挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

ブックマークする場合はログインしてください。

短編

ユキダルマン(「冬の童話祭2015」参加作品)

作者:伊藤大二郎
 ユキダルマンは雪だるまです。
 でも、ただの雪だるまではありません。
 ぴょんぴょんはねて、物だって持てる、動く雪だるまなのです。

 神社の近くに住んでるチカちゃんが作りました。
 一年の終わりの大晦日の日に、小さな手のひらで丸めた雪玉二つ。
 その雪玉二つをくっつけて、小さな葉っぱを貼り付けて、木の枝をさした、ちょっと笑い方に失敗している雪だるまです。
 年が明けて、チカちゃんはお父さんとお母さんといっしょに初詣に行きました。
 神社の境内では、雪だるまが笑い方に失敗した笑顔でこっちを見ていて、溶けずに待っていてくれたことが嬉しくて、笑いました。
 さて、お参りです。お賽銭を投げて、手をパンパンとたたいてお願いごとをします。
 特にお願いしたいこともなかったので、チカちゃんは「どうかみんなが笑って過ごせますように」と心の中で思いました。
 優しい女の子だったのですね。

 さて、その光景を見ていた雪だるま。
 自分を作ってくれたチカちゃんに恩返しをしたかったので、神様に頼んでチカちゃんのお願いごとをこっそり教えてもらいました。
「どうかみんなが笑って過ごせますように」
 と、チカちゃんはお願いしたそうです。優しい子です。
 そこで雪だるまは、皆が笑って過ごせるように、人々を見守ることにしました。
 長い年月が過ぎた物や強い想いが込められた物には、魂が宿って勝手に動き出すというお話を、きいたことはありませんか?
 実は、世界中にそんなお話はのこっているのです。よくあることなのです。
 だから、チカちゃんのユキダルマが動き出しても、よくあることなのです。
 人が誰かのために御祈りしたその願いを核に集合した雪の結晶体
 雪だるまは、ユキダルマンになりました。

 ユキダルマンはチカちゃんの小さな手のひらの上で作られた小さい雪だるまなので、できることはそんなにありません。
 朝寝坊しているケンタ君の家に行き、窓にこっそり雪玉をぶつけてケンタ君を起こしたり。
 一人暮らしのタミおばさんの家を夜中こっそり訪れて、中庭にこっそり雪だるまを作ってみたり。
 チカちゃんが小学校からの帰り道、雪に滑ってこけないか見守ったり。
 案の定、滑ってこけたチカちゃんが泣きそうになった時は、こっそり「泣かないで」と言ってみたり。

 そんなことをしている内に、春が来ました。
 雪だるまは溶けてしまいました。
 ああ、嫌だなあ、なんてユキダルマンは想います。
 でも、雪だるまですから、溶けてしまいました。
 僕はチカちゃんのお願いを叶えられたのだろうか、なんて考えているうちに、ユキダルマンの眼の前はまっしろになりました。


 さて、次の冬のことです。チカちゃんが、去年の冬に作った雪だるまのことなんて忘れてしまって、滑ってこけて泣きそうになった時、誰かの慰める声が聞こえたような気がしたこともすっかり忘れてしまった冬。
 誰かがどこかで雪だるまを作りました。
 ミキちゃんかもしれません。コウスケ君かもしれません。
 その雪だるまはとても大きくて、子どもの身長と同じくらいの背丈で、頭にバケツを被って、大きな石の目玉が埋め込んで、太い木の枝の腕を持っていました。ただ、口はつけてもらっていません。
 子どもたちは雪だるまを作ると、どこかへ去って行きました。たぶん、寒いからお家に帰ったのでしょう。
 それからしばらくして、雪だるまの前を、一人の女の子が通りました。
 見る人が見れば、小学校を卒業して少し大人になったチカちゃんだとわかるかもしれませんが、とりあえず、今は一人の女の子です。
 その子は雪だるまを見て、何を想ったのか、その辺に落ちていた木の棒で、雪だるまに口を書いてあげました。とても下手くそなデキでした。でも、なんとなく、その笑った口元があのユキダルマンにそっくりでした。

 長い年月が過ぎた物や強い想いが込められた物には、魂が宿って勝手に動き出すというお話を、きいたことはありませんか?
 実は、世界中にそんなお話はのこっているのです。よくあることなのです。
 だから、溶けた雪だるまの想いが時間を越えてそこに残っていても、よくあることなのです。
 人が誰かのために御祈りしたその願いを核に集合した雪の結晶体
 雪だるまは、ユキダルマンになりました。

 自分を笑顔にしてくれた女の子は、今も家族の幸せを祈っているようです。
 少しだけ大きくなって、パワーアップしたユキダルマンはさらに頑張りました。
 神社に初詣に来た親子連れのベビーカーが通れるように、こっそり段差をセメント工でバリアフリー化しました。
 寒さに手をかじかませている人がいたら、こっそり風上に立って風をさえぎりました。
 ストレスで飲み過ぎて足元がふらついているサラリーマンに、家まで付き添ったりもしました。
 チカちゃんが高校受験を控えているようなので、受験日が晴れるように必死にお祈りもしました。

 そんなことをしていたら、また、春が来てしまいました。
 いくら大きくなったと言っても、雪だるま。溶けました。
 さて、最後の時に、ユキダルマンは想いました。
 もっと大きければ、もっと人を助けたりできるのだろうか。


 次に目を覚ました時は、冬山のコテージでした。神社でも、町中でもありません。
 スキーに訪れた若い男女が、作ってくれた雪だるまが三代目ユキダルマンのようです。
 窓からログハウスの中をこっそり覗くと、どうやら大学生になったチカちゃんのようです。
 チカちゃんの隣にいる野郎がどこの馬の骨かと……、おっと言葉が汚くなりました失礼。
 チカちゃんは、目の前にいる人の幸せを何より願っているようです。

 長い年月が過ぎた物や強い想いが込められた物には、魂が宿って勝手に動き出すというお話を、きいたことはありませんか?
 実は、世界中にそんなお話はのこっているのです。よくあることなのです。
 人の幸せを願う人がいる限り、その想いに応えるために。
 人が誰かのために御祈りしたその願いを核に集合した雪の結晶体
 雪だるまは、ユキダルマンになりました。

 雪山で遭難した人を見つけやすいところまで引っ張って行ったり。
 路面が凍ってスリップした車が壁に衝突しないようにクッションになってみたり。
 屋根の上に積もった雪が雪かきしやすいように夜な夜な切れ目を入れてまわったり。

 そして、春が来て、溶けました。


 次の冬、病院の中庭にユキダルマンはいました。
 入院し、ベッドで一人泣いている男の子が喜ぶように窓の外にダイヤモンドダストを降らせてみました。そんなこともできるようになったのです。
 高熱でうなされている女の子の額に氷で冷やしたタオルをあてて冷やしてあげました。
 その、のっそりとした人影が看護士さんに見つかって悲鳴を上げられそうになったこともありました。

 そして、春が来て、溶けました。


 次の冬、全然知らない町の公園にユキダルマンはいました。
 火事が起きて、逃げ遅れた人を助けに行って、生まれたその日に溶けてしまいました。


 次の冬、地震で家が崩れた町の中にユキダルマンはいました。
 雪だるまには何もできずに、春が来て、ユキダルマンは溶けました。


 次の冬、どこかわからないところにユキダルマンはいました。
 去年いた町を探し出し、サンタのコスプレをしてプレゼントを配りました。
 プレゼントのセンスに難ありでした。


 ユキダルマンは、みんなが笑って過ごせるように、見守ってきました。
 それから、どれだけの冬と春が来たのか、数えなくなってしまった頃。
 ユキダルマンは、気がつくとある神社の境内にいました。
 覚えがあります。
 最初に、小さな小さな雪だるまだった時に、ここで、チカちゃんが。

 ふと、目の前を見ると、そこにチカちゃんがいました。
 もう、あの日から、どれだけの月日が経ったのでしょう。
 もう、立派な大人の女の人です。
 そして、チカちゃんの隣には、小さな頃のチカちゃんそっくりの女の子。
 チカちゃんは結婚しました。子どもも生まれました。
 どうやら、今年は、チカちゃんと旦那さんと娘さんとで初詣にきたようすです
 ユキダルマンは毎度おなじみ、チカちゃんが神様にどんなお願いごとをしたのか訊いてみました。


「どうかこの子が他人の幸せを願える心の豊かな人になってほしい。何より、この子が幸せになってくれますように。この子を包む世界が幸せな世界でありますように」


 ユキダルマンは、人が誰かのために御祈りしたその願いを核に集合した雪の結晶体です。
 動き続ける限り、想いが続く限り人を見守り続けます。
 そして、春が来て溶けます。

 もし、助けを求めても誰も来なかった人、ごめんなさい。今年は間に合いませんでした。
 もし、不思議な何かに助けられた経験がある人。お願いがあります。
 どうか、周りの人達を助けてあげて下さい。
 ユキダルマンは、全ての季節対応に、サクラマンやスイカマン、モミジマンにも協力を仰いでいますが、彼らだけでは全ての人を助けることは無理なようです。

 ユキダルマンなんているわけねーだろ、という科学的常識を持つ皆さん。
 ユキダルマンはいるんです。ただ、力が足りないだけで。
 だから、お願いです。お互いの幸せを願うことは正しいことだと証明するために、ユキダルマンは今日も動いています。

 もし、あなたが夜ちょっと体が溶けかけてるユキダルマが走ってるのを見かけても、警察に通報せず、心の中でちょっとだけ、ちょっとだけでいいから「ユキダルマンがんばれ」と言ってあげて下さい。
 そして、周りの人達に優しくしてあげてください。

 

評価や感想は作者の原動力となります。
読了後の評価にご協力をお願いします。 ⇒評価システムについて

文法・文章評価


物語(ストーリー)評価
※評価するにはログインしてください。
感想を書く場合はログインしてください。
お薦めレビューを書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ