猫にマッサージ
猫がマッサージされる話。
超超短編、そして誰得なんですけどどうしても書きたかったです。
専門的な知識はないので、獣医学的にへんなとこあるかもしれませんが、ご容赦ください。
我輩は猫である。
名前はちょっと前につけてもらった。課長だ。
猫なのに課長。最近はけっこうこんな猫をメディアでよく見る、駅長とか、店長とか。
「さ、課長、毛繕いしますよ」
なんて、お高いブラシ片手に呼んでくるのは部下の川上、糞真面目な美女だ。
男っ毛は皆無。年も二十代半ばだろうか、長い黒髪をポニーテールで束ねている。
僕が川上の膝に寝そべると、彼女はその細い指先で軽く頭を撫で、耳を掻いてくれる。
そしてブラシで毛の流れにそってテンポよくブラッシング。抜けた毛束を指でとってはまたブラッシング。
自分でできない喉の下や頭の上なんかはすごく気持ちがいい。
「課長、気持ち良さそうですね」
うふふ、と川上は笑って、あらかたブラッシングし終えた僕の体をひっくり返した。
「お次は反対です」
またブラッシングしてはブラシから毛をとり、丹念にブラッシング。
「すごい量がとれましたね」
そう言って、彼女はまたすごい量の毛束を見せてきた。多分僕の体の半分くらいあるんじゃないか?
彼女はしばらくこの毛束を満足げに眺めていた。気持ちはわかるぞ。なんかいいよな。
「じゃ、マッサージしますよー」
十分毛束を観察して、彼女はブラシを頬り投げ、手をちょっと揉んで暖めると、ブラッシングのお陰で溶けたような様子の僕を一なで。
おまちかねのマッサージが始まった。
猫だって肩がこったりするのだ。
そして、この部下は恐ろしく猫のマッサージがうまかった。
そう、それはあの寒い冬、警戒心むき出しのあのまだ青かった頃、不意討ちだったこの手に僕はあえなく陥落し…、こんな話はどうでもいい。
「まずは手足からでーす」
前足の付け根から握っては緩め、握っては緩め…足の先端まで行くと、次の足へ。
たっぷり時間を使って全ての足をやりおえると僕はもうへろへろだ。
「課長、猫なのに表情にですぎ」
しょうがないじゃないの、ゴッドハンドだよ君は。
肩をくにくにと揉んで、そして額をそっと押さえる。
口回りは両手で念入りに。噛むのに凄く筋肉が凝るから、外側に伸ばすようにぐいぐいやる。
暖かい手でやられるとどうもじんじんする。これがきっと天国というやつか。
けっこう長い間そうやってると、よだれが垂れてくる。まぁ、マッサージの手なんかベトベトにしてしまうくらいには。まぁいいか、課長とはそういうものだ。部下も全然気にしてないし。
「課長、疲れがたまってるんじゃないですか?よだれすごいです」
…ほっとけ、ちょっと嬉しそうな顔してるくせに。
川上はよだれでベトベトの手をティッシュで丁寧に拭いて、それをポイっとゴミ箱に放った。ナイスシュート。
「お疲れみたいなので、念入りにやりますね」
顔を両手で上からそっと包み、顎の下の指でかく。
かりかりかりかり…
うーん、それはズルい。ぞわぞわするほど気持ちがいい。喉なんかならしちゃう。猫だもの。
ぶるぶる言う僕の喉をさんざんくすぐって、川上は手でぎゅっ、と僕の顔をつかむと耳の後ろ側に皮膚を引っ張るように流し始めた。
これこれ、これをやられると僕は、僕は
「課長、これやるといつも口をクチャクチャさせますよね。どんな気持ちなんです?」
うん、なんかこう、よい感じの気持ちです。
ぐいーっ、くっちゃくっちゃ、ぐいーっ、くっちゃくっちゃ。ぐいーっ。
「課長、かわいいですね」
ま、猫はかわいいが仕事だし?
勤勉でしょ、課長にもなると。
部下の満足した顔が見れて上司冥利につきるっていうか、あぁ、今日もいい仕事したなぁ。
川上は最後の仕上げとばかりに全体的に僕を撫でて、コロンと隣に横になってきた。うむ、お仕事ご苦労、労ってやろう。
ペロペロと手をなめてやると、川上の目が嬉しそうに細まった。
「課長大好き」
「にゃあ」
僕も君のこと、すごーく可愛く思ってること、伝わったかな?
今日のところはこのくらいにして、あとは一緒にだらだらすごそう。
これからもよろしく頼むよ、優秀な部下君。