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< 古アパートの一室で >


 古びた木造二階立てのアパートの一室。

 六畳一間。一畳程度のスペースに流しとコンロが一つある。

 トイレは有るが、風呂は無い。

 窓際の部屋角に、オレンジ色のカラーボックスを横にして、その上にリモコンを無くした古いテレビが置いてある。

 ビデオデッキやDVDプレイヤーなどのAV機器はまったく無い。

 他に部屋の中に有る物は、鉄アレイなどの筋トレ道具やスポーツ雑誌が散らばっているだけで、これといって目立ったものは置いてなかった。

 衣類は全て押し入れの中にある小型の箪笥と、ダンボールにしまわれている。

 洗濯物は、玄関の横に有る洗濯籠に適当に投げ入れられてあり、溜まってくると陽子が勝手に洗濯をしてくれる。
 
 家賃は月一万円。知り合いという理由で、大分負けてもらった金額であった。

 それにも係わらず六ヶ月以上滞納しており、催促去れないことをいいことにタケシは有耶無耶にしてしまおうかとも思っていた。

 朝の稽古が終わったタケシは、朝食の準備を始めた。

 部屋の中央に足が折りたためる小さなテーブルを置く。その上にテンコ盛りのどんぶり飯と、さばの味噌煮の缶詰とコンビーフの缶詰、適当に切り刻まれたキュウリとキャベツの盛り合わせ、卵三つ分の目玉焼きといった、独身男性臭い雑な調理を並べる。

 これがタケシの今日の朝食である。

 タケシが朝食を取ろうとしている横で、春婆怒はカラーボックスの上のテレビを、正座をしながらかぶり付くように見ていた。

 五十年前の春婆怒村には無かったテレビに興味があるらしく、昨日からテレビを見ている時間が長い。

「人という者の進化は凄いものよのぉ」

 テレビのニュースを眺めながら春婆怒がボソリと口にする。

「おっ、これか、眞鍋さんが朝言っていた、事件か?」

 テレビの発明に驚く春婆怒の言葉とは別に、タケシは朝起きたニュースの内容に注目した。

「ひで〜事件だ、この近所でバラバラ殺人事件とは、世も末だな」

 タケシは、テレビのニュースを横目に、テーブルの上に並べられた雑な朝食をモリモリと食べ始める。

 すると、二階に有るタケシの部屋を目指して、ドタドタと階段を駆け上がってくる足音が聴こえてきた。

 このアパートの部屋の壁はかなり薄く、階段から三つも離れたタケシの部屋まで階段を駆け上る音がはっきりと聴こえて来る。

 そして足音の主は、ノックも無く勢い良くタケシの部屋の扉を開けた。

 桜木陽子、再び登場である。

「ターケーちゃ〜ん、朝ご飯の差し入れだよ〜〜」

 白い皿に山盛りのお稲荷さんを持った陽子が、満面の笑みとハスキーポイスでタケシの部屋の中へと雪崩れこんでくる。

 このような陽子の行動は、ここではほぼ毎日行われている光景である。

「お、ナイス陽子、ちょっとおかずが足りないと思ってたところだぜ!」

 タケシは山盛りのお稲荷さんを、ご飯のおかずにするらしい。

 結構、ラーメンライスをダメと言う人は多い。ラーメンライスとはラーメンをオカズにライスを食べる定食のことだ。

 しかしタケシは、そのような組み合わせなどでも殆ど気にしない。

 その気になれば、コシヒカリをオカズにササニシキが食べれる程である。

「陽子ちゃんお手製のお稲荷十個盛り合わせよん。たぁーんとお食べ〜。……春婆怒、あんたの分は無いんだからね!」

「わらわは人の食する物は口にはせぬ」

 春婆怒は、雪崩込んで来た陽子にクールな表情で答えた。

「なんかムカツク言いかたね。私の作ったお稲荷さんは、食べれないって言いたいの!」

 陽子は食べさせる気が無いくせにそう言う。

「わらわは物を食べぬ」

 確かに、この数日の間タケシは春婆怒と一緒にいるが、春婆怒が食事どころか水すら口にした所を見た事が無い。

「まぁ、槍だしな」

「あぁ、そっか」

「うむ、そうじぁ」

 結論、槍はご飯を食べない!。


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