「また群れてる。……咬み殺すよ」
授業中の校舎裏。いつものように学校内の見回りをしていた雲雀はさっそく群れている奴らを見つけた。
彼にとっては疎むべき存在である弱い奴ら。
周りと群れるということは弱い証拠だ。本当に強い奴ならば群れなくとも生きていける。
現に雲雀はいつも一人でいたし、群れたいと思ったことなど一度もない。
―――…ない、はずだったのだ。
口もとにはねた赤い血を拭う。
校庭の前の、すっかり青くなった桜並木を歩きながらふと顔を上げる。
南側の、校庭に面した普通教室。その三階。
二年生の教室棟。
目線の先、真っ直ぐ。
見える、横顔。
つまらなそうに机に肘をついて、目を伏せて、ほとんど無意識のうちにペンをくるくる動かしている。
つん、と立った、けれどフワフワとした栗色の髪が窓から流れ込む僅かな風に揺れる。
時折気だるそうにため息をつき、うっとおしそうに首筋の汗をぬぐった。
じっと見つめ続けて、その顔がいつでもどんな細かいところまでも思い出せるほどになるまで見続けて、雲雀はようやく視線をそらした。
何事もなかったかのような顔をして、実際はかなり動揺していた。
――何をやっているんだ、僕は。
何をすることもなくそこから立ち去る。
そんな彼を見下ろす小さな影が、ニッと笑った。
「一匹狼って知ってるか?」
家での勉強会。
いつものように唐突に、綱吉の家庭教師、リボーンが言った。
今日は、明後日から行われる中間テストの勉強のために、獄寺と山本も彼の家に来ている。
教えるのはもちろん獄寺で、綱吉と山本は獄寺の講義を聴きながら、ハテナをいっぱい飛ばしていた。
それでも必死に理解しようと綱吉がノートと格闘していた時、どこからともなくリボーンがやってきて、言ったのだ。
「一匹狼?」
「確か……、集団の力に頼らずに、自分の力だけで行動する奴のことを表す時に使う言葉、っスよね」
「獄寺って何でも知ってんのなー」
綱吉がリボーンの言葉を繰り返し、獄寺が辞書にでも乗っていそうな一般的な説明をし、山本がそれに対しての率直な感想を笑いながら言った。
「でも、何かそれって雲雀さんみたいだね。ほら、いつも一人でいるし、群れるの嫌いだし」
「確かになー。この間も『群れるのは弱いからだ』とか言ってたし」
「そう思うか、ツナ」
「え?」
雲雀についての見解で盛り上がろうとしていた綱吉ら三人に、リボーンは言う。
「獄寺のは一般的な見解だな。だが、ほかにもこの言葉には意味があるんだぞ」
リボーンは綱吉の疑問符を無視して続けた。
「そうなの?」 「そうなんですか?」 「なんでも知ってんのなー、小僧」
綱吉と獄寺が同じ内容の言葉を発し、山本は先ほどと全く同じ言葉を主語を変えて言った。
「そうだぞ。あまり知られてねーがな」
「なんなの、それ?」
次々に訊いてくる綱吉に、ちょっとは自分で考えろ、と言ったリボーンはテーブルの上に飛び乗る。
その周りを三人が囲んだ。
「狼ってのは、もともと群れで暮らす生き物なんだぞ。少ないときは二頭ほどだが、多いときは二十頭くらいで群れをなす」
リボーンの豆知識講座に、綱吉と山本はふーん、へえ〜、と感心する。獄寺はもともと知っていたのか、ふんふん、と相槌を打つだけだ。
「一匹狼ってのは群れを離れて一頭だけで生きている狼の姿から来てるんだけどな。まあその理由はいろいろあるんだろうが」
「で?」
催促をしてくる綱吉に、リボーンはふう、と腰に手を当てて息をつくとぴょいっと机から飛び降りた。
「ちょっ、リボーン? 教えてくれるんじゃないのかよ!」
「世の中そんなに甘いわけねーだろ。自分で考えろ。ほら、さっさと宿題終わらせろ」
そう言って綱吉の背中に回るとげしっと小さな足で綱吉をけり上げる。
その小さな足のどこにそんな力があるのか、ツナは顔をゆがめて、いだっと飛び上った。
「まあ、案外ツナの思った通りかもしんねーぞ。調べてみろ。これは家庭教師からの宿題な」
「ええ!? もー、これ以上やること増やさないでよ! テストだけで手いっぱいだって」
「期限は明日だぞ。やってこねーと……」
途中で意味ありげに言葉をとぎらせ、小さな背広の中に小さな手を入れる。
その様子を見て、綱吉は「ひいっ」と後ずさった。
「わ、わかったよ! やってくるって!」
両手を前につきだし、ぶんぶんと手首を回してリボーンの行動を止めさせた。
リボーンに何か言われたら、それを実行せざるを得ないのだ。
それ以外の選択肢は、綱吉は持ち合わせていない。
「えーっと。生物図鑑は――……っと……」
テスト前日の放課後、結構な数の生徒が残る図書室で綱吉は一人だけ勉強外のことをしていた。
リボーンに言われた宿題をこなそうと、狼について調べようとしているのだ。それに、テストははなから諦めている。
どれだけ勉強しても、どれだけ獄寺のわかりやすい(らしい)説明を聞いても、理解することができない。
それならば命の安全を確保した方がいい。
(……でも)
重たい図鑑を腕に持ちながら、はあ、とため息をつく。
(考えても分かるわけないよなー)
どさっ、っと机に図鑑を放り出し、どかっと席に座り、ぺらぺらとまずは「一匹狼」の載っていそうな辞書を調べる。ことわざ辞典には載っておらず、次に国語辞典を見てみる。
「一匹狼……、一匹狼……、あった」
小さく「一匹狼」と書かれたページを見つけ、その文字の横を指でたどりながら小さな声で読みあげる。
「えっと……、『群れを離れて一匹だけで行動する狼の意から、組織の力に頼らず自分の力だけで行動する人』、か……。なんだ、これしかないじゃん。しかも獄寺君の言ってたのと意味一緒だし」
頬づえをついて、またため息をついた。
「辞書にも載っていないのに、分かるわけないよ。ったく、リボーンはいつも無茶ばかり言うんだから」
(せめて、獄寺君か山本がいてくれたら一緒に考えてくれたんだろうけど)
あいにく山本はテスト前だというのに部活、獄寺は最初手伝ってくれようとしていたが、リボーンに手伝うんじゃねえと止められた。
あくまでも、ツナが考えなければならないのだと。
そんなわけで現在、校門前で苛々と待っていることだろう。隣に居ては、どうしても助けを求めてしまう。
いく度もため息をつきながら、今度は生物図鑑のページをめくり、狼について調べ始める。
「狼はー……っと。あ、あった、あった」
狼についての記事も見つけ、先ほどと同じように指でたどりながら、関係のありそうなところを見つけて読みあげる。
「……『2〜20頭で群れを作る』。リボーンが言ってたやつか。それから……『縄張り意識が強く、縄張り外から来た狼は追い出される』 のか…。『群れは繁殖ペアの子孫や兄弟など血縁関係のものが多い』……、『他の群れを出た個体が混ざることもある』――と」
そこまでほとんど上の空になりながら読んで、少し気にかかった。
「縄張り意識が強くて追い出したりするのに、なんでほかの個体が混ざるんだ?」
そこまでらしくもなく思いついたはいいものの、そこから先の考えは導き出すことができない。
頭上にハテナをいっぱい飛ばしながら、じいっと辞書を見て考える。――が、分からない。
「う゛ーー……?」
(あーもう。わかんないよー。第一、一日で調べて考えろって方が無理なんだ)
もんもんと考え込んでいたら、唐突に鐘が鳴った。はっとして顔を上げる。
どうやら、最終下校を継げる鐘だったようだ。見回せば図書室に残っているのは綱吉ただ一人。
「やばっ……!」
がたっと席を立ちあがって、たくさんの本を抱え本棚へと急ぐ。
もとの位置を探し出し、急いで本をしまう。が、どうにも記憶があいまいで、背表紙に貼られている数字の意味も分からず、見つけ出すのにかなり時間がかかった。
そしてようやく最後の一冊。
「――あ、アレ?」
入らない。
何度も何度も入れようとする。――が、やはり入らない。
書棚は高く、さらに隙間もほとんどなかった。
高さは、背伸びをすれば何とか届くのだが、それも片手を精いっぱい伸ばしたときだけ。しかもその指さきだけである。
取りだす時は何とかひっぱりだすことができたが、押し込むには少し力が足りない。
――さっきはもう少し余裕があった気がするんだけど……。
足やら手やら、全身をプルプルと震わせて背伸びをしながら、必死で図鑑を押し込めようとする。
どうやら先ほどまで図書室にいた生徒のうちの誰かが、この書棚に本を入れて行ったらしい。それが本来ここに分類されるべき本なのかは分からないが。
(ああもうどうしよう。もう日が暮れてきてるのに……)
綱吉の思うとおり、白いくもりガラスからはオレンジ色の光が淡く差し込んでいる。椅子や机や書棚の影が長く黒く伸びていた。
本をしまわなければいけないと必死になっている綱吉は、本を一段下の棚にしまうことや、椅子を持ってくるということが思いつかないらしい。
「なにしてるの」
不意に、背後から声がかかった。
急なことに綱吉はえ?、と振り向き、それがだれか認めたとたんひいっ、と短く悲鳴をあげた。
「ひひひひひひひひひ、雲雀さんっ!」
「とっくに最終下校は過ぎてるんだけど」
顔を青ざめさせて後ずさる綱吉を雲雀は鋭い眼で睨みつける。
それによってまた綱吉は縮みあがった。
「す、すみません! ごめんなさい! でもあの、……入らなくて。スイマセン!!」
ぺこぺこと腰を折り曲げて何度も頭を下げて、少しでも被害を避けようと本を前に差し出した。
プルプルと震えて何をされるのかと怯えている綱吉の手から、雲雀はその本を抜き取る。
急に手の中から重みがなくなり、綱吉は不思議そうに顔をあげた。
見れば雲雀は、その本を珍しそうに眺めている。
「ひ…、雲雀 さん?」
「生物図鑑……」
綱吉の呼び掛けには答えず、雲雀はその本の題名を読みあげた。
そして先ほど綱吉が必死になって手を伸ばしていた書棚へと、手を伸ばした。
「ここでいいの?」
そうしながら、綱吉の方は向かずにそう尋ねる。
「あ…っ、は、ハイ!そこで、いいと思います」
雲雀の行動の意図が分からないまま、綱吉は慌てて答える。
先ほどまで、あれほど書棚に収まるのを拒んでいた生物図鑑は、雲雀の手によって何の抵抗もなくしまい込まれた。
その様子を呆気にとられながら見ていた綱吉は、雲雀の顔がこちらに向くのを見て急にはっとなった。
何故咬み殺されないのか、何故手伝ってくれたのか、疑問は残るが、とりあえず礼を言わなければならない。
「あ…、あのっ、あああありがとう、ございます」
慌てて頭をさげ、多少突っかかりながらも言い切る。
「君さ」
「はい?」
そんな綱吉の必死の礼には目もくれず、雲雀は急に綱吉に話しかけた。
あまりにも唐突なことだったので、綱吉は思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。
が、それもまた気にすることなく、雲雀は続ける。
「HR終わってからずっとここにいたみたいだけど、何調べてたの」
内容は、そんな質問だった。疑問符は付いていないが、そうなのだろう。
(勉強してた、とは思わないんだ……)
綱吉は一瞬そう思い、生物図鑑見てたんだから勉強とは思わないか、とすぐに思い直す。
誤魔化すこともないだろうと思い、素直に話すことにする。
「え、えっと、その、リボーンに言われて、調べごとを……、って」
やはり何度か言葉に突っかかりながら本当のことを口にする。そして、何かに気がついたのか、少し伏せていた顔と目線を上げて雲雀を見る。
『リボーン』という固有名詞に反応して「赤ん坊に……」と呟いていた雲雀はそれに気付き、「なに?」と眉を寄せる。
「あ……、えっと。……ずっとここにいたって……、見てたん、ですか?」
少し言うのをためらい、雲雀の鋭い目つきに先を促されて身体を引きながら上目づかい気味に答えた。
答えてしまってから馬鹿なことを言ったと後悔し、慌ててまた頭を下げる。
「ごめんなさい!そんなわけないですよね。馬鹿なこと言いました」
咬み殺されるかもしれない。そんな思いにビクビクと震えながら、そ〜っと目を開ける。
思いに反して、雲雀は怒っていないようだった。
手にトンファーはないし、殺気立ってもいない。
(いや、むしろ……、固まっている?)
いやでもそんなことはあり得ないよな、雲雀さんに限ってそんなこと、まさか図星だったとか……、いやいやあり得ないありえないそんなことあるわけない……。
そんなことをぐるぐるぐるぐる考えながら、雲雀に声をかけようと口を開く。
「あ――」
「なに言ってんの。そんなわけないでしょ。……委員たちに見張らせてたんだよ。テスト前になると図書室は群れだらけになるからね」
声を発する前に雲雀にさえぎられた。
綱吉の口は「あ」の状態のままで固まっている。
心配になって声をかけようとしたことが急に馬鹿らしく感じられ、綱吉は冷や汗をかいた。
「――ぁああー、そ、うですよねー」
とりあえず固まったままだった口を動かし、雲雀の言葉に同意する。
目の前の雲雀を見てみる。何も変わらない。
さっき固まっているように思えたのは、ただの勘違いだったのだ。俺の質問が馬鹿らしすぎて、答えがとっさに出てこなかっただけだろう。
「えと、変なこと言ってゴメンなさい」
またまた頭をぺこりと下げる。
行事のときの礼のように、いち、に、と数えて、さんのときにぱっと頭を上げた。
「あの、じゃあこれで……――」
失礼します、と言おうとしたとき、入口の方から聞きなじみのある声と言葉が聴こえた。
「十代目――ェッ!」
そちらに振り向くと、思ったとおりにドアの所に獄寺と山本がいた。獄寺は嬉しそうに顔を輝かせて、こちらに大きく手を振っている。
同じように雲雀もそちらを見、その瞬間あたりの空気が変わる。ぞわっと鳥肌が立つような、総毛立つような、とにかく気分のいいものではない空気。
綱吉は即座に硬直してしまった。このままでは咬み殺される。が、しかし、身体は言うことを聞いてくれない。
「遅いので、お迎えにあがりました」
そう言って、まるでこの空気に気づいていないかのようにパタパタとしっぽを振りながら駆けよってくる。
山本も同じように、「遅いぞーツナー」と言いながら、いつもの笑顔で向かってくる。
……いや、おそらく本当に気が付いていないのだろう。
「……また群れてる」
隣からかなりの怒気を含んだ声が降ってきた。
綱吉は思わず、ひいっと縮みあがる。獄寺が雲雀を見つけて顔をしかめた。今にもつかみかかりそうだ。
硬直してしまっている喉を奮い立たせて声を出す。
「ご、獄寺君!山本ぉ!そそそ、そこで待ってて、すぐに行くから」
そう言ってから頭をもう一度下げ、二人の元へと急ぐ。
二人にごめんね、と謝ってから向こうを向かせると、その背をぐいぐいと押す。一刻も早くこの場から逃れたい。
「じゅ、十代目?」 「ツナ?どうしたんだ?」
何も分かっていない二人は、ツナの必死な様子に疑問符を飛ばす。
「いいから!」
叫ぶようにそう言って、綱吉は何とか入口付近まで二人を押しだした。
自分もドアの前へと立ち、雲雀にもう一度礼と別れを言おうと振り返る。
「じゃあ、雲雀さん……――」
そして、気づく。
雲雀はもはや、怒ってなどいなかった。
いつも鋭く冷徹なまでの光を放っている瞳はそこにはなく、なんといったらよいのだろう。少し、柔らかい、というのだろうか。
少なくとも、群れていることに対しての蔑みの光は浮かんでいなかった。
どこか遠くを見つめるように、かすかに眉をよせて。
綱吉たちを見ているようで、どこかその先の遠くまで見ているようで、やはり綱吉たちを見ている。
まるで、羨む、ような。
何か眩しいものでも見つめているような。
(ああ、そうか)
それに気づいた途端、綱吉は答えが分かった。
リボーンに出された宿題の答え。
一匹狼のもうひとつの意味。
リボーンの言葉の意味。
すべてがようやく繋がった。
そしてふっと微笑む。何となく嬉しかった。
答えを知ることができたのもある。だが、それだけではないことを、綱吉は分かっていた。
「十代目?」 「ツナ?」
振り返ったまま黙り込んでしまった綱吉を不思議に思い、後ろの二人が訊いてくる。
ああ、ごめん、と答えて、もう一度雲雀を見る。
雲雀は相変わらず、こちらを見ていた。
「……雲雀 さん」
雲雀に向け、綱吉はゆっくりと話しかける。
雲雀がそれに気付き、なに?とでも言うように小さく眉をよせた。
「……狼ってね、群れの外から来た狼は、基本受け入れないんです」
急に始まった話の意味が分からないのか、雲雀は今度は怪訝そうに少し眉をよせた。
「でも、それでもたまに、その群れの中に自分たちとは違う個体が混ざることもあるそうなんです。それに――」
一度獄寺と山本を振り返り、やはり不思議そうに自分を見ている二人に苦笑しながら、綱吉は続ける。
「それに、俺たちは狼なんかじゃありません。『一匹狼』っていう言葉はただのたとえです。俺たちは追い出したりなんかしません。いつでも受け入れますから、好きな時に入ってきてください」
それから、ねっ、と言って笑う。
その言葉と笑顔に驚きを見せたあと、雲雀はふいっと向こうを向いてしまった。
「それじゃ、失礼します。本、ありがとうございました」
行こう、と後ろの二人の声をかけ、二人の間に挟まれながら図書室から去って行った。
「……ふん」
夕陽に照らされ、顔を赤く染めた雲雀を残して。
「で、分かったのか?」
家に帰り、自室へと戻って一息ついたところで、また唐突にリボーンが言った。
「――ああ、うん。たぶん、だけど」
「そうか」
それだけ頷きながら言うと、リボーンはそのまま部屋を出て行こうとする。
「ちょっと、リボーン?」
「なんだ?」
慌てて綱吉が引きとめると、リボーンはやれやれと言った様子で立ち止まり、振り向く。
「え……、えっと、訊かないの?」
「分かったんだろ?なら、それでいい。訊かなくても分かるからな」
リボーンの答えを聞いて、綱吉はまだ納得がいかないというような顔をしていたが、ふう、と一つ息をつくと、まあいいか、とつぶやいた。
「じゃ、メシ食いに行くぞ」
というリボーンの言葉に綱吉はうん、とうなずく。
部屋を出ようとしたとき、ガハハハハーッ、といつものように大きな声で笑いながらランボが飛びついてきた。
「ツナお帰りー!今日の晩ごはんはねーェ、ママン特製のカレーだもんね!」
嬉しそうに周りを飛び跳ねるランボに、綱吉はよかったな、と言う。
早く早くとひっぱられるがままに、綱吉は慌てて階段を下りた。
命の危険も回避し、平和で騒がしい沢田家の一日が終わろうとしていた。
放課後の図書室。
最終下校の時間はとうに過ぎ、あたりがオレンジがら群青の世界、そして闇へと移り変わろうとしているころ。もちろん生徒はほとんど残ってはいない。
そんな中、一人の生徒がぽつんと図書室にたたずんでいた。
窓際にある低い棚に乗り、片膝を立てて座っている。
学ランを肩だけに羽織り、その袖には『風紀』と書かれた腕章が付いている。
目線の先は窓の向こう。
誰も残っていないグラウンドのさらに向こう。
おそらく、自分でもどこを見ているのか分かっていないのだろう。
ただじっと、どこか遠く、もしかしたらすごく近い場所を見据える。
「……何を勘違いしてるんだか」
黒い影が、一つつぶやいた。
『一匹狼』
意味:群れに入りたいのに入ることのできない狼の姿から、集団に入りたいと思っているのに入らない、意地っ張りの淋しがり屋。
(確かに雲雀さん、そのままだよなー)
スプーンでカレーを掬いながら、綱吉は図書室での雲雀を思い出し、笑いながらそう思った。
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