< コンビニの仲間達 >
「ちわぁ〜〜す」
タケシはコンビニに入ると、レジカウンターの中に居る丸顔の中年男性に挨拶をした。
「堂本君、こんにちわ」
タケシに挨拶を返す丸顔の男性、胸には『オーナー すずき』と書かれている。
「早くタイムカード押さないと遅刻だよ。あと一分だよ〜」
「ういーーーす」
年齢は55歳、身長167cm、丸顔で油ぽいバーコードヘアー、体型はかなりメタボリックを感じさせるオーナー鈴木。
二年前まで大手銀行に勤めていたが、何を思ったか突然自己退職。
妻や娘にも相談無く退職した為、家族関係は総崩れしてしまい、妻は家を出て行き別居中である。
そして結婚して旦那と暮らしている娘は、そんな両親に呆れて、それいらい連絡をしてこないでいた。
何よりも、突然脱サラしてまで始めた事が、何故にコンビニなのかは不明であった。
家族はもちろんタケシや他のバイト連中が、その理由を聴いてみてもオーナーは、一度も理由をちゃんと答えたことはない。
タケシが、タイムカードを押そうと店の奥の詰め所に走りこむと、同期のバイト仲間がタケシのタイムカードを代わりに押しているところであった。
「お、井川、センキュー!」
「タケシさんが、走りこんでくるのが見えたから、タイムカード押しちゃいましたよ」
詰め所に居たのは『井川 辰夫』19歳。
タケシが、ここでバイトを始めて3日後に彼もここでバイトを始めた。
ほんの少しだけ、タケシの後輩である。
彼はタケシが、ここでバイトをしていくに当たって欠かせない存在であった。
気が弱い面もあるが、細かいところに気が利き、タケシのちょっとしたミスを良くカバーしてくれる。
そして何より、タケシより仕事覚えも早く、タケシよりも仕事ができる。
タケシは、彼とコンビを組むと彼の支持で仕事をこなすことが多い。
それなのに井川は、年上で3日先輩のタケシを立て、嫌味ぽさもなく仲良くやっていた。
タケシとの関係を例えるのならば、おだて上手な猛獣使いといった感じであろうか。
その井川は、この街には大学に通う為にやってきたらしく、近所の安いアパートで彼女と二人で同棲しているらしい。
バイトをしている理由は、両親からの仕送りだけでは生活が厳しく、彼女とは別々のバイトをして食い繋いでいた。
井川の彼女とやらにはタケシも会ったことはないが、バイト中にもちょくちょくメールの遣り取りをしており、何度か井川本人からのろけ話を聴かされていた。
タケシは、コンビニの制服を私服の上に被ると、自分より10cm以上背の低いバイト仲間の肩を軽く叩く。
そして井川と一緒に詰め所を出て、オーナーの待つレジカウンターを目指した。
「いゃ〜〜、堂本君は、さすがだね〜」
オーナー鈴木は、レジカウンターの中に入ってきた、タケシのごっつい両肩を両手で掴み、タケシのことを満面の笑みで褒め称えた。
「オーナー、どうしたんですか?」
タケシではなく、井川が何事かとオーナーに尋ねると、オーナーは掴んだ肩から手を離し、店の入り口を指さした。
その指をたどって井川が外を見ると、先程まで店の前で屯していた、柄の悪い連中が居なくなっていた。
「あれ、外に居たヤンキー達、やっと帰ったんですね」
「ちがうよ井川君、堂本君が追っ払ってくれたんだよ」
「おー、さすが空手家ですね」
笑顔で会話する二人。
だが、彼らは知らない。
タケシが、レジェンダリータケシと呼ばれ、この街の柄の悪い人々から絶対的に嫌われていることを。
オーナーすずきは生まれてこの方、真面目な人生を送り、暴力どころか自分の娘にすら手を上げたことは無い。
井川にしろ、今年になって大学に入学する為にやって来たので、バイトの同僚が空手をやっている事は知っているが、そんな恐ろしい存在だとは思ってもいなかった。
タケシと違って、この二人は平和な国の住人なのだ。
「すまないが井川君、入り口のゴミを掃除してくれないかな」
「はい、分りましたオーナー」
井川は、にこやかな顔で箒と塵取りを手に取ると、言われるがまま真面目に店外の掃除を始める。
「堂本君、私は棚の整理をしてるから、レジお願いね」
オーナー鈴木は、そう言って店内の商品を整理し始めた。
その間タケシは、レジカウンターの中にじっと立ち尽くしていた。
さすがに今までの人生の中で、暴力というものに縁遠かったとはいえ、オーナー鈴木も気付いていた。
タケシをバイトとして雇って以来、この店に柄の悪いお客の来店が激減していることに。
だから、タケシがサービス業に明らかに向いていないし、この手の仕事が普通のバイトより出来ないことを大目に見ていた。
タケシは、今日みたいな日の為の保険として雇っているのだ。いわば用心棒なのである。
ただ、最近さすがのオーナーもタケシにバイト中に辞めてもらいたい行動があった。
それはレジカウンター内に有る鉄アレイなどの筋トレグッツ。
仕事中には筋トレを禁止すべきかと悩んでいた。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。