< 古びた真実・3 >
「ちょっとまて、妖怪と九十九神の使い手の夫婦ってよぉ、ちょっとばかし可笑しな組み合わせじゃあねーか?」
タケシの言う通りだと、他の者達も同じ事を思っていた。何故に妖怪のボスと、九十九神の使い手が夫婦なのだと。
その驚きの声に、またもや黙り込む油義。
「お前が言うと言ったんじゃあ、油儀の〜。はっきり言ってやれ」
しかし、一七五にそう言われた油儀は、大きく息を吸った後に溜息を大きく付いた。
そして、決意がついたのか、重い口調で話しだす。
「双葉様と我々三本柱は、殿の使う九十九神に、他の九十九神を食わすために動いておったのじゃ」
「何だよ、それ?」
油義の言葉の直ぐ後に、タケシがさらりと言った。
しかし、他の妖怪の若者達は、目を点にさせて驚きの表情をしたまま固まっていた。
自分達の先人である三本柱が、そんな事を過去に行っていたとは信じられない様子だった。
「我々三本柱は、他の地から九十九神を探し出すと戦いを挑み、弱らせたところを殿の九十九神に喰らわせていたのじゃ……」
「そんな外道な……」
油儀の話に対して八尾弦徳が言った一言は、彼ら妖怪変化から見て正しい台詞だった。妖怪達に取って九十九神に味方すると言う事は、仲間の妖怪達を喰らった敵に味方する事。それ、即ち外道。
「何で、九十九神に妖怪が手を貸すんだ?」
タケシが当然の疑問を問う。皆か思う疑問だった。
「それは簡単な理由。九十九神が百計神になる際の褒美が望みじゃ」
「褒美?」
タケシが首を傾げると、横の春婆怒のホログラフィが「あっ」と言って口に掌を当てた。その仕草にタケシが気付く。
「なんだお前、使い手なのに褒美も知らなんのか?」
巨大な姿をした一七五が、タケシを指差して言った。
「春婆怒、てめ〜、まだ何か俺に隠していやがるな!」
「す、すまんのぉ。そう言えば褒美に付いてまだ話していなかったかのぉ〜……」
春婆怒のフログラフィはわざとらしくそっぽを向くと、目を泳がせた。
どうやら『褒美』に付いては、本当に言うのを忘れていただけの様だ。そんな春婆怒のホログラフィをタケシが睨んでいた。
「百計神の褒美とは、人間、妖怪、九十九神を百の数だけ喰らい終わった九十九神が、最後に使い手の願い事を叶えてやる事」
八尾がタケシを睨みながら説明した。
「その願いを叶えることで、三種百食の本能は真の終止符を告げるのじゃ……」
バツの悪い顔で言う春婆怒のホログラフィ。
「願い事……?」
「そう、どんな願い事でも叶えてくれる」
まだ、八尾はタケシを睨んでいた。タケシは春婆怒のホログラフィを睨んでいた。
「まあ、何でもと言うと嘘になるかのぉ〜」
やっとタケシの方を向いた春婆怒のホログラフィが、『褒美』について説明を始めた。
「世界制服とか、人類の半分を自分の物にするなどの壮大な願いは無理じゃが。不老や不死やら、若返らせるとか、強くなりたいとか……。まあ、その程度の否現実的な願いならば叶えられると思うぞょ」
春婆怒の説明からタケシは、案外アバウトな感じでしか願いは叶わないと察する。
「お前、そう言う大事な事は、早く言えよ……」
既にタケシの怒りは冷めて、変わりに呆れた空気を放っていた。
タケシは、他人に叶えて貰うような願いにはあまり興味が無いようだ。
夢や希望は、自分の力で勝ち取ってこそ価値が大きいと考えるタイプだからだ。ただ、タケシが怒っていたのは、忘れていたと言い訳をしているが、その『褒美』に関して春婆怒が隠すように伝えていなかった事が腹正しかったようだ。
「そう、その願い事が問題だったのじゃ……」
油義が、昔話の続きを再開した。
「殿は九十九神に唆されて、奴の三種百食の本能を手伝い『褒美』を得ようとした」
「それに、生前の双葉様やお三方は、手を貸したと?」
銀縁の眼鏡を中指で直した猫田龍信が口を挟む。
「双葉様は、殿への愛故に手を貸し、ワシら三本柱は忠義故に双葉様に手犯したのじゃ」
「そして、わらわを襲ったと言うのじゃな」
「そのとおりじゃ……」
「だが、返り討ちか」
タケシが余計な一言を口にすると、八尾が怖い形相でまた睨む。
しかし、八尾の刃物のような視線を無視して、頭よりも高く片足を振り上げたタケシは、強烈な踵落としを屋根瓦に叩き落した。
屋根に敷き詰められた瓦が波打つように揺れると、タケシの側に開いた大きな穴の中へと、数枚の瓦が崩れ落ちた。
「やっぱりよ、春婆怒は降りかかる火の粉を払っただけじゃねえかよ!」
タケシの怒りの声が、衝撃と変わって辺りに飛び散る。
「酬いは受けた!」
油義が、タケシに負けないぐらいの大きな声で反論した。
酬いとは主の死。
しかし、タケシは引かない。
「それは酬いじゃあねーよ。ただ、返り討ちにあったって言ってるだろが!」
同じ文句を繰り返すだけだった。
「そうではない!」
「何が違う!」
「双葉様ではない、殿の方だ!」
タケシと油義の言い争いの声が、ここからテンションが下がる。
「殿様ってのも、焼けどで死んだんだろ……?」
「否、焼けどでは死んでは……、いぬのじゃあ……」
油義の声が、急に小さくなった。そして、真実を知る鍋中や一七五の顔は曇っていた。
「死んでない?。じゃあ、父上は、何故に死んだのですか……?」
父の死因を問う八尾だが、三匹の老いた妖怪達は、彼とは顔を合わせようとはしなかった。
「死んでは、おらんのじゃよ……」
「えっ……?」
「まだ、生きておられるのじゃよ、弦徳様の父上は……」
「な、何ですと!!」
すでに父は死んでいるものと思っていた八尾の顔は、驚きながらも唖然としていた。
「我々三本柱は、双葉様亡き後も、殿の九十九神に別の九十九神を与え続けた」
話す油義の顔は、悲しそうにも怒りの表情にも見えた。ここからが本当の古びた真実。
「それは、殿が『褒美』を、双葉様の死者復活を望むと約束したからだ……」
油義の表情から、悲しみよりも怒りの表情の割合が多くなっていく。
「そして我々三人は、双葉様亡き後も九十九神を捕まえては、殿の九十九神に食わせ続けた。しかし、あの男は……、約束を破ったのじゃ!」
油義の表情が、完全に怒りの色に染まりあがった。
「三種百食の本能を終えた後、奴が願ったのは、妻であり、協力を押しまず亡くなった双葉様の復活ではなかった……」
油義が、小さな拳で、自分が座る封印石の頭を悔しそうに叩いた。
「父が……、何を望んだのですか……」
八尾の頭に、死んだと思っていた父の顔がうっすらと浮かんできた。
母に比べて印象に残っている事は少ないが、それでも父。
母の仇を取る事に必死だった五百年。
何故に今まで父の記憶が薄かったか、今になって悩み始めた。
そして思い出す父の言葉。
その一つ一つが冷たい言葉として思い出された。
そして気が付く、「この人には愛されていない、この人は私を愛してはいない」と……
。
父は、自分を愛していなかった。
子供ながらに感じていた父への疑惑。それが父の思い出を忘れさせていたようだ。
「父は、母を蘇らせる代わりに、何を望んだのですか!」
嫌な予感が脳裏に幾つも想像できた八尾だったが、覚悟は付いていた。
どんな父の裏切りの事実が待っていようとも話が聞きたかった。
「それは、自分の体を不死に変えること……」
油義か奥歯に力を込めながら答えた。
八尾も、腸が煮えくり返る思いで、手にした刀を強く握り締めた。
八尾は思う。やはり父は、自分を愛してはいなかったと……。それどころか母すら愛していなかったと……。
「随分とアレな殿様だな……」
タケシの言葉に老いた妖怪三匹は、反論することは無かった。それどころか、そんな人間を信じて仕えていた事すら恥ずかしく思う。
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