銀の猫、金の狼と黒の龍 IV
この国を動かす人間が集まる国会議事堂の秘密を知ってる?
知らない、知らない。秘密ってなぁに?
国の偉くて優秀な人は知ってるけど、そうじゃない人たちは知らない事なの。
じゃあ、知ってる人は少ないんだ。
そう、国がこっそり飼っている恐ろしい生き物がいるんだって、それはね……
◆
るちは抵抗虚しく、再びエレベーターに放り込まれた。
文句をありったけ吐き出しながらも、体にかかる浮遊感が極限気持ち悪い。
大きい造りのエレベーターではあるが、男六人と重装備の少女一人が乗り込む箱はやはりぎゅうぎゅう詰めで。
到着の機械音が鳴ると同時に、るちは乙女にあるまじき嗚咽を漏らしながら嘔吐した……
「うぼぇえええぇぇぇ……っっ!」
応接室とも思える几帳面に整った内装の部屋。
今まで一度も見かけなかった窓がこの部屋にはあり、外界から射し込む太陽光が地上に戻ったのだと知らせた。
窓からは黒塗りの高級車が数台停車しているのが覗える。金バッチをつけたスーツ姿の人間が、次々とこの建物に吸い込まれてゆくのだった。
この建物こそ国家のブレーン、国会議事堂――
「すっきりしました♪ るち、今なら空だって飛べる気がします!」
上機嫌でこの小奇麗な部屋を歩き回っているるち。
「近寄るな! ゲロ女」
窓際に背をもたれ、軽蔑の眼差しでるちを見ているのはアギト。
「フツーさ、あの密室で吐くか? オレ、連れゲロしちゃったじゃんか……」
目に涙を溜めながら、ソファーに座りため息を吐く百哉。
黒スーツの男からここで待つよう指示され、るちはこの部屋に閉じ込められたのだ。この場所がどこなのか検討もつかず、暇つぶしに室内を眺め回していた。
すると、前ぶれもなくドアノブが回され、例の男が部下を引き連れて入ってきた。
「さて、お嬢さんに聞きたいことがあります。宜しいですか?」
男はソファーから百哉をどかせると、代わりに自分が座り、るちへ目の前のイスに座るよう促す。
「悪の組織には手を貸しません! ミスリルを手にするのはるちです!」
「……ん?」
るちの暴走気味の発言に、男は一瞬眉間にシワを寄せ暫し沈黙。
「よく分からないが……どこの諜報機関のスパイか正直に吐いた方が身のためですよ、お嬢さん」
ソファーの前にあるガラスの机に肘をつき、組んだ指を顎の下に置く。
薄い唇が笑みを湛えた。が、彼の目に笑みが浮かぶことはない。
「るちはスパイではありません、ミスリルハンターです! あなたたちこそ何なんですか?!
か弱い女子高生にゲロを吐かせるなんてあるまじき行為です! 国家の陰謀としか思えません。このネタを週刊誌にタレこみますよ?」
マシンガントークで猛然と反論するるち。勝手な妄想を展開させる中、男の顔色が急に変わったのだ。
「こ、国家の陰謀だとっ?! ……ま、待ちたまえ、何が望みだ? 金か? 名誉か?!」
るちの肩をゆすりながら、必死の形相で問いただす。
ガクガク揺れながら、男の態度が面白いくらい変化したことに、るちは何か閃いたのかニンマリと口の端をつり上げた。
「……るちの『望み』……ですか? そんなの、決まってるじゃないですか」
小悪魔のような笑顔に、遠巻きから眺めていたアギトと百哉に不安が過ぎる。
男は固唾を呑んで『望み』の正体が暴かれるのを待った。
「るちの野望は錬金術師になることです! あの地下洞窟には間違いなく例のブツが隠されてるはず……洞窟は先に発見したるちのものです!!」
得意満面に言い張る、凡人には理解しがたいこの理論。
当然男も返す言葉が見つからず……
「分かった。UG……あの地下洞窟はお前にやれないが、ミスリルとやらは好きに探せ。見つけたら持って帰ればいい」
呆れたようなため息と共に、アギトが口を開いた。
自分の意見が認められたことに、込み上がる嬉しさを隠す事無く、その場で小躍りする少女。
驚いたように男がアギトへ鋭い視線を送るが、隣に立つ百哉の唇は無音で言葉を紡ぐ。
『あ わ せ て く れ』
金の眼が、男へ訴える。
「仕方ありませんね……その代わり、お嬢さんは常にこの二人の特派員と共に行動してもらいます。そして、この地下空間のことは絶対に他言無用……絶対に、です」
男は念を押すように語尾を強め、眉をしかめてるちを凝視する。
「もしも守れなかったときは……」という言葉は喉の奥に留めた。
「はーい♪ あっ、るちの名前は『龍ヶ崎 るち』って言います! どーぞよろしくお願いします、アギ、モモ!」
軽く会釈しながら、全く空気を読まずに声を弾ませるお気楽な少女。
百哉に小突かれながら談笑するるちを、少し離れた位置でアギトと男が見つめていた。
「『龍ヶ崎るち』……確かに国家を脅かす存在とは思えませんね。いいでしょう、今は君たちに免じて多めに見ます。しかし下手な真似をしようとするならば即刻、処分指示を出します。女子供の一人、問題ありません……常に我々が監視していることをお忘れなく……」
「あぁ。分かっている」
アギトは男の冷徹な言葉に、冷ややかな返事を一言、返したのだ。 |