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< 一階コンビニ、二階は探偵事務所・中 >

 ベンチに座っていたビジネススーツの男は、鍋中が車に乗るのを見送ると、横に置いてあった黒いアタッシュケースを片手でしっかりと持ち自分も公園を後にした。

 男は駅前の繁華街を歩き、やがて人の往来が疎らとなっていく裏路地へと進んでいった。

 そして数人の柄の悪いヤンキー達が屯しているコンビニの入り口前を過ぎると、同じ建物の二階へと上がる階段の有る出入り口へと入っていく。

 三階立ての貸しビル。

 一階はコンビニ。二階は猫田私立探偵事務所と、窓に大きく書かれて有る。

 三階は空きテナントのようだ。

 ビジネススーツの男は、猫田探偵事務所の看板が掛かったドアを開けると、室内へと入っていった。

「ただいま〜」

「あ、龍兄ちゃん、おかえりー」
 
 男が事務所内に入ると、姿は見えないが、若い女性の声が可愛らしく帰りを迎えてくれた。

 どうやら可愛らしい声の主は、事務所の奥の給湯室に居るようだ。

 ビジネススーツの男は、猫田探偵事務所のステッカーの文字が逆に写る窓を背にしたデスクの上に、持っていたアタッシュケースを無造作に置いた。

 そしてデスクの前に有る、お客との交渉用に用意されたソファーに、ダイブするように腰を落とす。

 その探偵事務所は窓に張られた大きなステッカーの文字が無ければ、何の事務所かは分からない感じの室内だった。

 来客用のテーブルに合わせたソファーのセットに、何処かのリサイクルショップから買ってきた事務用のデスク、それにちょっと豪華な社長椅子が組み合わされていた。

 事務所のあちら此方には、現在給湯室で何かをしている女性が世話をしている観葉植物の植木が数多く置いてあり、緑とマイナスイオンが溢れかえっていた。

 だが、他に目だった装飾品はなく、豪華さの欠片もない事務所内から、財政はあまり良くないのが分かる。

「珠美〜、お茶いれてくれ〜」

「はーい、温めで良い?」

「もちろんだよ」

 給湯室の方から元気な声で珠美と呼ばれる女性の声が返ってくる。

「珠美、虎二から連絡有ったか?」

「無いよ、直接龍兄ちゃんの携帯に連絡があるんじゃない?」

 しばらくして給湯室からストレートの黒髪が美しい二十歳ぐらいの女性が、うっすらと湯気の立つ湯飲みを丸いお盆に乗せて出てきた。

 身長は160mcぐらいだろうか。上品な顔立ちの女性。

 タートルネックの赤いカシミヤタッチセーターがスラリとした体系のシルエットを綺麗に見せ、膝上10mcの白いスカートが清楚さを感じさせる女性であった

 そして、どことなくあどけない無邪気な口調がまた、無垢なイメージを作り出していた。

 しかし、彼女の風貌で何よりも強く印象付けるのは、その豊満な胸だった。

 童顔巨乳と言う言葉がしっくり来るだろう彼女の胸は、おそらく男のロマンを沢山詰め込んで大きくなったのであろうと思わせるサイズであった。明らかにFからGは有りそうだ

「ところで龍兄ちゃん、油儀会長の話しはどうだったの?。やっぱり今朝のニュースになってたバラバラ事件かな?」

 ビジネススーツの男は、ソファーにふんずりかえり、スーツの内ポケットから黒い携帯電話を取り出す。

「あー、正解だ。我々と鍋中さんに八尾くんで、何時も道理の調査だよ。机の上の鞄に、今回の事件の警察資料が入ってるから、珠美も目を通しといてくれ」

 そう言いながらデスクの上のアタッシュケースをビジネススーツの男は、指差し温いお茶を音を立てて熱そうに啜る。

「はーい」

 珠美は、持っていたお盆を脇の下に挟むと、デスクの上のアタッシュケースを開け中から厚い紙袋を取り出す。

 封筒の中には書類や写真が入っており、珠美はそれらを眺め始めた。

 警視庁捜査課の新鮮な捜査資料が、平凡な探偵事務所に有る。

 被害現場の写真、グロテスクにさばかれた被害者写真、被害者遺族の資料、遺留品のリスト、第一発見者のプライバシーの資料、朝一で所轄警官が行った、周辺住民への聞き込み情報。

 今回の事件で、現在警察が掴んでいる情報の全てがここにあった。

 ビジルススーツの男は、手にしていた携帯電話を目の前のテーブルに置くと、指で弾いてクルクルと回しはじめる。

 彼は、既に全ての資料に目を通してあるようだった。妹が読み終わるのをただ待っていた。

「龍兄ちゃん、この事件、やっぱり妖怪の仕業が濃厚だよね〜」

 書類を見ながら珠美が兄に話しかけた。

「そう思うか珠美も。まあ人間の仕業にしてはエグすぎだしな」

 その時、クルクルと回されていた黒い携帯電話から、いきなり「ネコミミモードです」と言う台詞が連呼された。

 それは随分前から男が使っている携帯の着信音である。

 この台詞が相当気に入っているようで、携帯電話を変えても着信音は変えずにいるぐらいであった。

「うわ、びびった!」

 指で携帯にじゃれついていたビジネススーツの男は、その着信音に声を出して驚く。

 そして、あたふたしながら電話に出る。
 
「もしもし、龍信だけど?」

「あにきー、虎二だけどー」

 ビジネススーツの男は、携帯から聴こえて来た弟の声に、誕生日プレゼントを待つ子供の如く目を輝かせた。
 
「虎二、で、そっちの状況はどうだ?」

 ビシネススーツの男は、ウキウキとした口調で電話の相手に質問する。

「ああ、今さっき春婆怒村に付いたんだけど、村全体を包むように張られているはずの結界は、完全に解かれてるわ。おかげで村に、すんなり入れたしよ」

 ビジネススーツの男の顔が、悪ガキぽく微笑む。 どうやら期待していた回答らしい、口元がニヤついていた。

「これから神社の方に行ってみるけど、おそらく噂は本当だわ」

「よし、わかった。お前はもうちょっと村を調べたら戻って来い。結界が解けてるなら春婆怒もそうだが、鬼々蜘蛛も居るはずだ」

「あいよ、わかったー」

「あと、こっちでも事件が起きて、油儀会長から仕事が入っている。そっちから戻ったら手伝ってもらうぞ」

「ん?、事件って、春婆怒関係?」

「いいや、内容からして春婆怒とは限らんが、妖怪か九十九神が関係していても可笑しくない事件だ」

 ビジネススーツの男は、電話の相手に「ちがうちがう」と言った感じで、顔の前で手を振るジェスチャーをする。

「じゃあ、こっちの方が調べおわったら、即そっちに戻るわ〜。じゃあ切るよ」

 電話は、弟の虎二の方から切られた。

 ビジルススーツの男は、携帯をたたむと目の前のテーブルに置き、いやらしくにやけながら軽く眼鏡を指で直した。

「龍兄ちゃん」

「ん?」

「なんだか楽しそうだね」

 事件の書類を読み終わった珠美は、アタッシュケースに書類を戻すと、可愛らしい笑顔で兄に問いかける。

「そうだな、退屈しなくて済みそうだ」

「でも、今回の事件が九十九神の仕業なら、またいっぱい死んじゃうかもよ。人も妖怪も」

 珠美は、お盆で口元を隠す様にして、少し不安げな顔をした。

「そうだな、我々は死なないように見て回らないとね」

 色々な場所で、色々な者達が、色々な事件を起こし、色々な被害が出る。

 このにやけた男が探偵になった理由は、そんな出来事を除き見したいと思う好奇心からである。

 このビジネススーツの男にとって、他人の不幸は蜜の味なのだろう。

 そして彼にとっての欲は、好奇心を満たすこと。

 先程の電話の相手である弟の虎二も、ここに居る妹の珠美も、この男の好奇心を満たす為に付き合わされているのだ。

 事務所の外からバイクのエンジン音が聴こえ、それに続いてブレーキ音が響く。

 おもむろに珠美は、事務所の窓から下を覗き見た。

「あぁ〜〜……」

「ん?」

 外を覗いた珠美が、何やらガッカリした声を上げた。

 その声に龍信は、妹の方を見た。

 妹の珠美の表情が、何やら気を落としていることにビジネススーツの男も気づき不機嫌そうに顔を曇らせた。

「どうした、珠美」

「……下のコンビニでバイトしてる人、彼女いたんだ……。今、彼女をバイクに乗せて来たの……」

「珠美、お前あんなのがタイプなのか……?」

「うん、結構いいな〜と思っていたのに……。あぁ〜、しかも彼女、金髪よ、外人さんだよ!」

 日本人女性の多くが白人女性の持つ美しい容姿にコンプレックスを感じるものらしい。

 珠美も、そのようだ。

 好意を持っていた相手が、よりにもよって白人女性を彼女にしたことに珠美は、納得がいかないらしい。可愛らしい顔に影を落とす。

 だが、窓の外の白人女性と比べて胸の大きさでは、珠美の方が圧勝していた。

「ほほぉ、彼もなかなかやるね〜」

 そう言っているがビジネススーツの男は、この話にはあまり興味が無いらしい。ソファーに仰け反りながら、詰まらなそうにしていた。

「あ〜あぁ、私も恋がしたいな〜……」

 珠美は、豊満な胸を押し潰す様にお盆を持って、寂しそうな歩みで給湯室へ姿を消していった。

「珠美も恋する年頃か〜」 ビジネススーツの男は、天井の角を遠い目で見つめる。

 自分の妹の成長ぷりに、小さかった頃の可愛い妹の記憶を思い重ねていた。

「珠美も大きくなったな……。いろんなところが……」


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