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別短編「紅の桜」とリンクしている部分がありますので、そちらを先に読んでもらったほうが楽しみが増すと思います。
後書きまで読んでいただければ幸いです。
探しものが見つからない
作:七紀


探しものというのは、誰にでもあるだろう。
人によってそれは財布や携帯のように形あるものだったり、愛や希望のように形の無いものだったりするかもしれない。
だが、それがいつも簡単に見つかると限らない。
探しものが見つかり喜ぶ者、探すことをあきらめる者、探し続ける者。
さて、俺はいったいどれなんだろう。









  探しものが見つからない









我が家に帰ってきた。
今日は散々な日だ、なぜなら探しものが見つからないのだ。
朝起きて、学校に行って、授業を受けて、昼飯を食べている間にも探していたのに見つからない。
おかげで先生にも注意されてしまった。
綾人に一緒に探すよう頼んだのだが、どこか浮世離れした雰囲気を持つその友人は大事な約束があると言って足早に帰ってしまった。
人付き合いの悪いあいつが約束だなんて珍しい。
人付き合いが悪いからこそ、適当な理由で断られたとも考えられるが。
しょうがないので一人で帰路を急ぎ、今に至る。
テーブルの下に屈みこむ―――ない。
冷蔵庫の隙間を覗き込む―――ない。
引き出しを片っ端から開ける―――ない。
押入れのふすまを引く―――ない。
ごみ箱のふたを開く―――ない。
ない。どこにもない。
しかしどうして人間というものは無いと分かっている場所もいちいち調べないと気が済まないのだろうか。
微かな希望を持って探し、やはりという落胆を見つける―――不毛だ。
なにやら疲れたので、ソファに座り込む。
と、外から呼び声がした。
「―――ルカ。どこにおるのだハルカ!」
小学生くらいの少年の声だ。
きっと少年も家族やらペットやらを探しているのだろう。
次第に声が遠ざかっていき、聞こえなくなった。
小学校で流行っているのか、時代劇のような呼びかけだった。
……やはり外かもしれない。
そう思い、玄関に向かったところで違和感を覚える。
気持ち悪いような、何かを忘れているような。
「あ」





―――探しものって何だっけ?





これは困った。
探しものが何なのかを探す羽目になるとは洒落にならない。
一体何なんだろう。
財布はある。
携帯もある。
家の鍵は……いけない忘れた。
急いで取りに戻り、再び玄関。
しかし、無くしやすいものと言ったらこれくらいのものだろう。
教科書やノートぐらいならここまで躍起にならないだろうし、他になくして困るようなものも無い。
記憶に残っていないということは、大したものではないのかもしれない。
いや、そうすると朝から必死に探していた俺は何なのだろう。
……考えすぎて、頭がぽわぽわする。
まるで夢を見ているような、そんな感覚。
そのときガチャッ!と玄関が開いた。
「探しものは見つかった?」
「……なんだ綾人か、驚かせるなよ。手伝いに来てくれたのか?」
「いや、僕の探し者が見つかったから報告に」
「探し者?」
「うん、姉さんが見つかったんだ」
「それって、……たしか行方不明の」
「うん、だから幸太郎の探しものは僕が見つけてあげるよ。その前に……」
ポケットに手を突っ込み、何かを取り出す。
「これ必要なことだからよろしく、幸太郎」
プツッ。
こんな音がしたと思う。
痛みは無い、が、自分の腹にナイフが突き刺さっている状況はあまりにシュールで、笑えなかった。
「アハハッ……」
アハハハハハハハッと、堰を切ったように笑い出す綾人。
シュールすぎる。
というかこれ、俺死んじゃうんじゃね?
自分でも不思議に思うくらい、冷静だった。
とにかく逃げなければ。
綾人を押しのけ外に出る。
しかしすぐに立ち止まった、というより立ち止まらざるを得なかった。
道が無い。
道だけでなく、家も電柱も外灯も全てが塗りつぶされたかのように真っ黒で、世界は暗闇で出来ていた。
後ろを振り返っても、既に我が家も綾人もいなかった。
ただ闇だけがある世界で、綾人の狂笑だけが響き渡る。
いつしか世界が暗闇なのか、瞼を閉じているだけなのか、それすらも分からなくなり、ただ確実に世界は黒に染まった。
ブラックアウト。





「―――はっ」
がばりと起き上がる。
寝汗がひどく、服が濡れて気持ち悪いし、気分も悪い。
だが俺は安堵した。
「夢か……」
そりゃそうだと思う。
途中からのシュールな展開はあまりにもありえない。
というより、探しものを見つけるために、何故死ななきゃならんのだ。
そもそも俺には探しものなんて無い、無くしたものなんて無いのだ。
無いものを探し出すのは無理な話だろう。

……しかし、もしかしたらこうやって人は忘れていくのだろうか。
何かを忘れ、それが何なのかを忘れ、やがてはそれを探す理由をも忘れる。
そして忘れ去られたそれはひっそりと消えていくのだろうか。
俺が思い出せないだけで、ひょっとしたら何かを忘れているのかもしれない。
探しものは確かにあるのかもしれない。

―――不毛だ。
こんな哲学的な俺はキャラじゃない。
あんな夢を見たせいだ。
明日、殺されたお礼に綾人を殴ろうと誓う。
と、外から呼び声がした。
「―――ルカ。どこにおるのだハルカ!」
思わず飛び上がり、急いで窓を開けた。
「ハルカ! そこにいたのか!」
視界に少女と黒猫が飛び込んだ。
少女が黒猫を抱き上げる。
それを見て力が抜けてしまった。
正夢だったらどうしようと思った自分が恥ずかしい。頬が染まる。
でも良かった、少女は無事にペットを探し出せたのだ。
しかしまた違和感が襲う。
確か呼び声は少年の声だったような気がしたのだが……。








「ずいぶん探したんだぞ、ハルカ」








黒猫が、そう口を開いた。


コンセプトは「世にも奇妙な物語」です。
言われて見ればそんなかんじ、と思っていただけたのであれば幸いです。













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