< タンス・弐 >
「午前様、今度はこっちからいくよ!」
「オッケー、ユーもやっちゃいなよ!」
「開け、超次元収納オープン!」
気を取り戻した少年の声が空き地に響くと、九十九神の上半身が両開きで開き始めた。
そして中から、大蛇のような太い木の蔓が現れる。
「これでも喰らえ!」
九十九神の体中から伸び出た木の蔓。
それを大きく上へ振りかぶると、忍者を目掛けて振り下ろされた。
「おっと!」
乾いた鞭の音が空き地に響く。
その鞭の如く一撃を、虎二は素早く回避した。
蔓の先で打たれた地面は、パックリと開いた亀裂が出来ていた。
「もっとやっちゃいなよー!」
九十九神の掛け声に答えて、蔓は鞭の攻撃を虎二に目掛けて連続でパチンパチンと繰り返し放つ。
しかし虎二は、幾度も繰り返される攻撃を見切り回避した。
だが、回避を続けるのが精一杯なのか、自分から反撃に移れないでいた。
「ちっ、時間が少ないのに、じれったい!」
虎二が、舌打ちをしながらジレンマを口にした其の時である。
突如空き地内に響き渡るバイクのエンジン音。
そのエンジン音は、まるでモンスターの叫び声のようだった。
「なんだ?!」
「ファッツ!?」
空き地で争う二人は、その音に動きを止めた。
あまりにも激しいエンジン音。
その振動に、針金作りの柵が、音を立てて揺れはじめた。
二人は、揺れる柵の向こうを見る。何がやって来るのかと思い。
「ちがう、路地からじゃねえ!」
路地の方を見ていた虎二が、そう叫んだ瞬間であった。
虎二と九十九神の間に、突然大きなバイクが降ってきた。空からだ。
二つのタイヤで地面を叩き、その勢いで発生した風圧が、大きな衝撃となって空き地に広がっていった。
そして振動は、三つのビルの壁に跳ね返り、更に大きく木霊を繰り返す。
「ファァッッッツツツツ!!」
アメリカの暴走族が乗っていそうな、反り返った長いハンドル。
大きな車体には、大きなシートが設置され、太いマフラーから劇音を鳴り響かせていた。
空から降ってきた、大型バイク。
それに跨る体格のいい男。
緑色の爬虫類のような肌。
それに胸や肩、腕や足には鋼色の黒いプロテクター。
その一つ一つが生き物のようで生き物ではなく、生物と物質の中間に産まれて来たかのような姿をしていた。
それは紛れも無く……
「つ……九十九神!」
空から降ってきたバイクに跨る男を見て、虎二が走りだす。
しかし、虎二が迷わず取った行動は、闘争ではなく逃亡。
目の前に現れた九十九神に、クルリと背を向けた虎二は、一目散に空き地の外を目指して走り出していた。
そして針金作りの柵を飛び越え、路地の影に消えていった。
「ほほう、あの忍、考えているのぉ〜」
「何がだ?」
「目の前に九十九神が二体そろうたのを見るやいなや、その場を後にしおったわい」
「だから、それが如何した?」
「九十九神同士が顔を合わせればやることはひとつじゃ。
それは殺し合いの喰らい合い。
おそらくあの忍は、わらわ達の決着が付いたら、生き残った方とやり合うつもりじゃ」
「なるほど……」
タケシと春婆怒が、一つの体の中で会話を繰り広げる。
「ミーは、運がいいデース、ラッキーデース」
箪笥御前が甲高い声ではしゃぐ。
「九十九神として覚醒した日に、ベストなパートナーに出会い、そして覚醒した日に、最高のディナーに、九十九神を喰らえるとはナイスデース。とっても運がいいデース!」
タケシは、妖力共有の影響でグレードアップしたバイクから降りた。
そしてチラリと路地の方を見ると、先程逃げた忍者が、建物の影からチラチラとこちらの様子を伺っているのを確認した。
「ふっ」
タケシは、軽く鼻で笑うと、物影に隠れている忍者に背を向け、目の前の奇怪な九十九神を睨みつけた。
「……あなたは?」
九十九神から聞こえる少年の声。
少年は、突如現れたタケシに何者かと問うが、問われたタケシは回答では返さなかった。
「お前、人を、人間を殺しただろ……、しかも何人も」
タケシは、少年の質問を無視して、自分が質問を始めた。
「人?、殺した?……。違いますよ、何言ってるんですか」
河本少年は、タケシの問いかけを否定した。
「殺した訳じゃないですよ、あれは整理したんですよ。この世界に要らない人間、邪魔な人間達を整理しただけですよ。もう、いやだな〜、僕がした行動は、正義の代行です」
タケシの拳が強く握り締められる。少年のセリフを聞き終わる頃には、強く握り締められた拳はプルプルと震えていた。
「何人食ったかしらねえが、もうそこまでだ。その腐った根性、叩き治してやるぜ!」
「ファッツ?、こいつ何言ってるのですか?。ユー、やっちゃいなよ!!」
「うん、そうだね、こいつも整理しちゃおうよ。僕ら正義の前には敵はいないからね」
箪笥御前が、その巨体で一歩を踏み出した瞬間である。
それに合わせて、タケシがダッシュした。
一瞬で箪笥御前の目の前に移動したタケシは、大きく拳を振りかぶっていた。
「なんと!」
箪笥御前が、タケシの行動に反応した時には振り上げられた拳は、箪笥御前の顔面に叩き込まれていた。
「ふぅぎゃゃゃゃゃゃ!」
悲鳴を上げながら、箪笥御前の巨体が後方に吹っ飛び、ビルの壁に激突して止まった。
「なめたことばかり、ぬかしてるんじゃあねうぞ!」
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