< 猫田龍信の妄想 >
井川は店長の指示どおり、不良少年らが散らかして行った店外のゴミを掃除していた。
箒でゴミをかき集めて、塵取りですくい集めていると、その視線に人影が割り込んできた。
井川が何者かと顔を上げると、そこには知った顔の人物が立っていた。
それは、コンビニの二階で、探偵事務所を経営している人物、『猫田 龍信』だった。
グレイのビジネススーツをすらっとした体型で着こなした男は、銀縁のスマートな眼鏡の奥で細めの目がうっすらと笑っているように見えた。
井川は、猫田の名前は何となく覚えていた。
それと、探偵事務所は弟と妹の兄弟三人で経営していることも知っている。
たまに店に買い物をしに来る際に、世間話程度で聴いたことがあったからだ。
「やぁ〜〜、こんにちわ」
「あ、探偵さん、こんにちわ。お出かけですか」
井川は挨拶で返した後、礼儀として軽く話しを繋げて見る。
「ああ、これからお仕事だよ。詰まんないけど楽しい探偵家業、ちょっとした調査で街中を歩き回ってくる予定でね〜」
「大変ですね」
「そうでもないさ」
猫田は、にこやかな笑顔で答えると、その場に立ち尽くしたまま動こうとしない。
どうやら井川にもっとつっこんで話を訊いてもらいたい様子だ。
井川は、それを察する。
「でぇ、探偵さん、調査って何ですか?」
「それは言えないよ、守秘義務ってヤツでね」
「は、はぁ……」
おそらく、そのセリフが言いたかっただけなのではと井川は思ったが、それを顔に出すほど子供ではない。
ここは猫田に完全に合わせてあげようと思っていた。
「そういえば君、彼女できたんだって、おめでとう」
「はぁ」
彼女なら前から居る井川は、今更と気の無い返事を返す。
今、同棲している彼女とは高校時代からの付き合いで、井川が大学入学の為に、この街に来ると聴いて彼女は、両親の反対を押し切り、わざわざ付いてきた仲である。
その為か猫田との会話が噛み合っていないことに不思議な表情を見せたが、猫田の方がそれに気付いていないようだった。
「じゃあ、若者よ、バイトがんばって」
「探偵さんもお仕事がんばってください」
そう言って猫田はコンビニの前を後にした。
そして、ゴミ拾いが終わった井川も店内へと戻って行く。
猫田は、コンビニがある裏路地を出て、車の往来の激しい表通りを歩いていた。
歩道を歩く猫田は、何やらブツクサと呟いている。
「分からん……まったくもって分からん……」
猫田は、何やら悩んでいる様子だ。
その悩み事が、本人の意思とは別に、口からダラダラ漏れ出していた。
「優しそうに見えるが、顔も普通だし、ルックスも普通、何所をどう取っても普通の塊みたいな男じゃないか……」
どうやら先程までコンビニの前で話していたバイトの男のことを呟いているようだ。
「何であんなのが良いのか分からん。
我が妹ながら珠美は、相当可愛い部類のはず、あんな貧乏そうな普通の男なんかより、もっといろいろ良い男が言い寄って来てもいいはずなのに。
何故あんなのが好みなのか納得いかん。
珠美のヤツは、男の見る目が無いのか……。
そうか!、珠美は母性本能をくすぐられるタイプに弱いのか!、そうか、そう言う事か!。
と、なれば、あんな男を珠美の側には近寄らせられん。
彼女が出来たとはいえ、あの程度の男ならば、何時女に捨てられて、珠美に言い寄り始めるか分からん!。
それに一度女の味を占めた若造は、危険この上ない。
彼女がいても珠美ほど可愛ければ、浮気心の一つや二つ抱いても可笑しくないからな。
私なら抱く!。
……よし、毒を盛ろう、こっそり毒を盛ってやろう。くっくっくっくっくっ〜〜〜。
毒だ毒だ。
あははははははぁぁぁぁぁ!!!。
毒で行こう!!」
猫田と歩道ですれ違う歩行者達が、怪訝な顔をするのに猫田は気付く事も無く、奇怪な笑いを発しながら歩いていた。
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