闇守護業 6《赤賊》(6/13)PDFで表示縦書き表示RDF


闇守護業 6《赤賊》
作:祐太



第一章『暗雲の序奏』(3)


「遼、力入れすぎなんじゃ……」

「そんなはずねぇよ、俺はただ様子見ようとしただけで……」

 避けられることを想定しての一発だった。充分力を抜いたのに、この惨状。
「本当に? やりすぎだよ」
「な、だって、ちゃんと手加減して……」
 何故か語尾が弱くなっていく、言い訳しているみたいな遼平。何も悪いことはしていないのに。
 やっとよろめきながら立ち上がりかけているヘラクレスが、意味もなく自分のマントをなびかせて、叫ぶ。

「くっ、流石裏組織の殺し屋だ!」
「だから俺は殺し屋じゃねぇって。ってか、お前らこそ本当に裏の人間か?」
「ふっ、裏社会の輝けるニューウェーブだ!」
「つまりは新米さんなんだね」
 純也の訂正的和訳が入る。表で盗みを働いていたのはまだ裏に慣れなかったからか。

「やめとけよ、お前らじゃ裏では生きていけねぇって」
「ふんっ、髪さえ梳けない男に言われたくありませんことよっ!」
「ンだと!? 髪なんかどうしようが関係ねえだろ!」
 相変わらず寝癖だらけでボサボサ中途半端な髪をビーナスに指差され、遼平はそれに怒鳴り返した。火に油で、罵りあいの応酬は酷くなっていく。
「大有りですわ! そんなみっともない姿では、さぞや女に好かれないのでしょうね!」
「うわぁ、図星だよ……」
「うるせーっ! もうどう頑張っても寝癖がとれねぇんだよ!」

「「やーい天然頭〜!」」

「お前ら今度は本気で殴るぞォォッ!!」

 遼平がレッドスティーラーズに殴りかかり、悲鳴を上げて金と銀の二人は逃げ出した。広い室内で、グルグルと追いかけっこが始まる。


「……」
 ため息を吐き、純也はとりあえず出入り口の扉を閉めながら、無線を手に取る。

「希紗ちゃん、聞こえますかー? どうぞ」
『きゃははっ、何ナニなんなのあの二人〜! 超ツボにはまったわ〜っ!』
 無線機の向こうで希紗の絶叫にも近い爆笑が聞こえた。実際目の前にしているので笑えない純也は、希紗の笑いが治まるまで待ってみる。
「監視カメラでも見えるよね? どうしようか、この人達」
『私としては捕まえるの勿体ないわぁ〜。絶対芸人としてヒットするって!』
「あの人達は本気なんだよ……。とりあえず真君達を呼んでくれないかな、僕らじゃ対応できないよ」
『わかったわ。あの二人、これを見たらどんな顔するかしら……うふふふふっ』
「もしもーし、なんか楽しんでませんかー?」
『純くん、人生は楽しみ尽くすものよ。任せなさい、マッハで来るように呼んでおくから』
「よ、よろしくね……」
 微かに不安を抱きつつ、純也は無線を切った。


「こうなったら秘密兵器だ、ビーナス!」

 息を切らして立ち止まり、ヘラクレスはガラス板を、ビーナスはナイフを取り出す。遼平の元へ純也も駆け寄り、何をやり出すのか見ていた。
「なんだぁ? てめぇらの秘密兵器なんてたかが知れてるんだよ」
「ふっ、これを喰らって立っていられるかな? ゆくぞっ、『狂気共鳴クレイジーシンフォニー』!」
「へ??」
 技名の後に陳腐なカタカナ造語を付けてわざわざ繰り返すところが、格好悪い。両腕でナイフを振り上げたまま跳躍したビーナスに、思わず構える警備員二人。


 酷く煌めく刃は、透明な板に刃先を突き立て、まさに狂気の――――!!


 純也の鳥肌を一斉に立たせたつんざく音が、部屋に木霊する! ビーナスがナイフでガラスを傷つけ始めたのだ。

「ぐわああぁぁーっ!!」
「遼!?」

 両手で耳を押さえ、そのまま遼平は倒れ込む。顔は冷や汗で濡れ、激痛に身悶えるようにのたうちだしていた。
 確かにとんでもなく嫌な音だが、遼平のリアクションはあまりに大袈裟としか……。

「あっ、遼っ、耳栓は!?」
「し、してねぇよっ、希紗に取られた……!」

 蒼波の能力が! 発達しすぎた鼓膜が、遼平に常人の何倍もの音量でこの音を伝えているのか!? ……まさに、偶然にも遼平の弱点を突いた攻撃。


「はーはっは! 今日のところはこれくらいで勘弁してやろう、悪の警備員諸君! しかしっ、我らはまた現れるぞ! 次こそはレッドスティーラーズ総動員で盗ませてもらおうっ!!」
「ご機嫌遊ばせ、ですわっ」
 颯爽とマントをはためかせ、金銀二色の二人組は部屋の出口から走り去っていった。





「遼平、純也! どないした!?」

「何やら奇妙な格好の二人とすれ違ったが……」

 入れ替わるかのように、真と澪斗が駆け込んでくる。二人が見たのは、明るい室内で倒れている男と、跪いている少年。
「二人とも……」
「希紗のおかしな悲鳴が聞こえ、呼ばれたのだが……これは?」
 言いながら、澪斗は室内を見回して首を捻る。展示室内に荒らされた様子はなく、ましてや戦闘の痕跡もない。けれど、まるで激戦の後のような遼平と純也。この二人が苦戦した? 一体、何に?

「遼平っ、遼平! どうしたんや!?」
 真が気絶した遼平を揺り動かす。よほど苦痛だったらしく、冷や汗でびっしょりになりながらも遼平は弱々しく瞼を開けた。喉から掠れた声を出して、まさに虫の息で。

「真、すまねぇ、俺はもう……」
「はァ!? 誰や、誰にやられた!」
「……ダメだ、お前に再び復讐をさせるわけには……っ」
「目ぇ開けんか! 諦めんなァァっ!!」
「じゅんやを、あとをたの、ん……」

「遼平――――っ!!」


 力が抜けて首の落ちた遼平へ、真の呼び声が響く。それをずっと黙って見ていた澪斗は。



「……気は済んだか、真?」

「はァ、一度こんな台詞言ってみたかった〜。満足やわァ」
 失神した遼平の首を床に軽々しく捨て、真は「さて」と立ち上がる。

「純也、立てるか? 監視室に戻んで」
「真君全然動じてないんだね……」
「なんや胃薬飲み過ぎたら、やけにテンション高くなってなァ。もう開き直って、仕事も楽しめるような人間になろうかと」
「楽しみ方、明らかに間違ってるよね……今の遼、本気だったよね……」
 まだしゃがみ込んでいる少年の言葉を気にも留めず、倒れた男の襟首を掴んで、部長はズルズルと引きずっていく。

「じゃ、とりあえず全員戻んで〜。澪斗、純也連れてこいな〜」

 まだ呆然としている純也は腰を掴まれて澪斗に運ばれ、遼平は真に引きずられ、警備員達はまだ笑いの止まらない希紗のいる監視室に戻っていった。













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