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グループ小説企画第十三弾、「二人称小説」です。「グループ小説」で検索すると、他の先生方の作品を読むことが出来ます!
月光
作:春野天使


 あなたは今夜も、小さな劇場の小さなステージに立って、人々を笑わせている。そこは、都会の片隅に埋もれてしまいそうな、古びた劇場。観に来るお客はほんの僅かだけど、あなたは懸命に演技し、人々を笑いの渦の中に引き込んでいく。
 あなたは喜劇役者。皆を笑わせるのが、あなたの仕事。ステージのあなたは、陽気で元気で悲しみの気配など感じさせない。ステージを降りた後でも、あなたはいつも明るく振る舞っている。あなたの周りにはいつも人が集まってきて、明るい笑い声が絶えない。
 けれど、誰も本当のあなたを知りはしない。ピエロの仮面の裏で、泣いているあなたの涙は、誰にも分からない。


 数年前まで、あなたには二人の仲間がいた。同じ劇場に立つ演劇の仲間。一人は男性で一人は女性。三人は、まるできょうだいのように仲が良くて、劇場でもアパートでもいつも一緒だった。皆、いつかは喜劇役者として大きなステージに立つことが夢だった。生活は貧しくても、夢に向かって生きる毎日は輝いていた。
 いつしかあなたは、自分でも気付かないうちに、その女性に恋をしていた。明るくて賑やかで、いつも笑顔のチャーミングな女性。ずっと、妹のような存在だと思っていたのに、次第に彼女の存在があなたの中で輝き始めていた。
 だけどあなたは、実生活でもピエロの仮面を被っていた。とてもシャイで、なかなか彼女に気持ちを打ち明けられない。恥ずかしさを隠すため、彼女の前では冗談ばかり言って、彼女を笑わせていた。彼女があなたを見つめるだけで心がときめき、彼女が側に座っているだけで満ち足りた気分になるというのに……。彼女の前でも喜劇役者を演じ、あなたは彼女の手を握ることさえ出来なかった。


 そんなある日、弟のように可愛がっていた男性に、あなたは相談をもちかけられた。彼は真剣な顔をして、
「彼女を愛している。だけど、どうしても気持ちを打ち明けられないんだ」
と語った。彼はあなたと同じように、彼女のことを好きになっていた。二人の男性と一人の女性。ともに暮らせば、恋が芽生えるのは自然の成り行きかもしれない。
 彼は、彼女に気持ちを伝えて欲しいとあなたに頼んだ。あなたは一瞬困った表情を浮かべたけれど、直ぐに顔には笑みが浮かんでいた。
「分かった。僕に任せておけ、彼女に伝えておく」
 ピエロの仮面の中に本当の気持ちを隠して、あなたは笑顔のままでそう言った。戸惑いと心の痛みには、気付かない振りをして……。


 彼女に彼の気持ちを伝えずにいても良かったし、彼の気持ちを打ち明ける前に、あなたの気持ちを彼女に伝えることも出来た。それなのに、あなたは正直に彼女に彼の気持ちを伝えた。
 月夜の晩、運河のほとりで。あなたは、彼女に彼の気持ちを打ち明けた。あなたはしきりに彼のことばかり誉めて、彼がどんなに良い奴かを彼女に説得した。
 彼女は黙ってあなたの話しを聞いていた。時々頷いて、笑って見せたりしたけれど……あなたは気付いてなかっただろうか? 月の光に照らされた彼女の横顔に、悲しい陰が差していたことを。彼女は最後に一言、「ありがとう」と言って微笑んだ。
 あなたはそれを『OK』の意味だと受け取った。あなたにとっては、悲しい知らせ、心が大きく痛んだはず。なのにあなたは、最後まで笑顔を通していた。それは、涙を隠した悲しいピエロの笑顔のようだった。
 彼女は一人、月光に映える街へと消えていった。そして、彼女はもう二度とあなたの前に現れなかった。彼女の「ありがとう」が「さようなら」の意味だと気付いたのは、翌日のことだった。


 彼女は街を去って行った。あなたとも彼とも別れて、どこかへ旅立ってしまった。彼は傷ついた。彼は彼女に振られたしまったと思い、酷く落ち込んでしまった。あなたは何度も否定し、彼を慰めた。本当は彼以上に心が傷ついているのに……。
 彼は変わった。役者の夢も見なくなり、魂が抜けたような日々をおくり始めた。その間も、あなたは一人ステージに立ち、喜劇を演じていた。人々の弾ける笑い声を聞くたびに、心が悲しみで張り裂けそうになるのを我慢して、生活のため働き続けた。
 そして、それから間もない頃だった。一人の酒に酔った若者の遺体が、運河に浮かび上がったのは……。その日も月の明るい夜のこと、あなたが演じる小さなステージでは、いつもと同じように笑い声が響いていた。


 あなたは大切な仲間を二人も失い、独りぼっちになってしまった。悲しくて寂しくて死にたくなるくらい辛いのに、それでもあなたは喜劇を演じ続ける。
 ある日、独りぼっちの部屋の隅で、あなたは初めて泣いていた。ピエロの仮面を脱ぎ捨てて、肩を震わせ泣いている。ずっと溜まっていた悲しみの涙を絞り出すように、一晩中泣き続けていた。
 あなたの悲しみを癒すのは、高い窓から降りそそぐ月光だけ。あなたの悲しみを全て包み込むように、月の光は夜明けまであなたを見守っていた。    了





「二人称小説」の二作目にチャレンジしました。月が語っているような感じで書きました。二人称にすると、具体的な名前やセリフを書きづらい事に気付きました。^^; 二人称は、大抵一対一、一対多数の場合が多いからかもしれません。今回初めて二人称を書いてみて、色々と勉強になりました。(^^)













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