< 外れ鬼・五 >
「素手じゃあ、きりがねえかな……?」
立ち上がった外れ鬼を見て、タケシが呆れたような声を漏らす。
「わらわを使うかぇ?」
「仕方ねえ……」
自分の力のみで外れ鬼を倒したいと思っていたタケシ。
だが、限界を知って妖力共有までは妥協した。
しかし妖力共有を行っても、出来ることならば素手で、空手のみで外れ鬼を倒したかったのだが……。
ここは更なる妥協を決意した。
「妥協に妥協が続くぜ……」
「素手に拘るでない、これは災いの目を摘む勤めだと思え。さあ、わらわの力を存分に使うのじゃ!」
「ああ、分かったよ」
タケシは掌を前に突き出す。
「ハルバード・ウェポンモードッ!」
タケシの周りに緑風が巻き起こったと思うと、その緑風は一本の鉄槍えと形作られていく。
「あれ、なんか前よりゴッツクなってるな、この槍」
槍を手に取ったタケシの言うとおり、その鉄槍は以前よりも外見がグレードアップしていた。
槍先の刀身は長く鋭く、そして煌びやかに細かな装飾がされている。
更に横の小斧の部分は、以前よりも大きく力強くSFタッチの機械ぽく変わっていた。
これなら最近の男の子にも人気が出そうなデザインだった。
「そりゃ!」
グレードアップした長槍を手にしたタケシは、それを可憐に振り回し演舞をみせると、演舞の締めは長槍を脇の下に挟んで決めポーズを取った。
「派手に行くぜぇ〜!」
「うごぉがぁガァガァァァァ!」
槍を振るうタケシ。
巨大包丁を振るう外れ鬼。
お互いの武器がぶつかりあう。
刃と刃がぶつかり、刃と刃が弾き合い、刃と刃が激しい音を鳴らす。
その鬩ぎ合いは五分と五分だった。
「ウガァガァガァガァがぁぁぁぁぁ!」
「やるじゃねえか!」
おそらくタケシの言葉は、鬼と化した男には届いていない。
だが、戦いの中で心躍るタケシは、それでも語りかけずにはいられなかった。
「なんで、鬼になんかなっちまったんだか!」
「ふガァガァガァァがるるるぅぅ!」
長槍と巨大包丁が、空を切り裂きぶつかり合う。
「なんで、道を外してしまったんだ!」
「ウガァガァガァがぁぁあああぁぁぁ!!」
「お前、本当は調理人か何かだったんだろ!」
巨大包丁をかわしたタケシの振るう長槍の刃が、外れ鬼の太股を切り裂く。
それでも外れ鬼の攻撃は止まらない。
「ウガァガァガァァァァァァァァァ!」
「本当はこんな所で化け物やってる場合じゃねえだろ?」
巨大包丁を長槍で受け流し、タケシの攻撃が外れ鬼の腕を切りつける。
「ウガウガウがかががガウがーーー!!」
「お前は、本当は何がしたかったんだ!」
タケシの振るった一撃が、外れ鬼の胸から腹部へと斜めに傷を付ける。
「ガァルルルルゥルルルルゥるるる!」
傷口から真っ赤な血が吹き出ると、外れ鬼は尚も吠え続けた。
「もう、いいだろ!?」
タケシに幾度か斬りつけられて動きが鈍くなるものの、外れ鬼は獣のような声を出しながら攻撃の手を休めない。
「もう、気は済んだだろ……?」
「ウガァウガァうがぁウガァァァアアアアぁぁぁぁ!」
「そろそろ終わりにしようぜ……」
タケシの長槍が、外れ鬼の腹部に突き刺さり、そのまま半分ぐらいまで潜って行く。
「うがぁ……ぁぁ……」
外れ鬼の動きが固まる。しかし、槍の刺さった腹からの流血は無い。
「影槍束縛じゃ。自由を奪う時間は短期だが、その分だけ動きを封じる力は強力じゃ」
タケシは、槍から手を離すと、外れ鬼に背を向け歩き始める。
「ゥガァァ……ぁアァぁ……」
外れ鬼は、硬直してしまった体を無理やりにも動かし、腹に刺さっている長槍を引っこ抜こうと手を伸ばす。
しかし、その手は槍を掴むことなくスルスルと槍を擦りぬける。
腹部に刺さっている槍は、まるで影の様に掴むことが出来ない。
外れ鬼から歩いて間合いを広げていたタケシが振り返る。
「うがぁ、ゥガぁ、ゥガァ……」
振り返ったタケシの顔は、妖力共有で装着した仮面のせいで見えないが、その目線は真っ直ぐに外れ鬼の目を見ていた。
「我が力は、偉大なる山の如く!」
タケシは大きく股を開くと、そのまま腰をゆっくりおろし始める。
「我が技は、麗しき風の如く!」
タケシの声に合わせる様に、タケシの周りを緑風が巻き起こり、それは見る見るうちに竜巻となり天えと突き刺さっていく。
「ウガァ……ゥガァ……」
その光景を見る外れ鬼は、腹部に刺さった影槍の束縛の為、一歩も動けずにいた。
「力と技で、嵐を起こす、跳うっ!!」
タケシが竜巻の中心でジャンプをすると、竜巻の頂点目指して昇っていく。
そして竜巻の頂点に達したタケシは、そのまま竜巻の向きを変え、外れ鬼目掛けて急降下していく。
「堂本流超人空手奥義、風神飛翔脚!!」
タケシの緑色の竜巻を引きつれた飛び蹴り。
力強く。
激しく。
自信に満ちた一撃。
「いっけけけけけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「ウガァァァァァァァァァァァ!」
その必殺の一撃を喰らおうとしている外れ鬼の絶叫の声は、竜巻の音に掻き消されて小さく聴こえた。
タケシの風神飛翔脚が外れ鬼の胸へと炸裂すると、その蹴り技は外れ鬼の胸を貫く。
そして外れ鬼は、終止符を討つ大きな爆炎を無人の商店街に舞い上げた。
だが、舞い上がった爆炎が地面へと収縮してく、まるで何かに吸い込まれていくように見えた。
その収縮先の中央に立つのは妖力共有したタケシの姿。
不思議な鎧甲冑の姿。
タケシの纏った甲冑が、外れ鬼が爆発して上げた爆炎を吸い込んでいく。
そして、爆炎を吸い込みきったタケシの足元には、ぐったりと横たわる板前風の男の姿があった。
その手には、刀身が折れた調理包丁が握られていた。
「ぅぅぅ……ぅぅ……」
まだ、板前風の男は息が有る様子だ。
「ほほぅ、こやつ、またしても人のみを吐き出しおったかぁ……」
「ん?、何か言ったか春婆怒?」
「いや、何でもないわ……。それよりもタケシや、この異空間が崩れるぞぇ」
「ああ、分かった」
タケシは、男を放置したまま歩き始めると、妖力共有を解除して春婆怒と分離する。
それに合わせて空間が歪み始めた。
そして何かがずれた感じがした後に、商店街の中に人の声が聴こえ始め、暫らくするとその声の主が見え始める。
いつもと変わらない、日の沈みかけた商店街。
いつもと変わらず、家路を急ぐサラリーマンや学生の姿。
いつもと変わらない買い物帰りの主婦や、お店の店員達。
それらが無人だった商店街に戻ってくる。
「あの者は、ほっといていいのかぇ?」
「あとは、あいつの問題だ。もう鬼じゃなく人間なんだからな……」
人の姿に戻り、春婆怒と並んで歩いているタケシは、後ろを振り向くことはなかった。
もう自分の役目は終わったのである。
振り向く理由は、もう何処にも無い。
「なあ、春婆怒」
「なんじゃ?」
「何時か俺、一人で鬼退治出きるようになるかな?」
「全てはお主しだいよのぉ〜」
そう言いながら拳を握り締めているタケシを、春婆怒は優しい表情で見守る。
「きゃ!、人が倒れてるわよ、どうしましょお、思わず自転車で引いちゃったわ!」
「ええ!」
主婦の声に、思わず振り向いてしまうタケシであった。
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