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童話らしい

うさぎとかめと月と切り株

作者:蝙蝠傘
「カメさん、どうしたんだね。うかない顔をして」
 小さな丘のてっぺんで、切り株が言いました。
 夕日が沈もうというのに、一匹のカメが元気なく切り株にもたれていたからです。
「いや、考えることが多くてね」
 カメがこたえました。
 その声を聞いてから、切り株はカメを眺めました。
「もしかしたら、ウサギとかけっこをした、もしもしカメさんじゃないですか?」
 カメは不思議そうな顔をして、こっくりと、うなずきました。
「あのかけっこでウサギに勝ってから、カメさんの村では大さわぎになったって聞いたのだけど」
 カメはひとこと言う前に、小さなため息をつきました。
「村に帰ったしばらくは、皆からチヤホヤされたけど、ひと月もたたないうちに、いろいろ言われだして」
「どんなことを言われたのだね」
「そうですね。ウサギさんが、いねむりをしている横を、知らぬ振りして行きすぎたことや、相手にいねむりさせるほど、足が遅かったことなど」
「ほう、話は聞いてみなければ、わからんものだね」
 カメはこうらの中へ、恥ずかしそうに頭をいれると、声だけが聞こえてきました。
「ウサギさんはどうしたのだろうね。うわさでは、ぼくに負けてから村を追い出されたって聞いたんだけど。本当に悪いことをしちゃったよ」
「少し前にウサギがここへきたんだよ。聞いてみると……カメさんの言ったとおり、かけっこに負けて村から追い出されたんだって。行くところもなく困っていると、ウサギの村をオオカミが襲おうとしていることを知り、知恵をはたらかせオオカミをガケ近くまで誘い出し、そのままガケから突き落として、なんとかウサギの村を守ったんだそうだよ。それで、どうにか村に帰えることができたんだけど、なんとなく居心地が悪く、どうしてカメさんと競争したんだろうと、なげいておったよ」
 カメはその話を聞いて小さくうなずいた。
「ぼくもウサギさんの言葉にのせられて競争をしたことを、バカにされました」
「そういえば、カメさんに競走をいどんだのは、はずみとはいえ自分の弱さを、さらけだしたようなものだと、ウサギさんも言っておった」

 日がゆっくり沈もうとしていました。
 切り株の短い影が、細い枝をゆらしています。
 カメが不思議そうにいいました。
「ウサギさんと競争したときは、たいそう大きな木だったのに、どうしてそんな切り株になってしまったんですか」
 そう言われて、切り株は頭をかきました。
「カメさんにグチってもしかたがないけど、人間が都に大宮殿を造るとかで、役に立ちそうな木はほとんど切られたんだよ。この山もはげ山になっちゃったよ。でもさ……」
 切り株は日かげの細い木をゆびさしました。
「ほら見てごらん、あの木は細くてなんの役にもたたないから、切られることがなかったんだ。太くて大きな木だからって、いいことなんかないよ。せっかく大きくなっても切られて、このありさまさ」
 切り株は空をながめて、ため息をつくことさえ忘れていました。
 そこへウサギがピョンピョンはねて山を登ってきました。
「おやおや、あのときの、もしもしカメさん」
 カメは目を丸くして、おどろきました。
「あっ! かけっこをした、ウサギさん」
 切り株は山を登ってきたばかりのウサギに、カメから聞いた話をしました。
だまって聞いていたウサギは、しんみりと言いました。
「知らなかったな」
 日が沈むのにウサギもカメも動きません。
 北風がピューと吹きました。
 切り株がふるえた声で言いました。
「冷たさが身にしみるよ」

 ハダカ山の頂上で、ウサギとカメと切り株が、それぞれの思いにふけっていました。
 空にぽっかりと大きな月が浮かんでいます。あたりに光をまき散らすように、にっこり笑っていました。
「月はいいぞ。楽しいぞ。一度こっちに遊びにきたらいいよ」
 ウサギとカメはため息をつきました。
 月になど、いけるわけがないからです。
「月々に、月見る月は、多けれど、月見る月は、この月の月。おっと、今日はやけに風が強いや」
 雲が流れて、月はすぐに雲に隠れてしまいました。
「お月さんも気楽なものだな。どうして月に行くことができるというのだろうか」
 ウサギが言うと切り株が目を細めました。
「月に行きたいのか?」
 ウサギは切り株を見てから言いました。
「もう、こんなところはごめんだよ」
「そうか、わしもそろそろ、住むところを替えてもいいと思っていたところだよ。カメさんはどうする?」
「ぼくはのろまのカメだからムリだよ。ツルのように足が長く。空が飛べたらなぁ」
 切り株は大きくうなずいた。
「よし、じゃウサギさんは月に行くかい」
「いけるの?」
「いけるさ。ぼくは毎日、月とおしゃべりしていたからね。月にいくための切符をもっているんだよ」
 雲のすき間から顔を出した月が大きくうなずいた。

「それじゃ、ぼくを月につれていってくれるの」
 切り株は言いました。
「もちろんさ、でも、いいのかい、別れる人なんかいないのか」
「親もいないし、友達もいないし」
 カメはウサギさんの悲しい顔を見て、ぼくに負けてから、きっと言葉では表せられないほどのつらい目にあったのだろうと思うのでした。
「そうだ! お月さんでは、まいにち、まいにち、おモチをつくんだけど、ぼくたちも仲間にいれてもらおう」
「楽しそうだな。月でモチつきか」
「わしが臼になるよ」
 切り株が言うとウサギもこたえました。
「ぼくがモチをつくよ」

 風が止むのを待って、ウサギは切り株にのりました。
「それじゃいくよ。ぼくにしっかり、つかまっているんだよ」
 切り株から、チョロッとのびた細い枝をウサギの体にまきつけて、切り株は大きく息をすい込みました。
 地面がびりびりと割れたかと思うと、白い空気が切り株の下から吹きだし、元気よく空中へとびだしました。
 カメの体にピカッと光りがあたり、あっという間にウサギと切り株は見えなくなったのです。

 カメは空を見上げました。
 月が大きくかがやいていて、その光にむかってウサギをのせた切り株が、根っこを白く光らしながら、横切っていきました。
「カメさん、さようなら。元気でいろよ。ぼくみたいなものとかけっこをせずに、カメさんらしく、のんびり生きていけよ」
 どこからかウサギの声が聞こえました。 
 カメは、ふと涙があふれそうになるのをがまんして、月に向かっている白い光を、いつまでもながめていました。
 それも見えなくなると、カメは元気なく山を下りようと歩きだしたのですが、そのとき、空を飛んでいたオオタカが大きな声でいいました。
「カメさんよ。ウサギに勝ったあんたなら、きっと空だって飛べるに決まっているよ。ぼくが手伝うから、いちど空を飛んでみないか」
 カメは、村に帰ったばかりのときなら、オオタカが言ったように、空を飛んでみようと思ったかもしれないが、今はそんな気持ちにはならなかった。
 カメが首を横にふったのをみたオオタカが、不気味な高笑いを残しながら言った。
「それじゃ、空を飛びたいと思っているウサギでもカメでもいたら、いつでも手をかすよ」
 オオタカは空たかく飛んでいってしまいました。
 カメがトコトコ歩きかけたとき、切り株の根っこが抜けたところに、大きな穴がぽっかりと空いているのに気がつきました。そこから、なんとも楽しそうな歌声が聞こえてくるではありませんか。
 カメは首を長くのばして穴をのぞき込みました。するとバランスをくずして、そのまま穴のなかに落ちてしまったのです。
「あああぁぁぁ」

 ドスン。
 ばたん。
 ギュウー。

 カメが目を覚ましたのは、見たこともない豪華な部屋の中でした。そこにはたいそう美しいお姫様がいました。
「目が覚めましたか」
「ここは」
「大丈夫よ、私の部屋だから」
「ぼくは……」
「あなたは上からこの竜宮国まで落ちてきたの、私が見つけたからよかったのよ。ここには悪いオオカミがいるから……」
 そう言って、姫はカメに自分の話をしました。
「私は明日オオカミのお嫁にならなければならないのよ」
 話をきくと、オオカミが姫を嫁にしないと、村のみんなを食べてしまうというのだ。
 カメはオオカミを退治したウサギの話を思い出しながら、何とか姫を助けてやれないものだろうかと考えました。

 次の日、ウエディングドレスに身をくるまれた姫は、ふるえる両親をともなって、オオカミに近づいていきました。
 姫は恥ずかしそうに、下をむいたままでした。
「こっちを見てくれたまえ」
 オオカミはいいました。
「でも、ここじゃ恥ずかしいから、よかったら庭に出て少し話ができないかしら」
 いわれるまま、オオカミは姫だけをつれて庭に出ました。
 そこには、ぽっかりと月がうかんでいました。
 すると、待っていたように、のこのことカメがやってきて、オオカミに聞こえるように言いました。
「月から帰ってきたが、月には本当に美女が多いなぁ。それにくらべれば、ここの女はブスばかりだ」
 それを聞いたオオカミは目の色を変えました。
「月には、そんなにたくさんな美女がいるのか?」
「いるのかだって? だから何も知らないやつとは話がするのがいやなんだ。月に行ったことがないのか?」
「月に……? どうすればいけるんだ」
「なんにも知らないんだな。簡単だよ。ここに立って、ぼくは空をとんで、月に行きたいと大声で言えばいいんだ」
「そんなことでいいのか」
 オオカミはそのとき、すっかり姫のことなんか忘れていました。
 眼を真っ赤にして、大きな声で言われたように叫びました。
 すると、にわかに強い風が吹き、とつぜんオオタカの大きな爪があらわれ、オオカミをつかむと空に舞い上がっていきました。
 しばらくすると、オオカミの叫び声が聞こえ、くるくると地面をめがけて落ちていくのが見えました。

 オオカミがいなくなって竜宮国に平和がやってきました。
「助けてくれたお礼に玉手箱をあげましょう。これは決して開けてはいけないよ」
 姫の父親が玉手箱をカメに与えました。 
 カメは玉手箱をもらったのですが、開けてはいけないといわれていたので、開けないでいました。
 それでもカメは中に何が入っているのか、気になって仕方がありません。
 ついに玉手箱を開けてしまったのです。
 すると中からは白い煙がもくもく出てきて、カメは白い煙につつまれました。
 白い煙の中から、その姿をあらわしたときには、体が真っ白な年老いたカメになっていました。
 まわりの風景もすっかりかわり、竜宮国もどこにいったのかわからなくなり、人間が作った大宮殿もすっかりガラクタとなっていました。
 白いカメは、見た覚えのある小さな丘にトコトコ上っていきました。
 そこは、すっかり雑草におおわれ、切り株の穴もなくなっていました。
 白いカメは、やはり空を見上げました。
 景色は変わったけれど、そこにはいつもと同じように、変わることなく、月が浮かんでいました。
 ウサギが杵をふりあげ、切り株が臼となって、一生けんめいおモチをついている月でした。

 ぺったん。
 ぺったん。
 ぺったん。
 ぺったん。

「ウサギさんと切り株さんは、どうしているだろうか。今なら月にいってもいいな」

 それから、しばらくすると、あらあら不思議、年老いた白いカメは月の光にくるまれて、気がついたら、真白いツルに変身していたのです。
 満月の夜のことでした。
 まぶしい月の光を体にまとい、白いツルが月に向かって飛んでいったことに、気がついた人など、たぶん、誰もいなかったでしょう。

 月々に、月見る月は、多けれど、月見る月は、モチつきの月。
 つるかめつるかめ、というお話でした。
読んでいただいてありがとうございました。

月にはツルもいるはずです。

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