< 三種百食の本能 >
「わらわ達九十九神と、妖怪とは因縁が多いからのぉ」
春婆怒が、鬼々蜘蛛と揉めていた理由を話始める。
「九十九神?」
「妖怪との因縁?」
タケシと陽子の二人は、春婆怒の口にした単語の意味を、別々に理解できていないようだ。
「ん〜、どうやら、まずは妖怪変化全体の理から話したほうが良さそうじゃのぉ」
「お願いします」
「分りやすくお願い」
未だタケシと陽子は、くっ付いたまま春婆怒の話を聴く。
「まず、妖怪変化は、大きく分けて五つの種類に分けられるのじゃ」
「ふむふむ」
二人が同時にうなずく。
「その種類とは、生まれ方によるものじゃ」
「ふむふむ」
二人は、また同時にうなずく。
「常識を上回る寿命をへて、妖怪に変化していく生物の妖怪。
狐、狸、蛇や猫、あと植物かのぉ、それらが妖怪化した者達が、まず一種」
「ふむふむ」
二人は、またまた同時にうなずく。
「二種目は、人間や動物の霊体や怨念怨霊の類が、そのまま実体を持ってしまった妖怪。
この手の妖怪は、大概たちの悪い妖怪になるものじゃ」
「ふむふむ」
二人は三度同じタイミングでうなずく。
「三種目は、童話や神話、噂話や作り話から生まれた空想上の存在が、その話し継がれる長さや広さに影響して、実体化してしまった妖怪。
地方で神として崇められているような物は、これに入る者が多いかのぉ。天狗や河童を神様扱いしてるじゃろ」
「ふむふむ」
「都市伝説とかに出てくるものだと、トイレの花子さんとか、口裂け女とかが、これなのね」
二人が同時にうなずいた後に、陽子が付け足す。
「四種目は、これらの妖怪達が子供を産んだものじゃ。
生き物の様に子孫を残す妖怪は今となっては少ないのだが、動物から変化した妖怪の中に見られることが多いのぉ。
更にまれなのだが、妖怪と人間との間に赤子を儲ける例もあるそうじゃ。
その際に生まれた赤子は半妖と呼ばれたり鬼子とも呼ばれて、人間界でも妖怪界でも忌み嫌われるそうじゃ。
昔は子孫を残す妖怪が多かったのじゃがなぁ〜」
「ふむふむ」
二人は、一卵性の双子の様に、タイミングぴったりにうなずく。
「そして最後に、わらわ達九十九神じゃ。
人間に長い年月使われる事によって少しづつ念を蓄えていった物が、変化したもののけじゃ。
だがのぉ、基本手には百年たった物が妖怪化すると伝えられているが、強い念や愛情を短期間で集中的に受ける人形などは、
百年を待たずに妖怪化することも少なくはないのじゃ」
「ふむふむ」
これが最後かと二人は同時にうなずく。
「で、妖怪がどうして産まれてくるかわ良く分かった。
それでお前ら九十九神と妖怪の因縁ってなんだ?」
一通り説明を終えた春婆怒に、タケシが問う。
「わらわ達九十九神に有って、他の妖怪に無い本能が有るのじゃ」
「本能?」
「そう、『三種百食の本能』じゃ」
「何それ?」
陽子があっさりした感じで疑問を訊ねた。
「人間には、七つの大罪に例えられる七つの本能があるじゃろぉ」
「暴食、色欲、強欲、憤怒、怠惰、嫉妬、傲慢、七つの大罪ってこれのことでしょ?」
「陽子すげーな。良く知ってるな」
「へへーん」
タケシに褒められ喜ぶ陽子は、尚も強くタケシの腕にしがみ付く。
「この七つは、人間の本能そのもの。人は、これらを求めすぎる事を罪となしている。
だが、わらわ達九十九神の『三種百食の本能』は、本能そのもので罪としているのは九十九神以外の者共のみ」
「ん?」
二人には、春婆怒が言っている意味が通じていないようだ。
「そもそも、その三種なんたらの本能ってなんだよ」
タケシが確信を問う。
「人、妖怪、九十九神を、百匹ずつ食らう事じゃ」
「……へ」
二人は間の抜けた顔をした。
「何んだよそれ!」
タケシは少し間を置いて、春婆怒に怒鳴る様にツッコミをいれる。
そんなタケシのツッコミを無視して、春婆怒は涼しい顔で語り続ける。
「人間が七つの本能を、誰に習う事無く知り、そして求めるように。
わらわ達九十九神は、この三種百食の本能を、産まれながらに言葉ごと理解して、それを適える為に行動をとるのじゃ。
むしろこの本能の達する為に生きていると言っても良いのかもしれぬ」
「そうじゃねえよ、そう言ったことを言ってるんじゃあねえよ!」
片腕に組み付いていた陽子を振りほどき、タケシは立ち上がる。
そして、両手で座っていた春婆怒の襟首を掴むと、力任せに引きずり起こした。
「てめー、人間を食うって何だよ!」
「人だけではないぞょ、妖怪も、同族の九十九神も食らうぞぇ。
この本能に、納得のいかないのは別族ならは仕方なきこと」
「あたりめえだ、同族食われて黙ってられるか!」
タケシは、鬼の形相と化した顔を春婆怒に突き立てる。
「てめー、人間食ったんか!?」
こいつは春婆怒村に現れた鬼々蜘蛛や、住宅街で遭遇した外れ鬼と一緒なのかと思うタケシ。
「わらわが生まれた時代はのぉ、人が人を殺す時代じゃ。
金だの財宝だの領土だの地位や名誉だのと大気名文を立てては殺し合う時代じゃ。
わらわの真の姿を忘れたのかぇ?。
鉄槍じゃぞょ。
人を倒すために生まれ、
人を殺し続けてきた武器じゃ。わらわは戦場を兵士と共に戦い続けた百年が生み出した妖怪ぞょ」
何かに気付いたのか、春婆怒の襟首を掴むタケシの力が弱まる。
「わらわが喰らった百の魂は、人がわらわを使って殺した数のほんの一部に過ぎぬ。
わらわは望んで人殺しの道具として産まれてきた訳ではない。
御主ら人間がそう産み、そう使い、そうさせたのじゃ」
春婆怒の冷めた目から視線を逸らしたタケシは、掴んだ襟首を離した。
その顔は、暗く俯いていた。
「この国の人間にしても、妖怪達にしてもそうじゃ……。
わらわの使い手が変わるたびに、
流れ着く場所が変るたびに、
九十九神だと分かるたびに、
人食い妖怪食いと呼ばれ、
討伐だの仇討ちだの理由を付けられ襲われる。
そして返り討ちにしている間に百の数の妖怪を喰ろっうていった。
こちらから仕掛けた事なんぞ、無いと言うのにのぉ。
この国に流れ着いた時には、既に妖怪を百匹食らい終わっているのに……。
やはりこの国の妖怪もまた、わらわが九十九神だと言う理由だけで襲ってきた」
襟首を離された春婆怒は、ガラクタの散らばる畳の上に座り込む。
「じゃあ、三種百食の本能ってさ……、その種を百匹分食べると収まるの?。
なんだか数をカウントしてる感じの呼び名だし……」
タケシの影に居る陽子もまた、悲しげな顔をしながら春婆怒に訊いてみた。
「ああ、わらわはとうに人と妖怪を、百以上喰らっているからのぉ、その欲は生まれてこない」
タケシも座りこむ。
「タケちゃん。……槍女はもう誰も食べないってさ」
陽子はにっこりと微笑みながら、タケシをあやす様にそう言って肩に手を添える。
陽子にあやされたタケシは、食べ終わった弁当の器を黙って片付けはじめた。
春婆怒もまた、黙ったままガラクタで何かを作り始める。
「よかったね、タケちゃん」
四畳半の狭く古い部屋の中で、明るく振舞って見せるのは、陽子だけであった。
ガラクタを何やら組み立てている春婆怒が、横に置いてあったスプレータイプの油さしを手に取ると、赤いストローの細い棒をスプレーの口に刺す。
空気が沈んだ部屋の中、陽子はタケシの片付けと春婆怒の工作風景をじっと見ていた。
春婆怒は、赤いストローの付いたスプレーで、ガラクタの細かい所に油を刺。
そして油を刺し終わると、じっとスプレー缶を直視していた。
陽子も、その春婆怒の行動を何をしているのかと直視していると……。
パク、プシュュューーー……。
「ぎゃーーーーーーーーーーーー!!」
スプレー缶のストローを口に銜えた春婆怒が、自分の口の中に油を噴射させる。
それを見ていた陽子が衝撃的な光景に悲鳴を上げた。
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