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私と小説
3 書いてみる?
 気が付けば私は携帯を手にしていた。手慣れた操作で“小説家になろう”のトップぺージを開くと、会員登録の欄にカーソルを合わせ、クリック。
 そして、あっという間に、ペンネーム入力画面まで来ていた。
 ペンネーム――どうしよう? 考えてもみなかった。さすがに本名を登録する訳にもいかないし。もし千尋や、他のクラスメイトにばれたら、間違いなくからかわれるだろうな。
 “瑞穂が小説書いてる”って。下手したら晒される。
 だったら、性別は逆にした方が良いよね。
 んじゃ、男性っぽい名前にしなくちゃ。
[熊田三郎又兵衛くまださぶろうまたべえ
 これは違う。髭もじゃの武士か何かだ。入力した熊田はとりあえず却下。
[藤原刹那ふじわらのせつな
 お、何か、いぐね、いぐね? と、思ってみたけど、少し首のあたりがむず痒い。刹那に引っかかっちゃうね。なんだか、漫画みたいで……。私には合わないなぁ。
[カピバラプリン]
 って、好きな物並べただけじゃん。男性っぽくないし。却下。
 だったら、身近な人から戴きましょう。
 それは……
 あの変態お兄ちゃん。
 名をば、宮崎真一みやざきしんいちと、なむいいけります。
 と、いうことで……
[宮崎真一]
 って、さすがにそのままはマズイよね。誰か知り合いが見るかもしれない。
 だったら、苗字を変えて、一文字削ろう。
[山咲真やまざきまこと
 良いじゃん。良いじゃん。これで、決定。


 さてと、それじゃあ、何を書くかだ。って、それはもう決まってる。感動する物語を書く。
 じゃあ、誰を主人公に? やっぱり、駄目人間の代表であるお兄ちゃんにしよう。
 そんなお兄ちゃんが、死の宣告を受けて、死ぬまでに何かする物語。
 おお、なんだかそれっぽい。これでいこう。


 まずは、資料集め。そう思いながら、私は自分の部屋を出た。向かう先は当然、主のいないお兄ちゃんの部屋。
 向かうと言っても、私の部屋を出たすぐ前がお兄ちゃんの部屋んだけど。
 誰もいないとわかっているのに、忍び込む時はドキドキする。音を立てない様に、そっとドアノブを回し、ゆっくり押し開けた。
 さて、あんなお兄ちゃんですが、長所が一つだけあります。それは、綺麗好きである事(面食いって意味じゃないよ)。それが部屋の中にも溢れてる。
 私の部屋と同じ間取りなのに、広く感じるくらい整理整頓された部屋。小学校の頃から愛用している勉強机に置かれたパソコン。それとベッド。備え付けのクローゼットに、コンポとテレビ、後、本棚。以上。味気ないと言ってしまえばそれまでだけど、やっぱり、言っちゃうなぁ。
「味気ない……」
 と、零しながらも、私はお兄ちゃんの部屋を漁る事にした。駄目人間っプリを、この手に収める為に……。
 やっぱり最初は、ベッドだよね。
 え? 何でかって? 決まってるじゃない。そこに隠されている可能性が高いからよ。英語で言うならピンナップマグが。
 それをお母さんに見つかって、机の上に整頓されて置いてある。これって定番じゃない。
 という事で、できるだけ静かに、けれどもテンション最高に、くまなく捜索。布団を剥ぎ取って見たり、ベッドの下を覗きこんだり、手を突っ込んでみたり――しかし、相手もなかなかの者。そう簡単には、見つからないなぁ。
 じゃあ、次は勉強机だ。
 そうやって私は捜索の場所を木製の勉強机へと移す。
 引き出しはもちろん一番下から開けていく。それはなぜか……
 引き出しを閉める手間を少しでも省くため。――言っておきますけど、私はプロですよ。知識だけなら泥棒だって朝飯前です。
「あっ」
 それは、一番下の底の深い引き出しから見つかった。
 薄い雑誌。それは背表紙だったけど、光沢のある加工は、コンビニのR―18の臭いがぷんぷん致しますね。
 フフフ、どんなに上手に隠しても~。黄色いあんよが見えてるよ~。なん、なん、な~にが、めっかったぁ~。
「って、パチンコ雑誌じゃん」
 溜め息が漏れた。期待のまなざしで見つけたのに、これはエロくない。
 って、違う違う。目的がすり替わってた。これでも良いじゃん。パチンコで破滅しそうな主人公とかの参考になりそうだし……
「ちょっと借りるね。お兄ちゃん」


 それから私は、こっそり持ち帰った戦利品をベッドの上でパラパラとめくる。
「今の流行はやりはエヴァンゲリオンってわけね……」
 特集と銘打っているだけに、その雑誌の中は“逃げちゃダメだ”で埋め尽くされていた。スペックがどうとか、ボーダーがどうとか、期待値が書いてあったけど、全くちんぷんかんぷん。そんな解析データよりも、私の目を惹いたのは、実践を記した漫画だった。
 実際、パチンコなんて打った事がない私にとって、これは凄い情報源になった。
 パチンコを打つ人間が、どんな心境で打っているのか。それがわかったのは発見だ。
 お兄ちゃんが塞ぎこみながら、五万円負けたとか言っていた事を思い出すと、お兄ちゃんがどんなふうに負けていったのか、そんな事が少しだけわかる気がした。
 そう思った瞬間。突然、頭の中に情景が浮かんだ。
 輪郭が引かれ、色付く。そして、でき上がったビジョンが鮮明に映り、走りだす。
 私はそれに、夢中で携帯のボタンを押した。
 打ちこんだ文字を変換して、決定。
 それの繰り返し。
 頭の中で流れるドラマを、必死になって指で追いかける。
 名前は自然に決まっていった。まるで、最初から決まっていたかのようだ。
 設定も、勝手に組み上がっていく。
 指がツルかと思った時には、一万文字を打ち込んで、第一話が終わっていた。


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