これは俺と世にも奇妙な宇宙人のお話……
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
その日、オレは学校から帰ってきて二階の部屋でマンガを読みよった。
クラスの友達が貸してくれた、めっちゃウケる少年マンガ。
ついつい夢中で読みよったら、何か妙な悲鳴が聞こえてきた。……空から。
『ピギョエ〜〜〜!』
屋根が壊れる音と共に、空から紫色した物体が落ちてきた。そんで、屋根には見事にぽっかり丸い穴が空いとった。
オレは落ちてきたうにゅうにゅの謎の物体に釘付けやった。気色悪……何やこれ?
『アイタタタ……あ、どうも。時田です』
……は?
「うわ、なんなんお前! タコ?!」
『タコですと!? 失礼な。私は宇宙人でございまする』
……は?
時田って名乗る宇宙人の姿形はどう見てもタコやん。他の言葉で表すならコンニャク。それより、体がなんかぬるぬるしとるやんか気持ち悪い。
『いやはや、危うく潰れるところでした……ベシャっと』
いっそ、潰れたら良かったのに。
『アナタのベッドのおかげですな、少年。……おっと、あわや私に名乗らせておいて、ご自分は名乗らないおつもりで?』
「……翔太やけど」
宇宙人……時田は八本の触手を動かしながらドアまで動いていくと、その内の二本でドアを開いた。そして廊下に出ようとしたもんやけん、慌ててオレは時田を止めた。 下には母ちゃんと姉ちゃんが居るのに、こんな奇妙な宇宙人なんか下りて行かせたら、大騒ぎになるに決まっとるけん。
「お前何星人なん?」
一応、ツッコミ所は満載っちゃけど、ありすぎてもうどうでもいいや。けど、これだけは気になる。
『よくぞ聞いてくれましたな翔太殿。私はナメルン星人でございまする』
「そっか……ふぅん」
「はうぁっ! 冷たい、冷たすぎる反応でござりますな。もっとこう、もっと色々聞く事がありましょうに』
聞いてくれといわんばかりの時田の態度に苛立ちつつ、しょうがないけんもひとつ尋ねてみる。
「お前何で落ちてきたん?」
『はて?』
「……」
大概にせんと潰して焼きダコにしちゃろっか。
無言でしかめっ面になったオレに、時田は思い出した、とでもいいたげにポンと二本の触手を叩いた。
『あぁ、思い出しました。いやはや』
「やけん何なん、早く言えってば」
『実は……』
時田が口を開きかけた時、さっき閉めたはずのドアがおもいっきり開いた。
「翔太おる!? あんたウチが冷蔵庫にとっとったプリン食べたやろ!」
姉ちゃんが、キレて駆け込んできたからやった。確かに、プリン食ったのはオレやけど……今はそれどころじゃない。
『あ、どうも』
「……」
挨拶をする時田を、姉ちゃんは凝視したまま固まってしまった。たぶん、これが当たり前の反応っちゃろうね。
「何なんこれうっわキモ! めっちゃキモいっちゃけど! てか、はぁっ? 喋ったよコイツ」
姉ちゃんは危険物でも見るような目つきで時田を見とる。ちょっとだけ時田に同情。
『グサッ! 私、心にナイアガラの滝よりも深い傷を負ってしまいました。……あ、そうそう。私の話は長くなるのでお茶菓子などあれば嬉しいのでござりますが』
勝手に落ちてきたクセに、図々しい奴。めっちゃ腹立つ。茶菓子はさすがに諦めたのか、しぶしぶ時田は話しだした。
『私は彗星地球旅行ツアーで地球へやって参りました』
彗星……。そういえば、ニュースでありよったっけ。
『それはそれは、何とも優雅な旅でしたよ。ところがですね、予期せぬ事態が発生しまして丁度ここの上空で落ちてしまったんですよ』
「へ〜そうなん。でさ、あんたどーやって帰ると?」
姉ちゃんも、いつの間にか時田の話を聞いとったみたい。そうか、これが一番の問題やんか。
『そこが問題なんでござんす。はて、どうしたものか……』
時田はガックリと頭を垂れた。どうやら帰る方法が無いらしい。
「次の彗星はいつ来ると?」
姉ちゃんが時田に尋ねてみる。
『次の彗星地球旅行ツアーは確か……三億年後でしたかな』
……へぇー……。
『まあ、短いといえば短いんですけどもね』
……ふーん……。
彗星は期待できん。それならとにかく何か他の策を考えんといかんな。
何だかんだ言っても、家に帰れんとかってなんか可哀想やし。
俺と姉ちゃんは時田を何とかしちゃろうと、腕組みして考えてみる。
でもどうしよっかいな……そもそもナメルン星がどこの星かも分からんのにさ。
「なぁ時……あ!」
時田の姿が無い。ちょっと目を離した隙に、窓から外に飛びだしたみたいやな。
「姉ちゃん! あんな変な生き物人に見られたら大騒ぎなるって!」
「そうやね、早く捕まえ行こ!」
俺と姉ちゃんは慌てて玄関から駆け出すと、数十メートル先に時田を見つけた。
やばい、子供二人に囲まれとる。
「なんやコイツ」
小学校低学年くらいの男の子の一人が、奇妙な宇宙人に向かって蹴りをかました。
ポヨン プヨン ポヨヨン
『おやおや、暴力はいけませんな』
まるでゼリーのように滑らかに蹴りを跳ね返した時田。そのまま触手でその子の胸ぐらを掴んだ。子供達は怯えて震えとる。
この光景どう見ても、地球に侵略してきて子供を襲う悪いエイリアンやんか。
――プシュウゥ……
「げほっ、くっさ……」
時田が子供達に向かって何か生暖かい液を吹きかけたかと思ったら、子供達はそう咳こんでぐったりと倒れてしまった。
え……殺人?
『ご心配なく。少し気絶してもらっただけですので』
俺の心配もよそに時田はというと、ゲップをした後にツルツルテンな満面の笑み。殴りたい。
「ね、あんたどこ行くん?」
姉ちゃんの問い掛けに、時田は裏山を指してこう言った。
『SOS信号を送るのですよ』
おぉ、なんかSF映画みたいやんか。
と、いう訳で俺達は人目を避けながら裏山を目指した。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
すっかり日も落ちお月さんが夜空に浮かび上がった頃、薄気味悪い裏山の空き地で、俺と姉ちゃんと時田、3人の影だけが怪しげなポーズをして立っとった。一見、ナゾの危ない宗教団体。
『チ〜チン〜プイ〜プ〜イ』
「「チ〜チン〜プイ〜プ〜イ」」
いかにも胡散臭いおまじないみたいな言葉。きっとこれがナメルン星人のSOS信号なんやろうな。……変な信号。
『よしよし、発声練習が終了いたしました。ではこれから本番に移りまする』
……は?
「ちょっと翔太、まじコイツムカつくっちゃけど!」
恥ずかしいポーズをさせられたうえに、恥ずかしい呪文を言わされた姉ちゃんは、小声で俺に文句をたれた。分かる姉ちゃん、俺もその気持ちよーく分かる。
『そこ、お静かに』
「「……はい」」
ついに時田のSOS信号が始まった。今度は俺達には理解できん発声やった。何か、音波のような……△⊇∵ζЁЖこんな感じ。
……何時間経ったやろ。
宇宙船はおろか、時田のSOS信号に対する返信さえ無い。……寒い。……帰りたい。
「帰る」
ついに飽きてしまった姉ちゃん。ブツブツと機嫌悪そうに裏山を下りて行ってしまった。正直、羨ましい。
それでも信号を送るのを止めん時田に付き合って、俺はもう少しだけここに残ることにしちゃろっかな。明日の給食は何かな……とか考えつつこうして更に数時間、俺は空を見上げ続けた。
もうそろそろ時計の針が12のとこで重なる時刻。さすがに……というか、ようやく時田にも諦めの色がでてきた。俺なんて、腹が減っておなかとせなかがくっ付く寸前やのに。
きっと、助けなんかこんやろ。と、そう口に出しかけた時だった。
「……あれ? 今なんか…」
一瞬、空が光ったのだ。流れ星かとも思ったけど、違う。もしかしたら、本当に宇宙人が時田を迎えに来たんかもしれん!
『おぉ。あれは』
時田も目を見開いて光った空を見つめる。
『やりました翔太殿、迎えがこちらにやって来ますぞ』
嬉しそうに、ヌルヌルの触手で握手を求めてきたもんやけん、俺も苦笑いで手を差し出した。握手をすると、鼻水をさわった後みたいに気持ち悪い……と、いうのは俺の心の中にしまっておく。
「よかったやんか。これで無事ナメルン星に帰れるったいね」
『いやはや、これも全て翔太殿のおかげですな。私、感謝感激感無量でございます』
「お前ってさ、なんか変な奴やったけど、宇宙人にしてはいい奴やな。帰っても元気でな」
『私も、翔太殿や姉上様のような心優しき地球人に出会うことが出来て幸せでござんす。なんせ、地球人は自然破壊を目論むエゴイストだと伺っていたもので』
まあ、時田の言うこと、確かにそれは外れてはいない。実際、自然を破壊しているのは人間なんだし。
『しかしあれですな。実際地球は実に綺麗な星でした。それに翔太殿のような人間がいることも分かりましたし。もう、万々歳でございます……おっと、もうそろそろ時間ですね』
空を見上げると、光る物体がこっちに向かってだんだん近づいて来よる。
「お別れやな」
『えぇ、お元気で』
少し感動的な別れの挨拶を交わす。一緒におった時間はかなり短かったけど、お別れとなるとちょっと寂しくなるな。
俺はそんなことを思いながら、迎えの宇宙船を眺めた。夜空に、光が物凄い速さで突っ込んで来よる。うん、光が……うん? 光が……猛スピードで……突っ込んで来とる!!
「退避! たいひーー!」
『ヒョエ!?』
−−ズドォオオォオオォオォオン−−
「げほ、げほっ……何がどうなって」
俺の目の前に広がった光景は、唖然とするものやった。
プスプスと煙が立ち昇る、壊れた宇宙船。衝撃で無残に破壊された裏山の空き地。そして……
『@☆¥∵▽〜』
と。奇妙な奇声を発しながら、大破した宇宙船の中から、時田の群れがぞろぞろと現れた。
『『あ、どうも』』
幾重にも重なり合って響くその言葉に、俺はただ、深い溜息と頭を抱えることしか出来そうに無い。
『これでは宇宙に帰れませんね。翔太殿、しばらくご厄介になりまする』
こうして、奇妙な宇宙人と俺の共同生活が始まったけど、それはまた別のお話やな。今回のお話はここまで。じゃあな!
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