第15話 旅の終わり
『地中海池』は何の変哲もない池だったが、『池』を散歩して得られた情報はそれなりに有意義なものだった。私の頭の中には、ジグソーパズルのピースがバラバラにあって、それが一つ一つ勝手にあちこちに散らばっている。そんな感じだった。小さな情報は少しずつ増えてきたが、全体像は一向につかめないまま。多分、まだ足りないピースが沢山あるのだ。
日程がずれ込んでの京都旅行。初日が曇天だったのはラッキーだった。次の日から、晴天。じっとりとした暑さには恐れ入った。いやはや、京都の夏がこんなに暑いなんて……。大徳寺の楓は青々としていた。秋はさぞかし綺麗なことだろう。是非、真っ赤に色づいた楓を見に、今度は秋の京都を楽しみたいものだ。いつになるのだろうか、私が秋の京都を歩けるのは。
景子に生八ツ橋と和紙で作られた小物をみやげに買って、私のちゃらんぽらん旅行は幕を閉じた。
帰りの列車の中、私は、窓の外を見ながら『モロオカコウイチ』について考えていた。
彼は本当に犯罪者なのだろうか。今ある小さなピースをかき集めると、モロオカコウイチは外科系の医師で地中海病院に勤務中に医療ミスを犯し、逮捕された経歴がある。そして、現在医師を辞めてコーヒー店を経営している。…という筋書きが見えてくる。そのストーリーは、私の中で、何度も頭をもたげ、そして、私はそのたびにそれを強く否定してきた。けれど、そのストーリーだと、全てがうまく説明できるのだ。
地中海病院を訪ねたことが果たして良かったのかどうか、私は少しずつ自信がなくなってきた。何も知らないままでいた方が良かったのかもしれない。何も知らずに、珈琲館”森”の一人の客として、純粋にマスターの淹れるコーヒーを楽しむことの贅沢。私は、その贅沢を自らの手で手放そうとしているのかもしれない。
いつまで、”森”に通うことができるだろうか。パズルのピースが全て揃ったとき、マスターに対する私の気持ちがどう動いているのか、それは、私が最も考えたくない類の想像だった。景子は、私の気持ちを『恋』と表現した。正直言って、ちょっとその言葉にドキッとした。4人家族の写真を見たときに複雑な思いに駆られたことも告白する。ただ、あの時は、事故を目撃した直後であり、タダでさえ興奮している状態だったから、そういう非日常の状態での気持ちを分析することは、あまり意味がないと思う。
彼の”謎”に惹かれていることだけは確かだが、同時に、その謎が解き明かされるのを恐れている、もう一人の自分も確かに存在する。いっそ、知ってしまった小さなピースをすべて捨て去ることができたら、どんなにいいだろうか。
無性に景子に会いたくなった。いつも一緒にいると疲れる友達だが、迷路に入り込んだ時、あのあっけらかんとした言動は、私を迷路から強引に引きずり出してくれる魔力を持っている。
”今日、帰るよ。八ツ橋買って来たから、夜うちに来ない? 佳代”
メールを打つ。列車の中からだと電波が届きにくいのだろうか。送信マークが消えるのにしばらく時間がかかった。
彼女からの返信。
”アキラと喧嘩した。むっちゃ腹立つ。八ツ橋をつまみにして今夜は飲むぞ〜”
今日は、景子の相手をしようと思った。マスターのことは忘れて、景子の愚痴を聞きながら、一緒に飲み明かそう。ほら、すでに、私は迷路から半分脱出している。明日は土曜日だった。バイトが入っている。バイトに支障が出ない程度に景子と飲もうと、そう思った。
今回は、一人旅で少しセンチメンタルになった主人公の一面をご紹介しました。
今日は、ペーパードリッパーの話を少し。
ペーパーでろ過する時に使う、あの、陶器、もしくは樹脂製の器具です。
使っておられる方も多いと思いますが、実は、一つ穴式と3つ穴式があるんです(実は、二つ穴もあるそうです)。奥が深いですね〜。
一つ穴式(メリタ式)は、一気に必要量のお湯を注ぎます。出口が一つしかないので、ゆっくりゆっくり湯が落ちていきます。
3つ穴式(カリタ式)は、一気にお湯を入れると、充分に抽出されずにさーっと出てしまいます。少しずつ分けてお湯を入れ、濃度を調節します。私は、これを使用しています。
それから、ドリッパーの内側にギザギザの凹凸がありますよね。あれは、お湯を注いだときに中の空気が逃げる逃げ道として大切な役割を果たしています。
最近は、円錐型のドリッパーというのもあるようです。
器具一つ取っても、話題が尽きません。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。