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ガーベラ

作者:藤夜アキ
「僕には分からないな」
 夕焼け空が綺麗でした。
 ユキくんの顔も綺麗でした。
 ユキくんの言葉だけがとても否定的で、それなのに綺麗で、私は泣きそうになりました。
「カナの気持ちを分かってくれる人の方が、カナを幸せにしてくれるよ」
 それが最後の言葉で。
 翌月に私がユキくんと話したのは、ユキくんのお墓の前でした。

 ユキくんはいつも、本を読んでいました。
 本が嫌いな私には、国語の教科書で見たような作者以外はさっぱりで、それすらも朧気だったから、当然ユキくんは本が好きな人、としか思えませんでした。
 けれど、今から思えば、ユキくんは本が好きだったのではなくて、本を好きになりたかったんだと思います。
 あの物悲しそうな瞳は、何かを好きになりたいと願う、か細い命でした。
 ユキくんは私の傍にずっといてくれましたが、その実、心の底から愛せる人を探していたんじゃないかと、優しい過去にかこつけて思います。
 きっと、この世に生まれ落ちたことを後悔していて、だから、ここにユキくんは眠ってしまったんでしょう。
 大学の食堂で、好きなものについて語り合う二人を見て目をそらしたのは、それが疎ましかったからではなく、それが羨ましかったからなのだと、どうしてユキくんがいなくなってから分かるんでしょうか。
 私が映画についてたくさん語ったのを、ユキくんはどんな気持ちで聞いていたのか。考えるだけで、ユキくんに申し訳ない気持ちでいっぱいで、いっぱいで。
 何物をも真剣に愛せない。
 それが、ユキくんの悩みでした。
 何かを好きになれること。
 それが、誰かの好きを上回ること。
 それが、一定の基準を満たすこと。
 ユキくんはずっと、何をも好きになれなかったと、苦しんでいたんでしょう。
 ユキくんが口にした別れ文句。
 最後まで、その苦しみを言ってくれませんでした。
 最後まで、私はユキくんに言わせてあげられませんでした。
「ユキくん……私ね、ユキくんが好きだったもの、知ってるよ」
 ユキくんを見ていたのに。ユキくんを愛していたのに。
「ユキくんはね、花が好きだったよ、海が好きだったよ、雨の日が好きだったよ、黒い靴が好きだったよ、ミステリーが好きだったよ、夕焼け空が好きだったよ」
 ユキくんのココロまで、見つめ切れなかった。
「人と比べなくて良いよ。語ってくれなくて大丈夫だよ。私、知ってるよ、知ってたよ、ユキくんがそれを見た時、私を幸せな気持ちにしてくれる顔になるのを、私は愛おしく想ってたよ」
 私も、ユキくんも、手を繋いで映画を見ている時、何も言いませんでした。
 二人とも、間違っていたと思います。
「だから、戻ってきて……戻って、きてよ、ユキくんッ……」
 ユキくんの想いは、ユキくんにしか決められません。
 でも、その助けくらいには、なれたはずだから。
 私はこの悲しみを背負って、生きていかなければなりません。
 ユキくんの愛した花々が、今日も私を待っています。
認めてあげたいよ。

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