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大事なことは、二度言おうw
(ΦωΦ)/
< プロレスvs空手・2 >
 二人の体格の良い男が、夜の飲み屋街を歩いていた。周りを見れば、ほろ酔い感じの人々が賑やかに歩いている。その二人も同じように酒が入っている様子だった。顔が僅かに赤くなっている。

 時刻の二十三時ぐらいだ、あと一時間もしたのならば日付が替わる。ついでに月も替わる。季節は、五月から六月へと移ろうとしていた。

 体格の立派な二人の男は、筋肉で引き締まった体の内側から、普通の人々と違う圧力のようなものを高圧的な不陰気として放っていた。不思議な感覚だった。

 二人は楽しそうに笑顔で繁華街を歩いているが、その高圧的なものが対面から歩いてくる者達を自然と避けさせていく。これが、格闘技など荒々しい世界で飯を食っているプロ特有の存在感なのだろう。
 
 二人は、帝都プロレスのレスラーだ。

 ひとりは、50歳になるが現役のベテランで、そこそこ名前が売れているレスラーだ。最近では、休憩前の三試合目か四試合目の試合が多くなっていた。メインイベントやセミファイナルに顔を並べることがなくなり、若手や中堅レスラーに混ざって試合を行うことが多くなっていた。もうじき引退が近いなと本人も感じはじめている。体も大分きついのだ。

 もうひとりの男は、つい最近、デビュー戦を終えたばかりの若手レスラーである。高校から大学にかけてアマレスで体と技術を鍛え上げ、二年前に帝都プロレスに入門したのだ。それから更に体を苛め抜き、現在は、隣の年配レスラーの付き人を行いながら、一流レスラーへの仲間入りを目指して鍛錬の日々を送っている。

 二人のレスラーは、今日の虎野町での巡業を終えて軽く一杯飲みに出てきたのだ。

「さっきの店、信じられないほど可愛い子いなかったですね、国分さん」

「ああ、まったくだ。あれじゃあボッタクリとかわんねえやな、七瀬。お前が、あの店がいいとか言うからわりんだぞ」

「すいません」

 自分より背の高い付き人に、年配レスラーが尻へと一発張り手を打ち込む。だが、二人のレスラーは、先程入ったキャパクラの悪口を言いながらも楽しそうに会話をしながら歩いていた。なんやかんやいっても夜の街を楽しんでいる様子だった。

 その二人のレスラーの前方から五人の若者が、横一列に並んで歩いてくる。はっきりいって柄の良い若者グループではなかった。身なりはチャラチャラして、耳だけではなく、鼻や口にも刺々しいピアスを幾つも付けている。その若者たちも楽しそうに会話をしながら歩いていた。かなりテンションが高い。

 その弾む会話に、互いが前方から歩いてくる者達に気付いていない様子だった。

 他の人々は、二人のレスラーを無意識に避けていたが、この五人は避ける事無く正面からぶつかり合う。

 そして、レスラー二人のたくましい体にぶつかった若者五人の内三人が、まるで壁にでもぶつかったかの様に吹っ飛び尻餅を付く。体の肉厚の差である。レスラーたち二人は揺らぎもしなかった。二人は、何事かと、キョトンとした表情で吹っ飛んだ若者たちを見ていた。

 お互いに、ぶつかったことに対しての謝罪はない。

 三人の若者が直ぐに立ち上がった。そして五人揃って怖い顔に変わりレスラー二人に居直りながら詰め寄る。

 若者たちの表情を見て、キョトンとしていたレスラー二人の表情も凛々しいものへ変わった。受けて立つといったぐあいに。

「おい、おっさん!。なぁ〜に、ボケッとして歩いてんだよ。ぶっ殺すぞ!」

「ああ〜、なんだ坊主、やるのか?」

 五人の若者が一斉に二人のレスラーを睨みつけると、レスラー二人も負けずに睨み返していた。明らかに喧嘩が始まるといった空気へと変わっていく。各自の怒りが、引き返せない方向へと走り出していた。

「ここじゃあなんだ、場所かえようや」

 年配レスラーがそう言うと、七人はそのまま裏路地へと入っていった。そして暫く薄暗い裏路地を歩いていくと、いい場所を見つける。そこはビル建設の工事中の敷地内だった。

 完成まじかに見えるビル。その造りかけのビルの前には、七人が戦える程度の広場があった。そして都合が良すぎる程に人気はまったくない。

 地面を見れば分厚い鉄板が何枚も引いてあった。所々に生土が見えるが、これは使えるとレスラー二人は心の中で微笑みながら思っていた。レスラーには投げ技があるからだ。硬い床は武器になるのだ。

 広場の隅には、建築作業で出た廃材と思われる廃棄物が固められていた。明かりは、路上にある街灯から十分すぎる程に入ってきている。

 戦うには本当に都合が良い場所だった。そこで七人が睨み合いを再開させると、緊張感が工事中の敷地内に立ち込めた。

「兄さんがた、ここでやろうか」

 そう言って年配レスラーが上着を脱いで若手レスラーに手渡した。上着を受け取った若手レスラーも自分の上着を脱ぐと、預かった上着と一緒に汚れそうにない場所を見つけて置く。若者五人も、すでに殴り合える準備をしていた。指をコキコキと鳴らしたり、肩や首を解すように回している。

「おら、掛かって来いよ」

 年配レスラーが、まるでブルース・スリーを真似るかのように、片手でコイコイと仕草を見せると、その仕草に、若者五人の額に青筋が何本も浮き上がる。そして、レスラーたちに向かって一斉に走り出した。

「おりゃーーー!」

 息の良い若々しい声を響かせ五人がレスラー二人に襲い掛かる。年配レスラーに三人、若手レスラーに二人の配分だった。年配レスラーの方が、人数が多い。おそらく若者たちも、本能で身長の高い若手レスラーよりも、いぶし銀の年配レスラーの方が強いと感じ取ったからであろう。

 しかし、その人数分けの差も一瞬で均等になる。

 年配レスラーに飛び掛った若者の一人が、開幕から一発目のストレートを顔面に喰らいKOされた。鼻が曲がり、前歯を飛び散らせながら倒れこむ。

 たった一発で若者ひとりをノックダウンしたが、残りの二人が年配レスラーを殴りつけていた。

 若者二人が、年配レスラーに次々と拳を打ち込む。顔面を殴り、体を叩く、何発も何発も止まる事無く。しかし、年配レスラーは、ガードすらせずに涼しい表情を見せていた。まったく効いていないかのようにだ。

 この程度のパンチならば、長年にわたってリング上で殴られ蹴られ続けた年配レスラーにとっては、マッサージと同じだった。

 プロレスラーのパンチがホーガンの鉄球と例えるならば、この若者たちのパンチは、ピンポン玉のようなものだった。素人とプロの差とは、このぐらい開いている。ピンポン玉では、卓球ルール以外で人を倒せない。即ち、若者たちのパンチでは、このレスラーは倒せないのだ。

 年配レスラーは、自分を殴りつけていた一人の若者の頭を、両手でがっちりと捕まえた。まるで万力にでも挟まれたかのような圧力が若者の頭にかかる。

 もう一人の若者が年配レスラーを殴り続けていたが、年配レスラーは、その若者を無視して掴んだ頭を離すことはなかった。まるで、殴られていることにすら気付いていないかのように見えた。

 若者の両耳を塞ぐように両手で挟みこんで話さない年配レスラー。その年配レスラーと若者の視線が真っ直ぐに見詰めあう。若者の表情は怯えていた。否、恐怖に引きつっているようにも見えた。

 そして、年配レスラーの首が、後ろに振り被るように仰け反った。若者の脳裏に危険信号のさまにサイレンの音が鳴り響く。自分の顔面に、頭突きが飛んでくるのは明白だった。

 若者は、顔面の前に両手を庇うように二つ重ねてガードを築く。そこに年配レスラーの頭突きが、予想とおりに飛んできた。

 人間の頭の重さは、体重の約13%といわれている。年配レスラーの体重は、約90キロだ。即ち年配レスラーが繰り出した頭突きの重さは約12キロの威力があることになる。

 しかも年配レスラーは、リング上でヘッドパットを得意としていた。長いレスラー人生の中で、どのぐらいの階数を繰り出したのか分からないほどの頭突きの達人である。その鍛え上げられた約12キロの頭突きが、ガードした若者の両掌ごと顔面を叩き潰す。

 しかも、一発二発では止まらない、三発四発と容赦なく繰り返される。四発目の頭突きの際には、ガードしていた両掌もだらりと力なくさがっていた。既に若者の意識は無くなっているのだろう。その顔面がダラダラと血を流していた。

 年配レスラーは、七発目の頭突きをぶち込んだ後に、両手で挟んでいた若者の頭をやっと開放した。すると鉄板の上に顔面の形が変わった惨たらしい若者が、ゴンと音を立てて倒れこむ。

 そして、若者を開放した年配レスラーが若手レスラーの方を見れば、既に彼も若者二人をぶちのめし終わっていた。その二人が足元に無残な姿で転がっている。その内のひとりの腕は、明らかに肩から可笑しな方向に曲がっていた。関節技で折られたのであろう。

 一人残った若者が、後退りしながら怯えていた。その若者を二人のレスラーがジリジリと追い詰める。

「す、すみませんでした!」

 怯えながら後退りする若者がそう言うと、背中が建設中のビルの壁に当たって止まる。その前方を、冷めた表情のレスラー二人が逃げ道を塞いでいた。逃がす気も、許す気もないような表情だった。

 そして若者は、両腕で頭を抱えるようにしてしゃがみ込むと、膝を抱えながら怯える幼稚園児の様に泣き始めた。それを情けない奴と言いたげな表情で二人のレスラーは、一人残され絶望のふちにいる若者を、呆れた表情で見下ろしていた。

 レスラー二人の圧勝だった。

「国分さん、こいつどうします?」

 若手レスラーがそう訊いた時であった。

「ハッハッハッハッハッハッハッハッ」

 建設中のビルの敷地内に、渋い男の声が高笑いとなって響き渡った。

「なんだ!?」

 そう言い二人のレスラーが振り返る。泣いていた若者も、丸めた体の隙間から覗き見ていた。

 工事現場への入り口。外の路上にある街灯に照らされて長い影を作る一人の男の姿があった。

 それを見る三人の目が丸くなる。

「ハッハッハッハッハッハッ。少年、もう心配は要らんぞ。その悪党どもは、わたしが成敗してやる!」

 高笑いの後にそう言った男は、白い道着に黒帯を締めていた。そして足元は、素足に下駄を履いている。なりよりもおかしいのは、その姿の頭に、メキシコのルチャリベロのような覆面をしているのだ。金と銀の色がやたらと光っている。

「なんでしょうかな、あれ……?」

「おれに訊くな……」

「私の名前は空手家仮面!。正義の味方だ!」

 渋い声と、マスクの隙間から見える目尻の皺が、結構いい年の男ではないかと知らせていた。それと下唇が若干前に出ていた。

 これは秘密の話なのだが、この男は、光臨館空手虎野町道場師範代、烏賊屋兆殻六段である。

「私の名前は、空手家仮面だ!」

「二回も言わなくていいよ……」

「大事なことだから、二度言ったのだ!」
 


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