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アルバイター決死圏 作者:大滝よしえもん
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座天使作戦《オペレーション・ガルガリン》(1)

 自分というものが存在することに、何らかの意味があるのではないか?と考える奴は多い。

 いやむしろ、自分あってこそのこの世界、とまで考える奴さえいる。

 特に馬人機セントーロイド搭乗員パイロットなんてものは、その最たるものだろう。高いスキルを持ち、低空域では最強と言われる兵器を操り、絶大なる破壊力を発揮し……そこいらの「その他大勢」とはものが違うのだ、と自認しているし、実際それは自惚れというわけでもない。

 だが今、まさに今現在、四十四人のそんなそんな連中のうち、既に半数以上が次から次へと撃たれ、燃やされ、爆発し、この空に散ってしまった。もはや存在意義もクソもあったもんじゃない。
 その他大勢の雑魚たちどころか、炎を噴きつけられた羽虫の群のような、そんなつまらないあっさりとした死。
 かく言う四十五人目のこの俺、この羽虫のような精鋭たち、選抜部隊の中の一人。
 戦いで味方がどんなにくたばろうと必ず生還し、ついたあだ名が「シニガミさん」のこの俺ですら、何の抵抗もできず、ドラマティックな盛り上がりもなく、羽虫の一匹として燃やされるのは、遺憾ながら時間の問題のようだ……このままでいけば。

 敵は九機。型式名「座天使ガルガリン」、ラグエル・インターナショナル・プロダクツ(R・I・P)特製の「奴ら」専用の馬人機セントーロイド
 即ち攻撃ヘリコプターの後継となる新兵器、その一般には知られざる最高級機。「腕」を持つ上半身と「四脚」に見える下半身、ハッチンソン駆動機ドライブの暫定重力制御が、装甲車並みの防御力を持つこのメカを、時速三百キロ以上で低空飛行させる。
 こいつらの主兵装は、二十ミリや三十ミリの機関砲とか、イメージホーミング式誘導空対空ミサイルとかではなく、五十七ミリという大口径の機関砲。それも旧ソ連製のS-60、いや今いるこの国で作られたコピー品の方かもしれないが、ともかく最大一秒に二発の割合で発射できる「大砲」だ。

 主力戦車の正面装甲ならともかく、空を飛ぶような兵器の装甲で、これを喰らって無事で済むものなどありはしない。「ガルガリン」は人間、いやケンタウロス型兵器の胸にあたる部分にこれを搭載し、長い砲身が付きだしている。

 俺が今乗っている日本製で世界的ベストセラー機、天間精工製「ヤブサメ」の、元々非装甲のフレームに二十三ミリ弾になんとか耐えられる程度の装甲を施した、元々は民間の機体であるから当然として、二番目に多く見られる北欧開発で今のNATO標準機、ニーノルマン社製「インホーミング」、装甲板をモノコック構造に組んだ頑丈なボディの機体で、三十七ミリ弾にも耐えられる軍用機ですら、五十七ミリの前には紙細工も同然だ。

 しかし普通は、そんな反動が強烈で発射速度も遅い、まして誘導弾など無い「大砲」では、まず空中戦では当てられない。まっすぐ飛行してるだけの鈍重な大型飛行機ならまだしも、馬人機セントーロイドはヘリコプターよりも物理法則を無視したような(何しろ暫定とはいえ重力制御をしているのだ)激しい運動性能を持つのだし。

 ハンマーで飛んでいるハエをたたきつぶせるか?……ところが「奴ら」は今、正にそれをやってのけているのだ!文字通りの一撃必殺、馬人機セントーロイドが僅か一発の被弾で次々に墜とされる悪夢の光景、とても信じられない。

 たったの九機、九機しか作られていない、これを乗りこなせる超人的な搭乗員も九人だけ。仕事の依頼主たる会社の見積もりでは、四倍の戦力で確実に殲滅可能、だった。そしてさらに大事を取って五倍の戦力を投入したわけだが、冗談じゃない、見積もり大失敗だ。この戦力差でありながら、一方的に叩かれ消耗しているのはこっちの方なのだから。

 腕が違う。戦術が違う。機体の性能が違う。

 そんなレベルじゃ計り知れない何かのもたらした結果が、この絶望的な撃墜対被撃墜比率キルレシオなのだ。戦意旺盛なベテランたちが圧倒的な数で攻撃を掛ける、そんな正攻法が通じない。座天使ガルガリン戦車メルカヴァーの力を、自分たちの馬人ケンタウロスを基準に想定したのがそもそもの間違いだったのだ。

 例えるなら九匹の虎を、四十五匹の猟犬だけで狩ろうと言うようなものか?それも虎を仕留める本命の、鉄砲を持った猟師ハンターなどいない状況下で。「奴ら」以外の存在が、まさに今、この空から消えようとしている。


存在意義ってのは誰かに与えられるものじゃない。まず存在する者自身が生み出し、それが周りから認められるもののはずだ。

だから俺はいつものように、存在を続けるための努力ってヤツをすることにした。


 * * *


 そこで目を覚ます。

 ひどくリアルな夢を見たような気がする。しかも相当に悪夢なやつを。
 窓のないこの部屋、というか軍用の将校向け野戦シェルターを転用した、俺たち「アルバイター」用のアパートの一ブロック。共用空調設備の効きすぎなのかいつも空気が乾いていて、喉が少し痛い。

 ショボショボする瞳を無理に開いて周りを見れば、側のディスクに載ったパソコンのモニタの電源は入れっぱなし、部屋の電灯も点きっぱなし、どうやら昨夜の調べ物の途中で力尽き、横になって少し休むつもりがそのまま爆睡、すっかり朝になってしまったようだ。

 「あっ起きたぁ?」
 横になってる俺の足下の方で、いきなり女の声が聞こえた。俺が横たわったベッドに腰掛け、テーブルの上に乱雑に積み上げられ漫画本の一つを手にしたそいつは、ショートボブの黒髪にちょっとそばかすの残る丸顔の若い白人娘。
 先に断っておくが、こいつと何か色っぽいナニかがあったわけじゃない。それは強く否定する。だいたいこいつ、美人とまでは言わないが、若くてまあまあ可愛い部類の顔だというのに、朝っぱらから眼鏡の下の目にクッキリと黒い隈。肌は脂でテカテカといろいろ台無し、ナニかやろうという気分じゃない。

 「オタちゃん、あんたそれ一晩中読んでたのか」
 明らかな疲れは見えるが、少し血走った眼に歓喜と興奮、あとちょっと狂気っぽい色を浮かべたそいつが応える。
 「宝の山だったわよ!古い作品なのに止められない止まらない、何でこんな所にこんなに傑作がどっさり?!」

 そいつを聞きたいのは俺の方だ。昨夜の家捜し中に発見された、床下収納庫の段ボールに詰め込まれた、二百冊以上はある漫画の山。これを見たとたん、夕方から調べ物を手伝うとか言って押しかけてきていたこの娘、これは研究に値するとか何とか言って、それから十二時間以上読みふけっていたようだ。
 流石名前がオタだけのことはある……いや、正しくはオッタビア・マンガーノとかいう冗談みたいな名前のイタリア娘。

 「マンガーノ」ってのは日本人からすると昔のギャグ漫画に出てきそうな、適当にでっちあげた苗字のように思えるが、大昔ニューヨークにいた有力マフィアのファミリーとか、イタリアの有名女優の姓でもあり、普通のイタリア名なんだそうだが。
 何でも高校生の時に交換留学で日本にいたことがあり、小学校レベルの漢字も読めるので、日本語の漫画も楽しめるんだとか。やはり名前が名前だけに級友から「オタちゃん」とか「マンガさん」とか呼ばれていた上、実際その手の趣味の持ち主だったので、本人も嫌がるどころか面白がってそう呼ばせていた……と、別に俺から聞いてもしないのに、昨晩こいつが勝手に語ってくれたのだが。

 「つうか君、最初っからこの部屋からその手のブツが出てくるのを期待して押しかけたんじゃね?俺が日本人だから」
 「ぎくっ」
 日本語で漫画の擬音を口にするイタリア人なんて初めて見たぞ。
 「いやいや、これは重要なことだよ小林君」
 だれが小林君だ、明智小五郎気取りか?いくら日本の作品に詳しいとはいえ、お前はその若さでポプラ社の少年探偵シリーズの読者なのか?同じ古典でも「ワトソン君」の方がグローバルスタンダード、他所の国でも通じるネタだろうに。

 「何故一人暮らしの男の部屋の床下に、漫画でいっぱいの封印された箱が?しかもかなりの割合で少女漫画、さらには同人誌、しかもやおい本……謎ですな、謎が一杯ですなぁ~ぐへへ」
 ぐへへとか笑うイタリア娘も初めて見た。そして今気付いたが、この女、腐女子くさってやがる。いや少年探偵団をネタにした段階で気付くべきだったか。

 「俺が知るか!いつからそこにあったんだか、誰が持ち込んだのかもわからねえってのに」
 「ここ宛の国際郵便のラベルが付いてたじゃん。見た感じ直接郵送されてきて、そのまま封も開けずに置きっぱになってたっぽいけど」
  腐女子のくせにちゃんと観察してたようだな、こいつ。
 「さあ吐け、ネタは上がってるんだ!」
 今度は刑事気取りかよ、ノッてきたバカって非常にウザい。
 「わかるかっつうの!そもそも俺の記憶が無いから、こうしていろいろ調べてたんだろうが!」

 *

 記憶がない。

 正確には自分自身に関する記憶だけがごっそり抜け落ちている。
 記憶喪失者のお決まりの台詞と言えば「ここは何処、私は誰」。しかし俺の場合、「何処」の方は問題ない。ここはかつて世界一人口の多かった共産主義国家の跡、その西南の海岸線にある都市の一つだった場所。具体的に国名を挙げなくてもわかるだろ?現在では「租界」と呼ばれる場所の一つであること、それはしっかり覚えている。

 そして十年程前におこった三つ巴の内戦と、不利になった側がヤケになって始めたBC兵器の使用、それに対する報復攻撃、また報復…結果、人口密度の高い、国の東半分に住んでいた十億以上、その大半が死に至るという、SF映画や漫画や小説で描かれた最終戦争の如き、わかりやすい地獄絵図。そして被害を免れた少数民族自治区の独立と、国家の完全崩壊を招き、沿岸の一部を除き無人の荒野と化したこの地域、おまけに周辺諸国にまで結構な被害が……それは覚えている。覚えてはいるのだが、余りにも酷い状況だったので、俺もこれ以上語りたくないし、誰だってあえて聞きたくも無いだろう。

 とりあえず記憶を無くした原因は、入院先の医者から聞いてわかっている。
 頭部を強打、正確には操縦してい馬人機セントーロイドの不時着時に、シートベルトをしっかり着用していなかったのか、計器板をたたき割る勢いで顔面を突っ込んだことによる脳震盪、顔面の打撲と裂傷、鞭打ち症、全治一ヶ月。

 これで脳に深刻な何かがおこったことは間違いないだろうが、それにしても失った記憶が自分自身に関すること「だけ」、というのは実に不思議だ。脳内に「自分の関する記憶」専用の本棚があって、そこだけが小火で焼けてしまったという感じか?
 幸い仕事中の事故だったので、雇い主の会社にあった登録情報から、自分が何をやっている何という名の男かだけは知ることが出来た。

 それによると俺の名は「遠城えんじょう大葉たいは」、名前からして日本人なんだろう、そもそも日本語を話せるわけだし。職業「アルバイター」……だ、そうだ。
 日本で「アルバイター」というと、英語で言う「パートタイマー」、非正規労働者のことだが、この場合それは間違っていない。語源であるドイツ語だと肉体労働者、ブルーカラーのことで、これまた間違っていない。だけど今この場における本当の意味は、企業に雇われて租界の外にある「死界」で様々な汚れ仕事を行う、民間軍事会社契約社員、つまりフリーの傭兵みたいな者たち、その通称なのだから。

 どうやら俺はその仕事の最中に、操縦する機体を攻撃され被弾、前述のような大怪我を負ってしまったようだ。しかしまた幸いなことに、その時に俺に助けられたというアルバイター仲間、すなわちオタちゃんと、その相方である「アニキ」のコンビが色々世話をやいてくれたので、こうして自分の住み家(と言われた場所)に戻って社会復帰の努力中というわけだ。

 会社が教えてくれたのは、俺の名前と給与の振込先の銀行がどこかくらいなもので、後は個人情報だから教えられないとの一点張り。本人に教えられないとはどういうことか、と係の者に詰め寄ったのだが、規則だから、また登録時の写真と俺の顔が相当変わっているので、まずは本人だと証明できてからだ、と突っぱねられた。そりゃ仕方ないわな、オタちゃん曰く、
 「ヒゲボーボーだったしサングラスだったし、素顔全然知らなかったし」

 なんでも俺は1970年代のヒッピーみたいな長髪髭面だったそうで、仕事仲間でもその下の顔を知ってる者はいなかったんだとか。その上、不時着の際に顔面を派手に傷つけ成形手術までしているので、今の顔が本当に元の顔に近いのかも怪しい、すごく怪しい。間違ってそのヒゲさんと今のこの俺が入れ替わったとかじゃね?と疑ってしまう。

 もっとも俺がアルバイター登録していた会社では、殉職者の遺体が激しく破損していてもそれが誰なのかわかるよう、登録情報に「ポリメラーゼ連鎖反応法DNA鑑定」を採用していた。後になってこれが完全に一致したと判明したというのだから、間違いなくその「遠城大葉」さんとやらなのだろうな、この俺は。

 俺は立ち上がって洗面台に向かう。うがいで喉の痛みが少し治まり、冷たい水で顔を洗ってようやく脳が目覚めてくる。前にある鏡をのぞけば、そこに丸刈りに近い短髪の男の顔。
 なんというか…これが映画やドラマに出演する俳優であるならば、「暴走族の特攻隊長」「街のチンピラの兄貴分」がはまり役といった感じのご面相だ。細い眉、切れ長の一重まぶたで目つきは無駄に鋭いわ、やせ気味で青白いくらいの肌は酷薄さを感じさせるわ(いや記憶が無いので本当に冷たい奴だったのかどうか知らんが)、加えて手術跡に沿ってハゲたのが、剃り込みみたいになってしまったし。

 試しにちょっと、上から睨め付ける角度で鏡越しの自分を見る……ヤベえぇ、怖いわこの人。今度は下からガンを飛ばしてみる……すんません、今ボクお金持ってないんです、とか思っちゃったっぞ、俺!
 本当に元からこんな顔だったのかよ、整形外科の担当医さん?髪を刈られたのもヒゲを剃られたのも手術のためで、肌が青白いのはヒゲで隠れて日焼けしてないせいなのだろうが、ヒッピーからヤンキーに変身とは、いくらなんでもキャラクター変わりすぎだろ。

 「え?わりとクールじゃん。『実録!荒川土手爆走連合』の主人公っぽくね?」
 「漫画のキャラクターと比べんな!しかも明らかにヤンキー物かよ、マガジンかチャンピオンの連載っぽいな、それ?」
  漫画ならジャンルを問わずに何でも読んでやがんのな、このオタは。

 「というか俺、実年齢はいくつなんだろ?会社はそんなことすら個人情報ガー、守秘義務ガー、って教えてくれなかったんだが」既に本人だと証明されてるのに、融通が利かないにも程があるだろ。
 「アジア人の年齢って見た目じゃよくわかんないのよね。白人基準だと二十歳いってないように見えるんだけどぉ」
 「イヤイヤそりゃねえだろ、アルバイターの採用基準は二十歳以上のはずだし。」年齢を偽って志願、とか今の日本じゃ難しいだろうしな。

 「ヒゲ剃ってサングラス取ったら思ったより全然若い、ってアレだよね、アルバートさんみたいな」
 「アルバート?誰……あ~……アレか!『キャンディ・キャンディ』、ウイリアム大おじさま」
 こいつはそんな古い少女漫画まで読んでいたのか、と思ったら、イタリアでアニメ版を放映していて、その再放送で見たんだとか。
 「それより大葉タイハの方がそれ知ってることの方が不思議だわよ、昔の少女漫画じゃん。」

 そのとおり、オタが読んでいた漫画単行本の中でも、描かれたのが一九七〇年代、八十年代の古い作品の表紙を見ただけで悉く、どんなストーリーだったのか記憶があるんだよな。仮に小学生の頃にリアルタイムで読んでいたための記憶なら、俺は今、五〇を超えてることになっちまうんだが……いやいや、いくらなんでもそれはねえぞ。
 中年にしては体に無駄な肉が全くないし、顔に皺もないし。おそらくは古い作品が好きで集めていたのだろうが、しかし少女漫画とやおい本は何なんだ?明らかに今の俺の好みと違うし。それとも記憶を失う以前は美少年大好きだったのか?

 「つきあってる女の人とかいなかったようだし、でも男が好きって噂も聞かなかったわねぇ。というか基本一人でいたような。実際あたしらもこの間助けてもらうまで、大葉タイハのこと、眼中に無かったし」
 「なんかそれだと友達すらいなかったんじゃね?俺」
 「Aフォンのアドレスはどうなってんの?」
 Aフォンってのはアルバイターに契約企業が連絡用に支給してる情報端末兼携帯電話で、本当はもっと長く語呂の悪い正式名があるはずだが誰もそう呼ばず、某スマートフォンのパチ物みたいな通称で通っている。

 「電話番号……メールアドレス……少ねえな、会社とアルバイター連中と、あと『ハーゲンズ』?ってこれ、仕事関係しか見あたらんぞ」
 実家の電話番号らしいのすら見あたらない!もしかして俺って天涯孤独?ちょっと悲しくなってきた。ちなみに「ハーゲンズ」ってのはアルバイターが使う各種機材と、そしてここのオヤジの趣味でもある自転車を扱う店だから、やはりプライベートではなく仕事に関係しているんだと思われる。

 「店の常連だったのなら、ハゲさんが何か知ってるかもよ?」
 ハゲさんというのはドイツ人店主・ハーゲン氏のこと。この人スキンヘッドなものだから、オタちゃんは日本語でのダジャレのつもりでもなく、見た目まんまでハゲさんとあだ名しているようだ……嗚呼、こんな他人のどーでもいい情報は記憶にあるのに、なんで俺自身の記憶が無いのか。

 ちょっと絶望的になっていたところに、部屋のドアをノックする音が聞こえた。ドアを開けずに防犯用のレンズをのぞき込むと、女の下顎と首しか見えない。近すぎる上にデカい、ということは
 「やあ、おはよう『アニキ』」
 「『アニキ』ではない、アンニッキだ。」
 と答えたのは、長身で金髪のフィンランド女、アンニッキ・トゥーッカネン。年齢は見た感じ二十代半ばくらいか?聞いたことがないのでよくわからんのだが。

 この人は背が俺より高く体格も良く、見た目も態度もやたらキリッとしており、もし日本人だったら、宝塚歌劇団で男役を演じるのにピッタリな感じだ。なのでつい「アネキ」ではなく「アニキ」と、または「ヅカさん」と呼んでしまう。もっとも日本語をあまり話せない彼女には、意味がわからんだろうが。

 「昨晩オッタが帰ってこなかったのだが、もしやここに泊まっていたのではあるまいな」なんだか詰問するような口調である。
 「泊まると言うより、一晩中漫画読んでたぞ、あいつ」とりあえず俺は正直に答えた。
  「何かヤッたのではあるまいな!」
 あ、なんか疑われてる。なんでもこのアニキ、女色レズというか両刀バイなんだそうで、同僚のオタちゃんに対してもその気があるらしい。

 そこで俺は彼女をおちつかせるため、より正直に、丁寧な口調で答えた。
 「正直申し上げて当方が、彼女を前に『勃つ』のは極めて困難かと思われます」
 「今、女としてモーレツに侮辱された予感ッ!」
 話声が聞こえたわけでもなかろうに、女の感だけでオタが叫んだ。

 「おや?」唐突に、ここにいる三人のAフォンのメール受信音声が同時に鳴ったのだ。
 「『会社』の新しい仕事のブリーフィング予定だわね」一番早く文面を確認したオタちゃんが言った。
 「報酬、守秘義務レベル共にAAA+……だと?」アニキの表情が一層険しくなった。
 俺の脳に残された中途半端な記憶は、それは「内容説明を受けた段階で、この仕事を拒否する権利無しの、トップシークレットのヤバい仕事」だと告げた。 (続く)
構想だけは何年も前からあったシリーズ、唐突に第一話ができあがったのでアップ
細かい部分を殆ど考えてない行き当たりばったり展開のため、更新は同時に書いてる「パイリン・ザ・ゴーレムマスター」より、更にスローペースになると思われます
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