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人を指差しちゃいけないって習わなかったんですか

 久々にヤンデレ成分ゼロのまっさらな気持ちで書きました。
 多分さらっと読めます。
「わかったわ! あなたも転生者なのねッ! だからヒロインの私を邪魔してくるんでしょう?!」


 卒業式の後の立食パーティーで突然、見知らぬ女性に指を突き付けられそう叫ばれました。
 いや、見知らぬというのは語弊がありますわね。彼女は有名ですから、私も多少のことは知っております。ですが実際にこうやって言葉を交わしたのは初めてです。
 とりあえずお嬢さん、人を指差すのをやめましょうよ。人を指差しちゃいけないって親に習わなかったんですか。


「ええと……フィオナ嬢? 言葉の意味がよく分からないのですが……」
「しらばっくれんじゃないわよ! 私は全部分かってるんだからね!」
「しらば? えっと……私の方が全く分からないのですが……」


 奇怪な言葉を使う令嬢、ということは聞いてはいましたが、実際に耳にしてみるとすごいですね。
 たった数秒言葉を交わしただけでも「テンセイシャ」「ヒロイン」「シラバ」など分からない言葉がぽんぽん出てきますわ。
 もしかしたら彼女の住んでいた地方の方言なのかもしれないません。彼女は男爵令嬢であっても10歳までは庶民として過ごしていたというし。


「なんで私の邪魔するのよ! あんたは悪役令嬢の役なんだから大人しくバレオ様と婚約解消して湖に投身自殺すりゃいいのに!!」


 ……「トウシン」というのがよく分からなかったのですが、とりあえずとんでもないことを言われているということは理解いたしました。
 彼女の言葉によく分からない単語が含まれているからでしょうか、なんだか私も反応するのが遅れてしまいます。あと酷いことを言われても呑み込みが遅いので全く傷つきません。
 あの、でもとりあえず指を下していただけませんか? ずっとその状態ってきつくありませんか?


「と、とりあえず落ち着きましょうフィオナ嬢。あと指を……」
「あんたに馴れ馴れしく名前で呼ばれたくないわ! というか何で私に嫌がらせしないのよ! あんたが私を虐めないとイベントが進められないじゃない!」


 えっ……もしかしてフィオナ嬢はいじめられたい人なんですか? わ、私にそんな特殊な性癖押し付けられても心底困ります!
 顔を引きつらせないように我慢しながら言葉を選んでいると、ふと婚約者の顔が頭に思い浮かびました。

 婚約者のバレオ様はそれはそれは人を虐めるのが大好きな方です。暴力こそ振るわないものも、どこからそんなに仕入れたのかありとあらゆる暴言を私にぶつけてきます。凄まじい語彙力なのです、本当に。
 バレオ様は私に暴言の嵐を浴びせて遊んでいる時が人生で一番幸せそうです。つくづく嫌な趣味の人ですね、思い返すだけで私の小さな胃がキリキリと軋みをあげます。

 人を虐めるのが大好きなバレオ様と人に虐められるのが大好きなフィオナ嬢。
 よ、よく考えたらこれほどお似合いなカップルいないじゃないですか! バレオ様とフィオナ嬢でしたら二人とも幸せになって、それはそれは円満な夫婦になることでしょう。
 そして私はあの意地悪なバレオ様と結婚せずにすむ! なんて素晴らしいのでしょう。私の名前に少し傷がついてしまいますが、大したことではありませんわ。
 顔の美醜や身分の有無など私にはどうでもいいんですもの。優しい夫……ほしい夫の条件はただそれだけです。きっと探せば見つかりますわ!


「あ、あのフィオナ嬢、確認してもよろしいですか? フィオナ嬢はバレオ様がお好きなんですよね?」
「そうに決まってるじゃない! 彼のスチル、ボイス、あの俺様な性格! 何もかも大好きだから逆ハールートなんて進まずに彼一本に絞ったんじゃない!」
「うう……また理解できない言葉が……。つ、つまり、バレオ様と結婚したい! 私とバレオ様との婚約が気にくわないんですよね?」
「ええそうよ! だからさっさと悪役令嬢は退場しなさい! ここは私の物語よ!」


 フィオナ嬢は相変わらず私を指差したままです。血が通いにくくなったからか指先は白み、ぷるぷると震えています。何かの苦行をしているのでしょうか、腕の筋肉は確かに鍛えられそうです。
 いえ、フィオナ嬢の体勢はこの際どうでもいいのです。それよりもフィオナ嬢のお言葉です。
 なんてありがたいことなんでしょう! フィオナ嬢はあの意地悪の塊であるバレオ様を引き取ってくれるというのです! バレオ様を心から愛しているから私に婚約解消しろと仰っているのです!

 私は思わず泣いてしまいそうでした。心から、心から嬉しいです。
 これで私はバレオ様の妻にならずにすむのですね! 一生あの人の悪質すぎる暴言を聞きながら過ごしていくのかと思うと、それこそ湖に身を投げようかと思うほど憂鬱だったのです!
 バレオ様もフィオナ嬢を見ればきっと、相性がいいということを自覚してくれますわ。政略結婚ゆえ婚約解消は難しいとあきらめていましたが、私とバレオ様、そしてフィオナ嬢の説得があればお父様とお母様も納得してくれるはず!


「分かりました!! 私、バレオ様との婚約を」
「解消するなんて言わないよな、ディアドラ」


 突然、後ろから頭に手が置かれました。いえ、掴まれた、の方が正確でしょうか。5本の指先にめいいっぱい力が込められているので締め付けられている、というのも正しいかも。
 ああああ……。ふ、振り向くのが恐ろしいです……! 明らかに怒りの感情を含んだこの声は……!
 怯えて身体を縮こませる私とは対照的に、フィオナ嬢は花が咲いたかのような笑顔を見せました。


「バレオ様!」
「まったく黙って聞いていれば……ディアドラ。お前はよっぽど俺を怒らせたいようだな」


 耳元でささやかれるバレオ様の声は初めて出会った頃より低く男らしくなっています。
 初対面の時は、そうです私が4歳、バレオ様が10歳だったのですわよね。あの時はまだバレオ様の声も高く、性格も優し――

 ――『はじめまして、ディアドラ嬢。君の顔はなんだかあれだね……じゃがいもに似てるね』

 ……くはありませんでしたね。
 ああああっ! なんででしょう! なんでよりによってこんな性格ねじ曲がった男性と婚約なんぞさせたんですかお父様!! わたしが大切じゃないんですか?!
 うううっ、所詮私など政治の道具でしかないということなんですね。お父様なんて大っ嫌いです。公衆の面前でカツラがずれて赤っ恥をかけばいいのに。


「ば、バレオ様。とにかくお話を聞いてください。あと頭が痛いです、割れそうですわ」
「お前のアホさ加減に付き合っている俺はいつもこれぐらい頭を痛ませているんだ。いい機会だ、いつもの俺の苦労を知れ」
「なるほどこれは中々痛いですね。そんなバレオ様にご提案なのです。こんなに頭を悩ませる存在である私を棄てて虐められたい願望があるフィオナ嬢と結婚しませんか。……バレオ様本当に痛いです。どんなに凶暴な性格でも身体的な暴力はしないって信じていたのに」
「これは暴力じゃない。傍目から見れば婚約者の頭を撫でているだけだ」
「いえどう見ても私の頭を掴んでぐりぐり回しているだけですわ。首がもげそうですやめてください」


 私の必死の訴えに、ようやくバレオ様は私の頭を解放してくれました。
 そそくさとバレオ様から距離を取ろうと足を動かしましたが、今度は肩を引き寄せられその場に固定されました。
 肩に腕を回され密着する、仲睦まじい夫婦のような体勢。嫌がらせとしか思えません。


「……それで、何だって?」
「婚約解消をしませんか、バレオ様」
「拒否する」

「なんで?!」


 おお、フィオナ嬢。なんて心強い味方なんですか、あなたは。時々意味の分からない言葉を発しますが、彼女と私はいい友人になれそうです。
 私からも聞きたいですバレオ様。 なんで?!


「お、おかしいじゃないこんなの! バレオ様っ、私あなたのことが好きなの! あなたも私のこと好きでしょう? あなたは私と結ばれる運命なんだから、こんな女さっさと捨てちゃってください!」
「そうですそうです、捨てちゃってください」


 さりげなくフィオナ嬢に加勢すれば笑顔でぎろりと睨まれました。
 そ、それくらいでひ、怯むとおもったら、大間違いなんですからねっ! ……うう。


「どこで話がねじ曲がったのか知らないが、私は貴女のことを知りません。ゆえに貴女のことを好いているという事実もありません」


 出ました! バレオ様の外面、自分のことを「私」と呼び相手のことを「貴女」と呼ぶ紳士的な一面!
 いえ、貴族ならば普通のことですけどね。でも私、バレオ様に「貴女」なんて呼ばれたこと過去の記憶を掘り下げてみても一度もありませんわ。
 呼び名は精々「ディアドラ」「お前」「おい」「アホ」「馬鹿」「じゃがいも」「穀物」「炭水化物」ぐらいでしょうか。最後の三つぐらいはなんなんですか、泣いていいんですか。

 バレオ様に余所余所しい態度を取られながらもフィオナ嬢は一向に笑顔を曇らせません。ついでに私を指差したままの腕も降ろしません。
 羨ましい、その鋼の心臓と腕の筋肉。やはりバレオ様に相応しいのはフィオナ嬢ですわ!


「いいんです、付き合ってからゆっくり私のことを知って下さい! とにかくバドラ様の傍にいるべきなのはその悪役令嬢じゃなくて私なんです!」
「悪役令嬢? ディアドラが? ……アホなポテトの聞き間違いか」


 バレオ様、「あ」しか合致してません。どんな聞き間違いですかそれ。
 というかじゃがいもやらポテトやら、私の顔ってそんなに丸っこいのかしら。それともでこぼこしてる?
 ぺたぺたと自分の顔を触ってみますが、どう触っても普通の人間の顔です。必要最低限の凹凸しかないし、そんなに丸くもない……はず。


「私ならバレオ様の傷を癒してあげられます! バレオ様、幼い頃に義母上に虐待されてお辛い思いをされたんですよね。人を遠ざけるのもキツイ言葉を言ってしまうのも、自分の心を守るため。でもいいんです。私は義母上のようにあなたを傷つけたりしません! だから素直になってもいいんですよ!」


 おお……バレオ様の複雑な家庭環境を知っているなんて、中々耳が広い方ですね。
 ああでも、ちょうどその頃ですよね。私とバレオ様が初めて会ったのって。


「申し訳ありませんが、そのことはもう解決済みです。義母は10数年前に追い出しましたし、やられたことは何倍にもしてやり返しました」


 そ、そうですよね……。私もバレオ様の義母様が追い出される瞬間に居合わせたのですが、あの時のバレオ様は本当に怖かったです。
 義母様の犯した罪を、笑顔で、淡々と、立証していくのです。まさに大魔王。途中で私はあまりの恐ろしさに気絶してしまいました。幼い子供に見せるものじゃないでしょうああいうのは!


「えっ、嘘……継母の追い出しって3年前っていう設定だったはずなんだけど……」
「はい? 勘違いなされているようですが、もっと前ですよ。そのため私は私なりに整理がついています。それに、貴女に慰めてもらわなくても私にはもう鬱憤を受け止めてくれるディアドラがいますしね」


 うん?! 鬱憤を受け止めてくれる?! 何ですかその綺麗な言葉は!
 正しくは「一方的に鬱憤をぶつけている」ですよね? 一度も「受け止めた」事実なんてありません。その内「私を罵ることそれ自体が楽しい」に発展したようですが、断じて、「受け止めて」などいません!
 ああああ……考えれば考えるほど婚約破棄しなければならないという考えに至ります。私に罵られて喜ぶ趣味などないのです。ですからこんな意地悪な夫、私は持ちたくありません!


「そ、そんなはず……っ、だってそいつは、ただの政略結婚で……!」
「政略結婚であることは事実です。ですが幼いころからの付き合いですし、何より私はディアドラの隣が一番安心して呼吸できるので、彼女を手放すつもりはありません。……それと、ディアドラ」
「はい?!」


 突然話を振られて素っ頓狂な声を出してしまう。
 あ、今バレオ様、「蛙が潰れたような声だな」って思ったでしょ。
 うう……言葉に出してないのに視線だけで悪口が読み取れてしまう……長年罵られてきたせいね……。


「思い違えるな。俺は虐められて喜ぶ女を虐めるのは好きじゃない。むしろ気持ち悪いから嫌いだ。……俺が虐めて心底楽しいと思うのはお前ひとりだけだ、ディアドラ」
「……バレオ様」
「だから一生俺の傍で虐められてアホ面を晒せ。俺から逃げられると思うなよ」


 ……。
 …………。

 い、
 いやだああああああっ!!

 何ですかそれ?! 私の未来真っ暗一筋の光明もなしじゃないですか! 虐められて一生過ごせってどんなプロポーズですか、ふつうに嫌です!
 確かにバレオ様は超美形で、家柄も素晴らしいです。この低音の美声で今のようなことを囁かれればくらっときてしまう女性も大勢いるでしょう。
 ですが! 性格が! ひん曲がっているのです!

 もういいです、結婚相手の基準を下げます。
 優しい男性じゃなくていいです、とにかくバレオ様以外の人! どうか私をお嫁にしてください!
 この人の隣で一生を過ごすなんて、私のノミ虫みたいな胃がもつはずありません。バレオ様が楽しくても私はひたすら憂鬱です。
 以前お医者様に「ストレス性胃潰瘍のなりかけですね。気を付けてください」と言われました。
 私にどう気を付けろと。そういうことはお願いですから、第一要因に言ってください。


「……なんでよっ!!」


 今まで黙って話を聞いていたフィオナ嬢が突然大きな声で叫びました。
 何だかんだで今までのやり取りを聞き流していた周囲も、新たな結婚相手を望んで祈る私も、私をじっと見下ろしていたバレオ様も、しんと静まりフィオナ嬢の方を見ます。


「あんたが、あんたがバレオ様ルートを歪めたのね! バレオ様は“私”なんて一人称使わないし、もっと誰に対しても俺様だったのよ! あんたが転生者だからっ、あんたが、あんたが私の物語をめちゃくちゃにしたんだ!!」


 私をずっと指差していたフィオナ嬢の手がゆっくりと降ろされ、後ろ手に何かを探ります。私の角度からではそれがはっきりと見えました。
 テーブルに置かれていた、シルバーのナイフです。フィオナ嬢がナイフの柄を握り、勢いよく突進してきます。
 私は咄嗟に、バレオ様の前に出て彼の身体を強く押しました。


「あぶないっ」


 誰かが叫びました。私でないことは確かです。だって私の口からは痛みに叫ぶ悲鳴がほとばしったんですもの、そんなことを警告する余裕などありません。
 バレオ様と一緒に避けれたつもりでしたが、一瞬遅く、ナイフは私の背中あたりの布と皮膚を切り裂いていきました。
 勢いのまま縺れたフィオナ嬢はそのまま倒れこみ、給仕の男の人たちに押さえつけられます。辺りに嫌などよめきが広がりました。


「っおい! ディアドラ! 誰か、医者を呼べ!」
「お……大袈裟です。掠っただけですから」
「何が掠っただけだ! お前、こんなに血が……っ」


 確かに私の背中を押さえるバレオ様の手は赤々とした血がべったりとついていました。傷口は燃えるように熱いです。
 でも致命傷にはなりません。当たり前です。シルバーのナイフになんかもともと殺傷能力なんてあるはずがないんですから。
 バレオ様が初めて見るぐらい動揺しているからか、何故か私の頭はすぅっと冷えて冷静に考えることができました。


「なんで俺を庇った! 女が男を庇うなんて、普通逆だろ!」
「いや私にもさっぱり……」
「この馬鹿……っ、しかも狙われてたのはお前だろ! 俺を庇う必要なんか一つもなかったんだ!」
「た、確かによく考えるとそうなんですが……何というか、あんまり考えている余裕がなかったので」
「だからお前は考えなしだというんだ! 傷跡が残ったらどうする! お前は女なんだぞ!」
「だ、だからよく考えてなかったんですって!」


 本当に咄嗟に庇おうとしただけなんです! 守りたいとかそういうのじゃなくて、咄嗟に! 反射的に!
 というか曲がりなりにもバレオ様を庇って負傷したのに、なんでこんなにボロクソに言われないといけないんですか。ううう……恨めしい! 今回こそ私もバレオ様に罵り返してやる!
 罵り言葉を必死で思い浮かべていますと、バレオ様が急に立ち上がり、押さえつけられているフィオナ嬢の前まで歩いていきました。


「フィオナ嬢。一つ言っておこう」


 私からはバレオ様の顔は見えません。でも見えない方がいいかもしれないです。
 フィオナ嬢を含め、バレオ様の顔を見ている方々すべての顔から血の気が失せていました。一体どんな恐ろしい顔をしているのでしょう。悪夢に出そうだからやっぱり見えなくてよかった。


「俺は、自分以外の人間にディアドラが傷つけられるのは死ぬほど嫌いだ。ディアドラを罵るのも虐めるのも傷つけるのも、俺だけの特権だからな。……楽に死ねると思うなよ。どんな権力を行使してでも、この報いはきちんと受けてもらう」


 底冷えした声でそう告げると、バレオ様はくるりと振り向き私の方へ戻ってきました。
 床にへたり込んだまま立てない私を抱き上げ、傷口に触れないようにそっと私の肩あたりを撫でます。
 な、撫でてる! あのバレオ様が撫でてる! う、嘘でしょ……というかこういう優しく紳士的なことができるならどうして今までしてくれなかったんですか! 緊急時専用の優しさですか!


「あ、あの……」
「……傷は残させない。俺以外がつけた傷なんて、残してたまるか」


 こういう優しいことができるならこれからももっとしてください。
 そう言おうかどうか迷いましたが、バレオ様の声を聞いて結局言えなくなりました。だってあまりに苦しそうな声で言うんですもの。こんな傷、別に大したことじゃありませんのに。


「お前も、もっと気を付けろ。俺の心臓を止める気か」
「えっと……ご、ごめんなさい……」
「許さない。許すものか。罰として、お前は一生俺の傍にいろ。俺の妻として、ずっと俺のことを愛せ」


 ……え? なんですか、これは。プロポーズ改定版ですか?
 確かに先ほどよりかは内容も一般的なものになっていますが。ですがなんですかこの雰囲気!
 周りの皆様、お願いだから談笑に戻って下さい! なんで皆さん私の答えに耳をそばだてているんですか!
 「はい」か「うん」か「勿論」のどれかしか言えない雰囲気。な、なんていうことでしょう……。


「い、虐めませんか?」
「虐める」
「え゛」
「愛してるからな」


 にやりと唇をつりあげて意地悪気に笑うバレオ様。
 え、どうしたんですか私の心臓。さっきからやけに鼓動が早いです。
 ま、まさかドキドキしてるんですか?! おかしいでしょう! 冷静になれ! 一生虐めると言ってるんですよこの人は!
 ででででもあい、愛してるって! 愛してるって! そんなこと言ってくれたこと一回もないくせに、どうしてこの場で言うんですか! 卑怯ですよバレオ様!


「た……たまには優しくしてください」
「……………………」
「その沈黙は何ですか!」
「いや、仕方ないな。優しくしよう、虐めた分だけ」
「うう……な、なら……いいです」
「うん? 聞こえない」
「い、いいです!」
「もっとちゃんと言え、ディアドラ」


 や、やっぱり意地悪じゃないですか!
 にやにやにやにや、さっきまで私の傷をいたわっていた紳士的なバレオ様はどこにいったんですか!
 ええいもうやけくそです。女ディアドラ。はっきり言ってやります。


「バレオ様と結婚します!」


 ついに結婚相手の基準が底まで落ちました。
 つまり、バレオ様でもいい。

 いくら眉目秀麗な人でも、この人はものすごく性格がねじ曲がって、罵詈雑言を私にぶつけては心底楽しそうな顔をしている意地悪な方です。
 でも、もうこの際バレオ様でいいです! ま、間違ってもバレオ様“が”いいわけではありませんのであしからず。

 周囲から歓声と拍手が聞こえます。バレオ様が傷を触れないように気をつかいながら私の身体を抱きしめました。
 うう……今更取消なんてできません。それにさっきから心臓がおかしいです。狂ったように鼓動を打っています。
 こ、これでよかったんでしょうか。不安で胸がいっぱいですが、見たこともないほど幸せそうなバレオ様を見ていると何だか私もちょっぴり嬉しくなります。

 もう腹をくくりましょう。
 どんな罵詈雑言にも耐えてみせます。女ディアドラ、意地悪な夫バレオ様の妻となるんですから。
 前の悪役令嬢もの「泣き虫な悪役令嬢とその兄」みたいな重い内容を書くことが多いのですが、たまにライトなのも書きたくなります。
 でもちょっと後半甘すぎて砂はきそうになりました。甘いのは苦手ー……ドロドロした方が書きやすい……。
 王道すぎる内容ではありますが、書いてて楽しかったです。

 ここまでお読みくださり、ありがとうございました。

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