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いくぞ第6話!ユキタダの優雅(?)な一日inサマー!
 いつでもどこでも活動できる部、それがパソコン部だ。
 彼の所属するパソコン部は活動時間さえ制限がない。
 部員は彼唯一人。放課後はもちろん、休み時間でも授業中でも、パソコンで何かしているときは、いつでもどこでも部活動になるのだ。
 部の活動内容は多種多様。
 現在の活動内容は、オンラインRPGを自ら開発してみちゃったり、購買のおばちゃんのために商品一覧表を作成したり、新しいオンラインRPGのβテストに参加してみたり、学校で運営しているホームページを更新したり、オンラインRPGのゲームマスターになっていたり、生徒から頼まれた修学旅行のデジカメ写真をプリントアウトしていたり、オンラインRPGでダメ出しをしてみたり――

 ようするに、今はネットゲーム中心の活動であった。

 ここで一つ、皆の疑問を当ててみよう。
 「なぜ、部員一人で廃部にならないのか」
 簡単である。彼が高校の経営者に融資しているために、学校側は利益をもたらす彼の行動に規制を強いることを禁じているからだ。

――本人執筆中、「伝記・秋良ユキタダのすばらしき時代」より

 ★ ★ ★ ★ ★


 とある夏休みの、とある日の、午後二時ちょっと過ぎ。

 ここはひなた荘二階、僕、ユキタダの部屋。
 僕は今日が締め切りの、ある物のまとめ作業をしていた。
 その瞳はパソコンのディスプレイから一時も離れず、手はキーボードの上を滑るような速さで走らせ続ける。これからの時代、この程度はできないと仕事はやっていけない。
 メガネのずれを少し直し、再びキーボードとディスプレイに集中しかけたとき、
「うい〜、今日もこげん暑かとアスファルトで丸焼けになっちまうじょ〜! ただいま帰ったッス〜!」
 ナギさんだ。部活から帰ってきたらしい。
 いつもより「煌いて、夏in通学路」度が増している。ちなみにこの変な基準は、ナギさん自身がこの間設定していた。気温に比例して高くなるようだ。
「……ユキタダー、これユキタダのプリンッスかー? 食べないんスかー?」
 しまった、冷蔵庫を開けられた。プリンは、見つからないように一番奥に入れといたのに。
「食べないんスか〜?」
「食べるよー! いーから置いといてよー!」
 僕はドアを少し開け、ナギさんに聞こえるよう叫んだ。
「えー? 何か言ったッスかー?」
 絶対聞こえないフリをしている。僕は叫んだのに。
――もしかして、狙いはこの部屋か!?
 ひなた荘で唯一、エアコンを取り付けている僕の部屋。パソコン機器が置いてあるから無理やりつけてもらったのだけど、そのせいでみんなこの部屋に集まってしまって、僕の仕事は停滞気味だ。
 電気代払ってるのは僕なのに。
「僕は仕事中だから! 後で食べるから置いといてくれってば!」
「え? 持ってきちゃったッスよ」
「おわあ!?」
 いつの間に入ってきたのか、ナギさんの姿は僕の背後にあった。
 一般常識ではあり得ないだろう。僕はさっきからドアの前にいたのに、窓も鍵が掛かっていたのに、どうやって部屋に入るんだ。
 彼女は学校から帰ってきたままの格好で、手にプリンを持って立っていた。
「うわわわわ!? ナギさん! ここに入ったらダメだって!」
 扉にもきちんと貼り紙までしているのだ。

【怪電波の人、立入禁止。用事の際はノックすること】

 と。
 ナギさんが入ると、パソコンがいきなり爆発したり原因不明のサーバーダウンが起きたり修復不可能なまでにウィルスにやられたりして、手に負えない。このパソコン3台だって、つい先日買い代えたばっかりなのに。ああ、もう変な音を出してフリーズしてる。
 ちなみに、貼り紙が役に立ったことは一度もない。いや、彼女がいつも無視するから悪いんだ。貼り紙に罪はなかった。
「頼むからそこを動かないでくれよ! 今行くから!」
 だがナギさんは、その一言が気にくわなかったのか、ムッとした表情になる。
「その物言いはひどいッスよ。せっかくプリンを持ってきたのに……」
 今、プリンは関係ないと思う。
「あっ……!」

ガッずるべすゃガシャララ

 足にコードが絡まり、ナギさんは豪快なこけっぷりを見せつけた。何をどうやったら足を踏み出しただけでコードがぐるぐる巻きつくのだろう。
 とにかく、そのおかげでパソコンはことごとく電源がぶち切れ、周辺機器も机から落ち、あるものは破片が散り、あるものは使い物にならなくなった。唯一救われたものと言えば、
「――よかった、データだけは無事だ」
 幸いにも、バックアップディスクは別の場所に保管してあったのだ。被害はハード面のみでなんとか食い止められた。
「いつもならバックアップまで全部ふっとばすんだよな、ナギさんは」
 壊された機器を見ながら、ナギさんを横目で睨む。
「ごめんッス。
 でも、まあデータが無事でよかったッスね」
 あっけらかんな謝罪。
 反省という言葉を、どうやったら彼女に覚えさせることができるんだろう。そんな方法があるならノーベル賞ものだ。
「これ、買ったばっかなのに…………ナギさん、頼むからこの部屋には入らないでくれ……ください」
 漫画じゃないが、トホホと言いたくなってしまう。
 本当に勘弁してほしい。
 僕は数百回目の頭下げをする。彼女もそれに応える。
「わかったッス。んじゃ次からそうするッス」
 応えるだけだ。このセリフも数百回目。
 こんなトコ、本当ならさっさと出て行きたいと思うところだけど、今はここを離れるわけにはいかないし。
 考えたくもないけど、ここにいる限り、破壊は繰り返されるんだろうな。

 ★ ★ ★ ★ ★

 それから少し経った午後二時十分頃

「ユキタダー!! 見て見て! これ新発売お菓子! 『サル占いスナック』! サルの脳みそ味とコンソメ味あってね、二つとも買ってきちゃったー!!」
 今度は無駄にやかましい奴が部屋に飛び込んできた。
「ゲッ!? またっ……クロカ! 前にも言っただろ、菓子を食い散らかすな!」
 しかしクロカは人の話を聞いていない。
「あのねえ、コンソメもおいしいけど、こっちの方サバサバドバン! な味! おもしろいよ! 食べてみて!」
 差し出された袋を、僕はまじまじと見て、セロテープでお菓子の袋口を閉じた。
「ひなた荘はただでさえゴキブリやアリが入ってくるんだぞ! こないだも、食べかけのお菓子をアリにやられてただろ! 万が一ネズミまで入ってきたらどーする!? コードかじって感電死したらネズミがかわいそうだろ!」
 あえてクロカの同情を誘ってみる。予想はズバリ的中、クロカはハッとして、押し黙る。
「あっ……そっか」
「だろ?」
「そうだよね、そしたらネズミさんきっと苦しいよね」
 俯き、しゅんとするクロカ。少し言い過ぎたかと思ったが、彼は急に顔を上げ、
「うん! ボクもうここでお菓子食べない! ネズミさん守る!」
 選手宣誓のように片手を挙げて、嵐のように部屋を出ていった。
 僕は返し損ねたお菓子を見る。
「…………『サルの脳みそ味』???」
 しかも、サル占いはただのあみだくじで吉凶を選ぶものだった。

 ★ ★ ★ ★ ★

 そしてさらに時は過ぎて午後二時半頃

 扉の開けっ放しに気付いたのは、異様なまでの視線を感じたからだ。
 扉へ目をやると、左半身を扉に隠してリシギが立っていた。
 こちらをみている。
「……何?」
「……………………」
 視線はまるで「ユキタダがお菓子を部屋に持ち込むなんて珍しいな」とでも言っているように、机の横に置いたお菓子を見つめていた。
「……これ、クロカのお菓子なんだよ。悪いけど返しといてくれる?」
「…………………………………………」
 彼は動かない。
「えーっと……こないだ頼まれたバイク用ナビに、超高性能音飛び防止付き万能ミュージックプレーヤー追加するからサ」
「……メモリー? HDD?」
 せめて、全身をこちらに見せて尋ねてほしい。なんで半分隠れているんだ。
「りょ、両方できるよ。それにMDやラジオ、希望ならCDとカセットもつけるよ」
 僕が言うと、リシギはようやく全身を見せた。微動だにせずスライドしたように見えたのは、この際気にしないでおこう。
「それよりも、ナビの画面と重量をもう少し小さくして」
 ボソリと言い残し、お菓子を持って部屋を出て行った。
 すげー心臓に悪い。無言で、しかも背後から目で訴えるのは、どうしてか絶対気づいてしまう。このひなた荘でまともなのは、やっぱり僕だけなんだろうか。

 ★ ★ ★ ★ ★

 ようやく落ち着いてきた午後三時頃

「ストーップ! ヒナタ、ここは入ったらダメだ!!」
 扉を閉めようとしたら、キョーゴさんの愛猫が飛び込んできた。気のせいか少し濡れてるような……。
 僕は慌てて外へ担ぎ出すが、このデブネコ、すごく重い。んでもって、やっぱりしっとり濡れていた。
「あ、ユキタダ君!」
 そこへキョーゴさんが現れる。
「助かります! そのままヒナタ捕まえててください!」
「は? はい」
 飼い主のもとへ帰してやろうとヒナタを抱き上げるが、ヒナタはキョーゴさんの姿を認めるなり、僕の腕の中で暴れだした。
「うわ!? こらやめっ……痛ぇ!!」
 腕を力いっぱい引っ掻かれた。そのスキに、ヒナタは僕の部屋の中へ逃げる。
「わあ? そっちは……!」
「ヒーナーター! 待ちなさーい!!」
 廊下の向こうから、キョーゴさんがすごい形相でこちらに迫ってくる。
「キョ、キョーゴさん!?」
 よく見たら、泡だらけの顔で、割烹着姿で、猫用シャンプーと猫用ブラシを両手に持って――。あれじゃ逃げて当然だ。
「ヒナタを風呂に入れてたのか?」
「ユキタダ君! 早くヒナタを捕まえてくださいぃ!!」
「わ、わかった!」
 僕は急いで部屋に引き返した。
 本当に早く捕まえないと、水に濡れたままのヒナタが、コードを引っ掻きでもしたら……。
「ヒナタが感電しちまう!」
「うわー! ヒナタ! おとなしくなさいー!!」
 そして、その騒音を聞きつけたらしく、ひなた荘の全員が駆けつけた。
「ヒナタが死ぬの!? ダメぇぇぇぇえええ!」
「ヒナタ、どうしたんスか!?」
「……ヒナタ」
「うわっ! みんな来んな! 部屋がメチャクチャに……!」
 だが時すでに遅し。あっというまに僕の部屋はひなた荘の面々によって破壊されていった。
「あ……ああ…………」
 僕の心の底で、グツグツしたものが込み上げる。
「……」
 目の前に映し出されるは、愛する機械を破壊しながら、猫一匹を追いかける四人の姿。グツグツ煮えるものは、急激に上昇し頂点に達した。

っだああぁぁぁああああんん

 僕の繰り出した一歩は、床が抜けたと思わせるくらいの音だった。
「走り回るなあぁぁぁぁああああ!!」
『…………』
 急に訪れる静寂。
 自分でも驚くくらいでかい声が出た。
 みんな、ビタッと止まり、こちらを向く。もちろんヒナタも止まる。
「……てめぇら、今僕が仕事してんのわかってんのか……?」
 わなわなと尋ねる僕に、全員がコクリと頷く。
「まかないのおばちゃんに頼まれた、栄養成分とアレルギー関連の原材料をまとめた表を作ってたんだぞ……!」
 それには全員、きょとんとした顔をする。
「もっとおいしい栄養のあるものを食べてもらうためにっつって、僕に依頼しにきたんだ! それをお前らが潰してんだぞっ!!」
「え? そーだったんスか? ネットゲームじゃなかったんスか?」
 息を切らせて怒る僕に、ナギさんだけがケロッと聞き返す。自分は関係ない、僕はもうその態度が許せなかった。
「ノーテンキに聞き返すなぁ! この僕が二日もかけてたんだぞ! それなのにめちゃくちゃにして――」
「うるさいッスねー。元に戻せば文句はないッスか?」
「そーだよ! 戻せるもんなら戻して――」

ばしゅぅううっ

 そのとき、何が起こったのか、きっとナギさん以外誰もわからなかったろう。
 視界が急に真っ白になったかと思うと、次の瞬間には、めちゃくちゃだった部屋が元通りになっていた。
「……へ?」
 机から引きずり落とされたパソコンも、引っかかれて使えなくなったプリンタも、真っ二つになった机も、びちゃびちゃになった床も、全部が元のとおりになっていた。いや、破壊される前よりもキレイになっている気がする。
「これでいいッスか?」
 ひなた荘の面々を従えて、ナギさんが、仁王立ちでにんまりと笑う。
 僕の頭は理解に乏しくなって、声を出すのがやっとだった。
「あ、の……えっと……」
「そいじゃ、おばちゃんのためにがんばるッスよ〜」
 何事もなかったかのようにスタスタと部屋を出て行く。
 他のみんなも、さっきまでの出来事を忘れてしまっていた。
「…………どーなってんだ?」
 だが、その問いに答えを出してくれる者はもういなかった。

 ★ ★ ★ ★ ★

 世の中、説明のつかないことがあるとよく言われるけど、実際に目の前にしてみると、なんでもないことのように思えてくる。
 もうこの世の中自体が説明のつかないことではなかろうか。
 科学でいくら探求しても、不思議はいつでもついてくる。
「……はぁ、哲学の勉強も始めてみようかな……」
 僕は、自伝記を書きながら、ため息をついた。


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