十話「一日の終わり」
あの後、合流した彼らは全部で四人いた。その四人はみんな、宗谷達と同じ学校の者で、宗谷達の先輩の三年生の男が二人、同学年の女子が一人、後輩の一年生の男が一人。宗谷達と彼らはほとんどが知らない面子だったが、四人の中で唯一の女子は純一と一年生の時同じクラスだった。
二人は草本がいる建物へ彼らを連れて戻った。草本は本当に料理を作っていたらしく、気合を入れすぎて多く作りすぎてしまっていたので、宗谷達と彼ら、合計七人で食べきった。
その後はお互い情報交換をした。四人も宗谷達と同じで気がついたらここにいたらしい。当初彼らは六人いた。だが、ここにくるまでに二人は何者かに殺されてしまっていた。宗谷が「その二人をやったのはどんなやつだ?」と訊ねると、一年生の里崎が答えた。彼はこう言った。
「それを見たのは夜で、それは一瞬人に見えたんですけど・・・その・・・よく見ると人ではなかったんです」
「なんでそう言えるんだ?」
宗谷が追求する。
「暗かったんだけど、その中で、それの両目は光っていましたから・・・」
「・・・・・・」
―――そんな非現実なこと、信じていいのか? 宗谷は思った。しかし・・・現に先生のあの状況から考えると、不思議なことではない。それが本当か疑いつつも、今はとにかく情報が何一つなかったのだから、今は――。
その『何か』とは違って、もう一つ新たな発見があった。草本が料理を作るために食料庫を漁っていたときに、そこの奥で地下に続く場所を見つけたのだ。草本がそこにいざ行ってみると、そこには日本刀に似た刀、漫画やアニメでよく見る日本刀よりも太い剣、それと細長い槍など――いわゆる武器庫だった。話を聞いた宗谷と純一が実際に行ってみると、確かにそこにあった。幸いだったことは、そこは武器だけが置いてあるだけでなく、他にも食器やらんたん、イスなど、普通の倉庫として機能していたところだ。特にランタンは明かりになるだけあってとても喜ばしいことだった。
彼らが全てを終えて落ち着いたときにはすでに辺りは暗くなっていた。夜には両目が光るという『何か』がいるかもしれないという恐怖がみんなにあったため、誰も外出しようとしたものはいなかった。外出も出来ない彼らに残された選択肢は建物の中でゆっくり休むことだけだった。
ここは外ではないといえど、何が起きるかはわからない、ということでまとまって過ごそうと彼らは考えたが、部屋のベッドは二人同時に横になれそうな広さはなく、部屋自体もあまり広くはないので、諦めて一人一部屋となった。しかし、部屋は絶対に隣り合うように全員同じ階だ。太陽が沈んでいった西側の部屋には女子、反対の東側には男子となった。
彼らは寝ようと思っても、すぐには寝れず、部屋の本を漁って読んだり、電気を消して(『何か』対策である)外を眺めたりと多種多様だった。そんななか、隣の部屋に行って話しをしようとする者もいた。それは純一だった。彼は隣の部屋――「二一四」と書かれたドアをノックする。
「おーい、まだ起きてるだろ? 中に入れてくれー」
「鍵開いてるから勝手に入ってくれ」とドアの向こうから返ってくる。ドアぐらい開けてくれよ、と内心愚痴りながら純一はドアを開けて中に入る。
中は薄暗かった。部屋の明かりは消されていて、明かりはらんたんしかないので至極当然のことであるが。ちなみにこれは、用心に越したことはない、ということでランタンの明かりだけにしたのだ。
宗谷の姿はベッドにあった。彼はねっころがりながら本を読んでいる。
「おー純一、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
二人はそう言い合って、純一は寝るために部屋に戻ろうと―――
「って、違う違う!」
とつっこんだ。
宗谷は読んでいる本を閉じて純一を見る。
「おやすみの挨拶じゃないのか?」
「挨拶するだけなら壁越しにでも出来るぞ」
「ここってそんな壁薄い?」
「いや、耳を壁にはりつけて大声で叫べば聞こえるはず」
「・・・めんどくさいな」
だな、と純一も同意する。
「さて、冗談もここまでにしておくか。座りな、立ちっぱなしはきついだろ」
「ああ。座らせて貰うぜ」
純一はすぐ近くのイスに手をかけて座る。
「それで、なんだ? 話があるんだろ」
「ああ。ただ話といっても今まで起きたことについてだぞ。ずっと、色々と考えてたんだ。つまらないけど、聞いてくれるか。聞いてくれるなら意見も欲しい」
「わかった。聞くよ」
純一は答えを確認すると、ゆっくりと話し始めた。こここは一体どこなのか、なぜ俺たちはここにいるのか、先生は何になぜ殺されたのか、なぜここには誰一人としていないのか、里崎が言っていた『何か』とはなんなのか。そのような疑問への彼の考えを話した。
けれども純一が本当に話したいことはこれのどれでもない。彼はそれを言おうとしたのだが、いざ話すとなると、口から出なかったのだ。それでこの話。
それについては宗谷も薄々気づいていた。いつもと感じが少し違う、と感じたからだった。ただ、彼はわかっていても真剣に純一の話を聞いていた。
しばらくすると純一は全て話し終えた。が、彼はまだ本当の話をしていない。宗谷はそれが話しづらいことと悟り、言いやすいように促す。
「純一、面白かったよ。お前の話。ああ、そういうのもあるなって思ったこともかなりあったし。ただ、まだだろ。お前が俺に話そうとした本当のことは」
「・・・・・・」
純一は黙り込んでしまう。
「言いにくいことなのか? それなら、無理に今話さなくてもいいぜ」
純一は悩み、選択する。
「悪い。まだ自分でもそれでいいかって悩んでるんだ。もうちょっと考えて、決意が固まったら言うよ」
「そっか・・・わかった」
「サンキューな。あと、長々と話して悪かったな。けど、お陰で少し楽になったよ。さて、もう部屋に戻って眠るとするか・・・。じゃあな、宗谷。おやすみ」
「ああ、おやすみ」
純一はそれを聞くと、部屋を後にした。
純一が部屋を訪れてからいくらかの時間が経った。
宗谷は部屋にある本を一通り読み終え、眠りにつこうとしていた。だが、なかなか眠れないでいた。
そんな彼の部屋のドアをノックする者がいた。宗谷もこの時間帯に人が訪れたことに少々驚く。
「―――谷山、起きてる? もしよかったら中に入れてくれない?」
それを聞いた宗谷は唖然とした。なぜならその声の主は宗谷が想像していた人物と全く違う者だったからだ。
宗谷は戸惑いながらもドアを開ける。
「・・・・・・こんな時間にどうした?」
「あ、もしかして起こしちゃった? もしそうだとしたら謝るよ」
「いや、問題はそこじゃなくて・・・こんな時間に何の用だ?」
「私、なかなか寝付けなくてさ。吉川さんの部屋行こうと思ったけど、寝てたら悪いかな、って思って。谷山なら起きてるだろうなって思ってさ」
「吉川との扱いに差がありずぎじゃね?」
「そりゃそうよ」
「・・・。もし俺が寝てたら」
「謝るって言ったじゃん」
宗谷は顔を手で覆い、呆れる。
「もう、どうでもいいよ・・・」
「それで、起きてるなら中入っていい?」
「お好きにどうぞ」
草本が部屋の中に入る。
宗谷は先に部屋の奥に進み、ベッドに腰かける。
「そこのイス、使ってないし座っていいぞ」
すぐ傍にあるイスを指しながら言う。少し待つが草本からの返事がない。
「どうした? イス、やだか? まあ硬いもんな。俺がイス座るからベッドに腰掛けろよ」
宗谷がそう促すが、草本は何も言わない。
「・・・草本? 一体、ど・・・」
「そうじゃなくってさ、なんていうか・・・ベッドに座りたいんだけど、さ」
「なら座れよ」
「座るけど・・・谷山もベッドに座って」
「へ?」
草本の言ってる意味がわからず、間抜けな声を上げる。
「一言で言うと・・・・・・隣、いい?」
「え・・・う、うん」
宗谷は明らかなきょどりを見せながらも承諾する。
草本は宗谷からこぶし四つほどの間隔を空けてベッドに腰かける。
宗谷の胸の鼓動は早かった。それもそうだ。夜遅くに若い男女が並んでベッドで腰かけるということは―――。そんな健全な男子の考えを思い浮かべているのだった。
「私さ、怖いんだ」
谷山の変な考えはその言葉によって消えていった。半分だけだけど。
「怖い?」
「うん。知らないところにいたときから。つまり最初から。だけど谷山とか信原、それに先生もいたからまだ大丈夫だった。けど、今日、先生が・・・」
草本はここで声を落とし、一度言葉を切る。
「・・・先生が亡くなってからこの思いがどんどん強くなっていって・・・私も先生みたいに、谷山や信原が先生みたいに最期を迎えちゃうんじゃないかって。もう二度と自分の家には帰れないんじゃないかって。家族に、お兄ちゃんに二度と会えないんじゃないかって。さっき、谷山たちの帰りを待っているときもそんなことばかり考えちゃって・・・。――怖くて怖くてどうしようもなかった―――」
「草本・・・・・・」
草本の声は震えていた。
こんなとき、俺はどうすればいいんだろうか。何も出来ない自分に宗谷は少しの怒りを覚える。
すると草本は無言で宗谷との距離を詰める。こぶし四つほどの間が今はこぶし半分の間があるかどうかわからなかった。宗谷に先ほどまでのいかがわしい考えはもう思い浮かばなかった。いつの間にか気化されていた。
草本はさらに頭を宗谷の肩にそっと乗せる。宗谷に女の子独特のいい匂いがした。
「――不思議。こうしているとさっきまでの恐怖が嘘みたいに消えていく」
彼女は微笑みながら言った。
「・・・ぶだよ」
「え?」
「――大丈夫だよ。確かに今はわからないことや怖いこと、それに悲しいこともたくさんあるけれど、いつか、自分たちの家に戻れるよ」
「絶対に?」
「ああ。いつか、笑いあいながら、な」
宗谷は力強く、どこか優しく言いながら草本の手を自らの手でギュッと握り締める。
―――握り締めた手は、とても細くてとても冷たかった。その手を暖めるのと同じように、彼女の心も暖めてあげよう。
―――握り締められた手は、とても大きくてとても暖かかった。手が暖められるのと同じように、私の心も暖められる。
二人は長い間そのまま手を握り合っていた。そのときの二人の表情には恐怖なんてものは見られなかった。むしろ、柔らかでとても暖かい。
二人が思うことは同じ。いつかまた、みんなが笑いあえる日が来る―――。
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