< コンビニの仲間達・プラスワン >
タケシは、カウンターで買い物客のレジを打っていた。
パートナーの井川は、お客がいじくり回した商品の陳列棚を整理している。
タケシがレジを打ち終わると、お客の暖めたお弁当を袋に入れて手渡す。
お客は、買った商品をタケシから受け取ると、店外へと出て行った。
暇になったタケシが店の中を見渡すと、雑誌コーナーで立ち読みをしている高校生が一人居るだけだった。
タケシはガラス越しに薄暗くなり始めた店外を見る。
そして、遅刻しそうで急いでいたとはいえ、春婆怒をほったらかしにしてしまったことを気にしていた。
あれから五時間は過ぎているが、春婆怒は戻ってきていない。
まるで鎖をはずして一時だけ自由にしてやったペットの犬が、なかなか帰ってこないような気分だった。
「まあ、いざとなれば自分でどうにかするだろう、子供じゃあないんだし。それどころか人間ですらないんだし……」
タケシが外を眺めていると、詰め所で伝票整理をしていたオーナー鈴木が、メタボリックなお腹を揺らしながら出てくる。
手には一枚の紙を持っていた。
「ちょっと井川君、こっちに」
オーナー鈴木はタケシの居るカウンター内に入ってくると、棚整理をしていた井川をこちらに呼び寄せた。
オーナー鈴木が持ってきた紙は、今月のバイトメンバーのシフトであった。
「あのね、今さ、夜のシフトに入ってた安田君から電話が有ってね。今日1時間ぐらい送れてくるからって言うのよ。だから悪いんだけど、どちらか安田君がくるまで残って残業してもらえないかな」
口元を笑わせたタケシが拳を握り、指をポキポキ鳴らしながら答える。
「いいですよ、俺が残ります。平気で遅刻するあの野郎を、本気でドツキたかったと思ってた頃ですから」
自分が何時も遅刻ギリギリで来て、タイムカードを必死に押しているというのに、夜のバイトの安田と呼ばれる男は、何時も遅刻しそうになると電話で言い訳をして、今日のように遅刻してくる。
タケシはそれが無償に腹正しく思っていた。
タケシの「本気でドツキたい」と言うセリフは、冗談ではなく本気の本気であった。
「あーーーーーーー!。オーーーーナーーー!!。僕、今月生活費厳しいんですよ、だから僕残ります、ねっ、ねっ。ごめんなさいタケシさん、そう言う訳なんでいいかな!?」
「ああ、それじゃあ井川君にお願いしようかなーーー、ねーーー、堂本くーーん!!」
井川はタケシの殺気を察して、声を大きくさせながら割り込むと、慌ててオーナー鈴木も話しを合わせる。
安田と呼ばれるバイトの男は、以前にも詰まらない理由からタケシの癇癪に触れ、脳天に強烈な空手チョップを食らって白目を向いたまま失神騒ぎになった事が有る。
井川とオーナー鈴木は、其の時の事を思い出すと、必死にタケシの怒りを押さえようとしていた。
「ん〜、そこまで言うなら井川にまかせるが……」
「アハハハハ、タケシさん、すみませんね〜〜〜」
「じゃあ、井川君、残業おねがいねーー、ワハハハハハ!!」
「分かりましたオーナー、アッハッハッハッハッハッ!」
オーナー鈴木の引きつった笑いに、井川も合わせてぎこちなく笑う。
タケシは仕方なく承諾するが、まだ喉に何か詰まっているような表情をしていた。
バイトの安田は知らず知らずの内に命拾いをしていた。案外運の良い世渡り上手なのかもしれない。
そして、一人、雑誌コーナーで立ち読みしていた学生が、レジカウンターから聴こえてくる奇怪な複数の笑い声に、目を丸くして唖然としていた。
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