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妖怪の山の半妖譚 作者:天狼星
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第四話 周章狼狽

「えっと、白さん?」
「…………呼び捨てで構いません、現人神様」
「そ、そうですか?」
「はい」
「……えぇっとですね」
「…………」

 正座を崩さないまま、黙って次の言葉を待つ。しかし眼前の風祝様は中々語ってくれず、むしろ私の顔色を伺っているような素振りさえ見せてくる。
 これはあれか、妖獣たる私に対して畏敬の念をとかそんな――

「……白、大丈夫ですか? そんなに怯えなくても平気ですよ」
「にゃ、にゃにを仰いますか、文さん。おおお怯えてなんかいませんよ」
「じゃあそのいつでも駆け出せる体勢をやめて、耳もきちんと立たせなさい」

 それは無理。

「そこまで怯えられるいわれはないと思うけどなあ。何がそんなに怖いの?」
「諏訪子のその脅しじゃない?」
「うっさい。これは脅しじゃなくて質問だって。私より神奈子の横暴さが怖いんじゃないのー?」
「……文さん、が」
「え、私ですか?」
「文さんが、当代の博麗の巫女は凶暴で、白黒の魔法使いは強奪を行うから博霊神社には近寄るな、って以前言ってて……」
「「おい、ちょっと面貸しなさい(せよ)」」

 この神社に来る人間は危険だとしきりに言っていたので、無意識のうちに恐怖しか感じなくなってしまったらしい。今まではなんとも無かったのに、人型になった途端、背中にゾワゾワとした得体のしれない感覚が走った。
 妖怪に関しても神社に来るのは強い存在ばかりらしいので、あまり近寄りたくないと思うのは至極真っ当なことだと思う。

 文さんが紅白の服を着た人と黒い服を着た人――おそらくは今代の巫女と白黒魔法使いだろう――に引き摺られて消えて行くのを見送り、もう一度守矢神社の面々を見る。
 やはり強者の圧力とでも言うのだろうか、あの二人がいなくなると幾分か気持ちにも余裕が出てきた気がする。
 唯一の顔見知りである文さんがいなくなったのを補って余りあるくらいなので、あの二人の強さが知れるというもの。絶対に敵には回したくない。

「ちょっとは落ち着いた? ま、改める必要もないかもしれないけど一応言っとくね。私は洩矢諏訪子。守矢神社の祭神だよ」
「同じく祭神の八坂神奈子だ」
「風祝の東風谷早苗です。そ、そんなに怯えなくても……」
「この流れでいうのもあれだけど、私はアリス・マーガトロイド。魔法使いよ。さっきはごめんなさいね」

 最後の二人――前者は人間という理由で、後者は先程の攻撃で――が自己紹介をした際、思い切り体が震えたのがバレてしまったらしい。
 ガチガチに緊張している体を持て余していると、そっと頭に手を乗せられた。

「よしよし、落ち着こうか。ゆっくりでいいから」

 言いながら、いつもと変わらない手付きで頭を撫でてくれる諏訪子様。その行動に私の心も段々と落ち着いてきて、巻き込んでいた尻尾が左右に揺れるほど冷静になってから、私も自己紹介をした。
 諏訪子様は満足そうに頷いて離れていったので、お返しとばかりに。

「ぅ、っひゃあ!?」

 頬を数度舐めた。親愛的な意味で。

「ちょ、ちょっと!? 何してるんですか!?」
「? ペロッと舐めました」
「いやそうですけど……。お、狼って犬と同じよう行動するんですかね……?」
「育った環境にもよると思うけどね……。あー、びっくりした」
「?」

 してはいけない行動だったのだろうか。
 山の知り合いにしても何も言われないんだけどなあ。

「白……。それ、山以外ではしないほうが無難よ……」
「文さん。何だか焼き鳥を彷彿とさせる様相になってるんですけど、大丈夫ですか?」
「あーまあ、何とかね。本当、あの三人は人間のくせに容赦無いんだから……」
「いやいや、今のは正当な行為だ。さっきのは立派な中傷だろ。私は何も盗んでないぜ」

 折檻が終わったのか、文さんともう一人――魔法使いが戻ってきた。
 何をされたのか文さんはボロボロだ。けど妖怪なので身体的な怪我は放っておいてもいいだろう。茶飯事だ、あのくらいは。

「だったら私の魔導書返しなさいよ」
「死ぬまで借りてるだけだ。死んだら返す」

 その発想はなかった。なんという超理論。
 そのままアリスさんと話し始めた様子を見るに、二人の仲は良さそうだ。しかし言葉の端々に棘があるので実際はそうでもないのかもしれない。感情読むのって難しい。

「あ、あの、白さん?」
「呼び捨てでいいです。神様に敬称を付けられるのは慣れてません」
「は、はあ、分かりました。……いや、それよりなんで黙っていたんですか?」
「妖獣だということを、ですよね。んー……文さんの言う通り面倒だったのと、あとは時機です」
「時機?」
「一風変わった動物として認知されたので、もうそのままでいいかなあ、と」

 別に不都合はなかったし、そのうち分かるだろうと思っていた。
 山にいる神様とは懇意にしているが、神奈子様たちのような神社に祀られている神様は初めてだったので緊張していたというのも勿論ある。

「まあつまり、私達を騙してたってことだよね?」
「本当に申し訳ありませんでした」

 それはそれはニコヤカな笑顔の諏訪子様に向かって土下座をした。
 自尊心? なにそれ鉄の輪より数倍美味しいでしょ?


* * *

「さっきは悪かったな。私は霧雨魔理沙だ。普通の魔法使いだぜ」

 魔法使いの時点で普通じゃない気がしなくもない。

「私は白といいます。よろしくお願いします」
「別に呼び捨てでいいぜ。私も白って呼ぶからさ」
「いえ、私は敬語のままで。こっちのほうが慣れているので」

 幼い頃から父に年上には敬語を使うように言われてきた。が、住んでいる場所が場所なので年下は中々いない。なので自然と誰に対しても敬語で話すようになった。
 魔理沙さんを含め、人間の方々は私と同年代だろう。久しぶりに年が近い人を見た気がする。

「そうか。まあ、慣れてきたら外してくれて構わないぜ」
「あはは……。まあその内に」
「魔理沙、あんまり困らせないであげなさいよ」
「なんだよ、別に何もしてないだろ?」
「しそうだから言ってるのよ」

 ため息を零しながらアリスさんが言った。
 その言葉にはなんだか経験者の重みがあるように感じられた。

「人を厄介者みたいに言うなよ。ただ少し、尻尾を触らせてもらおうと思ってるだけだぜ」
「……あんたねぇ」
「なあ、いいだろ?」
「……乱雑に扱わないのであれば」

 そう言ってから後ろを向いて尻尾を差し出すと、魔理沙さんは目を輝かせて飛びついてきた。ここまで喜ばれると私も悪い気はしない。

「アリスさんも要ります?」
「え? ……いいの?」

 魔理沙さんに掴まれていない一本を目の前で揺らすと、やはり好奇心が疼くのか触りたそうにしてきた。私も小動物なんかを見ると撫でたい気持ちになるので、それと同じようなものなのだろう。気持ちよさそうだもんね。

「構いません。でもあんまり強くは握らないで下さいね」
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
「どうぞー」

 遠慮しがちに私の尻尾を撫でてくる。雛さん以外にこんな風に撫でてくれる人はいないから新鮮だ。

「うわ……すごく肌触りがいいわ」
「藍にも負けず劣らずだな」
「……藍?」
「九尾の狐で、とある妖怪の式になってる奴がいるんだよ。そいつのことだ」

 九尾の狐? 思いつくのは白面金毛だけど……まあ、九尾だからと言って同一であるとも限らない。

「今、その方はいらっしゃるんですか?」
「主である妖怪が来なければ、必然的にあいつもここに来ない」
「そうですか……」

 今の私の尾の数は三。通常、妖力の象徴とも言える尾は数百年単位に一本増える。年齢から鑑みて私は破格の存在だが、それでもやはり憧れる。
 九尾というのは妖獣の最高位。母も九尾だったが、それに恥じない力を持っていた。
 その妖狐は一体どれほどの力を有しているのかとても気になる。それと、九尾の妖狐を式神にする程の力がある妖怪にも。
 ……でもなんだろう。何かを忘れているような気がしてならない。

「ま、あいつは神出鬼没だからな。後でひょっこり顔を出すかもしれないぜ」
「そうね。いつもいつの間にか来て、いつの間にかいなくなってるもの」
「え……? あ、そうだと嬉しいです」

 危ない、ついつい聞き漏らしてしまう所だった。会話をしているときに他のことを考えるなんて失礼だ。気をつけねば。
 まあ、何か忘れているような感覚はまだあるけど、後で考えればいいか。
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