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< レジェンダリータケシ >



 『レジェンダリータケシ』

 この町では、暴力に自信がある者達ですら、やってはいけない事が幾つかある。

 一つ、先輩への反抗。

 一つ、仲間をサツに売る。

 一つ、不良高校生がヤクザにケンカを売る。

 一つ、仁義を破る。

 他にもまだまだ細かいルールは幾つも有るだろう。

 だが、この街では、他の町では無い、してはいけないことが存在していた。

 それが『レジェンダリータケシ』にケンカを売ることであった。

 何故やってはいけないか、その理由は簡単である。

 その行為が自殺行為であるから……。

 後々レジェンダリータケシと呼ばれるようになる少年が、この街にやって来たのは五年前のことである。

 この町でも三本の指に入る不良高である、県立虎野町高校。

 訳してトラ高。

 全生徒数約千二百人、3/4が男子生徒で、女生徒は少ない学校である。

 五年前の春、彼は別の街からやってきて、一年生としてこの高校に入学した。

 彼は入学から僅か1ヶ月で、その春に一緒に入学した生きの良い一年坊主を、全員を力尽くであっと言う間に黙らせた。

 その武勇伝を聴きつけた同じ学園の先輩方二年は、生意気な一年一人にこぞってちょっかいを出した。

 だが、2ヵ月後には、誰一人として彼に先輩風を吹かせるものは居なくなっていた。

 そして彼が夏休みを終える頃には、三年間この学園で健全な不良を貫いて来た者達ですら、彼には近寄らなくなっていた。

 そんな三年生が卒業を迎えて、彼も二年生に進学した頃から、別の高校で名が知れている猛者達が、こぞってトラ高を荒々しく訪ねてくるようになる。

 だが、それも彼が、三年に進学する頃にはパタリと無くなっていた。

 そのぐらいの頃から、彼のことをレジェンダリータケシと呼ぶ者が現れると同時に、彼にケンカを売る者は、自殺志願者と呼ばれるようになった。

 また五十人で挑めば集団自殺と言われ、人海戦術すら無駄と語られていた。

 実話の武勇伝の中で、彼は五十人の武装不良少年と果し合いを行い、ボロボロに成りながらも 勝利した事があると語られていた。

 そして、彼の学園生活が卒業シーズンに入ると、連日のように色々な町からやって来た、組織構成員のスカウトマンが、ぶ厚いレンガ(札束の入った封筒)を持って校門前で待ち構えるようになる。

 だが、彼は誰の誘いも受けず、誰からも何も受け取ることは無く、すさまじい武勇伝だけを残して高校を卒業していった。

 彼が卒業する頃には、この町で不良少年もチンピラもヤクザも、レジェンダリータケシのあだ名を知らない者はいなくなっていた。

 彼が社会に出てから、どこかのヤクザ事務所と派手に揉めたと言う話も数多く聴いたが、この町に彼がやって来て五年が過ぎた今、もうヤクザですら彼との揉め事は、御法度とする組事務所が普通であった。

 その『レジェンダリータケシ』が目の前にいる。

 知らなかったとはいえ、売ってはいけない人物にケンカを売ってしまったことに、四人の不良少年は、顔を青ざめ後悔していた。

 今、彼らの取った行動は、自殺志願者が、高層ビルの屋上のフェンスを越えて、ビルの縁に立っているのと一緒である。

 あとは飛び降りる決心が付か付かないかなのだが、その決心とは目の前のレジェンダリータケシの判断に委ねられていた。

 レジェンダリータケシが殺したいと思った時が、彼ら不良少年四人が飛び降りる決心が付いたのと一緒なのである。

「ご……ごめん……なさ……い」

 ナイフを持った手を下げながら、力の無く絶望の感じられる震えた声で、俯いた少年が謝罪を述べた。

 この少年の反抗期が過激差を増すこの頃、他者への謝罪を口にするのも久々のことである。

 男はナイフを下げた少年を睨むと少年は、目線を足元に落とし、目の前の男の反応を震えながら待った。

 横にいる金髪の女性が、一転した空気を感じ、キリッとした目で自分より背の高い連れの男の顔を下から覗き見る。

「タケシや、この者どもは、どうしたのかえ?」

「どうしたもんかなぁ〜」

 受け答えをした男の声に、未だドスが効いているのに少年らは怯えた。まだピンチは過ぎ去っていないと。

「す、、、すみませんでしたぁぁぁ!!」

 恐怖に耐えかねた少年一人が、四十五度に深々と頭を下げると、他の三人もそれに続く。

 頭を下げ、コンビニの駐車場のアスファルトに穴が開くぐらい見詰める少年達。

 その内、三人の視界にポタポタと赤い雫が落ちるのが目に入った。

 先程喰らったデコピンで額から流血したのである。

 小中学生の頃、友達とふざけて遊んだジャンケンデコピン。

 ジャンケンで勝った方が、負けた方の額にデコピンをする遊び。

 何度も何度も繰返して、何度も何度もお互いの額に打ち合ったデコピン。

 だが、額が腫れ上がることは有っても、流血することは珍しかった。

 それを、この男は、たったの一発で、しかも三人全員を流血させている。

 アスファルトに出来る自分の血痕を見ながら、少年達は今までの短い人生を走馬灯のように思い出していた。

 しかし絶望的沈黙に耐えかねて、彼らの心は既に高層ビルから飛び降りていた。

 まさに心のデットリーダイブ。

「もう、帰れ」

「え……?」

 高層ビルから飛び降りた彼らの心は、地面に激突せずに、消防が設置した巨大な黄色い救助用マットに着地した。

「おまえら学校どうした?。こんなところで屯してないで、とっとと学校いけよ」

 四人の少年は、あどけない表情をして顔を上げた。

 そして、命拾いをした事に気付く。

「はっ、はい!」

「ほら、さっさと行け」

 男が手の甲てシッシッと野良犬を追い払うかのような仕草をすると、少年らはオロオロしながら小走りでコンビニの駐車場から逃げて行く。

「タケシや、なぜに逃がす。あのような無礼な童なんぞ、もっと懲らしめるべきじゃぞぇ」

 男はコンビニの方へと歩き出すと、金髪の女性もそう言いながら後を追う。

「バイトに遅れるんだよ。やべ、早くタイムカード押さないと遅刻だ!」

 そう言って走り出す男を、金髪の女性は足を止めて見送った。

 そして、少年らが逃げ去った先を見ると、ビルとビルの間から僅かだが表通りの車の往来が見えた。

「わらわを愚弄したのじゃ、タケシが罰を与えぬと言うのならば、わらわが自ら……」

 金髪の女性は、そう言って男とは反対の方へと歩きだす。

 だが、彼女の行動を男は気にも留めていないようだった。

 そのままコンビニの中へと入っていった。


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