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序章「五年前の朝」
 どこからか音が聞こえる。ジリリリ、と何度も何度も繰り返しながら。・・・もう少し寝かせてくれよ。昨日は部活の練習が長引いて疲れてるんだから・・・。
 もう一度寝るにしろ、まずはこのうるさく鳴り続ける時計を止めなければならない。音が鳴るほうへ手のひらを叩きつける。バシンと軽快な音が響く。それで目が覚めた。
 ぼんやりと目覚まし時計を見る。起きたばかりで視界がはっきりしない。見続けていると視界が徐々に晴れていく。時刻は7時5分くらい。毎日起きている時間と一緒だった。
 まだぼーっとしている脳を起こすためにも素早くベッドから下り、洗面所へ向かう。
 水を出して半分寝ている顔に冷たい水をかける。よし、今度こそはっきりと目が覚めた。
 洗面所から自分の部屋へ向かう。タンスから制服を取り出して慣れた手つきで着替えだす。
 ネクタイをギュッと締め上げてから一階に下りる。・・・いい匂いがする。白米の匂いだ。

「あら、おはよう。ご飯はもう出来てるから食べていいわよ」
「ご飯が出来てるってことはこの白米の匂いでわかってるよ。いただきまーす」

 リビングに入るやいなやテーブルのイスに座って早々と食べだす。

「ねぇ、宗谷。そういえば部活のほうはどう? 頑張ってる?」

 食べていたシャケのバター焼きを飲みこみ、言う。

「もちろん頑張ってるよ! 中学で一番楽しみにしてたのは部活だしね。頑張ってないわけないじゃないか!」
「そう? 宗谷がそう言うなら母さんは安心だわ」

 そう言って、母さんはそばにあったテレビのリモコンを取り、テレビを点ける。するとマイクを持ったスーツ姿の男のアナウンサーが映る。なんだかとても慌ただしくしているように見える。

「大変な事態が起こりました。昨晩、○○県△△村の住民が全員失踪しました。失踪事件です。もう一度繰り返します。集団失踪事件が発生しました。昨晩、○○県△△村の住人たちが失踪しました。この村は人口約三百人ほどの小さな小さな村ですが、昨晩から村人が全員村から姿を消しました。これは集団失踪事件としては前代未聞の出来事です。もう一度繰り返します・・・」
「うわぁ・・・よくわからないけど、大変なことになっているんだね」
「そうね。三百人以上も失踪なんて・・・一体何があったんでしょうね。そんなことより宗谷、そろそろ時間よ」

 母さんはそう言ったけど、事件のことはあまり気に留めていないようだった。けれどそれは自分も同じだ。自分の部屋へ戻ってエナメルを取り、玄関で靴を履く。

「あら、行くのね。いってらっしゃい」
「うん。いってきまーす」

 元気よく声を出して外に出た。外に出る間際に、ドアの隙間からあの男の人の声が聞こえた。

「三百人以上の人が一晩で失踪しました。前代未聞の集団失踪事件です!」

 その男のアナウンサーの声はもう叫び声となっていた。しかし、もう部活のことで頭がいっぱいだった俺には何一つ頭に入らなかった。


 これが人類史上最大の集団失踪事件が起きた日の朝だった。
 あれから五年。今もなお、失踪者は誰一人として見つかっていない。

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