一話 : 少年、暴れる
人が宇宙に出て数世紀。
コロニー経営、そちらと連動したテラフォーミングは順調に進み、人類は太陽系外に進出して幾星霜。
地球外生命体との戦闘も数知れず、宇宙海賊との戦闘も数知れず。
故に軍人は、人類で3番目に就職人数の多い、職種となっていた。
ちなみに、1番は公務員、2番は第二次産業就労者である。
当然そんな職種であるから、養成学校というのは数多い。
国家が運営する軍人養成学校の中には、なんと1つのコロニー全てが養成学校運営の為に充てられているモノもある。
宇宙軍、地上軍の2つが組織的に全く別のモノになり、更に下部組織は細分化されているのだから、それも無理の無い事だった。
「だからって、子供に艦1隻を任せる軍があるかァッ!!」
ブリッジ、指揮系統が集中した艦橋。その最重要ポスト、艦長席に座る少年。
堂々と足を開いて座り、腕組みをしながら怒鳴り散らすその少年は、風格こそは艦長その物だ。
分厚い生地のコートの様な制服、キャップもまた、艦長のみが着用を許された代物である。
しかし、容姿。
ふっくらした頬を持つ顔立ちは中性的。座高は80cmあるか無いか。身長に換算し、150と少し。
髪は黒。長く伸ばし、肩程まである。
目つきだけは一丁前に鋭く、掛けている眼鏡は鋭角的なモノだ。
この少年、名をユウキ・リーザーという、13歳の少年だった。
現在の肩書き。「宇宙軍・機動艦隊・非正規編制艦隊所属・ハルモニア級駆逐艦”ピースハルモニア”艦長」。
ちなみに数日前までの肩書きは、宇宙軍機動艦隊中等士官学校通信科1年生、である。
「艦長、第1種戦闘配備中です。
上官軽視とも取れる発言は慎むべきかと」
そんなユウキにつまらない忠告をするのは、彼の部下。もとい、同級生。
シュリー・シューマンという名の少女だ。名門軍人一家のご令嬢である。
髪青く、腰元まで伸ばしそれはストレート。顔立ち整い、少し困った様に表情を崩している。
仕草は清楚そのもの。声色も鈴の様に高くそれでいて軽い。
黙っていれば深窓の令嬢かと見紛う程だ。
着ている服は、モロに体のラインが出るスーツ。下は白のストッキングに、短めのキュロットスカート。
実際、シュリーはユウキのクラスの、アイドル的存在である。
尤も今の肩書きは、ピースハルモニアの通信管制官だが。
「非常時だからって、おかしいだろッ。高等士官学校もあるんだ。
それこそ将官を輩出する士官学校だぞ。何だってオレ達みたいな、佐官止まりの中等士官学校の生徒が……」
「別におかしな事じゃないって」
振り返り、ユウキの言葉に応えるは別の女子。
火器管制官、フュー・ルーアという少女。
栗色、ボリュームのある髪をポニーテールにした少女だ。可愛いとは言えないが、不細工とも言えない中庸な顔立ち。
シュリーが大人しそうな女子なら、このフューは間違いなく明るそうな女子だ。底抜けとはいかないが。
服装はシュリーと同じである。ただスタイルばかりは、フューの方が圧倒的だった。
彼女はユウキの同級生ではない。むしろ先輩だ。
3年生、2つ上である。所属する兵科も異なる。ユウキとシュリーは通信科で、フューは普通科の生徒である。
所属する学校は同じである。
「中途半端な数合わせより、一芸に秀でた人間を揃えた方が良いのは戦略的に見ても正しい。違う?
艦長は通信科1年首席だし、シュリーは次席。アタシも学年5位だよ?」
「確かに理屈は間違っていないが……」
「メテオスイープ自体、士官学校の実習や実技試験の定番だしね。生徒だけでも十分じゃない?
それに、中級宇宙航行艦艇操縦免許取得してるの、このメンバーでは艦長だけでしょ」
「免許なんて、取るもんじゃないよなぁ……」
先輩風を吹かせて、フューはユウキに対し敬語を使わないし、時折フォローする事もあった。
ただ、そんな事は副艦長にしてもらいたい事でしかない。
その副艦長に、つまりユウキの座る艦長席の真下の席に座る女子を、ユウキは見やった。
「艦隊配置状況のシミュレート完了。整備状況の確認に移ります。
巡航システムグリーン、火器管制システムグリーン、通信システムグリーン、バリアシステムグリーン……」
猛烈な指使いでキーを叩き、事務的を通り越し、既に機械的に艦の状況を確認している少女が、そこにいた。
彼女がピースハルモニア副艦長、リ・チュンファ。ユウキの1つ上、先輩である。
このチュンファ、ユウキと同じ黒い髪を持つが、ユウキとは違い短く切りそろえている。
普段はジト目がちだが、今は目一杯見開いており、その瞳がなかなか大きなモノである事がよくわかる。
体格だって貧相。1つ上にもかかわらず、ユウキよりも幾らか背は低かった。
服装はユウキと似ている。帽子が無いだけだった。
これが、この艦橋にいる人間全員だ。同時にピースハルモニアに乗艦している全ての人間でもある。
これだけの少人数なのは、コスト削減の為、艦の機能の殆どが機械によって制御されている為だ。
機械で制御と言うと、逆に1隻あたりの建造に関するコストが莫大になるモノと思われるが。
気静粒子。これが発見された事により、むしろコストは下がっていた。
気静粒子とは、酸素と結合すれば膨大な光量を生み出し、水素と結合すれば膨大な熱量を生み出す素粒子。
酸素や水素と結合しなければ、ほぼ無害な素粒子である為、原子炉よりも遙かに安全でクリーンだ。
故に、宇宙開発では専ら使われる様になり、生み出すエネルギーを安全に処理できる様になってからは、艦にも搭載される様になった。
気静粒子の発見でエネルギー問題は解決し、結果、人間を使うよりも機械を使った方が遙かに安価な時代となっていた。
昔は千数百人の乗員を必要とした、宇宙戦艦の運用も、今は4人程度で事足りるのである。
流石に空母ともなれば、未だに数百人単位の乗員を必要とし、正規軍ならばこのピースハルモニアでも、交代要員も含め数十人を必要とする。
必要に迫られ、今だけ乗艦しているユウキ達だからこそ、4人という少人数だった。
「理屈は、確かにそうだ。だがな、ルーア先輩」
非常編制な上、階級すら与えられていないので、呼称は役職名だったり平時のモノだったり。
チュンファから視線を外し、ユウキは左斜め前にいるフューを見やった。
「この状況は、正直どうかと思うんだ。
広大な宇宙に、密閉された空間、そこに男子1人女子3人、それも女子は皆見目麗しいと来てる。
正直、男としても紳士としても、色々試されてる状況にあると思うんだ、オレは」
「健康な男子だものね、艦長も」
フューは笑って答えたが、他2名の反応はぎこちない。
シュリーは冷めた視線を送ってくるし、先程まで元気(?)に読み上げていたチュンファの声と手はピタリと止まった。
ジト目で、ユウキを見上げてくる。
「艦長。軍紀を乱す発言は慎むべきです」
「そんないやらしい目で私達を見てたんですか、艦長」
「お前等人を何だと思ってる!? 清廉潔白、公私混同をしない出来た人間にオレが見えるか!
ハッハッハッ、それなら残念だったな! オレはごくごく普通の感性を持つ人間だ!
あわよくば良い所を見せようと、35の奇策と55の決め台詞が頭の中を駆けめぐっているんだ!」
問題発言です、というシュリーからの反抗。
このセイウチ、紙みたいに軽い気質、頭脳の無駄遣いという中傷は、チュンファから。
確か、セイウチってハーレムを作るんだっけか、と考えながら。
「作戦開始時刻まで、あと10分40秒か……」
フューから視線を外し、ユウキは自らのモニターを見やる。
画面右下端に、カウント。10:40から、1秒を経る毎に、1ずつ少なくなっていく。
作戦開始時刻までのカウントであった。
「ま、相手が人間や宇宙生物じゃなく、ただの隕石群ってところが救いか」
画面を切り替え、先程シミュレートしたとチュンファが言っていた、艦隊配置状況を確認する。
そのただの隕石群を相手に、ピースハルモニアも含め18の宇宙戦艦が布陣していた。
宇宙空母4隻も含まれ、無人艦載機から有人艦載機までフル活用されるという話である。
ピースハルモニアの配置は、中央だ。左翼と右翼は宇宙空母が固めているので、正面での迎撃は駆逐艦の役割なのだ。
無論宇宙空間なので、平面ではなく高低差もある。それで見た場合は、若干低い位置。
基準は、ピースハルモニアの丁度後方にあるコロニーの高低。ユウキ達の学舎であり、現在の居住地であるスペースコロニーだ。
押し寄せる隕石群から守るべき、防衛拠点でもあった。
「直近準惑星で謎の大爆発、破片飛来に伴い緊急迎撃。猶予は僅か3日で、正規軍の救援は駆逐艦2隻。
主力の宇宙空母には駐留していた正規軍人やら、教官やらが乗艦して、駆逐艦はオレ達生徒任せ。
あまりに見事な戦力運用に、感嘆を禁じ得ませんな」
「棒読み過ぎますって、艦長」
ユウキの皮肉に、フューがカラカラと笑った。
それから、ユウキは表情を引き締める。
「ま、何にせよ。訓練通りだ。
上の言う事は絶対、やるのはできる事だけ。
できない時は上に言う、できない事は絶対にしない、アンダースタン?」
『サーイエッサー』
答えをもらい、満足げにユウキは頷いた。
見据えるは黒の宇宙ではなく、彩られたモニターの宇宙だ。
施政者ではなく、軍人である限りは、艦とこのモニターの箱庭宇宙がユウキの統括すべき場である。
(やってやるさ)
内心で言い聞かせ、カウントが0になるその瞬間を待った。
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