。
ただ、いまだに罪の意識に苦しまされていた。消えることのないこの意識。一生ついてまわるこの苦しさ。生きることこそが償いではないのかと思う。
最近はなんでこんなことになってしまったかをよく考える。
俺があそこで草本だけを部屋に入れて廊下で『何か』と闘っていれば。もっと早く、里崎の異変に気づいていれば。俺が純一と共に出ていれば。そうすれば例え俺が死んでも草本だけは生き残れたかもしれない。二人で、いや、もしかしたら全員生き残れたかもしれない。草本を殺したという罪悪感に捕らえられるずにすんだかもしれない。もしかしたら、この悲劇も起きなかったかもしれない。
最近思うんだ。もし、運命というものが本当にあるのだとしたら、純一のあれは・・・俺にとっての運命の分かれ道だったんじゃないかと。それで俺は間違った方に進んでしまった。だからこんなことが起きてしまった、と。
でも、俺がいなくても里崎は草本を・・・。でも、それでももしかしたら大丈夫だったかもしれない。先輩が里崎の異変に気づいて止めたかもしれない。
こう考えると、選択を一つ変えただけでその先の結末は大きく変化してしまうかもしれないのだ。
過去の選択肢はノートに書き込んだものを見直すように何度も思い返すことができるのに、未来にあるだろう選択肢はノートの白紙のように見ることができない。これはとても不条理なことじゃないかと思う。
そもそも、運命の選択肢云々にこの世界にいること自体が不条理ではないのか。
ここがどこなのかがわからない。なぜ俺たちはここにいるのかもわからない。それ以前に、ここは俺たちが住んでいた地球上に存在している世界なのかも疑問だ。
そして、この世界がどこなのかはいいとしても、なぜ俺たちはこの世界にいるのかがわからない。漫画や小説とかでよく見る、異次元世界への扉みたいなのを気づかぬうちに開けてしまったとか? 実は俺はこの世界の勇者かなんかで、その周りにいる人物と共にここに連れてこられたからとか? もしかしたら、俺たちがいた元の世界での出来事は「夢」で、本当はこっちが「現実」の世界だったとか?
いや、そんなはずはない。そんな非現実な話は絶対にあり得ない。あの世界は人間達が、動物達が、植物達、自然たち、宇宙が創り出した「現実」の世界なのだから。むしろこの世界のほうが「夢」だ。『何か』みたいな生物がいることでそれはすでに「非現実」なのだから。
つまり俺らは「非現実」なものに襲われ、「非現実」なものに命を奪われ、「非現実」なものに苦しめられたということだ。それならこの世界で起きた全ての出来事は「非現実」ということになるんじゃないか? 先生達の末路も、純一との別れも、先輩や里崎が『何か』にやれれたことも・・・俺が草本を殺したことも含めて、全てがだ。
でもこの世界は「夢」ではない。そしてここが「非現実」なのだとしたら、この世界は一体なんなんだ?
というより、俺はなんで「運命」やら「現実」やらと難しいことばかりを考えているんだ。
しばしそのことを思考してみる。そしてすぐに答えが出た。
俺はただ、罪から逃げようとしているだけであった。
こうこうこうしていれば・・・と「れば」「たら」を言って、自分の罪は「なかった」ことに、仕方なく起きてしまったことだと思い込もうとしていたんだ。
でももう幾度と考えたからわかる。
結局、これはもう起きてしまった「現実」なんだ。
どんなに夢をみても、起きてしまった「現実」を変えることはできないのだ。
でも・・・それでは辛すぎる。法律で裁かれるような償いができるのならともかく、この世界ではできないのだ。誰もいない。俺しかいない。俺しかいないように自分がしたんだ。
それは、罪を償う方法は誰にも与えられない。つまり、わからないということなんだ。
だからずっと償う方法じゃなくて逃げる方法を考えていたんだ。
苦しい。とても辛い。この罪悪感から逃げることができない。逃げる方法じゃなくていい、この感情に真正面から立ち向かえる方法を教えて欲しい。
誰か教えてくれ。
この苦しみから解放される方法を。
罪を償う方法を。
誰か、俺を、助けてくれ――――!
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