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作者とおかしなシリーズ

サンタとおかしなストーリー

作者:あゆ森たろ

 第1弾『作者とおかしなストーリー』↓
 http://ncode.syosetu.com/n7349d/
 第2弾『作者とおかしなダイストーリー』↓
 http://ncode.syosetu.com/n3364e/


「う、ううう……ZANDAめえ……」
 路上で、30代過ぎの中年男は恨み言を言っていた。つい先ほど株式会社ZANDAに雇用を打ち切られたばかりの男は、雪降る街角をさ迷い家路を辿っている。

 今日はクリスマス・イブ。駅前には巨大なクリスマス・ツリーが。ビル街の店先にはサンタが。ケーキが。チキンが。シャンパンが。寿司、ピザ、ラーメン、牛丼。ああ〜。
 街はクリスマスカラーで彩られ、カップルやサラリーマンなど道ゆく人々はそれぞれの想いに馳せながら、忙しく身も心もしゃかりきになって動いていた。
 さて、そんな場違いというよりも空気違いの男。名前は……後回しとして。子どもたちは怖がって去ってしまいもはや誰も居なくなった公園のド真ん中にて、倒れて泣いているこの男に、作者は救いの手を差しのべてみることにした。
 ああ、面倒くさ。

『コレそこのおひと〜。泣くのはおよし〜』
 とても優しいふりをして、作者は男の頭をツンツンと(つつ)いた。うつ伏せになっていた男は、ひっくり返って作者を見る。
「うおお、ててて天使!」
と、男はのけぞった。作者は白いモコモコの服に包まれて、顔だけを出していた。男が天使と判断したのは、頭の上に光る輪っかと背中から生えていた羽のせいだろう。
 天使というよりも羊風ペガサスに見える寒がりの作者だが、男は天使だと自分の都合のいいように勝手に解釈しているようなので、放っておくことにした。華麗にスルー。

『おお可哀そうに。そなたに救いの試練を与えよう。上手くいけば100億円が手に入る大チャンス。とりあえず私に銀行のキャッシュカードを渡して暗証番号を教えなさい』

 作者は適当かつ半分冗談を言った。男は激しく首をタテに振っている。「はい! 天使さま! 番号は……」
 何と素直に言うことをきいている。
『おいおい。いきなり自爆するんじゃないよ。天使の面を被った悪魔なんてその辺に適当にいるんだから気をつけたまえ。私は羊。めえ〜』
 作者は誤魔化した。鮮やかにスルー。

「はあ……あのぉ。何の御用で……?」
 やっと男は目を覚ましてきたらしく、作者の前に正座して大人しく聞いていた。……


 さあ。ここで説明をしておこう。
 この、『作者とおかしな』シリーズ第3弾めとなる今回は、男が100億円を手にできるかどうかをお送りし話を作りあげていく。行き当たりばったり思いつきの小説のたがを真っ向から外したボケとツッコミストーリーである。よって先読み不可能。
 さらに言うと、クリスマスバージョン。できるだけクリスマスでお送りしよう。

 まずは、主人公である男の名前から。
『君の名はシュジン・コウ。30代過ぎと言ったが、今日だけは17歳にしてあげる。頑張り次第で100億円が手に入るんだから、しっかりと動きたまえよ』
 男はぼんやりと頼りない目つきで作者を見ている。
「はぁ。ボク、高校生なんですか。何してたっけなあ若い頃」
『じゃ、これ持って。2アイテム』

 作者はコウに、ポッキー1本と白く大きな薄めの袋を手渡した。

「何ですか、これ? 食べるんですか?」
『こりゃ。それは食べられるが賞味期限は切れている。そんなことより、それはただのポッキーではない。ハイパワー・ソード!』
 作者はいきなりクリスマスを無視していた。
「ハイパワー、ですか。えっ、これ、武器で剣だったんですか!?」
 コウは驚いてポッキーを眺めた。どの角度から見てもチョコレートにくるまれた棒。
『棒に見えて実は頑張って剣だったんだよ。コーティングで見えなくなっているだけなのさ。さあ、それが君の唯一の武器だ。決して折らないようにね。それと、その白い袋』

 作者が指さした袋を、コウは手に持って不思議そうにしている。「これは?」

『それは、サンタの必須アイテム“プレゼントBUKURO.2008”だ。そこから、子どもたちへ配るプレゼントが色々と出てくるわけでだね』
 コウは感心して大きな声を上げた。「ほほう! どれどれ!」
 作者の許可なく袋の中へと手を突っ込んだコウ。袋から出てきた物とは。

 うまい棒。

 コーンポタージュ味。

『まだ袋レベルが1だからそういう物しか出ないのさベイベ。レベルを上げれば100億円が出てくるというシステム』
「なるほど〜モグモグ」
『レベルを上げるには、その武器で悪と戦えばいいのさ。そして経験値をためる! ためて君の手に100億円! わかったかねチミ』
「悪って? うまい棒、うまい。もう1本」
『さっきも言ったが、天使の面を被った悪なんて世の中いっぱいいるのさ。適当に歩いて行ってご覧。あたしゃ別次元の空から防寒、じゃなくて傍観してるから。さあ、早くしないと今日という日が終わってしまうよ。おおっと、期限は今日中だ。12時の鐘が鳴って知らせてくれるからね。そいでは健闘を祈る』
 モコモコの作者はコタツのある実家へと戻っていった。
 テレビを通してコウを見守っている。遠くからコウにツッコむつもりだ。
 あとに残されたコウは、途方に暮れていた。
「悪って。どうやって見つけるんだろう……? 本当かなぁ?」
 恐らくは一方的かつ強引な作者の試練。コウは悩んだ。
「疲れてるし、……家に帰ろ」
 立ち上がってズボンに付いていた砂を払いトボトボと公園を出ていった。

 早速敵が現れた。「キシャー!」
 緑色の怪獣と赤い色の○ックを足して2で割ったような怪物がコウの前に立ちふさがった。手には酢にまみれた緑色のライムを幾つか持っている。
 投げるつもりだ。
 投げた。やはり。
 超スローで飛んできたライムは、コウの太ももに命中した。
『避けんかい!』
 作者の野次が聞こえる。
「ぎゃあああああ!」
 痛そうに、ピョンピョンとコウは飛び跳ねた。「いたいいいい!」
 わかりやすい悪に、コウは油断していた。

『もー。こんなにヘタレだとは思わなかったよ。作者の権限で押さえとくから、早くその素晴らしき武器で倒しちゃって』
 コウは見た目ポッキー、ハイパワー・ソードを握った。「うう、うう〜」
 作者の神パワーにより取り押さえられているクリスマスカラーの怪物は、ツリーのように動かなく、立っていた。
『はいどうぞ。ぶしゅっとやっちゃって』
「う、うう」
 訳のわからないままコウはソードを振りかざし……斬りかかった!
 スパ。
 ちゅどん!
 適当な爆発をさせて、魔は滅びた。
 ツンとする刺激臭があたりに蔓延している。「ごほっ……キツいぃい」
 するとコウの頭上に四角の平面図形が現れて、ピカピカと全体に光り輝いていた。何か文字が書いてあった。

“武器 レベル14、袋 レベル15、コウ レベル13”

 経験値が入ったらしい。最初レベルは1からのスタートだったはずだが、大きく数値は跳ね上がっていた。
『ずるいね〜。作者のおかげでラクラクレベルアップかい』
「何で武器と袋よりレベル低いんだろうボク……」

 コウが嘆いていると、ソードも光り輝きポッキーから進化して姿を変え始めた。
 今度は、見た目が丸めたポスター。「ポスタああ!?」
 コウが落ち着く間もなく、次の刺客がやってくる。「刺客、ってどゆこと?」

 次なる悪は、()・ケーキ魔人。頭に丸型直径15センチケーキをのせた、体が麩で出来ている怪人である。21面相。「ショエエエッ!」そんな奇声を出している。
 ケーキにはお誕生日用のロウソクが10本刺さって火が点っている。10歳かもしれなかった。「そ、そうなんですか」
 触ると柔らかそうな手足でゆっくりとコウに近づいてくる。
 そして片手を前に出してクイ、クイと、立てた4本の指を内に曲げて、コウを見ながら誘っていた。

『言っとくがラブ・カモンじゃないからね。聖夜だけど』
「そっちに思ってねえよ! ……あわわ、滅相もございません」
 何故か畏縮しているコウは、丸めたポスターを構えて力を込めた。
「さっきのポッキーと同等の力を信じて……」
 敵に襲いかかろうと走り出した。「でやあああ!」コウの一撃が繰り出される。

 ポコン。
 軽い音が響いた。「()キャーッ!」
 麩・ケーキ魔人の柔らかい手はコウをシバいた。バチン。
 さらに往復ビンタ。バチバチバチ。
 まるで拍手のような連続音。「ショケーッ!」魔人は喜んでいる。
 コウは倒れた。「うう……う……」
 コウのほっぺたが真っ赤になって膨れ上がる。湯気まで立っていた。
『どうやらまんざらでもないかもよ魔人。ひょっとして君のことを……』
「やめて下さい。勘弁して下さい。死んだ方がマシです」
『おいおい、命をすぐ粗末にするな。まだ使える……いやいや大事にしたまえよ!』
 作者は一考を要した。
 どうするんだこのヘタレ、と。「ひどくないっすか……天使ですよね?」
 作者はコウに聞いてみることにした。
『そういえば君は若い頃、何部だったんだい?』
 コウは頭を捻る。「ええと……高校では野球部でした」それを聞いた作者はポンと膝を打つ。
『じゃ、それでいこう』
 何のことだかわからないコウはさらに首を傾けた。「どういう?」
『ひとまず、そいつは片づけてしまえ』

 コウの上空で、激しい風が突如吹く。「シャァ?」
 冬の冷たい風だった。
 魔人の頭の上のロウソクの火を全て消し去る。「ギシャァァァアアッ!」
 魔人は全身青くなった。
 今がチャンスである。「へ?」

『さ、弱くしたから、早くやっちゃって』
 作者に促され、コウは床に落ちた丸まっているポスターを拾い上げて手に構えた。
 魔人は苦しみ、喉の渇きを訴えて揺れながら奇声を飛ばしていた。
「な、何だかわからんけど」
 思い切って、コウはポスターを魔人の上に振り下ろす!
 ポコン。
 さっきと同じ目に遭った。コウの攻撃は歯が立たず、魔人にはダメージがない。「ひぎゃー」 しかもバチバチバチ。
 魔人、苦しみながらも再度の往復ビンタをコウにおみまいする。「う、嘘つき……」
 再び倒れたコウは、スローモーションで倒れようとした。
『こらこら。倒れる前にポスターを広げるんだよコウ』
 作者からのアドバイス。
 しかしコウは、「もういっそ眠らせて……」
 そう言って寝てしまおうとした。
『やれやれだなあ』
 作者、コウの手足に釣り糸を絡めてみる。
 コウをマリオネットのように操ってみることにした。『はい、広げてね』
 作者に操られ、コウは落ちていたポスターを拾い丸まりを大きく広げてみた。ガバッ。
「キャアアアアアアア」
 女の悲鳴に似た奇声で魔人の全身は赤く染まってしまった。青から赤、忙しく変態している。Hではない方の変態だ。
 魔人、みるみるうちに崩れ溶けて人らしくなくなり、ゼリー状になってしまった。シュウシュウと煙を立てている。
『あー、やっと倒せた。さてレベルは?』
 コウの頭上のレベル表示は、明るくレベルアップの曲を鳴らしていた。ちゃりりりっちり〜♪
 適当に流れた後、数値は更新された。

“武器 レベル15、袋 レベル16、コウ レベル14”

 1ランクずつレベルアップをしている。
 作者は深いため息をついた。
『こんなんじゃ100億円までには程遠いねえ。もっと意欲出して行こうぜ君』
「そんなこと言いましても……って、魔人は何を見たんですか。一体ポスターには何が」
『未成年は見ちゃいけないよ。大人の世界だからね。魔人はウブだったんだよ』
「そ、そうなんですか。はあ」
『それは置いといて。確か君は元野球部員だったんだろう? ならば、君の得意分野でもっとラク〜に経験値を稼ぐ方法を編み出してみようじゃないか』
「ど、どういう……?」
『さあ、進化した武器を手に取るのだ!』

 マリオネット状態であるコウには、抵抗する術はなかった。
「い、生ける(しかばね)……」
 作者の都合のよい耳はコウの訴えを完全アクセス拒否にしている。『うしゃしゃしゃしゃ』
 コウの手元に光り輝く長い棒状の物が現れた。ポスターからの進化。レベルアップし、光の中から出現したその物とは。

 野球のバットである。

「おおお! まともだ!」

 木製ではあるが、本物のバットだった。嬉しくてコウは何度かスイングを試してみた。ブンブンブン。
 風を切り。コウは倒れることなど忘れて興奮してきた。
「青春時代を思い出します。甲子園へは全然届かなかった、あの練習の日々」
 コウの胸にじんわりと熱いものが込み上げてきた。思い出に浸っている。
 作者も思い出す。
 野球部のマネージャーをひと月で辞めたことを。「そ、そうなんですか。何で」
『友人をタッちゃんラブライフに嵌めてしまってねえ。付き合いで。今ではよき思い出だね〜。何、君にはラブはなかったのかね、ラブは。コッちゃん』
「うう。ない……コッちゃんて変」
『さて次の魔物だよ』
「ひっ」

 作者、ウッカリ口を滑らし“魔物”と言ってしまう。『まあいいや。魔物で』
 気がつけば暗くなってきていた空の遠く彼方から、茶色く小丸い物体がひとつ、ふたつと降って視界の中に近づいてきた……。
 ピューン、と風切る音をさせながら。それらはコウの足元に次々と落ちてくる。
 落ちてわかる。これは――。

『栗』
「イガじゃん!」
 その通り、流れ星か隕石のように空からトゲトゲのそいつらは降ってくる。

『ほら。打ちなさい』
 作者はせっついた。
「へ、あ、ああ。なるほど」
 呆けていたコウの思考回路は動き出す。

 バットを構えたコウは、「そういうことか」 と納得して、野球バッターになりきり武器であるバットを振り回し出した。カキーン。キキーン。クキーン。ケキーン。
 振り回して見事に命中したイガ似の数々の魔物(たぶん)は、元来た空へと軌道を変えられてサヨナラしていった。作者に紹介する間も与えず、即リターン。即バック。何しに来たのと。
『ちょっと儚いねえ。た〜まやあ〜』
 コウは討ち返すのに必死というよりは夢中だ。「ぜーはー」
 休みを間に入れつつ、打つのをなかなか止められないでいた。
 コウは気がついてはいないようだったが、頭上では。激しく、レベルを表示する図面はフラッシュしており、図面自体も枠を段々と進化させて豪華になっていくのだった。今は蝶柄。次回豹柄。未来は薔薇色。

 数分後。

 やっと、イガドンズは降って来なくなった。
「イガドンズっていうの……?」
 適当に呼んだだけだった。ひょっとしたらチャーミーズかもしれないが。
「ちょっと休んでていいですか天使」
 非常にお疲れである。“さま”は何処ぞに。

『ご苦労様。……ご覧よホラ。レベル』

 作者は生優しい声でコウに呼びかけた。
「へ……?」
 コウはやっと気がついた。枠の中の跳ね上がった数値にびっくりする。

“武器 レベル53、袋 レベル27、コウ レベル33”

「お、おお〜! 頑張ったかいがありました、ボク」
 とても嬉しそうに両手を握り締めていた。『ふふふ。よかったね君。さ、この調子だ』
 作者の不敵な笑みが思わずこぼれた。
「ん?」
『それだけのレベルがあれば、少々強くとも敵を倒すことができるはず』
 作者は呪文を唱えた。『(クリ)ズ、増ース!』 ちょっと苦しい恥ずかしい。
 すると、コウの前だった。空から、打ち返されて強制帰還したはずのイガ栗どもが群がってやって来る。顔がないので彼らの表情はわからない。
 その数を増やし、積み上がっていった。「な、何なんだ?」
 何かが始まろうとしている。ヒント。
『復讐だ。集団の恐怖』
「はいい!?」

 どうやらイガ栗の群は一ヶ所に集まり、生まれ変わろうとしているらしい。
 積まれていく負け栗たち。
『仇討ちだねー』
「そんなあ!」
『君ごときに負けたのがよっぽど悔しかったんだろう。死んでいった仲間のために生き残った栗たちが再来。友の仇。うう、いい話だ。でも倒してねコウ。イガ迷惑。それはそれこれはこれ』
「て、天使ですよね? 段々とあなたも悪に見えてきたんですが」
『生まれ変わり完了みたいだよ(マイルドスルー)』

 積み上がり巨大な栗塊となった敵は、姿をシュピデュゥバと変えて。「その擬音、超疑問」
 そして栗金団(くりきんとん)になった。「えええええ。やっぱり栗ですかい!?」
 栗金団―― もとは団子で、栗の(あん)に、茹でた栗を加えて練ったきんとん。
 ここに現れたのは、見た目黄色の三角帽。しかし巨大で、ビル並にあった。舐めると甘そうだ。挑戦者求む。
『食べられる金字塔。はい倒して』
「そんな! どうやってですかあ!」
『おっと描写説明不足』

 敵の真ん中には、円状の板が貼っつけてあった。よく見ると、ダーツの的である。点数の代わりに文字が書いてあるようだった。
 撃たれる、溺れる、干からびる、毒を盛られる、妄想死する、未来へワープ、他。
『おっと“食べられる”も忘れちゃいけない。これは、栗金団の末路が書かれているのさ』
「栗金団の末路!? “妄想死”ってどんなん」
『自爆だろう。それよりご覧。その中で、敵が助かる項目がひとつだけあったりする。“未来へワープ”』
 コウは「はあ?」とまた頭を悩ませた。
『さあいっそ苦しませずにひと思いに当ててやってくれ。生か死か! 金字塔の未来は君の腕にかかっている』
「しょしょしょしょんなあ! そんなこと言われたら、倒せなくなるじゃないですか! ……ところで、矢は何処?」

 その時、コウの手元のバットが光に包まれ進化を始めていた。「あ、そっか。レベルアップしたから」
 光はおさまり、HBの鉛筆になる。「筆記用具じゃん!」
『各段にレベルが跳ね上がったからね。もしワンランクずつ上がっていってたら、ちゃんとグレードアップの過程を見ることができたのにねえ。残念』
「バットと鉛筆の間の過程。気になります」
『バット→布団たたき→ハエたたき→ほうき→竿→シャッター閉める棒→トナカイ→キャンドル→線香→マッチ棒→つまようじ→竹ぐし→耳かき→綿棒→麺棒→すりこぎ→ゴボウ→ネギ→孫の手→イスの足→テーブルの足→コタツの足→マイク立てるあれ→尺八→リコーダー→タクト→……』
「えーと。武器か木か、棒繋がりなんですかね? 間に何でトナカイが」
『忘れちゃいけないよのクリスマス・アピール。大丈夫、時々入れてるから』

 結局、手元には鉛筆を持っているコウ。
 ダーツの要領で、的に当てるのだ。さてどうなる。

「よ、ようし。とにかく。やってみるぞ」
 コウは狙いを的に定めた。
『お、その意気だ。何でもやってみれ』
 作者、コタツの上のみかんに手を出した。皮をむき出す。あゆみかん、共食いか。
「できれば、“未来へワープ”がいい……“未来へワープ”、“未来へ……”」
 コウは、呪文のように何度も繰り返す。『信じてるよ〜。甲子園(みらい)へ連れてって』
 作者、適当に応援。気分は南向きで明るく、ひと月マネージャーの経験が生かされた。「ちょっと静かにしてて下さいよう」
 全神経を集中し、目は一心に目標を捉えた。そして思い切って鉛筆は放り投げられ(くう)の中を突き抜けていった。ぴゅう。
 矢の代わりとなった鉛筆は、トンッと的に当たったものの簡単に弾かれてしまう。下へと落ちてしまった。『ありゃ』
「あ〜ああ……!」
 コウはガッカリした。すごく落ち込んで膝を地面に落としてしまう。
『や〜れやれい。まあ、大丈夫さ。跡を見てみたまえ』
「え?」
 遠くて見えづらいものの、コウは何とか目を凝らして見てみる。
『見えるかな? ……芯の、黒鉛の跡が残っているよ』

 作者に言われて、コウは気がついた。「ああ! そうかだから鉛筆!」
 金字塔はキラキラと、銀色の粉雪に包まれた。跡が残っていたという、的に書かれていた項目とは。

“未来へワープ”

 お見事、鉛筆は刺さりはしなかったが黒鉛の跡を証拠に残し、コウの望み通りの項目にと当たったようだった。
『おめでとー』
「あ、ありがとうございます! 嬉しいぞチクショー!」
 コウは両手をあげて飛び跳ね喜んだ。もし項目が“食べられる”だったなら、コウは金字塔を食べ尽くさねばならない展開となる所であった。それはそれで見物であったのに実に惜しい。きんとん食い地獄をコウは運よくスルー。「危ない危ない……」
 光輝く金字塔は、薄くなって消えていった。言葉の通り、何処かの未来へと旅立っていったのだろう。さようなら。
 ついでに、コウもさようなら。「何いいいいっ!?」
 コウの影も薄くなって、消えかけていった。

『おや。鐘の音が聞こえてきたよ……』

 ゴーン。

 108つの鐘。

 雪が、チラついている。
 コウは姿を消し、辺りは暗い中。ヒラヒラと……一枚の長細い紙が。空から雪と一緒に舞い落ちてきていた。
 作者は、コタツでお笑い芸人が忙しく出演しているテレビを観ながらみかんを食べ終えて立ちあがる。
『さてと。初詣に出掛けますかな』
 モコモコの衣装から内側がモコモコの服へと着替えにいった。

 適当未来へワープする。


 ……


 コウは、自室であるアパートで目を覚ました。
「う……? ここは……ボクは……?」
 6畳ひと間の真ん中で、コウは倒れたように眠っていた。読みかけの雑誌や放られたままの衣服が散乱し、台所には食べかけの弁当の残りがいい色に腐りかけ異臭を生み出している。
 ベランダから見える薄明かり。早朝だった。時々に人の挨拶の話し声や、車、バイクの通りすぎる生活音などが聞こえてくる。
 その中でご近所の人らしき挨拶の声では、「明けましておめでとうございます」と言っていた。

「明けまして……? はて?」

 首を傾げながら、コウは放り投げられていた自分の携帯電話を掴み上げ、見た。ゆるキャラ猫侍が待受となっている携帯の画面上には、“1月2日”と表示されていた。
「???」
 すっかり記憶が抜け落ち飛んでいるコウの耳に、玄関先でのインターホンの音が飛びこんでくる。
 コウはよろめきながらも何とか立ち上がって、ドアに呼びかけに行った。
「はい、どちらさま……」

 ……。
 しかし、返答はなかった。
 コウは変だなあと思いながら、玄関のドアチェーンを外して静かにドアノブを捻った。
 冷たい風が外から侵入してくる。「ハックション!」 誰も居なかった。
 コウはくしゃみをした時に下を向いたおかげで、隅に置かれていたスーパーの袋が目に入る。しかも“守津(もりづ)光”とコウの名前が書かれていた。
 身に覚えのないその袋を不審に思い、怖々と中を覗き見ると。
「これは……?」
 フードパックに入ったお(せち)だった。赤飯も付いている。
 何処かのスーパーかコンビニで買ったような代物。そして、細長い紙がフタの上に貼っ付けられていた。
 紙はどうやら宝くじである。
「ね、年末ジャンボ?」
 抽せんは昨年に終わった、年末ジャンボ宝くじが1枚だった。
 コウは袋ごと回収すると、ドアポストに突っ込んであった新聞と一緒に持って部屋の中へと戻っていった。
 落ち着いて座った後、当せん番号をひとまず新聞で確かめてみた。「おお!?」
 当たっていた。5等。1万円。
 びっくりして腰を一瞬浮かし、ついでに屁もこいた。
「ドリーむう〜!」
 ドリームジャンボではないが、このおっさんにはどっちでも、どうでもいいらしい。
 手を上げて喜んでいる。

 お節の中の栗金団も、微笑んでいた。
 後で食べられてしまう運命だけれど。


 ……


 子どもたちに配られた去年のサンタのプレゼントは、前年に比べてあまり景気よろしくはなかったのかもしれない。
 それは全て、このコウというおっさんの袋レベルのせいだろう。
 来年のレベル上げに期待している。


 ……木と棒を持って。


《END》



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