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いくね第8話!通学は戦いなのさ気を抜くな!
 今日は朝からナギさんが核爆発的に元気なんです。
 いえ、それはいつものことなんですが……なんていうか、目が合っただけで魂を抜かれそうなほど気合いが入ってるというか……。

 いったい、何があったんでしょう。

――首にヒナタがのしかかり暑苦しく窒息死しそうになったキョーゴのつぶやきより

 ★ ★ ★ ★ ★

「起きるッスよ~! 起きらば起きて飯を食えーッス!」

 台所で仁王立ちし、ベタにフライパンをお玉で打ち鳴らしているのはナギだ。

 いや、ベタでも、ナギが叩けば騒音を通り越して公害へと飛躍的なレベルアップを果たす。

 最初、外で爆弾が次々と爆発しているのかと誰もが思い、ひなた荘の住人どころか、町中の住人がいっせいに起こされたくらいだ。

「う~……おねーちゃん、まだ七時だよ~ぅ」

 まだ眠っている目を擦りながらリビングに入ってきたのは、パジャマ姿のクロカだ。

 彼女の公害モーニングコールにもかかわらず、ようやく脳が覚醒し始めたような表情。彼にとっては、耳元で囁かれた程度にしか感じていないのだろう。
 鉄の鼓膜を装備しているとしか思えない。

 ウサギがよほど好きなのか、パジャマの模様も手に持つぬいぐるみもスリッパもウサギだった。

「何言ってるッスかあ! 今日は何月何日何曜日だと思ってるんスかあ!」
 言って、ナギはカレンダーをバシリと叩く。

 クロカと同じく、騒音などはじめからなかったような顔でキョーゴとリシギも起きて来て、ナギの叩いた先を見る。

 一枚に一月分の暦がかかれたカレンダーは、秋の雰囲気を散りばめた九月になっていた。
 ナギの指先は、第一日曜日を示していた。

「ああ、今日は『よいこのアニメスペシャル』がありますね」
 と、キョーゴ。
「そうそう、朝十時から五時間超スペシャルなんだよね♪」
「……録画」

「ちっがーう! それは昨日ッス! 今日は、げつ・よう・びッス!」

 ナギは改めて月曜日を指した。
 何度も勢いよく指しすぎて、カレンダーには壁ごと貫かれた穴がいくつもあく。

「ああ、そういえば夏休みはもう終わったんでしたっけ」
「そうッスよ! そして今日は始業式ッス!」

「え?」

――確か、先週の土曜が始業式だった気がするんですが。

「うっしゃあああ!」
 口にしようとしたキョーゴの疑問は、ナギの無意味な気合い入れのパンチによって吹っ飛ばされた。

「学校へ行くッスよー!! 全員戦闘準備ッス!」

 言うなり、ナギは朝食にと作られたおむすびをみんなの口に投げ込んだ。
 飲み込みきれずむせたキョーゴには、ニラと麩のみそ汁を熱々の状態で流し込む。

 制服を頭から被せ、かばんを顔に押し付けると、ナギはリシギ、クロカを玄関前に並ばせた。

 約一名、二階の廊下で瀕死になっている人物に気付いたのはその頃だ。

「……な、なんださっきの爆発音……! 僕の発明を狙ったテロか?」
 ユキタダが、痛む耳を押さえつつ階段を這って降りてきた。
「そっちの方がまだマシだったかもしれませんね……」
 赤く腫れあがった口で、キョーゴは憐れみをこめて言った。

 ★ ★ ★ ★ ★

「今日の通学路はまさに戦場ッス! みんな、ふんどしを引き締めて行くッスよ!」

『お~……』

 眠気とだるさと、学校へまだ行きたくない気分がまだ抜けない全員の掛け声に覇気はない。
 ナギは、疑問系でもう一度号令した。

「……行くッスよ?」

『オォオォォォオオ!!』

 その一言で何の恐怖をみたか、みんな、全身全霊で声を張り上げる。

 ところで、通学路が戦場とはどういうことなのか。
 それにはまず、彼女の特異体質について語らねばなるまい。

 彼女は生来、人の闘争本能を刺激するオーラが強く、もれなく闘いを挑まれるという稀な体質の持ち主だ。
 しかも、挑まれた闘いは必ず受け必勝しているものだから、不良学生はもちろん、ヤクザやプロ格闘家の間にまで伝説となっている。

 とにかく、彼女の『かかってこいや』オーラは、老若男女問わず、必然的に敵を作り呼び寄せてしまう。
 これは、彼女が未知数の力を秘めているための副作用だと研究者――ユキタダ一人だけだが――は語っている。

 オーラの強弱は、感情に左右されるようだ。
 特に休み明けなど彼女のテンションが高まる時期はオーラが特に強いらしい。

 そんなオーラの持ち主に、夏休み明け久々に会おうものなら、人は興奮を抑えきれず、闘いこそ宿命だといわんばかりに挑んでくるだろう。

 故に、『通学路は戦場』なのである。

「さあ! みんな戦闘準備はいいッスか!?」
『おう!』
 リシギは予備を含め二本の竹刀。
 ユキタダはいつもの発明ボックスを背負い、コントローラーを手にする。足には改造したローラーブレードを装備。
 クロカはナギの支えるママチャリの荷台に乗っかる。

 ナギは自転車の横に立ち、まっすぐに前方を見据える。

「敷地を出た瞬間から戦いは始まるッス! ユキタダ、レーダー反応は!?」
 言われずとも、ユキタダは頭上のレーダーを回転させ、モニターで敵の数を把握する。
「通行人含めてざっと百二十。さすがだね、みんなうまく隠れてる。けど、この程度なら問題ない」

「一番近くの敵は?」
「前方二時の方向十二メートルに五人!」

「うっしゃぁああ! 先手必勝! 喰らえっ、まかないのおばちゃん特製コッショーウばっくだーん!」
 大きく振りかぶって、大リーグを彷彿とさせるフォームで灰色の球を投げる。
 壁に当たった球は、パンと音をたてて破裂し、灰色の煙を一帯に生み出す。

 曲がり角の向こうに隠れていた五名は、燻り出されてそれぞれのた打ち回った。
 ある者はくしゃみを連発し、ある者は涙目で必死に目をこする。

「さあ、いくッス!」

 ナギは、後輪を幾らか空回りさせて勢いよくこぎ出す。後ろからは、リシギとユキタダがついて行き、さらに後方から隠れていた生徒たちが一斉に飛び出す。

「ナギさーん!」
「総寮寺ぃっ!」

『勝負だぁぁぁあああ!!』

 無限に高まるテンション。ほとばしるオーラ。
 来る者は全て蹴散らせといわんばかりに、自転車で敵を薙ぎ倒していくナギ。

 通学路を少し進んだところで、ナギは自転車の向きを反転させ、急停止する。
「さあ、私はここッスよ!」
 荒波のように押し寄せてくる生徒の群れを挑発するナギ。

 打倒ナギを志す波は、六一.七パーセントが男子、三八.二パーセントが女子、残り〇.一パーセントはオカマという成分でできていた。
 ほとんどが学校の生徒で、運悪く通りかかった人たちもナギのオーラで次々と戦士へと変わっていった。

 その荒波から、黄色い光が飛び出す。

「ナギおねーちゃん! なんか飛んできた!」
「ひゅうっ!」
 クロカの言葉に応え、ナギは自転車を急発進させる。
 後方で、彼女らの代わりにユキタダが思いっきりそれを踏む。バナナの皮だと知った時には、彼は波の彼方へと消えていた。

「ちぃっ! レーダーを失くしたッス!」
 後ろを一瞥し、舌打ちする。

 さらに加速するナギの自転車。
 コンクリートとタイヤが激しく摩擦し、砂ぼこりにまぎれて煙が噴き出ていた。

「眠い……」
 リシギがあくびしながらもナギの速度についてくる。

 ナギがこぐ自転車の異常なスピードでもまだ余裕を見せられるのは、剣道部で鍛えたからなのだろうか。
 眠たそうなリシギに、ナギは後ろを指差して叫ぶ。

「だったら目を覚ましてくるッス!」

 ナギはリシギを蹴飛ばし、後方へ追いやる。
 ゴンゴロゲンゲレと転がるリシギ。

「さあ、行くッスリシギ! あいつらを全部ぶちのめしてくるッス!」
「……何気に酷いね……おねーちゃん」
 あまりの転び様に、さすがのクロカもぼそりと突っ込む。

 しかし、蹴飛ばされたにもかかわらず、むくりと立ち上がった彼は無傷だ。

 今にも瞼が上下くっつきそうだったのに、敵を迎え撃てという言葉を聞いた途端、彼の脳は覚醒した。

「ぶちのめしていいんだな……」

 予備の竹刀を腰に差し、押し寄せる波に向けて構えた。

 ★ ★ ★ ★ ★

「おねーちゃん! 前から来るっ!」

 バナナの皮で古典的に散ったユキタダに代わり、レーダー役をしていたクロカは、前方の敵を感知する。

 金髪が一瞬、アンテナのように立ったのはきっと気のせいである。

 その声に反応するように、待ち構えていた生徒たちが、二人の前に立ち塞がった。

「クロカ、しっかりつかまってるッス!」「うん!」
 ナギは、スピードを緩めるどころか、さらにギアを重く切り替えてスピードを上げる。

 道に転がる石ころを踏切に自転車は跳躍し、人の背を軽々と越えてしまった。

「ざまみろッス~!」

 だが、どこからか投げられた石が自転車の後輪に当たり、バランスを崩された。
 自転車は着地に失敗し、脱出したナギに蹴られ大破してしまった。彼女はクロカを背負って軽やかに着地する。

 その隙を生徒たちは見逃さない。
 あっという間もなく、ぐるりと取り囲まれた。
 逃げ場を失い、ナギとクロカは背中合わせになる。

「自転車、壊れちゃったね」
「むう~、ちょっと痛いッスね……明日から通学がメンドーになりそうッス」

 二人を狙うその数、およそ二百。
 学校へ近付けば近付くほど、敵の数は増えていく。
 そんな状況で本当に学校へいけるのか。

「メンドーつったって、ナギは来る奴全員一撃でのしてるじゃねーか……」

 囲まれた群れのさらに外側から、眠そうな声が聞こえた。
 全員が思わず振り返り、包囲網に切れ目が入る。

 通学路のあちこちに累々と横たわる死屍。
 すべては、目の前に立つ二人の男によってなされたことだと敵は本能で知る。

「運動にもならなかった……やっぱ眠い」
 竹刀をブラブラと振り、リシギはまたあくびをする。

「誰だ! バナナの皮を投げた奴ぁ! まだ半分以上実が残ってたじゃないか! 食いモンは大事にしろー!」
 生徒の波に呑まれて散ったはずのユキタダは、皮と実にまみれて壊れたローラーブレードを見せつける。

 ツッコミどころはそこか……と、全員が内心つぶやいたのはいわずもがな。

「二人ともやっと来たッスか」
「あっははは! ユキタダバナナ〜」
 二人の帰還に、ナギとクロカの萎えかけていた闘争心に火がついた。
 ナギは隙を突いて襲ってきた男子生徒を蹴り飛ばし、クロカはユキタダを笑うその表情で女子生徒のハートを射抜く。

「そんじゃあ、一気に殲滅戦といくッスよー!」

「おう」
「まっかせて〜」
「愛機の恨みー!」

 再び集結した四人は、次々と湧き出す生徒を相手に、再び激しい戦闘を始めた。

 ★ ★ ★ ★ ★

 時は、八時二十五分。
 予鈴の鳴り響く校門にひとりたたずむ男の姿が見える。
 校舎は恐ろしいくらいに静まりかえり、人の気ひとつ感じることもできない。今なら、改築二年の新校舎も廃墟に見える。
 そこへ、若い男性教師が駆け寄ってきた。
 この学校に赴任して五年、ようやく馴染めてきたところである。
「校長先生、近所の話だと、やっぱりひなた荘からの通学路で乱闘が起きているそうです」

「そうか、そうか」
 校長はにこにこと笑顔であった。
 それが素なのか、微笑ましくてしていることなのか、男性教師には判断がつかなかった。

「みんな、今年も遅いの~……」

 校長はにこにこ顔のまま、生徒が来るのをずーっと待ち続けていた。

「ああ、どうしましょう? 土曜日も同じことがあって始業式が今日に延期されたのに……」

「なあに、気長に待っとれば、みんな登校してきますよ」

 校長はにこにことひたすら、ただひたすら生徒を待ち続けた。
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