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お買い物
作:伊玖夜紗望


 朝である。
 朝のはずである。
 しかし、視界は暗闇に覆われている。
 一点の灯すら無い。
「御兄様」
 声が聞こえてきた。
「ああ、その声は、スーシャだね。聞きたい事があるのだけど」
「なんでしょう?」
「今は夜かな? 辺りが真っ暗だ」
「……今は朝ですよ、御兄様」
「そうかい。なら、どうしてこんなにも暗いのかな?」
「…………」
 少し沈黙が続いた後、スーシャは口を開いた。
「……御兄様には、今……眼が……ありませんから」
「――ああ、思い出したよ。そう言えば、昨日ぽろりと落ちて無くしたのだったね」
「…………」
 スーシャは黙ってしまった。
 あまり悲観的に捉えていない私に呆れてしまったのかもしれないし、どうでもよくなったのかもしれない。
 どちらにしろ、今日中に買いに行く事になるだろう。

「クーちゃん!」
 突然、ドアが開け放たれ、女の子が声を上げながら入ってきた。
「クーちゃん、目を買いに行くんだよ。さぁ、行くよ」
 彼女はそう言いながら、私の腕を引っ張って行く。
 そして、ドアを閉める前にスーシャの方を向いて、
「スーちゃんはお留守番!」
 と、言った。
「…………」
 スーシャは無言のままだった。
「何してるのー!? 行くわよー!」
「はーい!」
 女の子は母親に呼ばれ部屋を出て行く。
 ドアが閉められる瞬間、スーシャの呟きが聞こえた。
「いってらっしゃいませ、御兄様……」



 相変わらず腕を引っ張られている。
 人が大勢歩いているので、腕を引っ張られている不安定な格好では、度々肩がぶつかってしまう。その度に鬱陶しそうな視線を向けられる。
「これなんかどう?」
 気付いたら、いつの間にか目的の店に着いていた。
 女の子が熱心に私の眼を選んでいる。
「青じゃ合わないわねー」
「んー……。じゃあ、これは?」
「赤は駄目よ。普通に黒で良いんじゃない?」
「うーん……」
 かなり真剣に考えてくれているみたいだ。
 今は何も見えないので、耳を澄ます事しかできないが……。
「これに決めた! これでいいでしょ?」
「ちょっと大きすぎないかしら?」
「大きいのがいいの!」
「……わかったわ。それでいいのね?」
「うんっ! ――よかったね、クーちゃん。帰ったら早速つけてもらわないと……」
「行くわよー!」
「はーい」
 眼が見えないので何色かは判別できないが、おそらく黒だろう。
 ちょっと大きく、黒い眼――悪くはないかな……。



 店を出て家路の途中、横断歩道の手前だった。
 女の子は、相変わらず私の腕を持っている。
「今度はウサギがいいかなー」
 女の子が母親に話し掛ける。
「ウサギねー……。いいわ、今度作ってあげる」
「やったー!」
 女の子は両手を挙げ、バンザイの格好で喜んだ。
 その拍子に、私は前へと投げ出された……。
「あっ……」
 車が迫ってくる。そして、私は――

 ――轢かれた――

 体は引き千切れ、体内のモノが出てくる。

 信号は青になり、女の子が駆け寄ってくる。
「マ、ママぁ〜……」
 涙を流しながら、母親の方へ眼を向ける。
「まったく、ドジねぇー。……大丈夫よ、すぐ直してあげる」
「ホント!?」
「ええ、でも、もう家には無いから買いに行かなきゃ。またさっきの店に戻るわよ」
「うんっ!」
「ついでに、ウサギの分も買っておこうかな……」
 そう言いながら、母親は私の破片の集めている。
 どうやら無事なのは頭だけのようだ。他は大体ぼろろになっている。
 体は全部入れ替えかな……。



「お帰りなさいませ、御兄様。眼がありますね」
 結局、帰ってこれたのは夕方を過ぎた時間だった。
「……? 御兄様、気のせいかもしれませんが、少しばかり体が大きくなっておりませんか?」
「ん? ――ああ、それはね、買い物の途中で事故に遭ってしまってね。体がボロボロになってしまったんだ。それでね、また作ってもらったんだ。その時に入れすぎたみたいだね」
「……そうですか」
 スーシャは興味が無いという風に、それっきり黙ってしまう。
「……ああ、そうだ」
「……なんですか?」
 突然声を上げたので、スーシャが反応してくれた。
「実はね――新しい妹が出来るんだ。嬉しいだろう?」
「……ええ。それで、その妹は――まさか『クマ』なんて事は……」
「それは大丈夫だよ。次は『ウサギ』だとさ」
「そうですか。それは良かったです。またしてもクマだったら――クマは御兄様だけで十分です」
「おいおい、その言い方はクマ差別か?」
「違います。自分より大きいのはもういい、という事です。ましてや、妹が自分よりも大きいとなると……嫌です」
 嫌です、と繰り返し言って、また黙ってしまう。
「……それにしても、クマ、ネコ、ウサギねー……。――少し綿を抜いてもらいたいな」
 しかし、クマのぬいぐるみである私は、そんな事を訴えられる術を知らない。知っていても行えない。
 だから、ネコのぬいぐるみであるスーシャの隣にいる事しかできない。
「ウサギねー……」
 黙って物思いに耽る事にした。
 さて、どんな妹なのか……。
 まぁ、所詮は――

 ――ぬいぐるみ――か……。




ぬいぐるみに意思があれば……、そう思い、書いてみました。
結構、起承転結を意識して書いてみたのですが、どうでしょうか?
よければ、評価、批判をしていただければと思います。
それでは、この辺で……。













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