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アンダーグラウンド
作:黒雛 桜



銀の猫、金の狼と黒の龍 III


地下の更に地下で秘密の実験をしてたって、知ってる?
知らない、知らない。実験ってなぁに?

しちゃいけないコトをしてたんだって。だから誰にも言っちゃだめだよ?
言わない、言わない。誰にも言わなーい。

人間がするべきではない、愚かな行為、それは……

      ◆

 白で統一された広大なフロア。
 無数のパソコンが、乱雑に並ぶ机の上で働いており、壁には隙間なく本やファイルで埋め尽くされた棚が静かに立っている。
 床には蛇のようにうねる、太い束の配線が這っているのだ。
 
 あまりにも無駄と思える広さの研究施設。
 規模にそぐわない、たった五名の白衣をまとった研究員が忙しそうに動いている。

 その中の一人がぴたりと足を止めた。


 「お疲れサマ。アギト、百哉ももや

 ナチュラルではないが、流暢りゅうちょうな日本語の響きがエレベーターを降りる少年二人に届いた。
 忙しい中たった一人、労いの言葉を掛ける心優しい研究員が二人に向けた笑顔は、実に温かく、やわらかい。
 
 色素の薄い金髪は癖っ毛なのか緩くウェーブしており、本来冷たい印象を与えるブルーさえも、彼のやんわりした微笑で180度印象を変える。
二十代後半の気品を感じる顔立ちは、白い肌で更に強調され、優雅と品位を兼ね備えているにもかかわらず、長身が纏う白衣は……やや薄汚れ。
 非常にもったいない。


 「ご苦労様です、ラパンツェ博士」
 「うさぴょん博士もお疲れ〜!」

 銀髪の少年、アギトが眼前に現れた碧眼の青年に会釈し、労いの言葉を被せた。
 金髪の少年、百哉は片手を上げ、軽い口調で挨拶を交わす。

 ふと、ラパンツェ博士と呼ばれた異国籍の青年は目線を落とし、床にへばり付いている少女に驚いた。

 「なっ! なんでここに……い、一般人が……?! 厳重警備がされているのニ、一体どうゆうコトなんダ……?!」

 一気に血の気が失せてゆく博士。
 白い肌はもはや死人とも思える血色の悪さに変色している。
 当のるちは目をしばたたかせて、大のおとながよろめく様をつぶさに見つめていた。

 「るちを一般ピーポーと一緒にしないでください。あの程度の警備網、楽勝ですよ? 伝説の鉱物を隠そうったって無駄です! なにせ、るちはミスリルハンターですから!!」

 言い終えると、むくっと立ち上がりエヘンと言わんばかりに胸を張る少女。
 薄汚れた姿のるちではあるが、その黒真珠の双眸そうぼうは間違いなく輝いている。

 博士は驚嘆に満ちた眼差しを。
 アギトは疑念に満ちた眼差しを。
 百哉は愉楽に満ちた眼差しを向ける。

 (バカな……MGはまだしも、『UG』には国家上層部の人間さえも侵入を許さないというのに……)
 信じられないことだ。楽勝などと言ってのける少女に、常冷静のアギトも額に冷や汗をかかずにはいられなかった。
 
 それほどまでに、侵入者の存在は危惧すべきことなのだ。


 子供騙しの戯言に過ぎない、そう思いたくてもあの地下空間にるちがいたのは事実。
 言葉の見つからないアギトは、所々鈍色にびいろがかった服を纏う目の前に立つ少女を、その剃刀の様な目で凝視した。

 「マジかよ?! ここはネズミ一匹だって入れねーんだぜ? お前ミスリルなんとかじゃなくて、泥棒かなんかになったら?」

 百哉は見た目通りの明るい笑い声をあげてるちをからかってみせる。


 そんな時、三人が乗ってきた逆サイドに設置されてあるエレベーターが到着音を告げた。
 重厚な扉がゆっくりと開き、中からは四〜五人の屈強そうな黒服の男たちが降りてくる。

 「あっちのエレベーターの方が広いじゃん……」
 心悲うらがなしくぽつりとるちが呟いた。

 「ご苦労様ですラパンツェ博士、その少女の処遇は我々に任せて職務を続行してください。特派員の御二方はご一緒に来ていただけますか?」

 
 黒服の男たちの中でリーダー格と思われる、背の高い男が威厳たっぷりの低い声で言い捨てた。
 男の有無を言わせぬ迫力に気圧され、博士は小声で「分かりました」と返し、持ち場に戻っていった。もちろん男の背後に立つ黒服の部下たちが博士へ立ち去るようにプレッシャーをかけていたのだが。
 見張られていたのだろうか? 
 警報機の無いこの施設で侵入者を発見するには早すぎで、余りにもタイミングが良すぎる。
 
 リーダー格の男が部下たちに目配せすると、彼らは素早くるちの両腕を掴みあげる。

 「んきゃぁ! 何するんですか、変態! 離してくださいっ訴えますよ?!」
 「ここを知られた以上、すんなり帰す訳にはいかないんですよ、お嬢さん」

 足をジタバタさせ、悪態をつくるちに男は表情一つ変えず、冷ややかな目で見下ろした。
 刹那、アギトと百哉を一瞥する。男が二人の少年に向ける眼差し、それは決して友好的なものではない。
 
 
 間違いなく、侮蔑ぶべつの眼差しであった。












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