銀の猫、金の狼と黒の龍 I
薔薇庭園に隠された秘密を知っている?
知らない、知らない。秘密ってなぁに?
誰にも言っちゃダメだよ、世界中に隠してる事なんだから。
言わない、言わない。
あのね、薔薇庭園の真下、深い深い場所には……
*
新東京都には地下27Mの地下鉄用空間より更に深い、大深度地下と呼ばれる未使用の空間が存在する。
しかし、その空間から更に深い場所に、国家の上層部がひた隠す『秘密』が眠っていた。
「ふふふ、ついに見つけた……! ここが幻の地下洞窟ね。絶対にミスリルを持って帰らなくちゃ!」
地上は麗かな春に彩られているというのに、ここは季節など全く感じさせない、暗くひんやりとした空気を纏っている。
どこからか薄く灯りの漏れる地下道。不気味な雰囲気を醸し出してはいるが、アーチ型に弧を描いた天井と地下道の側面は漆喰で塗装され、荘厳とも捉えることができるだろう。
そんな場所に一人、大荷物を抱えて歩く少女が。
「これでるちは念願の錬金術師になるのよ!」
真顔で、少し、いやかなり無理のある野望を口にする一風変わった少女。
背負ったリュックからツルハシとスコップが大幅にはみ出し、頭にはライト付ヘルメット。
その下から覗く黒髪のショートカットは、土と埃で艶やかさを失っていた。
もともと白かったはずの制服も薄汚れてくすんでいる。
『るち』と自ら名乗った少女は満面の笑みを湛えて、地下空間の奥深くへ進んで行った。
程なくすると、薄く明かりの灯っていた通路は、いつの間にか闇が支配していた。
陰鬱とした暗がりの中、るちは歩みを止める。
付け加えて言うと、恐怖の為に歩みを止めたわけではない。
「伝説の鉱物はこうゆう場所にこそ相応しいのよッ! いくよ、ツルハシちゃん!」
自分なりの理論を自信満々に吐露し、鉄の塊であるツルハシに声を掛けると、小柄な少女は勢いよくそれを振り上げた。
ツルハシは空を裂くように、床めがけて襲い掛かる。
その時、金属の打ちつけられる音とは別の響きが、るちの鼓膜を走り抜けたのだ。
――パァンッ!
重く乾いた炸裂音が地下の空気を僅かに振動させた。
――ゴツッ。
直後、るちの振り下ろしたツルハシは床を抉ることなく、地面を叩いたにすぎなかった。
柄から伝わる衝撃が電気のように体中を走り抜ける。
炸裂音が生み出した振動など、比べ物にならない程の衝撃波。
「いっ……ったぁあっ……!!」
目に涙を溜めてのたうちまわる、哀れな少女。
そんなるちの耳には、暗がりの奥から響く、おぞましい断末魔の叫び声など聞こえていなかった。
――幸か不幸か。
その断末魔の声を最後に、地下空間には冷気を漂わせるような静寂が訪れた。
直線に延びるこの空間、奥へ行くほど闇が色濃く現れる。
地下道を壁伝いに見ていくと、細い枝道が幾本も黒い口を開けている。
暗い色が際限なく拡がる地下迷宮、と言うに相応しいだろうか。
――瞬刻。
暗闇から、二つの足音が床を小さく叩き、それは徐々に少女へと近づいて来たのだ。
コツ、コツ、コツ……
ザッ、ザリッ、ザッ……
一つは規則正しく、一つは不規則に。
『何者かが侵入してきた』
そう感じたるちは床に転がるツルハシを掴むと、急いで立ち上がり、目の前に迫る侵入者へ身構えた。
「そこにいるのは誰?! ここはるちが先に見つけた洞窟よ、ミスリルは渡さないんだからッ!」
二つの足音がピタリと止まる。
通常、15歳の一般女子高生ならば、恐怖で足が竦む場面であろう。
が、るちは鼻息荒く凄む始末。
侵入者の顔を拝むべく、頭に装着してあるヘルメットのライトを、足音の先へ素早く照らした。
るちの目の前にいたのは、
眩しそうに眼を細める学生服を着た金髪の少年と、本来切れ長であろう眼を大きく見開いた、銀髪の少年……
この三人の出会いから、“秘密”の幕が、開けられるのだ……――
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