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操り人形

作者: 藤原 祐一

 私は人形が好きだった。小さい頃の、それも物心ついたころから遡ったとしても、四六時中人形と戯れていた記憶しかない。布に綿を詰めてできた、小さい私でも片手で持てるサイズに重さのぬいぐるみ。常に持ち歩いていたが、あまり大事にはしていなかった、というのも、何かの拍子で壊れてしまってもすぐに代えがあったからだった。

 私の母は人形職人だった。毎日のように色々な人形を作っていて、それをどこかに売って仕事にしているようだった。私は手持ちの人形が壊れる度に母にねだって、新しい人形を作ってもらったのだった。

 私が学校に通い始めた年に母から人形の作り方を教わった。ちなみに、人形は好きだったが、私は人形を作ることは別に好きではなかった。ただただ、母から言われた通りに指を動かして、それで人形が出来上がると褒められた。それが嬉しくて、そのためだけに作っていたのだと思う。その後も、私は母に言いつけられるまま人形作りに没頭した。技術が上がれば褒められて、それが半ば生き甲斐となっていたのだった。今思えばまるで私自身が人形のようではないか――


挿絵(By みてみん)


 そこまで書いてキーを打つ手を止めた。一口コーヒーをすすり、軽く伸びをする。視界を周りに振ると、部屋は人形だらけだった。

 私は今母を継いで、人形職人をやっている。しかし作っているものは可愛らしいぬいぐるみの外見に反して、人殺しの武器だった。人形の中に爆弾を詰め込むのだ。そうすれば様々な監視の目を盗んで運ぶことができる。私が幼いころからは随分技術が発達して、今ではキーホルダーサイズのものまで発案されているほどだった。

 こんな仕事をしているものだから、自分も危険だ。事実、母はつい最近暗殺された。私もいつ死んでもいいように遺書なんぞをしたためているところだ。

 母が死んだ後は、母の上司だったのだろう人から命令を受けて人形を作り、生計を立てている。実は私が一人前になるときには既に、母よりもずっと優秀だった。だから、母がいなくなったとしても、生活に変わりはなく今まで通りに過ごしている。そんなことだから私は時々、自分が母を大事に思っていなかったのかもしれない、と不安になるのだった。


 不意に誰かの訪問を告げるチャイムが鳴り、私は玄関へ向かった。返事はせずにドアののぞき窓を覗いた。言うまでもなく暗殺対策だ。真昼間だからと言って安全なわけではない。

 ドアの前には死んだはずの母がいた。ありえないはずだ。私の脳内は警告でいっぱいになっていた。しかしそれと同時にもう一つの感情が生まれていたのも事実だった。

 私はドアを開いていた。偽物の母はにこりと笑いかけてきていた。その、母の形をした人形の腹が膨れるのを私は涙を流しながらぼんやりと見ていた。その涙のわけは、自分があっさりと死んでしまうことの嘆きだったのか、人形爆弾がここまで精密な人型で作られるようになった技術への感動だったのか、それとも心の奥底で私は母との再会を望んでいたのか。

 意識が途切れる前に、私は初めて人形の気持ちがわかったような気がした。


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