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< 空手の攻防・2 >
 そしてタケシが入ってきたアルミのドアとは対角線の隅に、その光に照らされ何かが蠢いているのに気付く。

 タケシは、工場内に踏み込むと、蛍光灯型の懐中電灯が照らし出した、何かに向って歩きだした。

「ちっ」

 舌打ちをするタケシ。

 その向こう側の何かが何であるかを、はっきりと確認したタケシは、バイト先の安田よりもムカツク感情が沸き上がってきた。

「えへ、えへ、えへ」

 それはしゃがみ込む男の背中。

 その向こうには、両足を黄色と黒のトラロープで縛られ、壁に逆さ釣りに去れた女性の哀れな姿が有った。

 首、手首、脇の下、両足のモモの内側、彼女の大きな頚動脈は全て斬られ、滝の様に流れ出した血液は、頭の下でベコベコに凹んだバケツで受けとめられていた。

「この野郎」

 タケシの声に怒りの感情がこもっていた。

 しゃがみ込んでいた男は、タケシの声に一度振り返ると、背を向けた状態でゆっくりと立ち上がった。

 男は、白い和風の割烹着に黒い前掛け、素足に木のサンタルを履いていた。そして、その手には刃渡りの長い料理包丁をギラつかせている。

「テメーが噂のバラバラ殺人犯か……?」

 男が振り返る。

「……えへ」

 薄気味悪い返事を返す男の後ろで、衣類も顔も、自分から流れ出る血で真っ赤に染めた、吊らたれた哀れな女性。

 目を見開いているが、その眼球すら真っ赤に染まっている。

 もう手遅れなのはタケシの目にも明らかだった。

 工場の中央に向って二人はゆっくりと歩き始める。

 コンクリートの床に僅かに散らばる米粒大の小石が、二人に踏まれてジャリジャリと音を鳴らす。

 住宅街同様、静かな工場内。

 二人は、灰工場のほぼ中央で向かい合う。

「うへ」

 タケシは、男と向かい会い始めて気付いた。

 板前風の男は、半笑いで白目を向いていた。

 それは完全に、正常な人間の表情ではなかった。

「お客さん、まだ仕込み中でっせ」

 板前風の男が、料理包丁を大きく振りかぶる。

 その瞬間、灰工場内に乾いた音が鳴り響いた。

 板前風の男が包丁を振りかぶると同時にタケシの左ジャブが、板前風の男の顔面にフラッシュの如く打ち込まれたのである。

「ほへぇ!」

 自然体のタケシから突然くり出された攻撃に、板前風の男は視界をチカチカさせてよろめく。

 そして、その顔に有る鼻は曲がり、ダラダラと口元へと血が流れ落ちる。

 だが、この男の被害にあった吊られた女性に比べれば、マダマダ少ない。

 続いて右左のワンツー、右フック、左のショートアッパー、右ボディープロー。

 タケシのコンビネーションが、次々と男に叩き込まれた。

 板前風の男は、体をサンドバックの様に揺らす。その一撃一撃が、肉と骨とが奏でる音となってタケシの拳に伝わってくる。

「りぃぃぃぃぃぃやっ!」

 どてっ腹への後ろ中段後ろ廻し蹴り。

 タケシが、フィニッシュと言わんばかりの気合の入った蹴りを放つと、板前風の男は後方へと飛ばされていく。

 そしてゴロゴロと転がり、吊られた女性の居る横の壁に激突して止まる。

 タケシは、「どうだ」と言った顔で男を見るが、板前風の男はムクリと何事も無かったように俊敏に立ち上がった。

「ちっ」

 会心の攻撃の数々を浴びせたのにも関わらず起き上がる板前風の男を見て、タケシが舌打ちを漏らす。

「あはぁはぁはぁ」

 板前風の男は笑いながらタケシの居る中央へと歩き出すと手にした包丁をまた振りかぶった。

「そら」

 包丁を振りかぶりながら歩み寄った板前風の男の足が揃った瞬間、タケシは体をかがめると同時に体を捻りながら水面蹴りを放った。

 板前風の男は、両足をそろえたまま大きく足を払われ宙を舞い、一人バックドロップの様に頭からコンクリートの床に落ちた。

「とう!」

 水面蹴りを放ち、しゃがんだ状態だったタケシが、そのままジャンプをする。

 そして全体重をかけたニードロップを、倒れている板前風の男の顔面に叩き落す。

 鈍い音が二度した。

 板前風の男の頭部が、膝とコンクリートの床に挟まれ、鈍い音を二度鳴らしたのである。
 
 タケシは、板前風の男の顔面から膝を離すと、立ち上がって鼻の陥没した男の顔を見下ろした。

「今度こそ死んだだろう……」

 最初から、殺す気だったらしい……。
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これも全て、お読み頂いてる皆様のおかげです。

これからも若輩ながら、皆様の起きたいに答えられる様な作品を書いていきたいと思います。

今後も是非よろしくお願いします^^


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