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空からの光

作者: 薙月 桜華

   空からの光

             薙月 桜華


千草琴美は学校から自宅へ向かって走っていた。太陽は沈み、辺りが暗くなり始めている。このままでは母親に心配される時間になってしまう。心配されるというよりも怒られると言ったほうが正しいかもしれない。

琴美が繁華街を抜けて住宅街に入ったとき、背後で金属がコンクリートとぶつかる音がした。彼女は反射的に立ち止まり振り返る。しかし、目に見える範囲で金属音を発生させるものは無い。彼女はどこかの家で何か落としたのだろうと考えた。そして、再度前を向いて走り出そうとしたとき。目の前に先ほどは無かった物体が現れる。突然の良くわからない物体の登場に、彼女は驚きの声と共にバランスを崩しながらも立ち止まった。

琴美はゆっくりと物体に近づく。よく見れば真っ白い輪がそこにあった。輪といっても腕が入る程度の物である。間違っても指輪サイズでは無い。指輪サイズならば彼女は見過ごしていただろう。

「何だろう。これ。」

琴美はしゃがんで白い輪を拾う。角度を変えて見てみるも何に使うかわからない。彼女は白い輪を一度元の位置に戻すが。これでは車や歩行の邪魔だろうと思って白い輪を道の端に投げる。彼女はそれを確認すると自宅に向かって走り始めた。

「ただいま。」

玄関に母親が仁王立ちしていたが、琴美はなんとか避けて部屋に入る。彼女は鞄を置いて着替えると夕食、お風呂と済ませて自分の部屋へと戻った。ベッドに倒れこみ。仰向けになる。

琴美はこのまま少し眠ろうと思いベッドから立ち上がる。それから部屋の明かりを消そうとした。そのとき、彼女は机の上に存在するはずの無いものを見つけてしまう。彼女は驚き飛びのいた。声が意外と大きかったらしく、母親が部屋に来た。彼女は母親に何でもないと言ってすぐに追い返した。

琴美は椅子に座り、机の上に置かれた物体に触れる。

「なんでこれがここにあるのよ。」

それは琴美が帰りに見つけた白い輪。確かに道の端に投げたはずである。持ち帰るなどということはしていない。

琴美が白い輪から手を離すと、突然輪は溶け出し、まるで吸い付くように左手首にまとわりついてきた。机の上から白い輪が離れたとき、左手首には真っ白い腕輪が出来上がっていた。傍から見ればただの白い腕輪。重くは無く大きくも無い。アクセサリーとしてつけているのではないかと思えてしまうものである。

「い、意味がわからないわ。」

琴美が腕輪に触れた瞬間、目の前の空中にウィンドウが現れた。その現象に彼女は驚く。彼女は昔の映画で見たことのある現状に感嘆しつつウィンドウをいじる。白い腕輪に触れるとウィンドウが表示・非表示となるようだ。

ウィンドウの中心には白い二重丸、周りに二つの白い丸、それらを囲む線で出来た枠があった。枠の形から自宅の間取りだろうと予想がついた。だとすれば、この二重丸は琴美で、白い丸は両親なのだろう。彼女が右側にあるバーを上下させると縮尺が変わった。縮尺を変えるとさらに複数の白い丸が見える。ご近所のみなさんということだ。止まっていたり動いていたりとさまざまである。しかし、これらが見られて何が出来るというのだろう。すると、ウィンドウ下部に「五つの白い丸を選択してください」と書いてあった。その横には残り二十四時間の表示。なぜ選択に二十四時間も時間があるかわからない。それに選択すると何が起こるのだろう。とりあえず縮尺を変えて広範囲を見られるようにする。そして、家の前の道を移動している白い丸一つをつっついてみた。すると、その白い丸が選択されたことを表す太い丸が付く。ウィンドウが空中に表示されたのだ。選択するとその人の情報が見えたりするかもしれない。または本人自身を操作できるのだろうか。いくつか彼女の頭の中に予想が浮かぶ。

しかし、琴美の予想は見事に外れた。数秒後に選択した白い丸は消えてしまった。跡形も無くである。それとともに数字が五から四に変わる。

直後女性の悲鳴が外から聴こえてきた。琴美の部屋は道路側であるため、すぐにカーテンを開けて外を見る。仕事帰りと思われる女性は両手で口を押さえながら後退している。彼女は女性の視線の先を見た。ここからでは暗くてよく見えない。彼女はウィンドウを消すとすぐにカーテンを閉めて部屋を出た。勢いよく降りたために母親と父親が何か言っているが一方的に「ちょっと外に行く。」と言って家から出た。

琴美が外に出ると、臭いが鼻に直撃する。この状況では意味がないとしても鼻に手を持っていく。これは血の臭いだ。手で鼻を押さえながら女性に近づく。周りを見れば悲鳴に気が付き外に出てきた人たちが何人かいる。女性は何も言うことが出来ずある一点を指差している。彼女はその指差された先に近づいた。辺りは暗いが近所の人が懐中電灯で彼女の見ている先を照らす。

琴美は臭いが何から発せられているか理解したとき、鼻を覆っていた手をわざわざ離して叫んだ。彼女の声にただ事ではないと両親も家から出てくる。

そこにあったのは縦に真っ二つに割れた仕事帰りのサラリーマン。そう、真っ二つのサラリーマンである。

それからすぐに警察が来た。それから現場や発見者の証言を聞いていく。はじめに悲鳴を上げた女性の話では、空から光の線が降りてきて、目の前のサラリーマンを真っ二つにしたというのだ。空からの光に誰がやったのかわからず、警察もどうしようもないようだ。琴美も警察に聞かれたが、悲鳴を聞いてカーテンから見たことと、家から出たとき感じたこと以外は話さなかった。もちろん白い腕輪については何も言っていない。

現状から白い丸を選んだことが原因だということを琴美は理解していた。彼女はなんとか悟られないように先ほど見た真っ二つのサラリーマンを怖がっていると周囲に思わせる。

琴美は調べが終わって自室に戻るとベッドに倒れこんだ。それからすぐに白い腕輪をはずそうと試みる。しかし、どうやっても外れない。金属製なので切れるかと思ったが、身の回りにあるものでは一切歯が立たない。任務を遂行しろということだろうか。

琴美は白い腕輪に触れてウィンドウを表示させる。すると、画面の左下に先ほどは気が付かなかった「注意事項」という文字を見つける。指で触れればもう一つウィンドウが表示された。


そこには注意事項がいくつか書かれていた。

一つ、腕輪をはめたものは五人の対象を選ばなければならない。

二つ、選ぶ選ばないに関わらず二十四時間という制限時間がある。

三つ、一人以上を選んだ状態で制限時間を越えると腕輪所持者も選ばれる。

四つ、誰一人選ばず制限時間を越えた場合、もしくは五人を制限時間内に選んだ場合は腕輪が外れる。

五つ、腕輪が外れた場合は二度と腕輪を使用することは出来ない。


注意事項は五つ。琴美は誰も選んでいない状態で「注意事項」を見つけることが出来ればどんなに良かっただろうかと思う。制限時間内に残りを選ばなければ彼女自身も真っ二つということである。あと四つ選ぶ必要がある。しかし、この状況で残りを選ぼうとすると選ばれるほうもかわいそうだ。それに連続で起きることで警察側が不審に思うだろう。それに夜遅い。時間はあるのだから、明日どうにかしよう。タイムリミットは避けなければならない。一人殺しているのだ。後戻りはできない。

琴美は警察に知られては困る内容を心に秘めることで、犯人とはこんな心境なのかと思った。



次の日の朝。琴美はあくびをしながら家を出る。あれからしばらく現場には人が集まっていた。よく起きていられると思うほど遅くまで外から声が聞こえた。朝のニュースを見れば現場が映っていた。やはり報道が食いついたようだ。学校に行こうにも現場に居た記者らしき人たちが彼女に話を聞こうと近づいてくる。

「学校があるので。」

琴美はそれだけ言って記者たちから逃げた。いちいち彼らに反応して学校に遅れてはよろしくない。

琴美は学校に入り、自分の席に着く。そこで何人かが今朝のニュースを見たらしく話しかけてきた。みんな近所で起きた不思議な殺人事件に興味津々である。人が死んだというのになんだろう。

琴美は昼休みになると誰にも見つからないように屋上への階段を上る。屋上に出ると、入り口から見えない位置に移動する。そして、白い腕輪に触った。腕輪は制服に隠れているためか先生たちやクラスメイトに見られずに済んだ。校則では変なものを着けてはいけないはずである。

ウィンドウが表示されると残り時間を見る。残りは約八時間。後四つ。学校を上空から見ると白い丸が多すぎて訳の分からない状態になっている。なんというか、気持ち悪い。

琴美は縮尺を変えたウィンドウを見ながら座り込む。残り四つをどうするかである。校内の誰かを選ぼうか。しかし、殺すほど嫌いな奴は居ない。それに選んだとしても学校内ではまずい。一人目との共通点から警察が彼女にたどり着く事もある。彼女は頭を抱える。

「選べば誰かが、選ばなきゃ私が死んじゃう。どうすれば良いのよ。」

琴美は大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐く。そして、立ち上がり屋上から町を見た。関係ない人を選ぶのは嫌だが、制限時間ぎりぎりに連続で選ぶのも良くない。どちらにしても、彼女が間接的に人を殺している事が分からなければ良いのだ。

琴美は縮尺を変えて出来るだけ広範囲を見えるようにする。彼女は学校から出来るだけ遠い位置に居る白い丸を一つ選ぶ。選択した白い丸に太い丸が付く。彼女はすぐに選択した丸が存在する方向を見た。

「ごめんなさい。」

 直後空から赤い光線が現れた。その線はまっすぐ伸びて地上に到達する。そして、三秒も経たないうちに赤い光線は消えてしまった。

「あの赤い光線が処理するのね。」

琴美はウィンドウを見る。残り三つとなった。ここでもう一人選んでおきたいところである。彼女はウィンドウを操作して先ほどの地点から出来るだけ離れた位置の白い丸を適当に選ぶ。そして目をつぶって白い丸をつっついた。彼女は目を開けたとき、選択した白い丸が消えていくところを見た。

琴美が三人目を選んだとき、何かがふっきれた。罪悪感はあるが、見ず知らずの相手だと思えばためらうことも無い。運が悪かったということ。この国の自殺者数や交通事故死者数に比べたら微々たる物である。彼女は自分の行っていることよりも誰にもばれずに終わらせることを考えることにした。

昼休みの終りを告げるチャイムが鳴り響く。琴美はウィンドウを消して自分の教室へと戻った。

授業がすべて終り、教科書類を鞄にしまっていると担任が教室に来た。

「みんなは昨日起きた事件について知っているかと思うが。先ほど同様の事件がこの近くで起こったらしい。明日は休みだから注意するように。」

先生はそれだけ言うと急いで教室を出て行った。何か忙しいのだろうか。

琴美は鞄に荷物をしまうと学校を出て自宅への道を歩いた。そういえば、明日は土曜日で授業も無い。残り二つをこの町で選ぶのも良いが、別の遠い町で選ぶことにしよう。そうすれば、この町の中だけの問題では無くなる。

琴美は自宅にて着替えると、すずかの家に行くと母親に連絡して家を出た。すずかとは学校のクラスメイトである。物静かで口数が少なく、それでいて容姿端麗。それとそこそこお金持ちらしい。

念のため会うはずのすずかにもそれらしいことを言ってもらえるように伝える。

「じゃあ、代わりに明日一緒に買い物に行きましょう。」

琴美はすずかの誘いを断ることも出来ず頷くだけだった。



駅のホーム。帰宅時間よりも少し早いためか電車に乗っている人は少ない。琴美は電車が発車するとただ外の景色を見続けた。

琴美は自分が住んでいる町から離れたことを確認すると、周りの人に見られないように腕輪を触ってウィンドウを表示する。車内のためかすぐに表示されたのは無数の白い丸の集合。さらに縮尺を変えていく。

「この辺りかな。」

琴美は駅から少し離れた位置を移動する白い丸を選択する。彼女が選択した人間が存在する方向を見れば空から赤い光線が現れた。車内の何人かは光に反応している。彼女はウィンドウを消して何もなかったかのように他の人たちと一緒に何があったのかと窓の外を見た。

琴美は四十分ほど時間をかけて隣県へと移動する。ホームに出れば人の山。そろそろ帰宅ラッシュの時間になるためにスーツ姿の人が多い。彼女は人の波を抜けて改札口を出る。彼女は出たところで特に行く場所は無い。ただ適当に歩く。正直、駅構内で済ませても良かったが、せっかく切符を買ってしまったので降りることにした。

忙しなく周りを歩く人々。琴美は場違いな存在なのではないかと思ってしまう。適当に辺りを歩き、人の少ない場所に着く。彼女は素早くウィンドウを開き、出来るだけ広範囲を見ようとした。

「お嬢ちゃん。こんなところに居たら危ないよ。」

琴美は男性の声に素早くウィンドウを消して振り返る。すると、見るからに危ない男がそこに立って居た。言っている本人が一番危ないと感じる。近づいてくる姿は気持ち悪く、彼女は一歩ずつ後退した。

琴美は周囲を見渡した。他に人は居ない。今目の前に居る男だけだ。

「おじさん。良いもの見せてあげる。」

男は良いものが何なのか気になるようだ。琴美は彼に背を向けて腕輪を触りウィンドウを表示させる。自分の傍に居るのは今目の前に居る男だけ。彼女は自分の傍に居る白い丸を選択する。選択されたことを確認すると男のほうを向いてゆっくりと離れた。それを追うように近づいてくる男。

すると、突如空から赤い光線が琴美と男の間に現れる。琴美はあまりに近くに光線が現れたために驚き飛びのいた。彼は驚くも、次の瞬間には驚きから絶叫に変わっていた。赤い光線が彼の体を切り始めたからである。短い絶叫の後、二つの肉塊が目の前に現れた。血は吹き出さず、ゆっくりと地面を赤く染めている。

琴美は手で鼻を押さえながら後退する。するとウィンドウが消え、腕輪は彼女の腕から離れて地面に落ちた。重い音を立てて地面に落ちた腕輪。すると、腕輪は元の白い輪へと変化した。彼女は恐る恐る白い輪に触れる。すると、触れても何も無い。そういえば注意事項には腕輪が一度外れると二度と使用できないと書いてあったと思う。彼女は白い輪を持つと、すぐに駅へと戻った。辺りは太陽の光を失い始めていた。

地元の駅に着いた頃には既に辺りが暗くなっていた。琴美は急いで家に帰り、玄関を開けた。

「ただいま。」

 琴美は走ってきたためか少々息が荒い。

「あら、やっと帰ってきたわね。もうすぐご飯にするからね。」

台所に居る母親が反応する。

琴美は応えるとそのまま自分の部屋へと入った。彼女が自分の部屋に入るとすぐにドアを閉めて近くのベッドに倒れこむ。仰向けになって天井を見ると落ち着いてきた。彼女は起き上がり白い輪を取り出す。この白い輪は腕輪となって人を殺す。しかし、何故殺すのかわからない。一つ分かっていることは、彼女以外の手に渡ったら再び同じことを繰り返すという事である。今回の五人のためにもこれ以上の犠牲は避けたい。

琴美は白い輪を簡単に取り出せないように机の奥にしまう。引き出しを閉めると大きく息を吐いた。

直後、台所の方から母親の声が聞こえる。夕食の私宅が出来たようだ。

琴美はダイニングルームへと入る。テーブルに載せられた料理から出る匂いにおびき寄せられるように椅子に座る。彼女は母親がもう食べても良いというので食べ始めた。すぐ傍にはテレビがあり、昨日今日と続いた彼女の仕業についてのニュースが流れていた。アナウンサーの言葉の内容から、被害者は全員空からレーザーのようなもので真っ二つにされているらしい。レーザーが何処から放たれているのか分からないらしい。

「怖い話ね。どうやったのかしら。」

 母親がおかずを食べながら言う。映像では無く誰かの声を通すために残酷な内容が薄れる。どこか遠くで起きた事件のように感じた。

この町で起きたのが三件、残り二件が別の町で起きている。そのためこのニュースでは最後に起きた場所近くでまた起きるのではないかという見解を示している。それとともに誰がやったかは現在警察が調査中らしい。

「早く犯人掴まって欲しいわ。」

琴美は早く犯人が掴まって欲しいと言う自分を心の中でおかしく思った。それとともに、明日以降同じ事が起こらなかったら、人々は事件の事をすぐに忘れてしまうのではないかとも思った。

琴美は食事を終え、お風呂に入ると、そのまま眠った。明日は友達と買い物で出かけるからだ。



次の日の朝。仕度をして家を出る。朝のニュースでは昨日から今日までで新しい被害者は出ていないようだ。このままマスコミも芸能ニュースを前に出して事件の事を影に追いやるかもしれない。

琴美は駅前ですずかと落ち合う。二人が電車に乗って目的地に向かう中、琴美が喋りすずかが応えるという状態が続いた。

琴美とすずかはある駅で降りる。この駅の近くに大型のショッピングセンターがあるのだ。住んでいる所が東京から遠いためか比較的近くで店舗数が多いここが良い。なにより大きいためか一日中居られそうだ。

「じゃあ、買い物開始。」

琴美がすずかを見れば黙って頷いている。彼女はそれを確認するとお店を回り始めた。服で迷ったりアクセサリーで資金と相談したりしながら欲しいものを購入していく。

琴美たちは買い物が終了すると二人揃ってドーナツを食べた。琴美の視線が自然とすずかの手首に着けたアクセサリーへ向かう。幾つかのヘアゴムの中に光沢のある腕輪があった。色からして銀で出来ているように思える。

琴美は腕輪というと昨日まで着けていた危ない腕輪しか思いつかない。それとともに、これも彼女が拾ったものと同じものではないかという考えが生まれた。

「ああ、これですか。最近買ったんです。一個ぐらいあってもいいかなと思いまして。」

琴美はすずかのごく当たり前な回答によって現実に引き戻された。彼女が着けていた腕輪は特別なのだ。もし同じものだとしたら白い腕輪のはずである。彼女はすずかの腕輪が自分の物とは違うと心の中で言い聞かせた。

「それにしても、和菓子が食べられるお店が一つ入っていても良いんですけどね。」

すずかは和菓子が大好きなためか、洋菓子店だけしかないことに不満のようだ。

琴美はすずかと話をしているうちに何時しか腕輪について気にしなくなっていた。

二人はそのまま駅から電車に乗って再び自分たちの町へ戻る。駅前で別れる頃には太陽が地平線に向かって沈み始めていた。

琴美は歩き自宅へと向かう。途中ふと空を見たとき見えるはずの無いものを見つけてしまった。それは赤い光線。彼女が腕輪を操作していた時に見た光線である。彼女は弾かれるように赤い光線が見えた方向へ向かって走った。光線の見え方からそんなに遠くは無い。幸い買ったものは柔らかい物だけなのであまり気を使わずに走った。

少し走ると人々の悲鳴が聞こえてくる。角を曲がったところで琴美は立ち止まった。息を整えながら野次馬の中を通っていく。中心にはやはり真っ二つに割れた人間。被害者は女性のようで何かかわいそうになる。漂う血の臭いは昨日と変わらない。

琴美は顔を上げ、息を吸い込むと自分の家に向かって走り出した。こんな事が出来るのはあの腕輪だけだ。誰かが手に入れたのだろうか。

「ただいま。」

琴美は家に入ると、そのまま自分の部屋に入った。ドアを閉めると荷物をベッドの近くに放り投げる。そして、机の引き出しを開けて中にある物を取り出した。すると、引き出しの奥に白く光る輪が見えた。昨日と同様に白い輪は机の中に在ったのである。彼女は安堵しつつ再び物を引き出しにしまう。しまい終えるとベッドに寝転がった。

先ほどの被害者は琴美が使った腕輪を用いたものでは無いようだ。だとすると、どういうことだろう。同じ事が出来るということは他にも同じような腕輪があるのだろうか。だとしたら幾つあるのだろうか。

琴美はそこではっとしてダイニングルームに移動してテレビを点けた。適当にチャンネルを回してニュースを映す。しかし、早すぎるためかそれらしいニュースは流れていない。

「ちょうど良かった。ご飯作るの手伝って。」

琴美は母親の声に頷き、夕食の手伝いをする。もちろん、テレビはそのままである。彼女は野菜を切りながらもニュースに耳を傾けた。何時速報が出るのか気になった。彼女はそれを考えながら料理を作る。しかし、それは予想以上に早く訪れた。

「ただ今入った情報によりますと……。」

琴美はテレビから聞こえる声に反応して、作業を中断してテレビの前に急いで向かう。背後で母親の声がしたが「ちょっと待って。」と言って止めた。今はこっちのほうが大切である。

琴美はアナウンサーの次の言葉を待った。

「一昨日から今日にかけて起きている連続殺人事件と同様の事件がアメリカ合衆国や中国で起きている模様です。」

琴美がその言葉が意味する事を理解したとき、体の中を衝撃が走り抜けた。これは昨日まで日本の一部地域で起きた殺人事件だった。しかし、今となっては複数の国で同時に同様の事件が起きている。

アナウンサーは今回の事件についてコメンテーターに話を振った。コメンテーターは髪の毛の薄い名も知らないおっさんだ。

「日本だけでは無く、今や複数の国で起きているわけですから、国際的な組織が関係しているかもしれませんね。各国が協力して犯人を逮捕して欲しいものです。」

アナウンサーは相槌を打つと次のニュースを読み始めた。

「琴美。作らないと食べられないわよ。」

琴美は母親の声に引っ張られるように台所に戻り、料理を作る。途中昼間起きた事件についても報道されていたが台所から出ることが出来ず音声を聴く事で知った。料理が出来上がるころにはニュース番組は終わり、バラエティ番組が始まっていた。

琴美は母親と一緒に夕食をとる。彼女は夕食を食べ終わると自室へ向かった。

琴美は机の中から白い輪を取り出し自分のベッドに倒れこんだ。彼女は仰向けになり、白い輪を両手で掲げる。白い輪は蛍光灯の光によって自身の白さを周囲に見せ付けている。その姿は美しく恐ろしい。


それから日を追うごとに被害者数は増加した。被害者に関係性が無いことから、無差別殺人との見解が浮上する。その発言から人々は見えない犯罪者に怯えた。

好奇心から始まった恐怖は何時終りを告げるのだろうか。

それは、誰にも分からない。

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― 新着の感想 ―
[一言] ※今回SFレビューから降りたので削除したものをこちらに転記する。 申し訳ない。 不条理の行方  はっきり言って、「リング」系の「バッドチェーンメール」系短編であり、新鮮味はない。しかし、…
[一言]  ども、近藤です。  これはやはり、現実的な話として読むのが正しいのではないでしょうか。近藤もうっかりすると何かのはずみで人間の二、三十人殺してしまうのではないかとひやひやしながら生きている…
2009/09/09 21:19 退会済み
管理
[一言]  何というか、怖いって言えば怖いですね。  もし、僕が同じ状況になったら、好奇心で選択してしまうと思います。  誰かを殺してしまうかも、と言うのではなくて、殺したくない人を殺してしまうかも、…
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